事業が一定の要件に該当すると労働保険への加入義務が生じ、保険関係成立届をはじめとした各種書類を提出する必要があります。
手続きに漏れがあると罰則の対象になるため、経営者や人事担当者は、労働保険の加入条件や必要な手続きを理解しておくことが大切です。
この記事では、労働保険の加入条件や保険関係成立届の入手方法、書き方、提出方法についてわかりやすく解説します。
労働保険の加入条件
労災保険と雇用保険の2つを合わせて労働保険と呼び、それぞれ加入条件が決まっています。加入条件に該当した場合は10日以内に保険関係成立届を提出しなければいけません。
労働者を1人でも雇用していれば原則労働保険へ強制加入となりますが、業種や労働者数によっては強制加入にならない場合があります。自社の事業が加入条件に該当するのか、正しく判別できるようにしておきましょう。
労働保険の加入義務がある事業所
事業は労働保険の適用のされ方によって、「強制適用事業」と「任意適用事業」の2種類に分けられます。条件に該当すると労働保険に強制加入になるのが強制適用事業、あくまで加入が任意とされるのが任意適用事業です。
強制適用事業
任意適用事業に該当する事業を除き、原則として労働者を1人でも使用する事業は強制適用事業です。強制適用事業では、事業開始日または強制適用事業に該当した日に労災保険への加入が成立します。
加入条件に該当した日から10日以内に保険関係成立届を提出する必要がありますが、未提出でも未加入になるわけではありません。条件に該当すれば該当した日に労働保険への加入自体が成立します。
任意適用事業
任意適用事業に該当する事業では労働保険への加入はあくまで任意です。任意加入の申請をして許可があった日に労働保険に加入したことになります。
任意適用事業に該当するのは、労災保険と雇用保険でそれぞれ次の事業です。
労災保険の任意適用事業
- 労働者数が常時5人未満の個人経営の農業や畜産、養蚕で、特定の危険または有害な作業を主として行う事業以外のもの
- 労働者を常時には使用せず、かつ、年間使用延労働者数が300人未満の個人経営の林業
- 労働者数が常時5人未満の個人経営の水産業で、総トン数5トン未満の漁船による事業または河川や湖沼などで主として操業するもの
雇用保険の任意適用事業
- 常時5人未満の労働者を雇用する個人経営の農林、畜産、養蚕または水産の事業
労災保険では労働者の過半数が希望する場合に、雇用保険では労働者の2分の1以上が希望する場合に、事業主は任意加入の申請をしなければいけません。
労災保険と雇用保険の加入対象となる労働者
労災保険と雇用保険の加入対象になるのは、それぞれ次の労働者です。
労災保険の加入対象者
- 正社員やパート、アルバイト、日雇労働者など、雇用形態に関わらず対象
- 派遣労働者は派遣元企業の労災保険の適用対象
雇用保険の加入対象者
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上継続して雇用が見込まれること
労働保険の一元適用事業と二元適用事業について
労働保険が適用される事業は保険の取扱いによって2種類に分かれます。労災保険と雇用保険を一元的にまとめて扱うのが一元適用事業、分けて別個に扱うのが二元適用事業です。
二元適用事業に該当するのは次の事業で、それ以外の事業は基本的に一元適用事業になります。
二元適用事業
- 農林、畜産、養蚕、水産の事業
- 建設の事業
- 港湾労働法に基づく港湾運送の行為を行う事業
- 都道府県や市町村およびこれらに準ずるものが行う事業
建築業等の一括有期事業の場合
労働保険は事業単位で適用されるのが原則です。しかし小規模な事業ごとに労働保険を適用すると手続きが煩雑になるため、小規模な事業では一括して労働保険を適用して処理することになっています。
労働保険をまとめて適用する一括有期事業は一定の要件に該当する事業で、主な要件は以下のとおりです。
- 事業主が同一である
- 各事業が有期事業である
- 各事業の概算保険料相当額が160万円未満である
- 請負金額が1億8千万円未満の建設の事業または素材見込生産量が1千㎥未満の立木の伐採の事業である
労働保険の加入手続き
一元適用事業でも二元適用事業でも、労働保険の加入手続きをする際は最初に保険関係成立届を提出する所から始めます。保険関係成立届を提出した後でなければ他の手続きはできません。
ここでは一元適用事業と二元適用事業のそれぞれについて、手続きで必要になる書類や提出先、提出期限について解説します。
労働保険の加入手続きの流れ
労働保険に加入するための手続きは次の流れで行います。
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最初に行う手続きは所轄の労働基準監督署への保険関係成立届の提出です。その後に保険関係成立届の控えなどを使って労災保険や雇用保険の手続きを進めることになります。
一元適用事業所の手続きの流れ
一元適用事業の場合、保険関係成立届を労基署に提出した後または同時に概算保険料申告書の提出を行います。提出期限は保険関係成立届が10日以内、概算保険料申告書が50日以内です。
労基署への保険関係成立届の提出が終わった後、ハローワークに雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を提出します。提出期限はそれぞれ10日以内と翌月10日までです。
書類名 | 提出先と提出期限 |
保険関係成立届 |
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概算保険料申告書 |
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雇用保険適用事業所設置届 |
