「ダブルワーク可」の求人が見られるなど副業を認める企業が増え、2つの仕事を掛け持ちしている人も珍しくなくなってきています。
まずは会社の就業規則で確認の上、検討してください。勤めている会社によっては就業規則で副業を禁止と定めている場合があり、知らずにダブルワークをすると就業規則に違反してしまうこともあるためです。
さて、ダブルワーク可能!となった場合に気になるのが「社会保険」。要件を満たせば正社員やパート、アルバイトに関わらず加入の義務が生じます。そこで今回は、ダブルワークする際の社会保険手続きと注意点をわかりやすく説明します。
ダブルワークで必要な社会保険の加入条件とは?
今あなたがメインで働いている会社では、社会保険に加入していますか? そもそも社会保険にはどのような種類があって、どのくらい働いたら加入しなければならないのかなど、疑問に思っている方も多いことでしょう。たとえ、ダブルワークの就業形態がアルバイトやパートであっても、要件を満たせば社会保険に加入しなければなりません。
まずは、社会保険の種類や加入要件を理解し、ダブルワークでの働き方や社会保険の加入条件を見直してみましょう!
まずは社会保険・雇用保険の加入要件を確認!
そもそも、「社会保険・雇用保険って何?」 と思っている方もいるかもしれません。まずは、その種類と加入要件をチェックしてみましょう。
社会保険の種類
「社会保険」には、仕事中や通勤中“以外”の怪我や病気で治療を受ける際の「健康保険」と老後の年金給付などの「厚生年金保険」が含まれています。
一方の「雇用保険」は、退職した際の失業給付や育児(介護)休業中に頂ける場合がある育児(介護)休業給付金などが支給されるものです。
社会保険の加入要件とは
現在、個人で国民健康保険に加入していたり国民年金を支払っていたりする方や、家族の扶養に入っている方であっても、下記の要件に該当した場合には、たとえアルバイトやパートであっても加入対象者となります。要件に該当した場合は、社会保険に加入することになり、毎月給料から保険料が控除されます。
【社会保険の加入要件】
① 勤務している会社が社会保険の適用事業所であること
② 1ヶ月または1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上であること
上記の②を詳しく説明します。
例えば、正社員の労働時間を1週40時間(1日8時間×週5日勤務)とすると、40×3/4=30時間。この場合、1週30時間以上または1日6時間以上働いている場合には、社会保険の加入対象者となります。
■平成28年10月から社会保険の適用事業所で、下記の要件に全て当てはまる方も加入対象者となりました。
① 週の労働時間が20時間以上
② 賃金金額が月8万8千円(年収106万円)以上
③ 1年以上継続して雇われている又は見込みがある
④ 学生以外
⑤ 社会保険の対象となる従業員規模が501人以上の会社に勤務している
■平成29年4月からは、上記平成28年10月からの5以外の要件を全て満たし、社会保険の適用事業所と労働者が合意をすれば、従業員規模に関係なく社会保険に加入できるようになりました。お勤めの会社が社会保険適用事業所か、分からない際には会社に確認してみましょう。
【雇用保険の加入要件】
① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
② 期間の定めなく雇用され、31日以上引き続き雇用される見込みがある
労働保険は雇用保険と労災保険ですが、そのうちの労災保険については、従業員に加入要件はなく、賃金の支払いを受けるものは全て適用対象者となります。なお、労災保険料は会社が負担するため、雇用保険の加入要件に適用する方のみ雇用保険の加入手続きが必要です。保険料は毎月の給与から控除されます。
社会保険の加入要件を満たしている人は、雇用保険の加入要件もクリアしていることになりますね。勤務時間や契約期間日数によっては、雇用保険のみの取得という方もいらっしゃいます(労災保険は入社の際の手続きなしに自動加入です)。
メインで働いている会社とダブルワークの会社で働く時間や日数は、人によって様々です。次の章では、ダブルワークの場合の社会保険加入について、もう少し詳しくご紹介します。
ダブルワークしたときの社会保険の加入要件を理解しよう
平成28年10月に社会保険の加入要件が拡大される以前は、非正社員の社会保険加入には、正社員の4分の3以上の勤務が必要でした。よってダブルワークをしても、両方の会社で社会保険の加入対象者になることは滅多になかったのです。しかし、要件拡大に伴い、メインの会社とダブルワーク先の会社と両方で加入要件を満たす可能性が増えてきています。
では、実際に自分はどういったケースに該当するのか、社会保険の手続きはどうなるのか見ていきましょう。
2つの会社で働いた場合の社会保険加入パターン
A社 | B社 | 社会保険 | ||
---|---|---|---|---|
事例1 | 適用要件を満たしている | 適用要件を満たしている | ▶▶▶▶▶ | A社、B社の両社で加入 |
事例2 | 適用要件を満たしている | 適用要件を満たしていない | ▶▶▶▶▶ | A社のみで加入 |
事例3 | 適用要件を満たしていない | 適用要件を満たしていない | ▶▶▶▶▶ | 両社とも加入しない |
事例1のケース
