多くの事業者に支払い義務のある社会保険料。ですが、事業を始めたばかりの人の多くは、社会保険料の種類や会社負担割合などについてきちんと理解していると言えないようです。
今回の記事では社会保険料の会社負担の割合や金額について、詳しく解説していきたいと思います。
社会保険料について正しく理解することは、良い人材が集まる会社に成長することへつながります。
社会保険料の会社負担は給与の約15~16%
社会保険料は会社と従業員それぞれが負担します。負担割合は保険の種類によって異なります。
会社は従業員の月々の給与から従業員負担分を控除し、会社は会社負担分の額を加えて社会保険料として納付するという仕組みになっています。
5種類の社会保険
会社が加入する社会保険は、健康保険・厚生年金保険・介護保険・労災保険・雇用保険の5種類です。
なお、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3種類を「狭義の社会保険」、雇用保険・労災保険の2種類を「労働保険」と呼びます。「社会保険」と一言で言った場合、「狭義の社会保険」を指していることもあります。
健康保険料と厚生年金保険料は労使折半
健康保険料と厚生年金保険料は従業員の標準報酬月額(平均などから求めた制度上の月収)と各都道府県の協会・厚生労働省が定めた保険料率によって決まります。決定された健康保険料と厚生年金保険料は、会社と従業員とで50%ずつ負担します。
また、従業員が40歳以上65歳未満の場合に健康保険料と共に徴収される介護保険料に関しても負担割合は同様です。
保険料率は地域や年度によって変わりますが、平成31年度現在東京都の健康保険と厚生年金保険の保険料率は以下のようになっています。
健康保険料率:9.90%
介護保険料率:1.73%
厚生年金保険料率:18.300%
これを会社と従業員で50%ずつ負担するため、会社が負担するのは、
健康保険料率:4.95%
介護保険料率:0.865%
厚生年金保険料率:9.15%
となります。平成31年度4月分からの地域ごとの保険料は以下の協会けんぽのホームページで確認できます。
雇用保険料は会社負担>労働者負担
雇用保険料は労働者より会社が多く負担する仕組みになっています。雇用保険料の計算式は以下のようになります。
【雇用保険料の計算方法】
雇用保険料=賃金(総支給額)×雇用保険料率
雇用保険料率は事業ごとに定められています。平成31年度現在の雇用保険料率は以下の表の通りです。
事業にもよりますが、「一般の事業」の場合、事業主負担は6/1,000、つまり0.6%となります。
労災保険料は全額会社負担
労災保険料は全額事業主負担となります。労災保険料の計算式は以下の通りです。
【労災保険料の計算方法】
労災保険料=賃金(総支給額)×労災保険料率
労災保険料率は事業の種類によって0.25%から8.8%まで異なります。平成31年度現在の事業ごとの労災保険料率は以下のリンクから確認できます。
社会保険料の会社負担は給与の約15%
上記で説明したものの他に事業主が全額負担する「子ども・子育て拠出金」があり、平成31年度現在の拠出率は3.4/1,000(=0.34%)となっています。
それぞれの保険料の会社負担割合は以下のようになります。なお、労災保険料率に関しては「その他各種の事業」の3/1,000(=0.3%)としています。
【社会保険料の会社負担割合】
健康保険料率:4.95%
介護保険料率:0.865%
厚生年金保険料率:9.15%
労災保険料率(その他の各種事業):0.3%
雇用保険料率(一般の事業):0.6%
子ども・子育て拠出金率:0.34%
従業員が40歳未満あるいは65歳以上の場合、介護保険料の徴収は行われないので社会保険料の会社負担は給与の15.34%。
従業員が40歳以上65歳未満の場合、介護保険料の負担割合も含めた社会保険料の会社負担は給与の16.205%。
事業の種類によって雇用保険料率と労災保険料率は変わってきますが社会保険料の会社負担割合は給与の約15%~16%です。
社会保険料の計算方法と計算例
社会保険料は従業員の「標準報酬月額」や「標準賞与額」、社会保険の種類ごとによって定められている保険料率によって計算していきます。ここからは具体的な社会保険料の計算方法や計算例について解説していきたいと思います。
社会保険料の計算方法
