変形労働時間制は1947年の労働基準法制定により規定された、固定労働時間制よりも柔軟な働き方です。当初は労働時間を柔軟に変更できる期間を4週間以内としていましたが、時代とともに法改正を重ね、3カ月、1年と期間が拡大されてきました。
この記事では変形労働時間制の4つの種類やメリット・デメリット、残業時間の計算方法、ほかの働き方との比較などを解説します。
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、1カ月間や1年間などの一定期間内において、業務の繁閑に応じて所定の労働時間を配分できる制度です。具体的な形態として1カ月単位、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制、フレックスタイム制があります。
減りゆく法定労働時間に相反し、増えゆく時間外労働。労働時間を弾力化させることで合計勤務時間の短縮を図ったのが、この変形労働時間制です。
たとえば、所定労働時間が7時間で、隔週で週休2日制をとりたい場合、1週間の労働時間は42時間と35時間を交互に繰り返すことになります。週42時間は法定労働時間を超えるため、変形労働時間制の採用が必要です。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 合計 | |
第1週 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 休み | 42 |
第2週 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 休み | 休み | 35 |
第3週 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 休み | 42 |
第4週 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 休み | 休み | 35 |
参考文献:中井智子『「労働時間管理」の基本と実務対応』労務行政,2019 |
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変形労働時間制のメリット
「変形労働時間制にはデメリットしかない」ということはありません。経営者にとっても労働者にとってもメリットがあります。
残業代を削減できる可能性が高い
変形労働時間制を導入すれば閑散期の労働時間を減らして、その分を繁忙期の業務時間に充てられます。そのため、所定労働時間を超えることが少なくなり、残業代が発生しにくくなるでしょう。
また、変形労働時間制を導入している場合、36協定に依らず、所定労働時間を定めた特定の日に限り法定労働時間を超えても残業代を払う必要がありません。ただし、変形労働時間制に伴う書類提出や規則変更が必要なので注意しましょう。
【具体例】
A社では毎月次のようになっているとします。
もし労働時間が通常の「1日8時間」の場合、毎月20時間の残業が発生してしまいます。 しかし、変形労働時間制で毎月第1,2週は「1日10時間」第3,4週は「1日6時間」と設定されている場合、毎月残業が発生せずに済むのです。 |
仕事にメリハリが生まれて効率性が上がる
従業員にとって変形労働時間制を採用することで得られるメリットは、仕事へのメリハリです。
通常の勤務形態では、繁忙期には残業が増えてしまい、閑散期には時間を持て余しがちになります。
しかし、変形労働時間制であれば仕事の少ない時期には早めに帰ることができ、働き方にメリハリが生まれます。時間をより効率的に使えるようになるため、家事や育児、プライベートに時間を割けるでしょう。
変形労働時間制のデメリット
変形労働時間制は柔軟性が高い一方、残業の計算が大変になるなどのデメリットがあります。
残業時間の算出方法が法定労働時間の規定とは異なる
変形労働時間制は賃金の計算が固定労働時間制よりも複雑です。
賃金を計算する際には、労働時間が次の4つの区分のどこに含まれているかを判断しなければいけません。
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1~3の場合、賃金を25%割増にして支払う必要があります。必ず変形労働時間制に伴い改定した就業規則を確認して残業時間を算出しましょう。
また、たとえば、1年単位の変形労働時間制で働いていた従業員が繁忙期の途中で退職した場合、割増賃金精算の手続きが必要になります。法定労働時間を超えた時間が割増対象となります。法定労働時間は、暦日数を7で割り、それに40を掛けた数字です。
このように、給与計算が複雑なため管理の手間が増え、人事担当者の業務が増大する可能性があります。
