会社を退職し、自身で開業したり転職したりとステップアップを踏まれている方も多いでしょう。実際に会社を退職するとなった時、健康保険証は会社へ返却しなければなりませんし、次に働く会社が決まっていなければ社会保険の手続きを自身で行う必要があります。もし、扶養するご家族がいれば予期しない病気や怪我に備えておくべきですよね。


そこで今回は、退職後の社会保険の「任意継続」にスポットを当ててご紹介致します。
健康保険の任意継続とは

社会保険制度には、健康保険に「任意継続」制度というものがあります。その名の通り、退職後も退職前の会社で加入していた健康保険に任意で継続加入できる制度のことです。「任意継続」に加入するには、任意というだけあって自分で手続きをしなければならなかったり、加入するための条件もいくつかあります。まずは、「任意継続」とはどんな社会保険制度なのか、加入の条件や注意するべき点をご紹介します。
退職後の健康保険の選択

会社を退職した後に加入できる社会保険の健康保険制度は下記の3つです。
- 健康保険任意継続
- 国民健康保険
- ご家族や配偶者の健康保険(被扶養者)
まず1の「健康保険任意継続」は、退職時に自身が会社で加入していた健康保険に継続して加入することです。2は、自身が居住している市区町村が運営する「国民健康保険」へ加入することです。そして3は、配偶者やご家族の方が加入している健康保険の被扶養者として加入することです。
退職して次に働く会社が決まっていなければ、上記3つのいずれかに加入する手続きが必要となります。
健康保険の任意継続とは
会社勤めをしている一般的なサラリーマンは、「協会けんぽ」か「健康保険組合」のどちらかに加入していることが多いでしょう。大規模な会社であれば自社で健康保険組合を作り運営しているケースもあります。退職をすると、健康保険の被保険者としての資格を失うため、健康保険証を会社へ返却しなければなりません。しかし、ある一定の条件を満たせば、退職後もこれまで加入していた健康保険に最長2年間継続して加入し続ける「任意継続」を利用することができます。
しかし、「任意継続」では、これまでの保険料が継続されるわけではありません。さらに、在職時は会社に任せていた保険料の納付や手続きも自分でやらなければならないなど様々な制約が発生します。任意継続の加入を考えている方は、事前の確認をしっかりと行ってください。
この記事では退職時に「協会けんぽ」に加入していたケースについて説明していきます。
任意継続の条件
「任意継続」に加入するためには、下記の2つの条件を満たす必要があります。加入を考えていらっしゃる方は、まず下記の条件に該当するのかをしっかり確認して下さいね。
・退職日までに「継続して2か月以上の被保険者期間」があること。
もし、会社に在籍していても社会保険の健康保険に加入していなかったり、加入していたとしてもその期間が2か月未満である場合は、任意継続を利用することはできません。
・退職日の翌日から「20日以内」に申請すること(※20日目が営業日でない場合は翌営業日まで)。
退職日の翌日から20日以内に自分自身で申請をしなければなりません。なお、申請手続きは、自宅住所地を管轄する協会けんぽの都道府県支部で行います。例えば、会社は東京都で自宅が埼玉県であれば、埼玉支部で申請を行います。また、会社に在籍時は会社が全て社会保険の手続きを行ってくれていましたが、任意継続に関しては自分自身で行う必要がありますので注意しましょう。
※詳しい手続き方法は、「任意継続の手続き」の章で分かりやすくご紹介致します。
任意継続の注意点
「任意継続」には様々な制約があります。加入する前に、注意しなければならない4つの点をご紹介致します。
1.被保険者期間は最長2年間
任意継続を利用できる期間は、任意継続被保険者となった日から2年間と決められています。もし、2年経過しても新しい職場が決まっていなければ国民健康保険に加入するか、配偶者やご家族の健康保険に加入する必要があります。
2.任意で任意継続の資格を喪失することができない
任意にやめることはできません。例えば、国民健康保険に加入したいと言う理由や配偶者やご家族の健康保険に被扶養者となるという理由では資格を喪失できません。しかし、下記の5つのいずれかに該当した場合は任意継続をやめることができます。
【任意継続の資格喪失が認められている5つのケース】
(1)任意継続被保険者となった日から2年を経過したとき
(2) 保険料を納付期日までに納付しなかったとき
(3)就職して、新たに健康保険の加入をしたとき
(4)後期高齢者医療の被保険者資格を取得したとき
(5)亡くなったとき
3.厚生年金は継続されない
会社に在籍していた時は、健康保険、厚生年金、雇用保険などの社会保険に加入し、毎月の給与から各保険料が控除されていました。任意継続をする際に、一番多く勘違いされるのが健康保険と共に厚生年金保険も継続されると思われる方が沢山いらっしゃるのです。社会保険の任意継続と言っても、継続できるのは「健康保険」のみです。 厚生年金に任意継続はありませんのでご注意ください。年金部分は、国民年金保険に加入するか、条件が合えば配偶者の方の被扶養者となります。
4.任意継続の手続きは一定期間に行う
任意継続は、退職後いつでも手続きを行えるわけではありません。任意継続の条件でも説明した通り、退職日の翌日から20日以内に手続きをする必要があります。20日を1日でも過ぎてしまった場合は任意継続の手続きは原則できませんのでご注意ください。
任意継続の保険料