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雇用保険被保険者資格取得届 |
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保険関係成立届を提出する際に会社の登記事項証明書(個人事業主の場合は住民票)が、概算保険料申告書を提出する際に保険関係成立届の事業主控えが、それぞれ必要になります。
またハローワークで行う雇用保険の加入手続きでは、保険関係成立届や概算保険料申告書の事業主控えが必要です。雇用保険被保険者資格取得届を提出する際に労働者名簿や賃金台帳などが必要になります。
自社ビルの場合は不動産登記記載証明書、賃貸物件の場合は賃貸契約書の提出が求められるなど、ケースによって添付書類が変わることがあるので、手続きの流れや必要書類は所轄の労基署やハローワークに事前に確認するようにしてください。
二元適用事業所の手続きの流れ
二元適用事業の場合は、労災保険と雇用保険の適用のされ方が異なるため、手続きを分けて行います。各種届出書類の提出期限や添付書類は一元適用事業の場合と基本的に同じです。
添付書類はケースによって変わる場合があります。手続きの流れや必要書類は所轄の労基署やハローワークに事前に確認するようにしてください。
労災保険に係る手続き
書類名 | 提出先と提出期限 |
保険関係成立届 |
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概算保険料申告書 |
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雇用保険に係る手続き
書類名 | 提出先と提出期限 |
保険関係成立届 |
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概算保険料申告書 |
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雇用保険適用事業所設置届 |
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雇用保険被保険者資格取得届 |
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労働保険の保険関係成立届の提出方法
保険関係成立届の提出方法は窓口申請・郵送申請・電子申請の3つです。いずれかの方法で提出します。
労働保険関係が成立してから手続き期限まで日数が短いので、早めに準備をして提出するようにしてください。ここでは保険関係成立届の入手方法や提出先、申請方法を紹介します。
保険関係成立届の入手方法
保険関係成立届の用紙は特殊用紙で、労働基準監督署やハローワークの窓口でもらうか郵送してもらう必要があります。
インターネットで検索すると、保険関係成立届の用紙が掲載されていてダウンロードできる場合がありますが、ダウンロードして印刷したものは特殊用紙ではないため使えません。
書面による申請方法と提出先
保険関係成立届を書面で作成した場合は、添付書類とともに窓口に持参するか郵送して提出します。提出先は事業所の地域を管轄する労働基準監督署です。
労働基準監督署に直接行って提出する場合は、開庁時間が平日の午前8時30分から午後5時15分までである点に注意してください。土日祝日や年末年始は手続きができません。
e-Govを利用した電子申請の方法
e-Govとはインターネット経由で自宅や会社から行政手続きをできるシステムです。保険関係成立届の提出など社会保険関係の手続きもe-Govを使って行えます。
24時間いつでも申請ができ、申請した手続きの処理状況や提出先機関からの通知等をマイページですぐに確認できるため便利です。
e-Gov電子申請アプリのインストールやアカウント登録、電子証明書の取得など事前準備が必要で、利用準備が終わればシステムを使えるようになります。マイページから手続き選択画面・データ入力画面へと進み、保険関係成立届の提出に必要なデータを入力した上で申請してください。
詳しい利用方法は動画で紹介されています。
①労働保険の電子申請説明動画パート1(初期設定編)
②労働保険の電子申請説明動画パート2(年度更新申告書の作成、提出編)
労働保険の保険関係成立届の書き方
労働保険関係成立届の書き方についてご説明致します。またその際に生じます、賃金総額や、保険関係が成立した日、書き間違えてしまった場合の対応等についての疑問にもお答えしていきます。
労働保険の保険関係成立届の書き方
労働保険関係成立届の記入方法についてご説明していきます。
冒頭部分
0:保険関係成立届(継続)(事務処理委託届)
1:保険関係成立届(有期)
2:任意加入申請書(事務処理委託届)
この内1と2に二重線を入れます。
労働保険番号
初めて提出する場合、労働保険番号は空欄のまま提出します。
事業所の住所
会社の所在地を記入します(濁点も1マスに記入します)。
事業所の名称・氏名
会社の名称を記入します(この時、株式会社などを忘れず記入しましょう)。
右側の項目
・事業主
