変形労働時間制とは1か月や1年のような一定期間の労働時間を柔軟に変更できる制度です。
変形労働時間制は残業時間の削減や残業代のカットにつながる可能性が高い一方、残業時間の計算などが非常に複雑といった面もあります。
本記事では変形労働時間制の週・月・年単位の計算方法や導入の流れ、メリット・デメリットを解説します。自社に変形労働時間制が合っているか検討してみましょう。
変形労働時間制とは一定期間の労働時間を柔軟に設定できる制度
変形労働時間制をわかりやすく言うと、一定期間の労働時間を柔軟に変更できる制度です。
そもそも労働時間には法律で定められた1日8時間・1週40時間の「法定労働時間」、法定労働時間の範囲内で企業が個別に定める「所定労働時間」があります。法定労働時間に則った固定時間制を導入している場合、一般に企業は法定労働時間を超えて労働した従業員へ残業代を支払わなくてはなりません。
しかし変形労働時間制を導入すると「ある期間の所定労働時間を法定労働時間より長くする代わり、別の期間の所定労働時間を法定労働時間より短くする」といった調整ができるようになります。つまり「1日8時間」と1日単位ではなく、月単位・年単位・週単位で労働時間を設定するのです。
【具体例】
A社:6月初旬は仕事が多いが、6月下旬は仕事が少ない →6月上旬の所定労働時間を「1日10時間」、6月下旬の所定労働時間を「1日6時間」に設定 |
このように変形労働時間制は業務量に応じて閑散期には早く帰り、繁忙期には集中して仕事をするという選択ができます。そのため労働力の無駄が減って総労働時間が短縮され、残業を削減・抑制できるのです。近年活発化している働き方改革の流れもあって注目されています。
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1か月単位での変形労働時間制
1か月単位での変形労働時間制の場合、1か月間の労働時間を柔軟に調整できます。1か月の中で忙しい時期とそうでない時期がある職種におすすめです。
ただし次の2つを満たす必要があります。
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変動労働時間制を適用する場合は、就業規則に記載する必要があります。
また1ヶ月単位で変形労働時間制を使う場合は、1ヶ月あたりの法定内労働時間以内に収めなくてはなりません。なぜなら1か月あたりの労働時間の平均が週40時間以内という条件があるからです。
具体的な1ヶ月の法定内労働時間は次の通りです。
ただし特例措置事業場(常時10人未満の労働者しかいない事業場)にあたる場合「労働時間が平均して週44時間以下」という条件になり、少しだけ労働時間が延長されます。特例措置事業場にあたるのは例えば旅館や病院、映画館などです。
実際に特例措置事業場にあたるかどうか確認したい方は次の記事を参考にしてください。
【具体例】
A社:月末が忙しい週休2日の会社 (一般の事業場で平均労働時間が週40時間以下であることが必要) 1か月単位での変形労働時間制を採用しているA社では、次のような調整が可能です。
合計労働時間は176時間となり、法定労働時間177.1時間以内となるので問題ありません。 |
1か月単位での変形労働時間制について、より詳しい条件が知りたい方は次の記事を参考にしてください。
【1ヶ月単位】残業時間の計算方法
1か月単位での変形労増時間制は、日・週・月ごとに残業時間を考えると確実に計算することができます。残業時間の計算は次の通りです。
<1.日ごとの基準>
<2.週ごとの基準>
ただし日ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 <3.月ごとの基準>
ただし日ごとの基準・週ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 |
【具体例】
上の図の場合を考えます。
①は所定労働時間が8時間と定まっている日にさらに1時間仕事をしているので、時間外労働にあたります。
②は所定労働時間が4時間(8時間以内)なので、さらに2時間働いているが時間外労働にはあたりません。
この週は所定労働時間が月38時間(40時間以内)なので、労働時間が40時間を超えた分が時間外労働となります。
この週は合計で42時間働いているので2時間分が時間外労働にあたりますが、このうちの1時間は①です。その分を除いて残った1時間が③となり、時間外労働となります。
1年単位での変形労働時間制
1年単位での変形時間労働制は1年間の労働時間を柔軟に調整できる制度です。シーズンごとに繁忙期と閑散期があるような職種に適しています。例えばスキーやキャンプの運営会社などがあげられるでしょう。
満たすべき主な条件は次の6つです。
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また具体的な年間の法定労働時間は次の通りです。
より詳しい条件が知りたい方は次の記事を参考にしてください。
