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福利厚生費とは?簡単にわかる4つのポイント【経費計上でもう迷わない】

最終更新日: 2024年06月28日

福利厚生費は従業員のために企業が支払う費用の1つです。例えば従業員に対する慶弔費などが該当します。しかし従業員に対して行なった支出であればすべてが福利厚生費に該当するというわけではなく、一定の要件があります。万一福利厚生費に該当しない場合、課税額が上がってしまうので注意が必要です。

そこで今回は福利厚生費とは何か、何が当てはまるのか、どう計算すれば良いかについて簡単にわかるポイントを解説していきます。従業員のために使った費用を福利厚生費として計上するために、正しい知識を覚えておきましょう。

この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

勘定科目「福利厚生費」が簡単にわかる4つのポイント

福利厚生費を経費として計上するために注意するポイント

福利厚生費とは、従業員のために会社が給料や賞与以外で支出する費用のことです。交通費や慶弔費など、従業員の生活の安定や向上を支える際にかかる費用があてはまります。会社の経費としても認められるうえに、所得税は非課税対象です。

福利厚生費を正しく計上できれば節税対策だけでなく、社員の意欲を向上させて社内全体のモチベーションを維持することにもつながるでしょう。

福利厚生費は簡単に言うと「業務と直接関係ない、全従業員のための経費」

福利厚生費は簡単に言うと「全従業員の福利厚生のために支出される、業務とは直接関係のない経費」です。つまり全従業員に対する給与以外の報酬やサービス、と言い換えることもできるでしょう。

福利厚生費は法律上の明確な定義が定められていません。ただし国税庁のホームページには個別案件の解釈が記載されており、具体的には次のようなものが福利厚生費としてあげられています。

  • 従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行などのために通常要する費用
  • 創立記念日、国民の祝日、新社屋の落成式などに際し、従業員におおむね一律に社内において供与される通常の飲食に要する費用
  • 従業員等(従業員等であった者を含みます)又はその親族等のお祝いやご不幸などに際して、一定の基準に従って支給される金品に要する費用(例えば、結婚祝、出産祝、香典、病気見舞いなどがこれに当たります)
  • 一定の要件を満たす従業員レクリエーション旅行や研修旅行
  • 創立100周年に当たって元従業員に支給する記念品
  • 従業員等に支給する災害見舞金品

引用元:No.5261 交際費等と福利厚生費との区分No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行|国税庁創立100周年に当たって元従業員に支給する記念品|国税庁従業員等に支給する災害見舞金品|国税庁

このように福利厚生費は事業活動における業務とは直接関係がなく、従業員のために支出された経費であるということがわかります。

また福利厚生費は「法定福利費」と「法定外福利費」の2つに区分することができます。

法定福利費【法律によって定められているもの】

法定福利費とは、福利厚生費の中でも法律で定められている費用のことです。具体的には次のようなものが法定福利費に該当します。

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 介護保険
  • 子ども・子育て拠出金
  • 雇用保険
  • 労災保険

一定の要件を満たす事業者は、上記の費用(子ども・子育て拠出金、労災保険は除く)を従業員と折半して負担(雇用保険は2/3を会社が、1/3を従業員が負担)しなければなりません。

また建設業などにおいては「法定福利費を内訳明示した見積書」というものがあり、この見積書には請負金額の中に含まれる法定福利費が内訳明示されています。これにより社会保険の負担分を確保する狙いがあるのです。

「法定福利費を内訳明示した見積書」の詳しい作成方法については下記を参考にしてください。

参考:法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順|国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書」について|国土交通省

法定外福利費【会社が独自で設定しているもの】

法定外福利費とは、法律で定められていない福利厚生費のことをいいます。法定福利費のように法律上の定めがないことから法定外福利費の範囲は非常に広く、なおかつ企業ごとに「社内規程」などによって独自に定められているため、その内容も様々です。

また実務では法定外福利費のことを福利厚生費と呼ぶことが一般的であり、「厚生費」と呼ばれる場合も法定外福利と同義であることがほとんどです。

福利厚生費を経費として計上するための要件

従業員のモチベーションの向上やコミュニケーションの円滑化などを目的とした支出であれば、全てが福利厚生費として認められるというわけではありません。

該当支出が福利厚生費として認められるために満たすべきは以下の4要件です。

  1. 合理的金額の範囲内であること
  2. 全ての従業員を対象としていること
  3. 現金支給でないこと
  4. 福利厚生目的の出費であり明確な基準があること

