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固定費と変動費とは 分類や分析、削減方法を解説

最終更新日: 2024年06月28日

企業経営を進めるうえでは、事業の「何に」「どれだけ」費用がかかったかを把握することが重要です。企業が存続するには利益をあげることが欠かせませんが、「どれだけの利益が必要か」を把握するためにはまず「固定費」と「変動費」について理解する必要があります。

そこで今回は、企業経営の基本となる固定費や変動費の関係や分類や分析、削減の方法について解説します。

この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・CFP?) 1987年 香川県生まれ 2008年 公認会計士試験合格 2010年 京都大学経済学部経営学科卒業 大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。所得税・法人税だけでなく相続税申告もこなす。

固定費と変動費とは

固定費と変動費とは
固定費と変動費とは

固定費と変動費について解説する前に、まず企業会計について説明します。なぜなら企業経営においては、企業会計によって財務状況を把握し、利益が出ているのか損をしているのかを確認するためです。

企業会計は財務会計と管理会計に分かれているため、まずはそれぞれの特徴を把握しておきましょう。

財務会計と管理会計

まずは、企業会計の中で代表的な会計である財務会計と管理会計の特徴について紹介していきます。

財務会計

財務会計とは、税務署や金融機関など外部に対して経営状況を報告することを目的に定められた会計基準です。財務会計の作成は会社法(会社計算規則)などで義務付けられているので、どの企業でも基本的に一律の基準で作成します。法律で作成が定められていることから「制定会計」とも呼ばれています。

管理会計

管理会計とは、会社の内部で経営状況の把握や意思決定の判断基準として用いられる会計基準です。財務会計と異なり、管理会計をおこなうことは法律で定められていませんが、事業ごとに利益が出ているかどうかを判断できるため、多くの企業で管理会計が用いられています。

固定費と変動費は管理会計で用いられる概念

「固定費」と「変動費」は管理会計で用いられる概念です。会計管理は企業独自の会計基準なので、初めて管理会計を行なう場合には自社の事業や原価を分類した独自の管理会計制度を構築する必要があります。

固定費と変動費は経営者や役員が企業の現状を把握し、方針決定の判断基準にするのに使用する企業独自の会計基準でもあり、どの費目を固定費と変動費に振り分けるかは企業ごとに設定するのが一般的です。次に固定費と変動費の特徴を解説していきます。

固定費とは

固定費とは、売上の増減にかかわらず定期的に一定額発生する費用のことで「不変費」とも呼ばれます。固定費には人件費や地代家賃、光熱水道費、減価償却費などが挙げられます。これらは会社を経営する上で欠かせない費用です。

固定費と変動費の違いについて理解し、管理会計を覚えると、より多くの利益を得るために費用をかけるべき点や削減すべき点が把握できるようになります。特に固定費は売上にかかわらず発生する費用なので、固定費の分類や削減すべき費用の選定は正確に行なう必要があるでしょう。

固定費の例

固定費や変動費は企業ごとに項目を設定します。分類は大まかに共通していますが、業種によって異なるので、業種ごとに紹介していきます。

製造業の固定費

  • 労務費(直接労務費・間接労務費)
  • 減価償却費
  • 土地建物賃借料
  • 保険料
  • 修繕費
  • 水道光熱費
  • 通信交通費
  • 旅費
  • 支払運賃
  • 荷造費
  • 消耗品費
  • 広告・宣伝費
  • 役員報酬
  • 事務員(管理部門)給料
  • 福利厚生費
  • 従業員教育費
  • 支払利息
  • 租税公課(税金)
  • 研究開発費

小売業・卸売業の固定費

  • 販売員給料
  • 減価償却費
  • 土地建物賃借料
  • 保険料
  • 修繕費
  • 光熱水道費
  • 通信費
  • 車両燃料費
  • 車両修理費
  • 販売員旅費
  • 通信交通費
  • 広告・宣伝費
  • 役員報酬
  • 事務員(管理部門)給料
  • 福利厚生費
  • 従業員教育費
  • 支払利息
  • 租税公課

建設業の固定費

  • 労務管理費
  • 現場従業員給料手当
  • 減価償却費
  • 土地建物賃借料
  • 修繕維持費
  • 保険料
  • 補償費
  • 動力・用水・光熱費(一般管理費分)
  • 事務用品費
  • 通信交通費
  • 旅費
  • 広告・宣伝費
  • 役員報酬
  • 事務員(管理部門)給料
  • 福利厚生費
  • 従業員教育費
  • 支払利息
  • 租税公課