所定労働時間の繰り上げ・繰り下げはできない
変形労働時間制であっても、就業規則で定めた所定労働時間を勝手に変えることはできません。
たとえば、所定労働時間が6時間である日に8時間働いたからといって、翌日の所定労働時間を2時間減らして残業していなかったようにしてはいけません。この場合残業時間はしっかりと2時間として計上されるので注意しましょう。
変形労働時間制には4種類ある
変形労働時間制は具体的に4つあります。1カ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制、フレックスタイム制です。
1カ月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)
1カ月単位での変形労働時間制の場合、1カ月間の労働時間を柔軟に調整できます。1カ月の中で忙しい時期とそうでない時期がある職種におすすめです。
ただし、次の2つを満たす必要があります。
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変動労働時間制を適用する場合は、就業規則に記載する必要があります。
また、1カ月単位で変形労働時間制を使う場合は、1カ月あたりの法定内労働時間以内に収めなくてはなりません。なぜなら1カ月あたりの労働時間の平均が週40時間以内という条件があるからです。
具体的な1カ月の法定内労働時間は次の通りです。
ただし、特例措置事業場(常時10人未満の労働者しかいない事業場)にあたる場合「労働時間が平均して週44時間以下」という条件になり、少しだけ労働時間が延長されます。特例措置事業場にあたるのは例えば旅館や病院、映画館などです。
実際に特例措置事業場にあたるかどうか確認したい方は次の記事を参考にしてください。
【具体例】
A社:月末が忙しい週休2日の会社 (一般の事業場で平均労働時間が週40時間以下であることが必要) 1カ月単位での変形労働時間制を採用しているA社では、次のような調整が可能です。
合計労働時間は176時間となり、法定労働時間177.1時間以内となるので問題ありません。 |
1カ月単位での変形労働時間制について、より詳しい条件が知りたい方は次の記事を参考にしてください。
残業時間の計算方法
1カ月単位での変形労増時間制は、日・週・月ごとに残業時間を考えると確実に計算することができます。残業時間の計算は次の通りです。
<1.日ごとの基準>
<2.週ごとの基準>
ただし日ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 <3.月ごとの基準>
ただし日ごとの基準・週ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 |
【具体例】
上の図の場合を考えます。
①は所定労働時間が8時間と定まっている日にさらに1時間仕事をしているので、時間外労働にあたります。
②は所定労働時間が4時間(8時間以内)なので、さらに2時間働いているが時間外労働にはあたりません。
この週は所定労働時間が月38時間(40時間以内)なので、労働時間が40時間を超えた分が時間外労働となります。
この週は合計で42時間働いているので2時間分が時間外労働にあたりますが、このうちの1時間は①です。その分を除いて残った1時間が③となり、時間外労働となります。
1年単位の変形労働時間制(労基法32条の4)
1年単位での変形時間労働制は1年間の労働時間を柔軟に調整できる制度です。シーズンごとに繁忙期と閑散期があるような職種に適しています。例えばスキーやキャンプの運営会社などがあげられるでしょう。
満たすべき主な条件は次の6つです。
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また、具体的な年間の法定労働時間は次の通りです。
より詳しい条件が知りたい方は次の記事を参考にしてください。
残業時間の計算方法
1年単位での変形労働時間制も日・週・年ごとに残業時間を計算することが重要です。
残業時間の計算は次の通りです。
<1.日ごとの基準>
<2.週ごとの基準>
ただし日ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 <3.年ごとの基準>
ただし日ごとの基準・週ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 |
1週間単位の非定型的変形労働時間制(労基法32条の5)
1週間単位の非定型的変形労働時間制は1週間の労働の繁閑が激しく、1カ月や1年単位での労働時間の変化を予測するのが難しい場合に採用できます。ただし、採用できるのは従業員数30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店だけです。
