正社員やアルバイトとして入社後、社会保険にいつまでに加入して保険料がいつから給与天引きされるのか、社会保険の仕組みを理解しましょう。
この記事では、社会保険の加入条件や手続き期限について解説します。給与から引かれる社会保険料と引かれない社会保険料があるので、確認しておきましょう。
この記事を監修した社労士
ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道
社会保険の加入要件
まずは社会保険に関する基本的な事項として、社会保険制度ごとの加入要件や今後予定されている制度改正の内容について見ていきましょう。
ここでは狭義の社会保険とされる健康保険(介護保険)、厚生年金保険について解説いたします。
加入対象者の要件
社会保険の加入要件を満たすのか満たさないのか、条件が制度ごとに決まっているので、社会保険の加入要件にいつから該当するのかを判断する際には注意が必要です。
健康保険・厚生年金保険
健康保険・厚生年金保険の対象となる従業員は次の要件に該当する人です。
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日雇いの人や2ヶ月以内の期間を定めて雇われる人は、原則として健康保険・厚生年金保険の適用対象外です。
パートやアルバイトなど短時間労働者については、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であれば対象になります。また4分の3未満の場合でも、次の5つの条件すべてを満たす場合は対象です。1つでも満たさないと対象になりません。
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なお、対象になる人とは原則として、健康保険では75歳未満の人、厚生年金保険では70歳未満の人です。従業員の年齢が75歳になると、それまで加入していた健康保険制度から後期高齢者医療制度に切り変わります。
また後述するように2022年10月と2024年10月に制度が改正される予定です。
【社会保険適用拡大】2022年10月からの制度改正について
健康保険と厚生年金保険の加入条件が2022年10月に改正され、アルバイトやパートなど短時間労働者で加入対象になる人の範囲が拡大される予定です。2022年3月現在、「常時500人を超える被保険者を使用していること」が加入条件のひとつになっていますが、以下のように改正されます。
また短時間労働者が社会保険の加入対象になる条件のひとつに「雇用期間が継続して1年以上見込まれること」がありますが、2022年10月からは「1年以上」ではなく「2ヶ月超」に改正される予定です。
契約社員、パート、アルバイトの適用拡大に関する留意点
従来の制度では社会保険の加入条件を満たさない場合でも、2022年10月や2024年10月の法改正によって加入条件に該当する場合は、社会保険への加入手続きが必要です。
手続き漏れを起こさないためにも、法改正によって社会保険の加入対象者がいつからどのように変わるのか、制度改正の内容を理解して早めに準備を進めることが大切です。
社会保険の適用開始日と手続き期限
社会保険の加入条件に該当したときに、いつから保険適用が開始されるのか、適用開始日が法律で決まっています。加入手続きを行う期限も法律で決まっているので、届出書類の作成や提出は期限までに終えなければいけません。
ここでは社会保険の適用開始日や手続き期限を紹介します。社会保険の強制加入に該当する場合は、期限までに手続きを終えるようにしてください。
社会保険の適用開始日
正社員やアルバイト、パートなどの従業員のうち、「加入対象者の要件」で解説した要件を満たす人が次のようなケースに該当すると、該当したその日から社会保険に加入することになります。
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適用拡大に伴うパート、アルバイトの資格取得日
2022年10月の法改正によって事業所が新たに社会保険の適用対象になる場合、その事業所に勤務するパートやアルバイトなどの短時間労働者は、「週の所定労働時間が20時間以上」などの前述の要件を満たす場合、2022年10月から社会保険の適用対象になります。
要件に該当する従業員は強制加入になるので、社会保険に加入するかどうかやいつから加入するかを各従業員が自由に決められるわけではありません。
事業主が行う社会保険の手続き期限
事業主が行う社会保険の手続きのうち、社会保険の適用に関する主な手続きの期限は以下のとおりです。
健康保険・厚生年金保険の新規適用事業所の届出 | 5日以内 |
健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届 | 5日以内 |
雇用保険・労災保険の保険関係成立届 | 10日以内 |
雇用保険の被保険者資格取得届 | 翌月10日まで |
なお、社会保険では適用関係以外にも様々な手続きが必要になります。書類の作成方法や手続き方法が分からない場合は、社会保険の専門家である社労士に早めに相談するようにしましょう。
社会保険料の支払いと控除の開始はいつから?