変動費とは

変動費は生産活動や販売活動など、売上をあげるために必要な費用のことで、売上や各活動の増減によって変動します。「可変費」や「活動原価」とも呼ばれ、主に材料費や仕入原価などが変動費です。人件費は一般的に固定費となりますが、派遣社員の給与や残業手当など、売上をあげることに特化している場合は変動費に分類する場合があります。

例えば、飲食業であれば食材の原価だけでなく、雇用しているパートやアルバイトの人件費や光熱費は客の入り具合によって変化するので、変動費に分類するのが一般的です。

変動費の例

変動費も固定費と同じように業種によって違いがあるため、業種ごとに解説していきます。

製造業の変動費

  • 直接材料費(素材費・原料費・買入部品費)
  • 外注費
  • 間接材料費
  • その他直接経費
  • 燃料費
  • 当期製品知仕入原価
  • 当期製品棚卸高

卸・小売業の変動費

  • 売上原価
  • 支払運賃
  • 支払荷造費
  • 支払保管料
  • 車両燃料費
  • 保険料

※小売業の車両燃料費、車両修理費、保険料はすべて固定費

建設業の変動費

  • 材料費
  • 労務費
  • 外注費
  • 仮設経費
  • 動力・用水・光熱費(完成工事原価)
  • 運搬費
  • 機械等経費
  • 設計費
  • 兼業原価

固定費と変動費の違い

どの費用を固定費と変動費に分類するかは業種や事業内容によって異なります。上記の例であれば、建設業において動力費(=燃料費)は固定費でもあり変動費です。これは、建設業では工事があれば多くの建設車両が動くことになり動力費は増加しますが、工事がなければその分の費用は発生せず変動費と考えることができるでしょう。一方で、企業経営に必要な車両の動力費は工事の有無に関わらず発生してしまうので、該当する費用を固定費と変動費に分類します。

このように、固定費と変動費の違いは企業ごとに設定する必要があるため、自社の事業ではどんな費目を固定費に分類し、どんな費目を変動費に分類するかを独自に設定していきましょう。

固定費と変動費の分類方法(固変分解)

固定費と変動費の分類方法(固変分解)
固定費と変動費の分類方法(固変分解)

企業経営において発生する費用を分析するために固定費・変動費に分類するのが「固変分解」です。固変分解は管理会計の基本で、固変分解の結果が、後に紹介する「損益分岐点」を分析する際にも大きな影響を与えます。固変分解を行なう方法は「勘定科目法」と「回帰分析法」の二つの分解法がありますので、順に紹介していきます。

勘定科目法

勘定科目法は、勘定科目ごとに固定費と変動費に分類するシンプルな方法で「個別費用法」とも呼ばれます。固定費と変動費をどう分類するかは企業ごとに独自に判断して分類しますが、業種によって分類の傾向が大まかに決まっています。

勘定科目法は勘定科目ごとに費目を当てはめる分類法で簡単に運用できます。しかし、勘定科目の費目によっては変動費と固定費のどちらにも分類できる科目があるため、厳密に分類できないのがデメリットといえます。変動費と固定費の判断ができない項目は、より比重が高い方に分類すると良いでしょう。

回帰分析法

回帰分析法は別名「最小二乗法」と呼ばれる分解方法です。縦軸に総費用を、横軸に売上を記した分布図に毎月の売上と総費用をプロットしていきます。1年分の売上を月ごとに記録しておき総費用を記録。それぞれの月の点を近似曲線で結ぶと、変動費率と固定費が計算できます。この場合の公式は、

y=ax+b(aが変動費、bが固定費)

です。

手作業での計算は時間がかかり計算ミスのリスクもあるため、Excelを使用して計算するのが一般的です。

初めて固変分解をおこなう場合、まずは勘定科目法を試してみて、実態とかけ離れている場合には回帰分析法で変動費と固定費を導き出してみましょう。

業種ごとの固定費と変動費の例

固定費と変動費の分類は業種ごとに異なります。そこで、大きく4つのパターンに分けて分類方法を解説していきます。

製造業や建設業の分類方法

製造業や建設業の場合、材料の原価や外注費は製造・加工や建設によって成果物として納品されるので、原材料費や外注費に比例して売上は伸びていきます。したがって、これらの項目は変動費に分類すると良いでしょう。