それぞれの保険料の計算方法は以下の通りです。
【健康保険料・介護保険・厚生年金保険の計算方法】
健康保険料=標準報酬月額(標準賞与額)×健康保険料率
介護保険料率=標準報酬月額(標準賞与額)×介護保険料率
厚生年金保険料=標準報酬月額(標準賞与額)×厚生年金保険料率
【雇用保険料・労災保険料の計算方法】
雇用保険料=賃金(総支給額)×雇用保険料率
労災保険料=賃金(総支給額)×労災保険料率
※雇用保険料と労災保険料の場合、賃金に賞与も含まれます
標準報酬月額と標準賞与額
標準報酬月額や標準賞与額とは、従業員の社会保険料を計算するための基礎となる金額のことを言います。
「標準報酬月額」とは報酬の月額、つまり月給を計算に便利なように区分したものです。分かりやすくするために実例を用いて説明します。
以下は保険料額表の一部を抜粋したものです。
月給22万円の場合、上記の表では21万円以上23万円未満なので、標準報酬月額は18等級(厚生年金保険は15等級)の22万円となります。この22万円にそれぞれの保険料率をかけて社会保険料を算出します。実務においてはわざわざ計算を行わなくても上記の保険料額表を参照すれば、標準報酬月額ごとの保険料が分かります。
「標準賞与額」とは賞与の額から1,000円未満を切り捨てた額のことです。標準賞与額には上限があり、健康保険では年間で573万円、厚生年金保険はひと月につき150万円となっています。
なお、社会保険制度において賞与とは年3回以下支給されるものを指します。年4回以上支給されるものは賞与として扱わず、月給に含めて計算を行います。
社会保険料の計算例
ここまで紹介した社会保険料の計算方法をもとに、平成31年現在、所在地が東京都の、40代と20代の2人が勤務する会社の社会保険料を計算していきます。なお、雇用保険における事業の種類は「一般の事業」、労災保険における事業の種類は「その他各種の事業」とします。また、賞与はないものとします。
<月給20万円・20代の従業員の社会保険料>
月給20万円は標準報酬月額表に当てはめると17等級の20万円です。この従業員は20代なので介護保険料の徴収はありません。
・健康保険料
20万円×9.90%=19,800円
会社負担額:19,800×50%=9,900円
・厚生年金保険料
20万円×18.300%=36,600円
会社負担額:36,600×50%=18,300円
・雇用保険料
20万円×0.9%=1,800円
会社負担額:20万円×0.6%=1,200円
・労災保険料
20万円×0.3%=600円
会社負担額:全額事業主負担なので600円
・子ども・子育て拠出金
20万円×0.34%=680円
会社負担額:全額事業主負担なので680円
⇒社会保険保険料の会社負担額の合計:30,680円
<月給30万円・40代の従業員の社会保険料>
月給30万円は標準報酬月額表に当てはめると30万円です。40歳以上65歳未満の従業員の場合、健康保険料と共に介護保険料も徴収されます。
・健康保険料
30万円×9.90%=29,700円
会社負担額:29,700円×50%=14,850円
・介護保険料
30万円×1.73%=5,190円
会社負担額:5,190×50%=2,595円
・厚生年金保険料
30万円×18.300%=54,900円
会社負担額:54,900×50%=27,450円
・雇用保険料
30万円×0.9%=2,700円
会社負担額:30万円×0.6%=1,800円
・労災保険料
30万円×0.3%=900円
会社負担額:全額事業主負担なので900円
・子ども・子育て拠出金
30万円×0.34%=1,020円
会社負担額:全額事業主負担なので1,020円
⇒社会保険保険料の会社負担額の合計:47,595円
平成31年現在、月給20万円の20代、月給30万円の40代の2人が勤務する東京都の会社の社会保険料の会社負担額はひと月につき78,275円。年間予算で考えると、かなりの経営課題であることがわかります。
社会保険料の負担額を見越した賃金に
従業員の年齢や標準報酬月額によって負担する社会保険料が大きく異なってくることが分かりました。社会保険料は会社と従業員の双方で負担することになります。当然従業員の賃金が増えれば増えるほど、社会保険料の会社負担も増えることになるのです。
従業員を雇用する際は、社会保険料の負担額を見越して賃金を設定することが、上手に事業を経営していく上で重要になってきます。