A社とB社の両方で要件を満たしているので、両方の会社で社会保険に加入します。ただし、両方週30時間の労働ではオーバーワークになってしまいますので、このケースがありうるのは、両方週20時間でも社保適用になる事業所の場合です。概ね両社とも501人以上の会社、というケースですね。
このケースでは、両社の収入額をあわせた金額で、保険料(標準報酬月額)が決定されます。実際の保険料負担額は、給与額に応じてA社とB社で按分されます。
事例2のケース
A社のみ要件に該当しB社は不該当なので、A社のみで社会保険に加入します。
事例3のケース
どちらも要件に該当しないため、社会保険に加入できません。この場合は、国民健康保険に加入、もしくは家族の扶養に入っているケースが多いでしょう。
雇用保険は2つの会社で入れない! どちらかの会社で加入
労働保険のうちの雇用保険については、加入要件を満たす場合には社会保険と同様に加入手続きが必要になります。しかし、たとえメインの会社とダブルワーク先の両方で加入要件を満たしても、どちらか1つの会社でしか入れません。原則として主たる生計を維持する会社(給料の多い方)で加入することとなります。
ダブルワーク時の社会保険手続き
上記図表の事例1のように、メインの会社とダブルワークの会社の両方で社会保険の加入要件を満たしている場合、それぞれの会社で社会保険の加入手続きが必要になります。
「両方で入るとなると健康保険証も2枚になるの?」
「社会保険料の計算方法は? 」
と疑問も出てくるのではないでしょうか。具体的な手続き方法をご紹介します。
2つ以上の会社で社会保険に加入する場合の手続き方法
2つ以上の会社で社会保険に加入する場合は、従業員本人が「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」を作成し、年金事務所(健康保険組合に加入している場合は健康保険組合にも)に提出する必要があります。
「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」の作成と提出
- 選択事業所:メインとなる会社
- 非選択事業所:もう一方の会社
- 提出の年金事務所:メインの会社を管轄する年金事務所
メインとなる会社を選択し、それぞれの給与額を記載します。添付書類は原則不要です。提出は郵送でも行うことができます。
既にメインの会社で社会保険に加入していて、ダブルワークを始めた会社で社会保険の加入が必要になった場合、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」の提出も必要になります。また、手続きを行うタイミングによって他の書類の提出も必要になることもあるので、会社や提出先の年金事務所、健康保険組合と相談しながら進めるのがいいでしょう。
選択事業所(メインの会社)で今後は手続きを行う
今後はメインの会社で社会保険関係の手続きを行います。
健康保険証は1枚
2つの会社で社会保険に加入することになりますが、健康保険証はメインの会社の保険者として1枚のみ発行されます。
社会保険料の計算方法
両社で支払われている合計額から標準報酬月額を算出し、両方の会社で保険料を按分します。必要な手続き書類並びに手続き詳細は日本年金機構にも掲載されています。
社会保険の扶養内でダブルワークをするには?
「社会保険にも扶養ってあるの?」と思われた方も多いでしょう。扶養には「社会保険」と「税金」の2種類あり、それぞれ◯万円の壁とも言われています。社会保険加入要件の拡大や配偶者控除が改正されたため、やや複雑になってしまいました。
「103万円」と「150万円」は税金の扶養の壁とされ、「106万円」と「130万円」は社会保険の扶養の壁とされています。
106万円の壁
平成28年10月に社会保険の加入要件が拡大してからこの壁が生まれました。しかし、必ずしも年収が106万円以上になったからと言って社会保険加入対象者になる訳ではないのです。「正社員が501人以上」等先程の5つある要件に全て該当して初めて加入対象者となります。106万円というのは、加入要件のひとつで「月額8万8千円であること」とあるように8万8千円×12ヶ月=1,506,000円で「106万円」となったのです。
「正社員が501人以上」等先程の5要件に該当しない場合には、家族の扶養となるか、国民健康保険・国民年金に加入し自己負担する必要があります。
◎ポイント:住民税・所得税に加えて社会保険料が引かれるため、大幅に手取り額が減ります。手取り額の減少分を取り戻すためには、年収125万円以上が必要です。
130万円の壁
106万円の壁は、「正社員が501人以上」「月額8万8千円」等の要件を満たす際に、社会保険に加入しなければいけない要件なのに対し、130万円の壁は「社会保険上の扶養から外れる要件」です。社会保険は資格取得時に「取得日からの1年間で130万を超える見込みかどうか」でまず扶養の対象者かどうか判断します。その上で、「これからの1年間で130万を超える見込み」となった時点で扶養から外れます。130万円には、パートやアルバイトの残業代、通勤手当、賞与、または出産手当金なども含まれます。
◎ポイント:住民税・所得税に加えて社会保険料が引かれるため、大幅に手取り額が減ります。手取り額の減少分を取り戻すためには、年収153万円以上が必要です。
社会保険扶養と税法上の扶養の違い
社会保険の扶養は、年収ベースだけで判断しないのに対し、税法上の扶養は、年収ベースのみで判断します。もし、「私は扶養に入れますか?」と聞かれたら、それが社会保険の話なのか税金の話なのかを確認する必要があります。
ダブルワーク時の税金は? 確定申告は必要?