また、残業代や電気代などは売上が増加するタイミングで発生すると見なすので、これらも変動費に分類できます。どこまでを固定費に分類し、どこまでを変動費に分類するかは企業によって異なるため、企業戦略を立案するうえで最も適切な分類を検討しましょう。

卸売業や小売業の分類法

卸売業や小売業、飲食店などの接客販売業は商品の販売数に応じて売上が増減するので、商品の仕入高を変動費に分類するのが一般的でしょう。卸売業や小売業では多種類の商品を扱うことが多いため、商品ごとや部門ごとに固定費と変動費を集計するのが一般的です。

卸売業の場合は直接、店舗などで商品を販売するわけではないため、商品を仕入れるための費用や商品を顧客先まで輸送するための梱包費や保管費用などを除くと、あまり変動費はないといえます。

人材サービス

人材サービスやIT業界などは材料を仕入れて製造・加工して販売するというビジネスモデルとは異なるので、これまで紹介してきたような「仕入れ」に該当する変動費は少ないでしょう。

その代わり、人材派遣業であれば雇用している派遣社員の人件費は売上と比例する費用なので、変動費に分類します。この場合、派遣社員を統括しているスーパーバイザーやコーディネーターは固定費に分類し、派遣社員のみ変動費に分類します。

IT業界・広告業界など

IT企業の場合も、材料を仕入れて製造・加工するビジネスモデルではないため、顧客からの受注によって発生する人件費を変動費として分類します。IT業界にはエンジニア派遣や業務委託など、ビジネスの形態は様々。人材サービスと同じくコーディネーター役の人材やプロジェクトマネジメントを担う人材の費用を固定費とし、実務を担うメンバーの費用を変動費として分類します。

広告業界の場合は他の業界では固定費に組み込まれる広告を取り扱ってビジネスを成立させています。広告費が売上高にほぼ連動する業界なので、広告費を変動費に分類するのが適切です。このように、業界の特性に応じて企業ごとに固定費と変動費を設定するため、自社にあった分類方法は何かを検討し、決定していきましょう。

固定費と変動費の比率は?

企業経営において固定費は売上に関係なく発生する費用で、変動費は売上に比例して変動することをこれまで解説してきました。利益を出すためには固定費と変動費を合計した経費以上の利益をあげる必要があるので、あまりに固定費の比率が高いといつまでも収益化はできません。そこで、固定費と変動費の比率はどの程度が適切かを解説していきます。

固定費比率とは

固定費は売上に関わらず、企業を経営するうえで必ず発生する費用です。固定費比率とは、この固定費が売上のうち何割を固定費が占めているかという比率で、固定費比率が高いと変動費を吸収できなくなり、利益率は低下します。

変動費比率とは

変動費比率とは、変動費を売上高で割った比率のことです。売上における変動費比率が低いほど利益が上がりやすい状態であるといえます。変動費比率は売上の増減に比例して変化するので、管理会計においては変動費を比率で管理し、固定費は金額で管理するのが一般的です。

変動費比率については企業規模や業種ごとに異なるため中小企業庁の「中小企業白書」から中小企業の原価指標である変動費比率を確認してみましょう。

企業規模別に変動費比率をみてみると、大企業(資本金1億円以上の企業)は13.8%と低い水準です。これは、企業規模が大きいので原材料の購入などでバイイングパワー(大量購入を条件に単価を下げる交渉)があることが関係しています。中規模企業(資本金1千万円〜1億円)は19.7%で、小規模企業(資本金1千万円以下)は28.9%と3割近い水準です。

業種別にみると製造業は変動費の比率が高い傾向です。これは、製品の製造や加工に原料費が掛かるからで、原材料を購入する必要がない非製造業の方が低い割合になる傾向があります。企業規模や業種を参考に、自社の変動費比率を分析してみると良いでしょう。

固定費と変動費の分析方法

固定費と変動費の分析方法
固定費と変動費の分析方法

固定費と変動費を分析し、企業の収益状況を把握しようと考える場合、「限界利益」と「損益分岐点」を理解しておく必要があります。それぞれ企業経営における重要な指標であり、管理会計には欠かせないものです。ここで両者の内容や求め方を解説していきます。