満たすべき条件は主に2つです。
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残業時間の計算方法
1週間単位の非定型的変形労働時間制は日・週ごとに残業時間を計算するのが確実です。
残業時間の計算は次の通りです。
<1.日ごとの基準>
<2.週ごとの基準>
ただし日ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 |
フレックスタイム制(労基法32条の3)
フレックスタイム制とは、3カ月以内の一定期間の総労働時間を定めておき、毎日の始業・終業時刻を労働者の決定にゆだねる制度です。
1987年の労働基準法改正から始まったフレックスタイム制では、コアタイムと呼ばれる必須勤務時間帯は設けられるものの、その前後は自由に調整可能です。1日の最低労働時間についての法的な規定はありません。
フレックスタイム制の導入要件
就業規則などで、始業・終業時刻を労働者の決定にゆだねる旨を明記します。それとともに労使協定を締結し、以下の事項を定める必要があります。
- 対象となる労働者の範囲
- 3カ月以内の清算期間とその起算日
- 清算期間中に労働すべき総労働時間(週法定労働時間×[清算期間の暦日数÷7日])
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム・フレキシブルタイムを設ける場合は、その開始・終了時刻
- 1カ月を超える清算期間の場合は、有効期間の定め
変形労働時間制とそのほかの働き方の比較
変形労働時間制と固定労働時間制、シフト制を比較して解説します。
変形労働時間制と固定労働時間制の比較
そもそも労働時間には、法律で定められた1日8時間・1週40時間の「法定労働時間」と、法定労働時間の範囲内で企業が個別に定める「所定労働時間」があります。法定労働時間にのっとった固定労働時間制を導入している場合、一般的に企業は法定労働時間を超えて働いた従業員へ残業代を支払わなくてはなりません。
しかし変形労働時間制を導入すると「ある期間の所定労働時間を法定労働時間より長くする代わり、別の期間の所定労働時間を法定労働時間より短くする」といった調整ができるようになります。つまり「1日8時間」と1日単位ではなく、月単位・年単位・週単位で労働時間を設定するのです。
【具体例】
A社:6月初旬は仕事が多いが、6月下旬は仕事が少ない →6月上旬の所定労働時間を「1日10時間」、6月下旬の所定労働時間を「1日6時間」に設定 |
このように、変形労働時間制は業務量に応じて閑散期には早く帰り、繁忙期には集中して仕事をするという選択ができます。そのため、労働力の無駄が減って総労働時間が短縮され、残業を削減・抑制できるのです。
変形労働時間制とシフト制の違い
変形労働時間制は長期的な労働時間の調整を目指し、シフト制は日々の業務運営の効率化を図る点で異なります。
変形労働時間制の場合、忙しい時期に労働時間を増やし、閑散期に減らすことで全体の労働時間を調整します。一方、シフト制は、従業員が交代で勤務時間帯を埋める制度です。働きたい時間に予定を入れる自由シフト制、曜日と時間が変わらない固定シフト制、2交代制や3交代制にあたる完全シフト制があります。
パートに変形労働時間制を適用する場合
変形労働時間制はパートやアルバイトの方にも適用できます。ただし、満18歳未満の年少者は変形労働時間制の適用除外となります(労基法60条1項)。15歳以上18歳未満の場合は、18歳になるまでの間、週48時間、1日8時間を超えない範囲内で1カ月単位の変形労働時間制を適用可能です(労基法60条3項2号)。
正社員同様、就業規則で所定の期間を定めて所定の手続きを済ませる必要があります。パートやアルバイトの方にあらかじめ定めたスケジュール通りに勤務してもらえるよう、勤務時間や就業規則をきちんと周知しましょう。
変形労働時間制は勤怠管理システムを導入して活用しよう
変形労働時間制を活用することで、繁忙期には労働時間を増やし、閑散期には減らすことができるため人件費の効率的な削減が可能です。
労働時間が不規則で複雑に見える変形労働時間制ですが、勤怠管理システムであればシステマチックに管理可能です。勤務予定表と実績を比較することで、⽇、週、⽉の法定超過がないか計算することもできます。
もしも残業時間数が違法にあたらないかなど心配事が生じた際は、社会保険労務士や弁護士に相談しましょう。
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