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社会保険の加入義務がある会社は?従業員(正社員・パート・アルバイト)の加入条件も解説

最終更新日: 2023年07月12日

社会保険は会社の経営者にとって欠かせない知識のひとつです。社会保険の加入義務が自社にあるのか、従業員のうち加入義務がある人は誰なのか、適切に判断して期限までに手続きを行う必要があります。

手続き漏れを起こさないように、社会保険の加入義務が生じる条件を正しく理解しておくことが大切です。この記事では、健康保険と厚生年金保険への加入が必要になる条件や、加入義務に違反して未加入だった場合の罰則について解説します。

この記事を監修した社労士

ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道

 

社会保険とは?

日本では健康保険をはじめとした様々な社会保険制度が整備されています。正社員やアルバイト、パートなど、加入義務が生じる社会保険制度は人によって異なりますが、普段から社会保険に入っておくことで万が一の場合に必要な給付を受けられる仕組みです。

社会保険制度がなぜ必要で、加入義務がなぜ法律で定められているのか、まずは社会保険制度の仕組みや意義について見ていきましょう。

日本の社会保障制度、社会保険とは?

社会保険とは病気や怪我、失業など万が一のリスクに対して社会全体で備えるための制度です。治療費などまとまったお金が必要になる場合でも、社会保険があれば必要な給付を受けられます。普段から皆で少しずつ保険料を出し合ってお金を貯めておくことで、必要なときに必要な人がまとまった給付を受けられる仕組みです。

日本の社会保険は「国民皆保険」と「国民皆年金」の2つが特徴で、すべての国民が何らかの医療保険制度に加入し、20歳以上のすべての国民が何らかの年金制度に加入する形になっています。加入義務が法律で定められているため、該当者は社会保険に加入しなければいけません。

医療保険があることで医療費がかかる場合でも給付を受けられて自己負担が軽くなり、年金制度があることで老後の生活費等で困らないように年金を受け取ることができます。

条件により加入が求められる社会保険

日本の社会保険制度には主に次の5つの制度があります

保険名 保障内容
健康保険 病気やケガなどで治療が必要な場合、医療費の一定割合が健康保険から支給され、自己負担が原則3割で済みます。また治療費が高額になった場合でも高額療養費制度があることで給付を受けることができ、出産する際に一時金が支給されることで自己負担を軽減できます。
年金保険 高齢になったときや何らかの障害を負ったとき、家族が亡くなったときに、生活に困らないように老齢年金や障害年金、遺族年金などが支給されます。20歳~60歳のすべての国民が年金制度に加入します。
介護保険 介護が必要になったときに給付を受けることができ、介護に伴う費用負担を軽減できます。40歳以上のすべての国民に加入義務があり、65歳以上の人が第1号被保険者、40歳以上64歳以下の人が第2号被保険者です。第1号被保険者と第2号被保険者で要介護認定の方法などが異なります。
雇用保険 失業したときに基本手当を受け取ることができ、教育訓練講座を受講したときにかかった費用の一部について給付金の支給を受けることができます。失業中の生活を維持し、再就職に役立つ能力を身につけることを支援する制度です。また育児休業中や介護休業中にも給付を受けられます。
労災保険 業務災害や通勤災害によって治療費がかかった場合や休業して収入が途絶えた場合、障害を負った場合などに給付を行う制度です。労働者本人が亡くなったときは遺族に年金が支給されます。

一般的に社会保険と呼ぶ場合、健康保険・年金保険・介護保険の3つを指す場合と、雇用保険・労災保険も含めた5つを指す場合があります。前者が「狭義の社会保険」、後者が「広義の社会保険」です。

ここからは、社会保険の中でも特に多くの人に関係する健康保険と年金保険の2つについて、加入義務が生じる条件などを紹介していきます。

社会保険の加入義務がある会社とは?

オフィスビル街の風景

会社を設立して事業を行う場合や個人事業主として事業を行う場合、健康保険や厚生年金保険の加入義務が生じる場合があります。加入要件に該当する場合には社会保険の加入手続きをしなければいけません。

加入義務があるにも関わらず未加入だと、法律違反となり罰則の対象になります。手続き漏れを起こさないためにも、社会保険の加入義務が生じる条件や強制適用事業所と任意適用事業所の違いについて正しく理解するようにしましょう。

加入義務がある「強制適用事業所」とは?