1.合理的金額の範囲内であること

福利厚生費の上限金額は、基本的に税法上明確に設定されていません。しかしあくまで社会通念上許容し得る範囲という事になるので、あまりに高額な場合は税務署に認められないケースもあるようです。福利厚生費の金額は後ほど紹介する平均額を参照するなど、常識の範囲内に留めることをおすすめします。

2.全ての従業員を対象としていること

福利厚生費は従業員のモチベーションの向上や、コミュニケーションの円滑化などを目的としています。したがって一部の従業員だけを対象とするのではなく、全ての従業員を対象にすることが福利厚生費として認められる条件です。

例えば社員旅行の場合は、全従業員を対象として計画する必要があります。ただし全従業員が必ず参加しなければならないわけではなく、やむを得ない事情等で参加できない人がいることに問題はありません。

3.現金支給でないこと

従業員に対して直接現金を支給した場合は、福利厚生費として認められません。これは上述の従業員のモチベーションの向上やコミュニケーションの円滑化という、福利厚生費の趣旨に反することが理由であると考えられます。

したがって現金ではなく、飲食物などの現物や旅行・健康診断などのサービスとして支給する必要があるのです。

4.福利厚生目的の出費であり明確な基準があること

福利厚生費は社員旅行やスポーツジムの利用、健康診断費など幅広く認められています。しかし何でも認めてしまうと多額になって税務署に却下される可能性があるため、福利厚生費は社内で定めた明確な基準に則り支出する必要があります。

1~3に挙げた福利厚生費の要件を満たしているとしても、社内で明確な基準を設けていない場合や、明確な基準に則って支出していなければ福利厚生費として認められません。

福利厚生費は原則として所得税が非課税なので節税可能

福利厚生費は給与のように所得税の対象とはならず、原則非課税の損金です。そのため福利厚生費を計上すると、企業は節税につながり、従業員は給与をより多く手元に残せるでしょう。

ただし福利厚生費は従業員やその家族の健康、社内環境をより良くするために支出することが大前提なので、先に挙げた4つの要件を満たす必要があります。

個人事業主は福利厚生費を計上できない

個人事業主は上記の4つの要件を満たしている場合でも、福利厚生費を計上できない場合があります。具体的に個人事業主が福利厚生費を計上できないケースは次の2つです。

1.従業員を雇っていない場合

福利厚生費は従業員のための支出なので、従業員がいない場合は支出した内容にかかわらず福利厚生費として処理することはできません。

2.従業員が専従者のみの場合

原則として専従者(家族従業員)のために支出した費用は「家事消費」とみなされ、福利厚生費として処理することができません。ただし事業内容や業態によっては認められる場合もあります。

福利厚生費に計上できるもの

福利厚生費

福利厚生費に含めることができる費用は多く、正しく記録することで経費として計上できる金額を増やせるでしょう。福利厚生費となる費用には、飲食代や社宅・交通費・出張手当などの生活や仕事に関わるものから、保養所や社内サークルなどのレクリエーション活動に関わるものまで幅広くあります。いくつかの種類に分けて見ていきましょう。

1.交通費

電車

従業員や役員の通勤にかかる費用も福利厚生費として計上することが可能です。なお従業員が受け取った交通費は非課税になります。

公共交通機関だけを利用する場合

電車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤している場合、福利厚生費として認められるのは最も経済的かつ合理的な経路を用いた通勤方法を選択した時です。

例えば新幹線や特急を使った通勤がもっとも経済的かつ合理的な方法であれば、新幹線料金や特急代金も福利厚生費として計上できます。しかしグリーン車などのシートのランクを上げるための費用は合理的とは言えないため、福利厚生費としては認められません。

なお経済的かつ合理的な通勤方法であっても、福利厚生費の対象となるのは社員1人あたり1か月15万円までです。15万円を超えた部分に関しては福利厚生費として経費計上できず、給与の一部として課税対象になります。

公共交通機関とマイカー、自転車を併用する場合

公共交通機関とその他の通勤手段(マイカー、自転車など)、両方を利用して通勤している場合も、福利厚生費として経費計上できるのは社員1人あたり1か月15万円までです。15万円を超えた部分に関しては福利厚生費として経費計上はできず、給与として課税対象になります。この限度額は正規雇用者だけでなくアルバイトなどの短期雇用者も同額です。