社会保険の「任意継続」制度に加入したら、どれくらいの保険料を納める必要があるのか気になりますよね。任意継続では、会社在籍時の保険料がそのまま継続されるわけではありません。また、これまで会社と折半していた保険料も全額支払わなければならなくなるため、保険料がどのくらいになるのか事前に確認しておきたいですよね。こちらでは、具体例を用いながら保険料の求め方をご紹介します。
任意継続の保険料
任意継続の保険料の求め方を分かりやすくご紹介します。まず、下記はベースとなる保険料の計算方法です。
<任意継続保険料の求め方>
退職時の標準報酬月額 × お住まいの都道府県の保険料率(※40歳以上65歳未満は介護保険料率も含む)
※任意継続の標準報酬月額の上限は30万円
標準報酬月額とは、社会保険料を算出するベースとなるものです。会社から支払われる給与額を標準報酬月額表にあてはめ等級区分を決定し、この標準報酬月額に保険料率を乗じます。なお、「任意継続」保険料の標準報酬月額の上限は30万円です。
協会けんぽのHPに記載されている任意継続の保険料額表を用いながら実際に保険料の求め方をご紹介していきます。

<ケース1> 東京都在住 Aさん 退職時の年齢30歳 報酬月額24万の任意継続の保険料
手順1:退職時の報酬月額から標準報酬月額を確認する
Aさん 上記画像の赤い囲みで19等級 報酬月額は24万円です。
手順2:年齢は30歳で介護保険料がかからないので第2号被保険者に該当しない場合の保険料
Aさん 上記画像の赤い囲み内にある、23,760円がAさんの保険料となります。
<ケース2> 東京都在住 Bさん 退職時の年齢42歳 報酬月額40万の任意継続の保険料
手順1:退職時の報酬月額から標準報酬月額を確認する。
Bさん 上記画像の青い囲みで22等級 報酬月額は30万円です。Bさんの場合は、29万円以上の高い給与額になるため、標準報酬月額は上限の30万円となります。
手順2:年齢は42歳で介護保険料がかかる第2号被保険者に該当します。
Bさん 上記画像の青い囲み内にある、34,890円がBさんの保険料となります。
保険料の納付方法
会社に勤めていた頃は、毎月の給与から社会保険料が控除され会社が納付を行なってくれました。しかし、任意継続の場合は自分で保険料を納めなければなりません。社会保険料の納付方法は全部で次の3通りです。
(1)毎月納付書により保険料を納める方法
(2)一定期間分を一括して事前に納付書により前納する方法
(3)毎月保険料を口座振替により納付書する方法
1の毎月納付書にて納める方法は、月初に納付書が送られてきて、その月の10日までに金融機関かコンビニで納めます。納付書が届いてから納めるまでそんなに時間もありませんし、納めに行く必要があるため手間がかかります。任意継続の場合、保険料を期日までに納めないと資格を喪失されてしまいますので、面倒だなと思う方は、一定期間分を前納する2の方法か、3の口座振替で納める方法がおすすめです。
保険料を前納できる期間
任意継続の保険料は、6ヶ月分または12ヶ月分を一括して納付することが可能です。毎月の納付の手間が省けたり納付し忘れたりするのを防止することができます。
【前納できる期間】
①6ヶ月分の前納
4月から9月分までの半年分と10月から翌年3月分までの前納が可能です。
②12ヶ月分の前納
4月から翌年3月分までの12ヶ月分を前納することができます。
③年度の途中で任意継続被保険者となった場合
資格を取得した月の翌月分から9月分または3月分までを前納することができます。
前納すると保険料が割引される
任意継続の保険料を前納すると、保険料が複利原価法により年4%割引になります。保険料額はなかなか大きな金額になりますので、少しでもお得になれば嬉しいですね。
任意継続のための手続き