強制適用事業所とは、健康保険・厚生年金保険への加入が強制される事業所のことです。法律で定められた要件に該当する事業所は強制適用事業所となります。社会保険に加入するかどうかを任意に選ぶことはできません。

具体的には次の条件に該当する会社や個人事業主の事業所が強制適用事業所です。要件に該当した日に社会保険が適用され始め、5日以内に加入の手続きが必要になります。

  • 法定16業種に該当し、常時5人以上の従業員を使用する事業所
  • 法人で常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用する事業所

法定16業種には、製造業・土木建築業・鉱業・電気ガス事業・運送業・清掃業・物品販売業・金融保険業などが該当します。

個人事業では、法定16業種に該当しない場合や該当しても従業員数が5人未満の場合、健康保険・厚生年金保険への加入義務は生じません。一方で法人の場合は基本的に加入義務が生じます。

法人では、従業員を雇っていない一人社長の場合でも基本的に加入義務が生じる点に注意が必要です。会社の社長も個人事業主も事業経営者という点では同じですが、社会保険の適用関係が異なるので注意しましょう。

参考: 社会保険加入でいつから保険料支払いが発生するのか?

企業形態と従業員数の関係

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務が生じるのかどうか、いくつか例を示すと以下のとおりです。

企業形態 従業員数 加入義務の有無
A株式会社 100人以上 法人のため加入義務あり
B有限会社 経営者1人のみ 法人のため加入義務あり
C個人事務所 常時6人 法定16業種に該当する場合は加入義務あり
D個人事務所 経営者含め2人 条件を満たさないため加入義務なし

法人の場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入は基本的に義務であり強制加入です。株式会社や有限会社など会社形態は関係ありません。(ただし経営者のみの会社でその経営者が報酬を受けていない場合など、例外的に加入義務が生じず未加入でも問題ない場合があります)

一方で個人事務所の場合は従業員数と業種によって変わるので、5人未満の場合や法定16業種に該当しない場合には加入義務は生じません。法定16業種に含まれない業種とは飲食業や旅館、理美容業などです。

なお従業員数が減って5人未満になるなど、強制適用事業所が途中で加入要件を満たさなくなった場合、後述する任意適用事業所の認可があったものと見なされます。任意適用事業所として健康保険・厚生年金保険が適用され続けるので、加入義務の条件を満たさなくなった時点で社会保険の適用が終了するわけではありません。

加入義務がない「任意適用事業所」とは?

強制適用事業所の条件に該当しない場合、健康保険や厚生年金保険への加入義務はありません。しかし加入できないわけではなく、任意で加入することができます。

任意で加入できるのは次の条件を満たす事業所です。認可を受けるとその日から任意適用事業所として社会保険が適用され、強制適用事業所と同様に扱われます。

  • 従業員の2分の1以上の同意を得ている
  • 事業主が申請して厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けている

任意適用の認可があると、申請に同意しなかった従業員(後述する被保険者の条件を満たさない者を除く)も含めて健康保険や厚生年金保険が適用されます。

また任意適用事業所の事業主は、厚生労働大臣(日本年金機構)に申請すれば適用事業所でなくすことができ、その際には従業員の4分の3以上の同意が必要です。

社会保険の加入義務がある従業員

社会保険の加入義務がある従業員
社会保険の加入義務がある従業員

同じ会社に勤める従業員であっても、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務がある人とない人がいます。従業員の中で社会保険に加入しなければいけない人は誰なのか、未加入でも法律違反にならない人は誰なのか、加入義務が生じる条件を正しく理解しておくことが大切です。

正社員やアルバイト、パートなど、社会保険の加入義務が生じる条件についてそれぞれ見ていきましょう。

経営者または事業主

前述のとおり、法人であれば健康保険や厚生年金保険への加入が原則として必須です。従業員を雇っていない一人社長の会社でも社会保険に加入することになり、経営者が社会保険の適用対象になります。

一方で個人事業主の場合は、事業所として強制加入になっても社会保険の適用を受けるのは従業員です。事業主は適用対象になりません。事業主本人は一般的に、健康保険制度であれば国民健康保険に、年金制度であれば国民年金に加入することになります。

正社員

社会保険の適用事業所で働く正社員にはすべて社会保険への加入義務があります。法人であれば社会保険の強制適用事業所になるので、法人で働く正社員は全員社会保険の加入対象です。