マイカーや自転車だけを利用する場合

マイカーや自転車だけを使って通勤する従業員や役員に「通勤手当」を支給する場合には、片道の通勤距離によって1か月あたりの福利厚生費上限額が異なります。下記の金額を超えて通勤手当を支給するときは、福利厚生費として経費計上できず、差額は給与扱いで課税対象です。

片道の通勤距離 1か月あたりの非課税上限額
2km未満 0円
2km以上10km未満 4,200円
10km以上15km未満 7,100円
15km以上25km未満 12,900円
25km以上35km未満 18,700円
35km以上45km未満 24,400円
45km以上55km未満 28,000円
55km以上 31,600円

2.出張手当

出張中のサラリーマン

出張手当が出張の旅費として妥当な金額以下の場合は、全額を福利厚生費として経費計上できます。

国税庁では出張手当として具体的な金額や基準を提示していませんので、会社ごとに目安を作成しておく必要があるでしょう。例えば宿泊費に関しては、出張先の物価を反映した1泊あたりの金額を提示できます。また、交通費に関しては、もっとも経済的かつ合理的な手段で移動した場合の金額を目安にできるでしょう。

3.食事代補助(飲食費)

会食をする男女

役員や従業員の飲食代も、以下の2つの条件を満たしている場合は福利厚生費として計上できます。

  • 飲食代の半分以上を役員や従業員が負担していること
  • 飲食代から役員や従業員が負担した金額を差し引いた金額が、消費税を除いて1か月あたり3,500円以下(※)であること

(※)消費税を除いた金額に10円未満の端数が生じた場合は切り捨て

例えば1か月に従業員が12,000円の食事をし、社員が自己負担として7,000円を出して、会社が食事代補助として5,000円を支給したとしましょう。この場合、1つ目の要件は満たしますが、2つ目の要件は満たしません。2つとも満たさない場合は、この制度は使うことが出来ず、会社が補助として出した5,000円全額が給与課税の対象なので注意してください。

深夜勤務者・残業・宿直の場合

深夜勤務者に現金で食事代補助を支給する場合には、1食あたり300円(消費税別)までは現金で支給しても福利厚生費として計上できます。ただし300円を超えた部分に関しては福利厚生費として計上できないため課税対象です。

一方、残業もしくは宿直の際に食事を現物で支給する場合は福利厚生費となります。無償で提供しても非課税です。

4.社内サークルへの補助

キャンプサークルで乾杯する男女

社内サークルに会社が補助金を支給する場合も、サークルがすべての社員に開かれており、社会通念上妥当な金額であれば、福利厚生費として非課税になります。経団連の福利厚生費調査結果報告によれば、社員の文化・体育・レクリエーション活動への補助額は1人あたり1か月1,326円であったので、社内サークルへの補助額を検討する際の参考にしてみてください。

5.会社の常備薬

救急箱セット

会社に胃薬や鎮痛剤などの一般的な常備薬を用意する場合も、福利厚生費として計上できます。ただし常備薬はすべての社員が平等に利用できる必要があるため、特定の社員の持病や状態に合わせた医薬品に関しては対象外となる可能性もあります。

6.制服費用

ホテルのフロント

警察官や鉄道職員など、職務上、制服の着用が必要だと考えられる場合に関しては、制服費用は福利厚生費として経費計上できます。また事務服や作業服など、職務上、制服の着用が必ずしも必要ではないものの、個人的な用途には着用しないものあるいは退勤前に脱衣が義務付けられているために個人的に着用できないものに関しても対象です。

しかし制服がすべての社員に支給されていない場合や、特定の職務に就いていることを判別するために利用されていない場合は、福利厚生費として認められない場合があります。また個人的に利用できる衣類を制服とする場合も、対象とならない可能性が高いです。

7.外部の福利厚生サービスの利用料

女性 ビジネス

外部の福利厚生サービスを利用する場合の利用料も、社員や役員すべてが利用できるのであれば福利厚生費になります。特定の役員にのみ開かれたサービスの場合は、「事業者が従業員の福利厚生を目的として支出した」という定義から外れるため福利厚生費にはできません。給与の一部として、その特定の役員の課税対象扱いになるでしょう。