ダブルワークをした際は、社会保険だけでなく税金にも注意しなければなりません。着目する税金は「源泉所得税」と「住民税」です。税金は、社会保険とは異なり年収ベースで判断されます。ダブルワーク時の税金の注意点や手続きをポイントだけおさえておきましょう。
ダブルワークは所得に応じて確定申告が必要
まず、大前提として所得税はメインの会社とダブルワークの会社の合算した年収額で算定します。
年収が増えた場合の主な影響
合算した年収額で
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ダブルワークの給与は確定申告が必要?
「扶養控除等(異動)申告書」を提出しているメインの会社では「甲欄」の税率で、提出していない会社では「乙欄」の税率で毎月の給与から所得税が控除されています。乙欄は年末調整の対象外となり確定申告が必要となります。
ダブルワークの場合、両方の会社で年末調整をすることはできません。メインの会社(甲欄)で年末調整を行い、そこで発行された源泉徴収票とダブルワークの会社(乙欄)で発行された源泉徴収票を持参して確定申告を行うのが一般的です。確定申告で所得税の額が確定し、納付または還付されます。
また、間違って両方の会社で「扶養控除等(異動)申告書」を提出してしまった場合は、両方の会社での収入を合わせて確定申告を行う必要があります。
ダブルワークの所得が20万円以下ならば確定申告は不要
ダブルワークの会社での給与所得額や内職などで得た雑所得を合計して20万円以下ならば確定申告は不要です。しかし、医療費控除を受ける場合やふるさと納税など確定申告を行ったりする場合には、ダブルワークでの給与額も確定申告の必要があります。
住民税の申告
ダブルワークの会社での給与所得額や内職などで得た雑所得の合計が20万円以下の場合、確定申告は不要ですが住民税の算定のため市区町村への申告は必要です。どれくらいの給与を1年で支払ったのかをダブルワークの会社はマイナンバーと併せて市区町村に提出をしています。
市区町村でも金額を把握していますので、所得が住民税の非課税限度額を超えた場合は必ず申告をしましょう。なお、ダブルワークの会社の給与または雑所得が20万以上で確定申告を行なっている場合は、市区町村への申告は必要ありません。
ダブルワークをする前に、メイン会社に相談しておこう
マイナンバー制度が導入されてからは、誰がどれくらいの収入を得ているのか簡単に把握できるようになったので、税金や社会保険の事務手続きなどでメインの会社にバレてしまうことが十分に予想されます。就業規則違反になってしまうことも考えられますので、メインの会社には事前に相談しましょう。
また、年次有給休暇は、両方の会社で発生します。残業代は、両社の所定労働時間を通算し、1日8時間超えであったり、週40時間を超えてしまう場合には、「時間的に後で労働契約を締結した事業主」が割増賃金を支払う義務があります。しかし、両社がその認識や意識なく労働契約を開始してしまうと、A社で「B社で働いた時間は分からない、知らない。」とややこしいことになります。大前提として、どちらの会社も双方の労働時間を把握していることが必要になります。
社労士コメント:ダブルワークをすると会社にばれる?
東京国際社会保険労務士事務所 - 東京都目黒区目黒
【まとめ】社会保険加入は将来的に大きなメリット!
ダブルワークをすることで社会保険の加入要件に該当した場合、社会保険料の負担が増えるため以前よりも手取りが減ってしまうと思われる方も多いでしょう。しかし、社会保険料の半分は会社が負担をしてくれますし、厚生年金に加入できれば将来の年金も多くなります。
家族の扶養に入っていない場合は、国民健康保険料や国民年金保険料は全額自己負担ですし、将来貰える年金も少ないので、社会保険への加入は大きなメリットと言えるでしょう。また、私的な事情で病気やケガをした際も要件を満たせば傷病手当金が支給され、さらに社会保険に加入することになれば、多くの場合は雇用保険も加入対象になります。
雇用保険も、退職した場合の失業給付や育児休業中や介護休業中に給付金が支給されるなど、多くのメリットを受けられます。要件に該当したら適切に加入しましょう。
ダブルワークは、収入アップや色々な経験ができます。一方がもう一方のストレス発散に役立つこともあるかもしれません。ですが、心身を休める時間が減ってしまうので、制度が許されている場合でも、体調管理が容易にできるよう、無理をしない範囲で働くのが原則です。また、無理をすると、将来的に健康に良くない場合もあるかもしれません。制度と御自身のこころとからだと相談しながら検討してください。
この記事を監修した社労士
東京国際社会保険労務士事務所 - 東京都目黒区目黒
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