【1年単位】残業時間の計算方法
1年単位での変形労働時間制も日・週・年ごとに残業時間を計算することが重要です。
残業時間の計算は次の通りです。
<1.日ごとの基準>
<2.週ごとの基準>
ただし日ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 <3.年ごとの基準>
ただし日ごとの基準・週ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 |
1週間単位での変形労働時間制
1週間単位での変形労働時間制は1週間の労働の繁閑が激しく、1か月や1年単位での労働時間の変化を予測するのが難しい場合に採用できます。
ただし1週間単位での変形労働時間制が採用できるのは従業員数30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店だけです。
満たすべき条件は主に2つです。
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【1週間単位】残業時間の計算方法
1週間単位での変形労働時間制は日・週ごとに残業時間を計算するのが確実です。
残業時間の計算は次の通りです。
<1.日ごとの基準>
<2.週ごとの基準>
ただし日ごとの基準で残業とみなした分は計算から省きます。 |
変形労働時間制の導入の流れ
変形労働時間制を導入する際は就業規則を定めるだけでなく、届け出を出したり従業員に周知したりする必要があります。スムーズに導入するため、6つのステップをきちんと踏むようにしましょう。
①従業員の勤務状況を調べる
変形労働時間制を導入する際は従業員の勤務状況を調べることが欠かせません。正確な勤務状況を把握することで従業員の納得のいくような就業規則を設定できるからです。
従業員の勤務状況を調べるには、無料で扱えるExcelのテンプレートや勤怠管理システムを利用するとよいでしょう。より詳しく知りたい方は次の記事を参照してください。
②労働時間や対象期間を決める
変形労働時間制を導入する際はあらかじめ労働時間や対象期間を決めておく必要があります。
次の3つは必ず決めておきましょう。
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③就業規則を整備する
変形労働時間制を採用する際は、その旨を就業規則に記載する必要があります。また変形労働時間制によって従業員の働き方も変化するので、それに応じた就業規則の整備が大切です。
主に次の3つを変更する必要があります。
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④労使協定を締結する
就業規則まで設定できたら、次に従業員の代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。
従業員の代表者とは次のことを指します。
労働組合がある会社の場合:労働組合
労働組合がない会社の場合:従業員の過半数の同意を得た代表者 |
どちらにせよ従業員の同意を得られることが必要なので、会社のことだけを考えた身勝手な就業規則ではいけません。就業規則を整備し労使協定を結ぶ際は、従業員のためにもなるように注意しましょう。
⑤労働基準監督署へ届出をする
労使協定まで結べたら労働基準監督署に届出をして、公式に認めてもらいましょう。就業規則とは異なり労使協定には有効期間があるので、期限を過ぎる前に必ず再提出してください。
また残業や休日出勤が発生する際は併せて36協定も提出する必要があります。36協定について詳しく知りたい方は次の記事を参考にしてください。
⑥変形労働時間制の導入を従業員に伝える
労働基準監督署への届出が完了したら、いよいよ変形労働時間制が本格導入です。
就業規則が変化すると、初めの内は従業員の間で混乱が生じる可能性が高いです。そこで制度の意味や賃金についての説明会を開くなど、従業員がしっかり理解できるような取り組みを行うようにしましょう。
変形労働時間制のメリット
変形労働時間制を利用することで企業は生産性をあげることができ、従業員もまたメリハリをつけて働くことができます。
残業代を削減できる可能性が高い
変形労働時間制を導入すれば閑散期の労働時間を減らして、その分を繁忙期の業務時間に充てられます。そのため所定労働時間を超えることが少なくなり、残業代が発生しにくくなるでしょう。
また変形労働時間制を導入している場合、36協定に依らず、所定労働時間を定めた特定の日に限り法定労働時間を超えても残業代を払う必要がありません。ただし変形労働時間制に伴う書類提出や規則変更が必要なので注意しましょう。
【具体例】
A社では毎月次のようになっているとします。
もし労働時間が通常の「1日8時間」の場合、毎月20時間の残業が発生してしまいます。 しかし、変形労働時間制で毎月第1,2週は「1日10時間」第3,4週は「1日6時間」と設定されている場合、毎月残業が発生せずに済むのです。 |