8.社内の表彰金制度

社内表彰を受ける男性

永年勤続者などを表彰し、表彰金を出す場合には、以下の条件に該当するならば福利厚生費として計上可能かつ受け取った従業員に課税されません。

  • 社会通念上妥当な金額であること
  • 勤続年数が約10年以上の社員を対象としていること
  • 同1人物を複数回表彰する場合は、約5年以上の間隔が空いていること

9.カフェテリアプラン

ビジネスマン

カフェテリアプランとは、従業員や役員に一定の補助金を「ポイント」として支給し、ポイント内で自由にメニューを選択できる制度です。カフェテリアプランも福利厚生費として計上できますが、以下の条件を満たしていない場合は給与所得として課税対象になります。

  • 従業員や役員の職位や報酬額によらず、ポイントが同額であること
  • ポイントに換金性がないこと

10.歓迎会・忘年会・飲み会代

生ビールで乾杯

歓迎会・忘年会・飲み会代等は以下の要件を満たす場合には、福利厚生費として経費に計上できます。

  • 全社員を対象とすること(やむを得ない事情で参加できない場合を除く)
  • 会社の負担費用が一律であること
  • 会社が負担する費用が社会通念上一般的であること

したがって歓迎会や忘年会の費用であれば、1人あたり5,000円程度が目安でしょう。行く店にもよりますが、あまり大きな金額でない限り問題ありません。

11.社員旅行・慰安旅行

浅草寺

社員旅行・慰安旅行にかかった費用は、以下の要件を満たす場合に福利厚生費として経費に計上できます。

  • 4泊5日以内の旅行であること
  • 従業員の過半数が参加していること(正社員だけでなくパート・アルバイト等の非正規雇用も含む)
  • 1人あたりの旅費が10万円以内であること
  • 参加できない従業員に対して、現金などを支給していないこと

ただし旅行内容が実質「プライベートな旅行」と変わらない場合には、上記の4要件を満たしたとしても福利厚生費に該当せず給与となることがあるため注意が必要です。

参考:No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行|国税庁

12.慶弔費

慶弔費とは従業員の結婚祝い金、出産祝い金、病気見舞金、香典などに要する費用をいいます。これらの費用を福利厚生費として経費に計上するためには以下の要件を満たす必要があります。

  • 慶弔見舞金規程」などの社内規程をあらかじめ作成し、その規程に従って支給すること
  • 支給額が社会通念上相当の金額であること

なお慶弔見舞金を支給する場合は、支給事由を確認できる書類(招待状、公的確認書類、退院証明書、罹災証明書等)を本人から提出してもらい、社内で保管しておきましょう。

参考:No.5261 交際費等と福利厚生費との区分|国税庁

13.健康診断費用

医者と患者

社員を対象とした健康診断費用や人間ドックによる検診費用は福利厚生費として処理できますが、下記の要件を満たしていることが必要となります。

  • 健康診断の対象者が全社員であること
  • 検診を受けた社員全員分の費用を会社が負担すること
  • 社員の健康管理上必要とされる程度の常識の範囲内の費用であること

14.ベビーシッター・保育所等の利用

女の子と保育士

ベビーシッター・保育所等を利用する企業も増えてきており、これらの育児・介護関連費用は福利厚生費として経費に計上することができます。

ここで育児費用とは、保育園料の補助や、ファミリーサポートを利用した時の補助などです。また介護費用とは、介護保険対象サービスを利用した時の補助などがあたります。

どちらも全社員がいつでも利用できるよう、社内規程に記載しておく必要があります。

15.ゲーム機等の購入

ゲーム機を操作する男性

ゲーム機等の娯楽用品の購入について、それが従業員の福利厚生の向上を目的とするものであれば福利厚生費として経費に計上することができる場合があります。

福利厚生費として経費に計上する場合には、その娯楽用品が社会通念上一般的なものであり、全社員が利用できることが条件です。

16.スポーツクラブ・ジムの会費

ジムのランニングマシンで走る男性

スポーツクラブ・ジムの会費を福利厚生費として経費に計上するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 個人会員ではなく、事務所や法人が会員になること
  • 全ての従業員が利用できること
  • スポーツクラブ利用規程を作成すること
  • いつ誰が利用したかの記録を残しておくこと

17.社宅

マンションのベランダ

社宅として住居を貸し出す費用を福利厚生費として計上できることがあります。例えば会社が賃貸住宅を月10万で借り、従業員に貸し出して月6万円の家賃を徴収すれば、会社が負担する差額の4万円については福利厚生費として計上することが可能です。