本社もしくは主たる事務所の所在地、名称を記入します。 ・事業 実際に保険の対象となる従業員を雇っている事業所の所在地、名称を記入します。 ・事業の概要 事業の内容を具体的に記入してください。 ・事業の種類 事業所に適用される【労働保険率適用事業細目表】に掲げられた該当する事業の種類を記入してください。 ・加入済の労働保険 初めて従業員を雇用する場合、記入不要です。 ・保険関係成立年月日 実際に雇用した年月日を記入します。 ・雇用保険被保険者数 一般・短期欄には、その年度における1ヶ月平均の一般被保険者数、高年齢労働者数、短期雇用特例被保険者数の合計数を記入します。 日雇欄には、日雇労働者数を記入します。 ・賃金総額の見込額 雇用日からその年の3月末までの期間に使用する労働者に係る賃金総額の見込額を記入してください。(賃金総額に1,000円未満の端数があるとき、その端数を切り捨てて記入します) ・委託事務組合 特に無い場合、記入不要です。 ・委託事務内容 特に記入不要です。 ・事業開始年月日 任意加入の申請を行う場合のみ、当該事業の開始年月日を記入します。 |
下の項目
・保険関係成立年月日
⑥欄の保険関係成立年月日を記入すること。 ・常時使用労働者数 その保険年度における1日平均使用労働者の見込数(年間延使用労働者数 (臨時及び日雇を含む。)を所定労働日数で除した数)を記入します。(小数点以下 の端数がある場合は、これを切り捨てた数です) ・雇用保険被保険者数 初めて届出を提出する時は、適用する人数を記入してください。 ・免除対象高年齢労働者数 4月1日現在で64歳以上の人を記入します。 |
以上が記入方法となります。
保険関係が成立した日とは
一括有機事業の場合、保険関係が成立した日は、会社が保険関係成立届を管轄する労働基準監督署に届けた日、又は、毎年の更新日です。
単独有期事業の場合、単独工事の保険関係成立届を労働基準監督署に届けた日になります。
賃金総額の計算方法
賃金総額とは、事業主が使用する従業員に対し、賃金、手当、賞与、その他名称の如何を問わず労働の対償として支払うすべてのもので、社会保険料等を控除する前の支払総額のことをいいます。
賃金総額に含まれるものは、以下の通りです。
賃金総額に含まれるもの | 賃金総額に含まれないもの |
基本給 | 役員報酬 |
賞与 | 慶弔金 |
通勤手当(非課税含む) | 退職金 |
定期券(現物) | 解雇予告手当 |
家族手当 | 出張費 |
役職手当 |
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住宅手当 | |
技能手当 | |
皆勤手当 | |
割増賃金 |
保険関係成立届を書き間違えた場合
管轄する労働基準監督署により多少の違いはあるかと思いますが、基本的に書き損じた場合、訂正することが可能です。もちろん新しい用紙をもらって書き直すこともできます。
労働保険未加入時の罰則やデメリット
事業主は労災保険や雇用保険に未加入の場合、各々の法律で定められている「懲役6ヶ月以下、もしくは、罰金30万円」が科せられる定めがあります。その他に以下の措置を受ける可能性があります。
(1)保険料の徴収や、追徴金の徴収
行政から指導を受けた後も引き続き労働保険の加入手続を行わない事業主に対しては、労働保険料を納めていない過去の期間についても遡って徴収し、更に追徴金(10%)も徴収されます。それでも労働保険料や追徴金を支払わない場合、滞納者の財産について差押え等の処分が行われます。
(2)労働災害が生じた時、労災保険の給付額の全部又は一部を徴収される
故意又は重大な過失により労災保険の加入手続を行わない事業主に対して、労災保険の給付が行われた場合、労災保険給付額の全部又は一部(40%又は100%)を事業主から徴収されます。
(3)助成金が支給されない
事業主が労働保険料の滞納があると、雇用調整助成金や、特定求職者雇用開発助成金などを受給できない可能性があります。
上記に該当する場合は速やかに支払いを済ませること、もしくは、管轄する労働基準監督署に一度相談してみください。
労働保険の加入手続きは社労士にお任せ
労働保険関係成立届を提出する際には、他にも様々な処理の手続きを行っていかなければなりません。又、提出した後に関しても行う処理というのは必ずでてきます。
こういった作業を一手に引き受けてくれるのが社労士です。ここではその社労士がしてくれることや、そのメリットについてまとめてみましたので、是非、ご参考にしてください。
社労士が行ってくれること
初めての場合、保険関係成立届を作成し、提出しようとするとそれ相応の時間がかかります。又、労働保険の手続きとして取組む作業は、保険関係成立届だけではなく、概算保険料申告書の作成や、年度更新、資格取得届・喪失届、など様々な手続きが必要となってきます。
社労士はこのような業務に関して知識と経験が豊富なので、自身の変わりにこれらの事務処理を引き受けてくれます。
労働保険の手続きを社労士に任せるメリット
社労士は国家試験を合格し、国に認められた人事におけるスペシャリストです。
社労士に任せることにより、人件費の削減はもちろんのことながら、本業に集中することができます。また、社労士は順次法改正にも対応していますし、今回の場合、労災保険、雇用保険に加入後に生じる手続きも含めて全般的に、対応してくれます。
雇用関係が生まれたら、すぐに労働保険の保険関係成立届を提出しよう
保険関係成立届は成立してから10日以内に申請しないといけません。時期にもよりますが、他のルーティン業務と重なり、知識がなく初めて行う場合は、時間を多くとられてしまうことになるでしょう。しかし、提出しないと追徴金等の罰則に該当しますので、雇用関係が生じたらすぐに提出しましょう。
監修社労士のコメント
ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道
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この記事を監修した社労士
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