仕事にメリハリが生まれて効率性が上がる
従業員にとって変形労働時間制を採用することで得られるメリットは、仕事へのメリハリです。
シフト制の場合、繁忙期にはもちろん多くの仕事をこなす必要があり残業が増えてしまいます。
また閑散期には仕事が少ないにも関わらず、定時までだらだらと仕事を行わなくてはなりません。
しかし変形労働時間制であれば仕事の少ない時期にはすぐに帰ることができますし、仕事が多い時期には意欲的に働こうとするメリハリが生まれます。
より効率的に時間を使えるようになるので、プライベートの時間も増やすことができるでしょう。
変形労働時間制のデメリット・注意点
変形労働時間制は柔軟性が高い一方、導入に時間がかかる、残業の計算が大変といった注意点があります。また所定労働時間の繰り上げ・繰り下げができない点も留意してください。
導入までに時間が掛かる
導入には変更・締結した就業規則や労使協定と「変形労働時間制に関する協定届」を用意し、所轄の労働監督署への届出が必要になります。これらの手続きは非常に大変で手間がかかります。
また変形労働時間制ではあらかじめ所定労働時間を定めておく必要があるので、スケジュールに変更が生じやすい職種では運用が難しいでしょう。そういった職種の場合は法定労働時間内でシフト制を採用するという方法があります。
残業時間の算出方法が法定労働時間の規定とは異なる
変形労働時間制は賃金の計算が面倒です。賃金を計算する際には、労働時間が次の4つの区分のどこに含まれているかを判断しなければいけません。
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1~3の場合、賃金を25%割増にして支払う必要があります。必ず変形労働時間制に伴い改定した就業規則を確認して残業時間を算出しましょう。
所定労働時間の繰り上げ・繰り下げはできない
変形労働時間制であっても、就業規則で定めた所定労働時間を勝手に変えることはできません。
例えば所定労働時間が6時間である日に8時間働いたからといって、翌日の所定労働時間を2時間減らして残業していなかったようにしてはいけません。この場合残業時間はしっかりと2時間として計上されるので注意しましょう。
スムーズに変形労働時間制を導入するには
変形労働時間制をスムーズに導入するには、明確な導入目的を立てたり、余裕ある導入スケジュールを立てたりする必要があります。変形労働時間制を管理しやすい勤怠管理システムの導入も検討しましょう。
変形労働時間制を導入する明確な目的を決める
変形労働時間制を導入する際には「業務の効率化を図る」「多様な働き方に対応し従業員のワークライフバランスを整える」といった明確な目的を定めるようにしましょう。
変形労働時間制は就業規則の改定や残業代の計算が複雑なので、目的なく導入してしまうと人事部の業務がむしろ増えることになりかねません。また目的がきちんと従業員に共有されていないと、急な規則の改定に戸惑ったりモチベーションが低下したりする可能性があります。
余裕を持った導入スケジュールを立てる
変形労働時間制を導入するにあたり、余裕をもってスケジュールを立てることも重要です。
書類の提出や就業規則の変更など、変形労働時間制の導入には手続きが多く時間が掛かります。そのため導入したい日付から導入フローを逆算して、計画的にスケジュールを組むようにしましょう。
変形労働時間制に対応した勤怠管理システムへの変更も検討する
変形労働時間制は勤怠管理や給与計算に手間がかかりますが、対応した勤怠管理システムを導入すればそうしたデメリットを解消できます。
次の記事ではおすすめの勤怠管理システムを紹介しています。ぜひ、あわせて参考にしてください。
パートに変形労働時間制を適用する場合
変形労働時間制はパートやアルバイトの方にも適用できます。繁閑の差が大きい小売業界や観光・ホテル業界ではパートにも積極的に変形労働制を導入している場合が多いです。
ただし正社員同様、就業規則で所定の期間を定めて所定の手続きを済ませる必要があります。またパートやアルバイトの方にあらかじめ定めたスケジュール通りに勤務してもらえるよう、勤務時間や就業規則をきちんと周知しましょう。
変形労働時間制で残業を減らそう
変形労働時間制を導入すると繁閑に柔軟に対応でき、残業時間を削減できることがあります。そのため企業にとっては効率よく労働力を使えたり、従業員にとってはプライベートの時間が取りやすかったりするメリットがあるでしょう。
しかし変形労働時間制は労働基準法を確認しながら慎重に導入を進める必要があるため、時間や手間がかかります。例えば労働時間が定時制とは異なって複雑になってしまうので、しっかりと勤怠管理を行う必要があります。
変形労働時間制を導入するなら、対応している勤怠管理システムの導入も併せて行うことがおすすめの方法のひとつです。また違法にあたらないか不安な場合は、弁護士と相談しながら導入を進めましょう。
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