ただしその社宅が従業員用か役員用かによって、いくらまでが福利厚生費として計上できるかは異なります。

【従業員用の社宅】

従業員用の社宅の場合は、以下の3つの金額を合算した「賃貸料相当額」以上を家賃として会社が受け取っていれば、福利厚生費として計上できます。

  • その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
  • 12円×その年度の建物の総床面積(平方メートル)÷3.3平方メートル
  • その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

賃貸料相当額よりも社宅の家賃が低い場合には、賃貸料相当額と社宅の家賃の差額に関しては福利厚生費として計上できません。反対に賃貸料相当額の50%以上の金額を家賃として従業員から受け取っている場合、その差額分は従業員の給与としても課税されず、福利厚生費として計上できます。

なお住宅手当として現金で支給する場合や、従業員自身が契約した賃貸住宅の家賃を会社が負担する場合は「社宅」扱いにならないため、福利厚生費として計上できません。

ただし医療関係や警備関係などの勤務場所の近くに住む必要がある社員に社宅を提供する場合は、賃料なしで貸与しても会社側の負担は福利厚生費として計上できることが一般的です。

【役員用の社宅】

役員用の社宅の場合は、住居の形式によって「賃貸料相当額」が異なります。いずれの形式においても賃貸料相当額以上を家賃として会社が受け取っている場合は、福利厚生費として計上することが可能です。

役員用の社宅においては、住居の形式によっても福利厚生費として計上できる金額が異なります。住居の形式は「小規模な住宅」と「それ以外の住宅」、「豪華社宅」の3つです。小規模な住宅とは、法定耐用年数が30年以下で床面積が132平方メートル以下の住宅、あるいは法定耐用年数が30年超で床面積が99平方メートル以下の住宅を指します。小規模な住宅の賃貸料相当額は以下の3つを合算して求めてください。

  • その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
  • 12円×その年度の建物の総床面積(平方メートル)÷ 3.3平方メートル
  • その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%

小規模な住宅に該当しないそれ以外の住宅は、自社所有か賃貸住宅かによって賃貸料相当額の計算方法が異なります。自社所有の社宅は、以下の2つを合算した1/12が賃貸料相当額です。

  • その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 12%(法定耐用年数が30年を超える場合は10%)
  • その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 6%

賃貸住宅の場合は会社が支払う賃料の50%の金額と、上記で記載した自社所有の社宅の賃貸料相当額の計算式で求めた金額の多いほうが賃貸料相当額になります。

一方豪華社宅とは、社会通念上社宅とは考えにくい住宅のことです。プールなどの豪華な設備があったり、役員の好みを反映した設備・調度があったりする場合は、豪華社宅と判断できるでしょう。

豪華社宅には賃貸料相当額を求める式はなく、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になります。無償で役員に豪華社宅を貸与する場合は、福利厚生費として経費計上することはできません。役員から受け取っている家賃が相場よりも低い場合には、相場相当の家賃と役員から受け取っている家賃の差額が役員報酬と認定され、給与課税されます。

18.保養所などの会員権

木造建築の建物

福利厚生施設を従業員や役員が利用できるように会員権を取得する場合は、福利厚生費として計上可能です。ただし一部の役員しか利用できない施設の会員権に関しては、福利厚生費とはならず、利用者に対する給与として課税対象となります。

19.マスク代も基本的に福利厚生費として計上可能

マスクをしてオフィスで働く男性

その他、マスク購入費は衛生費という勘定科目以外に福利厚生費中の補助勘定科目としても計上可能です。

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

新型コロナウイルス対策として会社でマスクやアルコールスプレー等を購入した場合、事業で必要であれば経費として認められます。社内で感染者が出た場合、業務に著しい支障が出ることが想定されますので、一般的には、従業員に配布するマスクは経費として認められるでしょう。

福利厚生費に計上できないもの

4要件を満たさないものと言っても、福利厚生費にできない費用には具体的にどういうものがあるのでしょうか?以下で間違えやすい具体例をいくつか取り上げるので、ぜひ確認してみてください。

現金支給・商品券の支給

従業員に支給した現金や商品券は給与扱いで、福利厚生費として処理することはできません。例えば創業記念時等に贈呈する記念品、永年勤続者表彰における記念品と共に現金・商品券を渡す場合でも、記念品だけが福利厚生費になります。

