社会保険とは、一般的に健康保険と厚生年金保険のことを指しますが、法人事業所であれば、従業員を必ず加入させなければなりません。
未加入事業所については、年金事務所が徹底調査しています。未加入のまま放置していると、過去の保険料まで遡及して徴収され、罰則も適用されることになりますので、経営的にも大きなダメージを受けることになります。
社会保険未加入事業所に対する指導が強化 その実態は?
社会保険未加入事業所に対する加入指導は、厚生労働省において従来から力を入れているところですが、近年、さらに厳しいものになっています。
より効率的な未加入事業所の特定、加入指導のさらなる強化によって、2015年から2018年の3年間で未加入事業所数を半減させています。
社会保険未加入事業所の特定が容易になっている
これまで、厚生労働省では、法人登記簿の情報などから未加入事業所の調査を進めていましたが、その中には休眠法人やペーパーカンパニーなどが多数含まれており、効率的に未加入事業所を特定できていませんでした。
これを解決すべく、2015年度からは、国税庁が保有している法人事業所の情報を入手することで、従業員に給与を支払っている事業所を把握できるようにし、2016年度からは企業版マイナンバー(法人番号)も活用するなど、未加入事業所の特定についてより一層の効率化を図っています。
参考資料:厚生労働省
厳しさを増す加入逃れ阻止 79万社にメス
上記により特定された未加入事業所数は、2015年9月時点で約79万もあり、各年金事務所では、それらの事業所に対する加入指導を強化しています。
具体的には、まず、文書や電話によって加入を要請し、これに応じなければ、直接訪問して加入を指導、最終的には、立ち入り検査を実施して、強制的に加入させるという流れです。
このことにより、2018年9月時点での未加入事業所数は約40万に減少していますが、加入指導には引き続き力を入れています。
参考資料:日本経済新聞
建設業でも厳しい加入指導が
建設業界では、特に社会保険に未加入の事業所や労働者が多いことから、国土交通省においても、企業単位では、許可業者の加入率100%、労働者単位では、製造業と同水準の加入状況を目指して、加入の促進に取り組んでいます。
同省の「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」では、元請が下請の社会保険加入を確認および指導することが求められており、社会保険に加入していない下請は選定すべきではないとしています。
参考資料:国土交通省
社会保険に加入しなければならない事業所・従業員とは?
一般的な事業所(企業)であれば、強制的に社会保険が適用になり、そこで雇用している従業員は社会保険に加入させなければなりません。
ただし、個人事業所やパート・アルバイトについては、一定の要件を満たす場合に加入することになっています。
原則、全法人と5人以上雇用の個人事業主が該当
社会保険が適用になる事業所は、法律において以下のとおり定義されています。
法人事業所 | 業種に関係なく、従業員が1人でもいる場合には強制適用になる。 |
個人事業所 | 農林漁業やサービス業などを除き、従業員が5人以上いる場合には強制適用になる。 |
上記の事業所を「強制適用事業所」と言いますが、これらに含まれない事業所でも、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けることで「任意適用事業所」となり、社会保険に加入することができます。
参考資料:全国健康保険協会
正社員と一定の要件を満たすパート・アルバイトが該当
社会保険に加入させなければならない従業員は、法律において以下のとおり定義されています。
正社員 | 加入義務あり。 ※代表者や役員も原則として加入義務あり。 |
パート・アルバイト(1) | 1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が正社員の「4分の3以上」である場合には加入義務あり。 |
パート・アルバイト(2) | 上記の「4分の3以上」に該当しなくても、以下の要件をすべて満たす場合には加入義務あり。 ・1週の所定労働時間が20時間以上であること。 ・雇用期間が1年以上見込まれること。 ・賃金の月額が88,000円以上であること。 ・学生でないこと。 ・被保険者数が常時501人以上の企業に勤めているか、500人以下でも社会保険の加入について労使間で合意がなされている企業に勤めていること。 |
なお、パート・アルバイトとして働く者が、配偶者の社会保険に被扶養者として加入しているのであれば、自社における労働時間や賃金などを確認し、加入するか否かを判断しなければなりません。
参考資料:日本年金機構
未加入事業所には加入要請・立入検査・罰則が
上記で説明したような、社会保険が適用になる事業所の従業員が社会保険に加入していなければ、事業所の所在地を管轄する年金事務所から加入を要請されます。