社会保険に加入すると、事業主にも従業員にも保険料を支払う義務が生じます。
健康保険料・厚生年金保険料 | 事業主と従業員で負担(労使で半分ずつ負担) |
雇用保険料 | 事業主と従業員で負担(負担割合は業種により異なる) |
労災保険料 | 全額事業主負担 |
従業員負担分については給与から引かれることになり、事業主負担分とあわせて事業主が納付の手続きを行います。いつから社会保険料の納付が必要になるのか、納付期限や控除(給与天引き)のタイミングについて見ていきましょう。
社会保険料の納付期限
健康保険と厚生年金保険では、翌月末日が保険料の納付期限です。4月分であれば5月末までに納付します。
雇用保険と労災保険では、事業所が新たに保険の適用を受ける場合は加入要件に該当した日(従業員を雇った日)から50日以内に、概算保険料の申告・納付が必要です。
社会保険料の翌月控除の原則
従業員の給与から社会保険料が引かれるタイミングは原則として翌月です。社会保険料の給与天引きに関して、健康保険法で次のように規定されています。
事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(中略)を報酬から控除することができる(健康保険法 第167条)
翌月控除が原則なので、たとえば4月分の社会保険料は5月に給与を支払う際に控除します。ただし翌月控除ではなく当月控除とすることも可能です。当月控除の場合は、4月の給与を従業員が受け取る際に4月分の社会保険料が引かれることになります。
社会保険料控除例(ケース別)
正社員やアルバイト、パートなど、従業員の給料から社会保険料がいつから天引きされるのかは、給料の締日や支払日、従業員の入社日などによって変わってきます。
【事例①】月末締め・翌月15日払い・翌月控除
4/1に入社した新入社員には5/15に4月勤務分の給料が支払われ、4月分の社会保険料が引かれることになります。
【事例②】15日締め・当月末払い・翌月控除
4/1に入社した新入社員には4/1~4/15勤務分の給料が4/30に支払われます。翌月控除の場合、4月分の社会保険料が引かれるのは次の5/31の給与日なので、初回4/30の給料支払時に社会保険料は引かれません。
【事例③】10日締め・当月25日払い・当月控除
4/1に入社した従業員がいる場合、4/1~4/10勤務分の給料が4/25に支払われ、4月分の社会保険料が当月に控除されます。
一方で従業員が月中4/15に入社した場合は、最初に給料が支払われるのは5/25です。4/15~5/10勤務分の給料が5/25に支払われます。4月に給料の支払がないため、4月分の社会保険料を4月当月に控除することができません。そのため5月の給料支払時に4月・5月の2ヶ月分の社会保険料を天引きします。
なお月中入社で勤務期間が1ヶ月未満の場合でも日割計算は行いません。1ヶ月分の社会保険料がかかります。
退職者の資格喪失と保険料控除
従業員が退職すると社会保険の被保険者資格を失い、社会保険料の納付義務はなくなります。いつから納付の義務がなくなり、いつまでの分は給与天引きが必要なのか、事業主は正しく理解しておかなければいけません。
同じ月の退職でも、月末に退職する場合とそれ以外の場合で社会保険料の取扱いが異なるので注意が必要です。
資格喪失日の属する月の前月分まで控除する
従業員が退職した場合、社会保険料は資格喪失日の属する月の前月まで徴収対象となります。社会保険の資格喪失日とは退職日の翌日です。
たとえば退社日が3/21であれば資格喪失日が3/22となるので、保険料は資格喪失日の前月である2月分まで控除することになります。
月末退職と月中退職の違い
月末に退職する場合とそれ以外の場合で、従業員がいつから被保険者資格を喪失するかが変わります。
月末3/31に退職する場合は資格喪失日が4/1となるため、その前月である3月分まで社会保険料の控除が必要です。しかし3/30に退職する場合は資格喪失日が3/31となり、前月2月分まで社会保険料がかかります。
月末退職で3月分まで社会保険料がかかる場合、社会保険料を翌月に控除している企業では本来4月の給与支払時に控除しますが、3月の退職に伴って4月の給与振込がない場合は、3月の給与支払時に控除が必要です。そのため3月に従業員が受け取る給料からは、2月分と3月分の2ヶ月分の社会保険料が引かれることになります。
社会保険加入のメリットと未加入のリスクとは?
強制加入の要件に該当すれば社会保険への加入は義務であり、いつから入るか任意で選べるわけではありません。しかし義務だからという理由で仕方なく入るのではなく、なぜ加入が義務とされるほどに社会保険が重要なのか、その意義やメリットをしっかりと理解しておくことが大切です。
社会保険に入ることでどのようなメリットがあるのかを経営者自身が理解して、従業員に正しく説明できるようにしておきましょう。
社会保険加入のメリット
社会保険に入って保険料を負担しておくことで、ケガや病気で医療費がかかった場合や失業した場合などに必要な給付を受けられます。
たとえば医療費がかかっても原則3割負担で済むのは、普段から健康保険料を負担しているからです。また雇用保険料を支払うことで、失業して収入が途絶えた場合でも生活に困らないように失業手当等を受け取れます。
社会保険未加入のリスク
社会保険の加入義務があるにも関わらず未加入だった場合、最大で過去2年分の保険料を徴収される可能性があります。罰金など罰則を科される場合もあるので注意が必要です。
また事業主が社会保険の加入手続きを怠ったことで、従業員が本来受けられるはずだった給付を受けられなかった場合、損害賠償を請求される可能性があります。
この他にも、助成金の申請ができなくなる場合があるなど、社会保険に未加入だとリスクやデメリットが大きいので、強制加入の条件に該当する場合は加入の手続きを必ず行うようにしてください。
社会保険料を滞納した場合
社会保険料を滞納すると督促状が届き、期限までに納付しないと延滞金がかかります。財産を差し押さえられる可能性があり、また金融機関から融資を受けにくくなる場合があるので、滞納はしないようにしてください。
経営の状況が厳しいなど社会保険料の納付が難しい場合は、納付猶予制度を使える場合があります。納付期限になる前に早めに年金事務所や労働局に相談するようにしましょう。
監修社労士からのコメント
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従業員の給与から社会保険料がいつから引かれるのか、控除のタイミングは当月控除か翌月控除かによって変わります。健康保険料と厚生年金保険料は翌月末が納付期限なので、期限までに納付の手続きを終わらせましょう。
社会保険では届出書類の作成や保険料の申告・納付など、さまざまな手続きが必要になります。手続き方法がよく分からない場合は社労士への相談・依頼を検討してみましょう。専門家に任せれば各種手続きをスムーズに終えられます。
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