試用期間中であっても社会保険の適用事業所に勤務していれば適用対象となります。会社に勤務する正社員で社会保険の適用なしというケースは違法です。勤務先が加入の手続きを怠っている可能性があります。

役員

役員や法人の代表者でも労務の対償として報酬を受けている場合には、法人に使用される者として健康保険・厚生年金保険の適用対象になります。

加入義務があるかどうかを判断する際、ポイントになるのが「①労務の対償として報酬を受けているか」と「②使用される者にあたるか(使用関係の有無)」の2つです。報酬を受けていなければ加入義務は生じません。

使用関係の有無については、出勤の頻度や権限の範囲など総合的に判断することになります。役員に社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務があるか、判断が難しいケースも少なくないので、迷った場合には年金事務所や社労士に相談するようにしましょう。

アルバイト・パート

アルバイトやパートなど、正社員よりも勤務時間が短い短時間労働者は、1週間の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であれば、健康保険・厚生年金保険の加入義務が生じます。

また4分の3未満でも、次の5つの要件すべてを満たす人は加入の対象です。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上ある
  2. 雇用期間が1年以上見込まれる
  3. 賃金の月額が8.8万円以上である
  4. 学生でない
  5. 特定適用事業所(常時500人超の従業員を使用する事業所)または任意特定適用事業所(社会保険への加入について労使で合意した事業所)に勤めている

逆に5つの要件のうち1つでも満たさない人には加入義務は生じないので、その場合は未加入でも違反にはなりません。

外国人労働者

健康保険や厚生年金保険の加入義務の条件に国籍要件はありません。国籍に関係なく要件に該当すれば社会保険への加入義務が生じます。つまり加入が必要になる要件は外国人労働者でも日本人労働者でも同じです。

なお外国人労働者が日本の社会保険に加入する場合、出身国の社会保険にも加入していて出身国・日本の両方で保険料の納付義務が生じる場合があります。いわゆる「保険料の二重負担」と呼ばれる問題です。

日本との間で社会保障協定が締結されていて、保険料の二重負担が起きない国もありますが、外国人労働者の出身国がどこなのかによって取扱いは異なります。外国人労働者から質問を受けたもののよく分からず困った場合は、年金事務所や社労士に相談・確認するようにしましょう。

二つ以上の会社に従事・経営している人(ダブルワーカー)

社会保険が適用される複数の事業所で働く場合、社会保険の手続きを行う主たる事業所を選択する必要があります。届出は10日以内に行い、提出先は選択する事業所の所在地を管轄する年金事務所です。

従業員が社会保険の加入義務に該当した場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」は各事業所で事業主が提出しますが、「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」は従業員本人が提出します。

日雇いバイト

日雇いの人や2ヶ月以内の期間を定めて雇用される人は、基本的に社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用対象外です。経営者が日雇いのアルバイトを雇った場合でも加入義務は生じません。

ただし日雇いの人が1ヶ月を超えて引き続き雇用されるに至った場合は、その日から健康保険や厚生年金保険の被保険者になります。

2022年10月、2024年10月からの健康保険、厚生年金保険の適用拡大について

2022年10月、2024年10月からの健康保険、厚生年金保険の適用拡大について
2022年10月、2024年10月からの健康保険、厚生年金保険の適用拡大について

アルバイトやパートなどの短時間労働者で社会保険が適用される人の範囲が、2022年10月と2024年10月に変更される予定です。2022年3月現在、健康保険・厚生年金保険への加入義務がない人でも、法改正後は加入義務が生じる場合があります。

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大
短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大(出典:日本年金機構

制度改正に伴って従業員に新たに加入義務が生じる場合、経営者は加入の手続き等を行わなければいけません。未加入のままになって違反とならないように、加入義務が生じる場合には早めに準備を進めるようにしましょう。

2022年10月の改正内容

2022年3月現在の制度では、短時間労働者に社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務が生じる条件の一つに「従業員数500人超の特定事業所で勤務していること」があります。

この条件が2022年10月に改正され、500人超から100人超に改正される予定です。また「継続して1年以上使用される見込みであること」という条件も改正され、1年以上から2ヶ月超に改正されます。10月以降、短時間労働者に社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務が生じる要件は以下のとおりです。