これに応じないと、警告のうえ立入検査が実施されて強制加入となります。こうなると、過去の保険料まで納付を求められて、罰則も適用されることがあります。
年金事務所からいきなり来る加入要請
まずは、管轄年金事務所から、電話や文書によって加入を要請されます。
この段階では、あくまで自主的な加入を促すものであり、すぐに加入すれば、それ日以降に発生する保険料だけを納めていくことで済みます。
その後は立入検査の警告通知が
加入要請に応じなければ、立入検査前の警告として、年金事務所に来所して、加入手続きをするよう文書で通知されます。
この段階で、加入手続きをすれば、まだ、それ日以降に発生する保険料だけを納めていくことで済みます。
最終的には立入検査・過去2年分の保険料納付
ここまでの加入指導を拒否し続けていると、いよいよ、立入検査が実施され、従業員の被保険者資格確認が行われたうえ、強制的に加入させられます。
この立入検査まで実施されると、最大2年間まで遡って保険料の納付を求められることになります(2年より前の保険料は時効で消滅するため徴収されません)。
社会保険料は従業員本人と会社で折半することになっていますが、未加入であることについては、会社側に原因であることが多いものです。未加入期間の保険料の負担を従業員に求めることは難しいため、過去2年間の保険料を納付することは、企業にとってかなりの負担となります。
社会保険の遡及加入に関する詳しい記事はこちら>>【社労士監修】社会保険の未加入は遡って加入が必要?そのままにしておくと罰則の対象となることも!
さらに罰則の適用もある
さらに、社会保険に未加入である場合の罰則として、「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が適用されることもあります。
これが適用された場合には、社会的な信用も失ってしまうことになります。
従業員から損害賠償を請求されることも
会社で社会保険に加入できない従業員は、その間、自ら、国民健康保険と国民年金に加入しなければなりません。扶養者がいると、社会保険よりも保険料の負担は増えますし、将来的に受け取ることができる年金額も厚生年金に加入している場合と比べて低額なものになってしまいます。
このように、社会保険に加入できないことは、従業員の不利益に直結するものであるため、従業員から損害賠償を請求されるケースもあります。
参考資料:労政ジャーナル
社会保険の負担に対応する財務戦略を
社会保険料は、事業を継続していくうえでの必要経費と認識しなければなりません。
社会保険料の額を常に把握し、場合によっては他の経費の削減も検討しなければなりません。
これだけかかる社会保険料負担
社会保険料とは、各従業員の給料の一定割合であり、それを従業員本人と会社で折半することになっています。
例えば、東京都の会社で、月給30万円の正社員(40歳未満)が10人いる場合の保険料は以下のとおりになります。
〔健康保険料(月額)〕 1人あたり29,700円×10人 = 297,000円(会社負担額148,500円) |
〔厚生年金保険料(月額)〕 1人あたり54,900円×10人 = 549,000円(会社負担額274,500円) |
〔会社負担額合計(月額)〕 148,500円 + 274,500円 = 423,000円 |
〔会社負担額合計(年間)〕 423,000円×12か月 = 5,076,000円 |
必ず納めなきゃいけない社会保険料
繰り返しになりますが、社会保険料は必ず納めなければならないものであり、加入するかしないかを会社で決められるものではありません。
強制加入となって、突然、過去の保険料まで納付を求められれば、経営を維持していくことも難しくなります。
そうならないためにも、社会保険料を必要経費として組み込み、必要に応じて、他の経費を削減するなど、経営を見直していかなければなりません。
現場を長年見てきた労務コンサルタントからアドバイス
厚生労働省(日本年金機構)では、社会保険に未加入の法人事業所や個人事業所に対し、これまで以上に取り締まりを強化しています。
社会保険に未加入であれば、遅かれ早かれ、必ず督促がきますし、それを無視し続けた結果、2年分の保険料を請求されて倒産に追い込まれるような中小企業もあります。
社会保険料の節約を目的に加入しない事業主もいますが、そもそも法律違反ですし、節約できたとしても一時しのぎでしかありません。現状、未加入なのであれば、直ちに、加入することをお勧めします。
まとめ
社会保険に未加入であることが、いかに経営的にリスクがあるのかがおわかりいただけたかと思います。
ただ、これから加入しようと思っても、実際にどのように手続きしたらいいのかわからない、また、年金事務所からの加入要請にどのように対応したらいいのかわからない場合もあるかと思います。
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