社会保険の「任意継続」の手続きは、会社でなく自身で行う必要があります。また、ある一定の期間内に自身の住んでいる都道府県を管轄する協会けんぽへの申請が必要になったりと手続き自体が少し分かりにくくなっています。こちらでは、任意継続の手続き方法を分かりやすく、順を追って説明していきます。
任意継続の手続きは退職者自身が行う
これまで会社に在籍していた時は、会社の事務担当者の方が社会保険の手続きを行なってくれていたと思います。しかし、任意継続の手続きは退職者本人が行わなければなりません。
任意継続とは言え、会社に在籍していた時に持っていた健康保険証をそのまま継続して使用することはできないため、退職日以降に会社へ返却しばければなりません。会社の資格喪失の手続きが終了した後に任意継続の手続きができるようになるので、早めに保険証を返却することがおすすめです。
また、会社担当者の方にも、退職後は任意継続に加入する旨を伝えておくとスムーズに手続きすることができます。
任意継続の手続きまとめ
健康保険の任意継続の手続きは申請に期限が設けられていたり、扶養するご家族がいれば別途添付書類が必要になったりと割と煩雑です。期限や提出書類、提出先などをわかりやすく下記の表にまとめてみましたので、手続きを行う際の参考にしてみて下さい。
健康保険組合の場合は、添付書類や手続き方法が異なる場合もありますので事前にご確認下さい。
| 被保険者のみ | 被保険者と扶養家族 | |
| 必要書類 | 任意継続被保険者資格取得申出書 | |
| 添付書類 | 特になし※ | 生計維持している事を確認できる書類等 |
| 提出期限 | 退職日の翌日から20日以内 | |
| 提出先 | 被保険者が居住する都道府県を管轄する協会けんぽ支部 | |
| 提出方法 | 郵送または各支部の協会けんぽ受付窓口に持参 | |
※マイナンバーを記載した場合には、運転免許書の写しやマイナンバーカードの写しが必要となります。
扶養するご家族がいる場合は、退職前から扶養に入っているかいないかや同居か別居か、扶養家族が日本在住か海外在住など状況によって揃える添付書類が異なりますので事前に必ず確認しておくようにしましょう。以下の協会けんぽのホームページに詳しい添付書類が記載されておりますので、参考にして下さい。
任意継続被保険者資格取得申出書の書き方
実際に任意継続に加入するためには、申請書をご自身で作成する必要があります。ポイントとなる部分を中心に具体的な書き方を協会けんぽの「記入の手引き」に従ってご紹介します。

ポイント①会社に勤務していた時に使用していた健康保険証の記号と番号が必要
退職と共に健康保険証は返却してしまいますので事前にコピーまたは記載しておきましょう。
ポイント②保険料の納付方法を選択
口座振替にするか納付書で納めるか、前納するかを選びます。

ポイント③扶養家族を申請する場合は、家族のマイナンバーを記載する
もし、マイナンバーを記入できない場合は、その旨を申立書に記載します。
ポイント④被保険者のマイナンバーを記載した場合は、添付書類が必要になる
ポイント①で在籍時に使用していた健康保険証の番号や記号を記入できれば、マイナンバーの記入は必要ありません。もし、①を記入できないならばマイナンバーを記入し、身元確認を行うための確認書類(運転免許書の写し等)と番号確認を行うための書類(マイナンバーカードの写し等)の添付が必要です。
保険料を口座振替する場合は口座振替依頼書の添付も必要
もし、保険料を口座振替で納める場合は、任意継続被保険者資格取得申請書と併せて「口座振替依頼書」の提出も必要となります。口座振替をご希望の方は、以下の協会けんぽのホームページより申請用紙をダウンロードできますのでご利用下さい。
提出方法
必要書類の記入や添付書類が揃ったら、自身が住んでいる都道府県を管轄する協会けんぽ支部へ郵送もしくは直接窓口で手続きを行いましょう。
郵送する場合は、追跡ができるレターパックや特定記録がおすすめです。期限が退職日の翌日から20日以内と決まっているものなので、期日までに書類が協会けんぽへ到着しているのか心配になってしまいますよね。追跡ができる郵送方法で送ると、いつ到着したのかも分かりますし、書類が届いていないなどのトラブル予防や証明にもなります。また、封筒に「任意継続被保険者資格取得申出書在中」と記載しておくと、担当部署へより早く回してもらえるのでおすすめです。
なお、送付先は下記の協会けんぽの支部一覧より、自宅住所の都道府県を管轄する支部をご確認下さい。
保険証が届く時期
会社の資格喪失手続きが終わり任意継続の手続きがスムーズに進めば、手続きが終了次第すみやかに保険証は発行され、約1週間前後で届きます。しかし、異動の多い季節や入社が急増する3月や4月は資格取得や喪失の手続きが大量に発生する役所の繁忙期に当たります。この時期に重なってしまうと保険証の発送が遅れ手元に届くのに時間がかかってしまうことがあり、長い方では3週間から1ヶ月近くかかった方もいらっしゃいます。
もし、保険証が届く前に病院にかかってしまい医療費を全額負担した場合には、保険証が手元に届いたら病院に相談するか「健康保険療養費支給申請書(立替払)」を協会けんぽへ届け出ることによって保険負担分が返金されます。なお、手続きの際は、領収書の原本や診療明細書の添付が必要となりますので、大切に保管しておきましょう。
国民健康保険と比較したときの任意継続のメリット・デメリット