社会保険の加入対象者
社会保険の加入対象者(出典:厚生労働省

従業員数が101人~500人の会社では、法改正によって健康保険や厚生年金保険の加入義務が新たに生じる場合があるので注意してください。

2024年10月の改正内容

2024年10月には人数の条件がさらに改正される予定です。2022年10月の改正では500人超から100人超に変更されますが、2024年10月にはさらに50人超に変更されます。従業員数が51人~100人の会社では、法改正によって健康保険や厚生年金保険の加入義務が新たに生じる場合があるので注意が必要です。

なお従業員数が50人以下の企業では、この2回の法改正による影響は基本的にありません。労働時間が正社員の4分の3未満の短時間労働者で、従業員数50人以下の企業に勤める人は、法改正後も加入義務は生じないことになります。

必要な手続き

従業員数が101人~500人の会社では2022年10月の法改正に伴って、社会保険への加入義務が新たに生じる従業員がいる可能性があります。アルバイトやパートなどの短時間労働者の中に新たに加入義務が生じる人がいる場合、加入の手続き等が必要です。経営者は次の流れで事前の準備や手続きを行うことになります。

  1. 新たに被保険者となる短時間労働者の把握
  2. 従業員への説明
  3. 2022年10月に資格取得届を提出

まずは短時間労働者で被保険者となっていない従業員の労働条件を確認し、法改正後に新たに加入義務が生じる従業員が誰なのか把握する必要があります。そして対象者を把握できたら、10月以降に健康保険と厚生年金保険への加入が義務化されることを説明しましょう。

また法改正によって健康保険と厚生年金保険への加入義務が生じる従業員については、10月に被保険者資格の取得届を提出することになります。

社会保険の加入義務に違反するとどうなる?

社会保険の加入義務に違反するとどうなる?
社会保険の加入義務に違反するとどうなる?

加入義務の条件に該当する場合、社会保険への加入は必須です。未加入は理由の如何を問わず認められません。会社として社会保険料を負担したくないなどの理由で、アルバイトやパートなどの従業員を社会保険に加入させないと、法律違反になり罰則の対象となります。

以下で紹介する罰則を科されることがないように、社会保険の加入義務がある場合には期限までに手続きを終えるようにしてください。

未加入が発覚すると加入指導等が行われる

加入義務があるにも関わらず未加入の場合には、日本年金機構によって加入の勧奨が行われます。この時点で加入の手続きをすれば、罰則等を科される可能性は低くなるので、加入義務がある場合には速やかに加入の手続きをするようにしてください。

加入を勧奨しても自主的に加入しない事業所には年金事務所の職員による加入指導が行われ、加入指導にも従わない場合には立入調査が行われて強制的に社会保険の加入手続きが進められます。

社会保険の加入義務違反に関する罰則

社会保険の加入義務に違反した場合、最大で過去2年分の保険料を徴収される場合があり、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科される可能性があります。

また社会保険に未加入だったことで従業員が不利益を被った場合、損害賠償を請求されることもあるので注意が必要です。加入義務に違反しても良いことはないので、法律で定められた要件に該当する場合は必ず加入するようにしてください。

手続き方法などが分からない場合は、社会保険の専門家である社労士に相談しましょう。

参考:【社会保険労務士】顧問料とスポット依頼の費用相場~社労士に相談できること&メリットとは?

監修社労士からのコメント

ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道

事業主は、改正により従業員が社会保険に加入するさせる義務が生じるのかをしっかり把握しましょう。記事にもありましたが、法律に違反しても良いことはありません。後手に回るのではなく、事前に準備をするように心がけるようにしましょう。

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社会保険の加入義務が生じる条件は法律で決まっています。法定の条件に該当する場合、社会保険への加入は必須です。健康保険や厚生年金保険に未加入だと罰則を科されることがあるので注意してください。

加入義務があるにも関わらず従業員を加入させないと法律違反になるので、加入の手続きは期限までに終わらせましょう。手続き方法が分からない場合は社労士への相談がおすすめです。専門家に任せれば社会保険の手続きをスムーズに終えられます。

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この記事の監修社労士

ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道

鈴木圭史社会保険労務士 1974年生。大阪府出身。ドラフト労務管理事務所代表社会保険労務士/働き方改革推進支援センター相談員。人材派遣会社の本社勤務後、大阪玉造に事務所を設立して12年目を迎える。同一労働同一賃金や労務問題の改善に尽力。派遣法(派遣先均等均衡・労使協定方式)が専門で派遣元責任者講習の講師を担当。