参考:創業50周年を記念して従業員に支給した商品券|国税庁

部内で行なった忘年会

社内に部署が多いなどの理由により、部署ごとに忘年会や新年会を開催する場合も注意が必要です。福利厚生費の条件は雇用する従業員すべてに公平であることが条件であるため、特定の部署のみが忘年会や新年会を開催している場合は福利厚生費として認められない場合があります。

福利厚生費として認められない場合は給与として処理され、従業員にとっても所得税の負担が増える結果となってしまうため慎重に判断しましょう。

高額な人間ドッグ

人間ドッグなどの健康診断費用は福利厚生費にできますが、高額な人間ドッグは福利厚生費として認められません。

高額な人間ドッグとは一般的な人間ドッグにはない検査項目がある場合や、人間ドッグのオプションが付いている場合などを指します。

福利厚生費の上限と平均・計算式

福利厚生は社内規程で定められることが一般的ですが、いくらでもよいという訳ではありません。福利厚生費の上限額を計算する際には「給与の〇%で計算する」「平均値を考慮する」といったさまざまな方法があります。

ここでは福利厚生の上限や法定福利費の計算方法、実務上の仕訳例を中心に解説していきます。

福利厚生費の上限は原則なし

結論からいうと、福利厚生費に上限はありません。ただし紹介してきたように、交通費や社宅費用、食事代補助など、上限額が定められている福利厚生費も存在します。

また具体的な金額が定められていない費用に関しても「社会通念上妥当な金額」であることが求められます。過分な金額と判断される場合には給与の一部として課税対象となるでしょう。

福利厚生費の平均額は1人当たり月11万円ほど

福利厚生費に上限はありませんが、過剰だと認められないため平均額を参照するのも1つの手です。

経団連が行なった調査によると、2019年における企業が従業員1人あたりに支出した福利厚生費は「108,517円/月」です。この金額のなかには社会保険料などの法定福利費も含まれており、内訳は次のようになっています。

108,517円(福利厚生費) 84,392円(法定福利費)
24,125円(法定外福利費)

ちなみに法定外福利費の中でもっとも割合が高かったのが住宅に関わる補助で、従業員1人あたり1か月11,639円でした。

上記より、福利厚生費の平均額は1人あたり月11万円ほどと覚えておくとよいでしょう。ただし法定福利費は従業員に支給する給与の金額によって変動するため、企業が負担する金額も変動します。

また給与あたりのパーセンテージで換算すると、福利厚生費は給与の30%前後を占めることになります。上図のようにこのうち大半は企業に負担義務がある法定福利費で、給与額によって計算式が異なってくるため注意が必要です。

法定福利費の計算方法

法定福利費は種類ごとに計算方法や負担割合が異なるため、混同しないように注意する必要があります。

法定福利費 計算方法(事業者負担分)
健康保険 標準報酬月額(標準賞与額)(※1) × 9.84%
厚生年金保険 標準報酬月額(標準賞与額) × 18.30%
介護保険 標準報酬月額(標準賞与額) × 1.80%
子ども・子育て拠出金 標準報酬月額(標準賞与額) × 0.0036%
雇用保険 賃金総額 × 雇用保険料率(※2)
労災保険 賃金総額 × 労災保険料率(※3)

※1 標準報酬月額・標準賞与額とは

標準報酬月額とは、被保険者が受け取る税引き前の給与を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定したものです。1等級(8万8,000円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。標準賞与額についても同様です。詳細は以下を参照してください。

参考:令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表

※2 雇用保険料率は下記の表のようになっています。

(単位は%) ①労働者負担 ②事業主負担
基本負担 失業等給付

育児休業給付

雇用保険

2事業の料率

雇用保険料率

①+②

一般業 0.003 0.006 0.003 0.003 0.009
農林水産

清酒製造業

0.004 0.007 0.004 0.003 0.011
建設業 0.004 0.008 0.004 0.004 0.012

※3 労災保険料率は下記を参考にしてください。

参考:労災保険料率表|厚生労働省

法定福利費の仕訳例

法定福利費は以下の2つのタイミングで仕訳を行なう必要があります。

  1. 従業員の給与から法定福利費を天引きした時
  2. 天引きした法定福利費と企業負担分の法定福利費を合わせて国へ支払った時

以下では原則的な仕訳例・簡略化した仕訳例をそれぞれ紹介します。ここでは次の事例に基づいて仕訳を作成しています。

  • 給与総支給額:200,000円
  • 社会保険料:40,000円(企業負担分含む)
  • 差引支給額:180,000円(普通預金より振込)