退職後、次に勤める会社が決まるまで「任意継続」か「国民健康保険」のどちらかの社会保険制度に加入するケースが一般的に多いかと思います。国民健康保険と比較したとき、条件や保険料、扶養家族の加入の観点から見た際にどんなメリットやデメリットがかるのでしょうか。加入した後、後悔することのないようによく比較検討してみてください。
任意継続のメリット
まずはメリットから確認してみましょう。
【保険料の比較】
任意継続の保険料は、退職時の給与額がベースとなるのに対し国民健康保険は前年度の収入がベースとなります。特に給与額が月額29万円以上の方はどんなに高い給与でも標準報酬月額は上限の30万となるため保険料が高額になることはありません。
しかし、国民健康保険は上限の設定がないため、前年度の収入が高ければ高いほど保険料も高くなってきます。給与額が上限よりも高い方は任意継続が割安かもしれないですね。
【扶養家族の比較】
任意継続で扶養家族が認定されれば、扶養するご家族の保険料は発生しません。
一方で、国民健康保険には残念ながら扶養という概念がありません。よって、例え無収入の子供を扶養家族にする場合も保険料の算定人数としてカウントされてしまうのです。任意継続であれば被保険者の保険料のみですが、国民健康保険は家族分の保険料が発生します。扶養する家族が多ければ多いほど任意継続の方がお得ですね。
任意継続のデメリット
任意継続のデメリットもしっかり抑えておきましょう。
①加入条件や保険加入期間など様々な制約がある
任意継続に加入する場合には、退職する以前に2ヶ月以上の保険料加入期間があることや任意継続に加入できる期間は最長で2年間など様々な制約があります。任意継続の被保険者となった場合でも、自身の理由で勝手に喪失することはできないなど厳しい制約がたくさんあります。
②保険料を滞納したら即喪失
もし、保険料の納付期日までに保険料を納めなかった場合には、天災などの余程の理由がない限り納付期日の翌日には資格喪失とされます。うっかり保険料を納めるのを忘れてしまった!という理由では即喪失となりますのでご注意下さい。
③2年目の保険料は国保の方が割安になるかも!?
退職後に収入が少なくなると2年目の保険料は任意継続よりも国民保険料の方が割安になる可能性があります。これは国民健康保険の保険料が前年度の収入によって算出されるためです。一方で任意継続の保険料は原則2年間は変わりません。
社労士コメント:任意継続と国民健康保険、どちらが良いのか?
【退会済】 - undefined
まとめ
会社を退職後、新しい職場が見つかるまでは社会保険の任意継続、国民健康保険、または家族の扶養となって健康保険に加入する必要があります。
中でも「任意継続」は、これまで会社に在籍していた時に加入していた健康保険に任意で継続加入できる制度のことです。
加入する場合は、退職後の翌日から20日以内にご自身で手続きしなければならなかったり、加入できる期間も最長2年と様々な制約がありますが、給与額が高い人は保険料に上限があるため、国民健康保険と比べると保険料がお得になる可能性や扶養家族の認定が認められると家族分の保険料はかからないなどメリットもあります。
いざ、手続きをしようと思ってもこれまで会社で任せていた社会保険の手続きを自分で行うことはやはり不安ですよね。任意継続に加入する前に、条件や期限、提出先、保険料はもちろんのこと申請書の書き方もしっかりと抑えておきましょう。
この記事を監修した社労士
【退会済】 - undefined
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