限界利益

限界利益とは、売上高から変動費を引いた数値です。限界利益には固定費が含まれていますが、固定費回収に貢献する利益であるため「貢献利益」とも呼ばれます。限界利益は次のような計算式で求めることができます。

売上高-変動費=限界利益

例えば、売上高が1,000万円で変動費が450万円の場合、

1,000万円(売上高)-450万円(変動費)=550万円(限界利益)

となり、550万円が限界利益額となります。

限界利益の売上高に対する割合を「限界利益率」といいます。売上高に対する限界利益率の比率が高いほど、固定費の回収能力が優れている収益構造といえるでしょう。最終的に限界利益から固定費を差し引いた金額が利益(営業利益)です。先ほどの例で、固定費が400万円の場合、

550万円(限界利益)-400万円(固定費)=150万円(営業利益)

となります。より多くの利益をあげるためにも、限界利益を把握することで収益構造を改善していくための方針を立案していきましょう。

損益分岐点

損益分岐点とは、一言で言えば「黒字(利益)と赤字(損失)の境界線」です。ビジネスでは英語の頭文字を取って(BEP : break-even point)と呼ばれる場合もあります。

企業経営の目的は「利益を出すこと」と「持続すること」ですが、利益を出すためには変動費と固定費以上の売上高が必要です。経営者は売上をあげるだけでなく、固定費と変動費を合計した「原価」の圧縮によって損益分岐点を下げ、常に利益をあげられるように経営戦略や営業計画・販売計画を立案してマネジメントする必要があります。

利益と損益分岐点の関係

利益と損益分岐点の関係について知るために、以下の公式を理解しておきましょう。

売上高−費用=利益

売上高よりも費用が多ければ「売上高<費用」となり赤字(損失)の状態です。一方、売上高が費用よりも多ければ「売上高>費用」となり黒字(利益)の状態で、費用以上にあげた売上高の分だけ利益が出ます。これに対して損益分岐点は「売上高=費用」の状態で、ちょうど利益と損失がゼロになる点を指しています。企業を安定経営するためには、損益分岐点より高い売上高をあげることが求められます。

固定費と変動費はどちらから削減すべき?

固定費と変動費はどちらから削減すべき?
固定費と変動費はどちらから削減すべき?

企業経営をより安定させ、多くの利益を得るためには固定費の削減が必要です。その理由は、固定費は売上が上がっても変動するわけではなく、固定費を削減することで損益分岐点を下げて利益を出しやすい収益構造にできるためです。

変動費比率や損益分岐点、限界利益をどのラインに設定するかは経営者が判断するポイントです。これらのラインの設定や固定費や変動費の削減方法がわからない場合には、税理士に相談することで企業の財務体質を調査し、最適なラインを提案してもらいましょう。

監修税理士のコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

固定費は一度削減すると将来にわたってずっと経費削減ができます。変動費を減らそうと思うと、毎回の買い物・発注時に節約を心がける必要があり、精神的ストレスも大きくなるため長続きしません。優先的に固定費を削りましょう。

固定費や変動費の分類に困ったら税理士に相談しよう

固定費や変動費の分類に困ったら税理士に相談しよう
固定費や変動費の分類に困ったら税理士に相談しよう

今回は、

  • 固定費と変動費の違いや分類法
  • 企業規模別の変動費の比率
  • 利益限界と損益分岐点

について解説していきました。

固定費や変動費の設定には明確な基準がないので、企業独自で分類する必要があります。同業者や同規模の企業が設定している分類法を参考に設定することも可能ですが、困った場合には税理士に相談することをおすすめします。

税理士は税金のプロとして適切な納税業務のサポートをすると同時に、企業の収益状況を向上させるためのアドバイスをおこないます。固定費や変動費をどう分類し、変動費比率や損益分岐点をどのラインで設定するかを税理士に相談しながら設定すれば、企業の規模や成長ステージに合わせたライン設定ができるでしょう。税理士は企業の会計を相談者の立場に立ってアドバイスできる専門職です。専門家と相談しながら、より企業を適切に運営するための固定費や変動費の分類をおこなっていきましょう。

監修税理士のコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

利益を増やすために最も確実性が高いのが経費削減です。売上を増やすには顧客の需要を喚起し、そのニーズをつかむ必要がありますが、経費削減は基本的に自分の意思だけでできます。/n固変分解を自社で一度やってみて、固定費から優先的に削ることをおススメします。

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