【原則的な仕訳例】

原則的な仕訳では「預り金」勘定を用い仕訳を行ないます。

1.従業員の給与から法定福利費を天引きした時

従業員の給与から法定福利費を天引きし、残額を支給した場合の仕訳は次の通りです。

借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
給与 200,000  預り金 20,000
普通預金 180,000

2.天引きした法定福利費と企業負担分の法定福利費を合わせて国へ支払った時

続いて徴収した法定福利費を翌月末に納付する際の仕訳は以下の通りです。

借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
給与 20,000  普通預金 40,000
預り金 20,000

【簡略的な仕訳例】
簡略的な方法では預り金勘定を使用せず、法定福利費勘定のみで仕訳を行ないます。

1.従業員の給与から法定福利費を天引きした時

従業員の給与から法定福利費を天引きし、残額を支給した場合の仕訳は次の通りです。

借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
給与 200,000  法定福利費 20,000
普通預金 180,000

この場合、法定福利費40,000円のうち1/2の20,000円を従業員の給与から天引きすることになります。そして翌月、天引き分の20,000円と企業負担分の20,000円の合計40,000円を納めます。

2.天引きした法定福利費と企業負担分の法定福利費を合わせて国へ支払った時

借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
法定福利費 40,000 普通預金 40,000

このようにいずれの方法も企業側の経費として処理できるのは法定福利費の20,000円であるため、結果としては変わりありません。

福利厚生費と間違えやすい勘定科目

福利厚生費と間違えやすい勘定科目

社員の福利厚生に関わる費用すべてが、福利厚生費に分類されるわけではありません。例えば福利厚生費と間違いやすい勘定科目として、消耗品費や交際費が挙げられます。しかしこれらの勘定科目と福利厚生費を混同してしまうと、正しい会計管理ができないことや、税金の計算に差額が生じることもあります。

福利厚生費と消耗品費との違い

会社で使用する文房具や用紙の料金、移動に用いる車のガソリン代などは、福利厚生費ではなく消耗品費に分類されます。使用可能な期間が1年未満のもの、あるいは取得価額が10万円未満のものの購入費は、基本的には福利厚生費ではなく消耗品費です。

また福利厚生費か消耗品費かで迷いやすいものとして、作業服が挙げられます。作業のときのみに着用する作業服は福利厚生費に該当しますが、従業員を雇っていない個人事業主の作業服代は消耗品費と分類可能です。

ただし福利厚生費も消耗品費も、どちらも経費として計上できます。

福利厚生費と交際費との違い

交際費とは取引上関わる人に対する接待や贈答などにかかる費用を指します。福利厚生費は社員に対する費用なので、交際費などの社外の人物に対する費用は福利厚生費とは計上できません

ただし従業員の親族や、以前従業員であった者やその親族に対する結婚祝いや病気見舞い、香典などは、社外の人物に対して支給されるものでありますが、社員(元社員)に対する費用として福利厚生費に含めます。

【まとめ】福利厚生費は原則非課税だが要件は要確認!

福利厚生費のまとめ

ここまで福利厚生費について詳細に説明してきました。最後に重要な点について以下にまとめています。

  • 福利厚生費は従業員の労働環境の改善を目的として支出するもの
  • 福利厚生費の金額に上限はないが、社会通念上一般的な金額
  • 福利厚生費は全社員を対象としなければならない
  • 福利厚生を目的として、あらかじめ作成した規則に則って支出しなければならない
  • 個人事業主本人に対する福利厚生費は認められない

現在、従業員の生活と労働意欲を向上させるために福利厚生制度の充実を図る企業が増えてきています。それに伴い福利厚生の種類もスポーツジムの利用や、カフェテリアプラン等幅広くなっています。これらの福利厚生費を正しく活用し経費に計上するために、要件を正しく理解しましょう。

また福利厚生費は税法で認められた経費です。福利厚生費にできるものは経費に計上し、正しい確定申告を行なって節税につなげましょう。

監修税理士からのコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

福利厚生費は節税に最も有効な手段の一つです。上手く活用して、節税をしつつ従業員のやる気アップに繋げましょう。

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この記事の監修税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・CFP®) 1987年 香川県生まれ 2008年 公認会計士試験合格 2010年 京都大学経済学部経営学科卒業 大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。所得税・法人税だけでなく相続税申告もこなす。