社会保険に加入義務のある事業所とは
社会保険に加入することが必須とされている事業所のことを強制適用事業所と言います。
すべての法人は社会保険加入必須
法人であれば必ず社会保険の強制適用事業所となり、社会保険に加入しなければなりません。ここでの法人とは株式会社や合同会社など全ての法人を含んでいます。法人となっている事業所では、事業主や従業員は意思に関係なく社会保険に加入することが義務付けられているということです。
また、個人事業主であっても常時5人以上の労働者を雇っている場合、強制適用事業所となります。ただし、個人事業主の社会保険に関しては以下の2つに注意する必要があります。
① 従業員は社会保険に加入しないといけないが、個人事業主本人は社会保険に加入できない
② 常時5人以上の従業員がいても、農林水産業、飲食業、旅館など宿泊業、クリーニング・理美容・銭湯などサービス業、映画などの娯楽業、法律・税理士事務所などの法務業については加入義務はない
社労士コメント:強制適用事業所の条件とは
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社労士コメント:適用事業所に勤めていても社会保険の適用とならない人とは
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会社の社会保険未加入は大きなリスク
法人である以上は社会保険に加入する義務があること、個人経営の事業所であってもいくつかの条件を満たせば社会保険加入の義務が発生することを説明しました。社会保険に加入する義務があるにも関わらず加入しないことは会社にとって不利益になることがあります。
ここからは会社が社会保険に未加入の場合の罰則やリスクについて解説していきたいと思います。
義務があるのに未加入だと懲役や罰金のペナルティ
社会保険への加入義務があるにも関わらず加入していない会社にはペナルティが課せられることがあります。
社会保険の加入対象の事業所となっている場合は年金事務所から通知くるのですが、度々の通知に応じない場合は「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」のペナルティを受けることがありますので、注意が必要です。
社会保険の未加入に関する詳しい記事はこちら>>>社会保険未加入で大丈夫? それは立派な経営リスクです
来所通知や指導文書が来たら、無視は厳禁
年金事務所からの通知を無視していると、先ほど述べたように罰金や懲役の対象になったり、保険料の追徴や延滞金支払いの対象になったりしてしまいます。少子高齢化による社会保険の必要性が大きくなってきている背景から、社会保険料の納付に対する通知や指導は年々厳しくなってきています。
後になって大きなペナルティを受けることになってしまうと、事業継続が困難になる場合もありますので、注意しておきましょう。
保険料の時効は2年。遡り請求で大ダメージも…
社会保険料を滞納し続けていると、2年間遡って保険料を追徴されます。また、延滞金も上乗せして支払う必要性が出てきますので、会社の資金繰りはより厳しくなるでしょう。会社が倒産した場合にも社長個人に債務は残るため、倒産したからと言って支払いを免除されるようなことはありません。
ハロワでの求人や厚労省関係の補助金にも支障
社会保険に未加入の状態が続いていると、ハローワークでの求人を出せなくなったり、厚労省関係の助成金を受けられる対象から外されたりしてしまう場合もあります。
年々社会保険の未加入に対するペナルティは厳しくなっており、このようなペナルティを受けると会社経営にも影響しかねません。
社労士コメント:社会保険の遡及加入時に支払う保険料
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社会保険加入でいい人材が集まるきちんとした会社に
今回の記事では社会保険の種類や特徴、会社と従業員での保険料の負担割合について解説してきました。社会保険未加入では良い人材も集まりません。
社会保険を適切に整備することで安心して働くことのできる職場を実現し、良い人材が集まる会社にしていきましょう。
この記事を監修した社労士
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