白紙の領収書に自分で金額を記載することは犯罪行為であり、大変な事態になりかねません。この記事では白紙の領収書の危険性や、トラブルを回避する方法について解説します。
白紙はNG!領収書は法律上の証拠書類です
「白紙の領収書をもらっても、金額がわかっていれば問題ない」と考える方もいるかもしれません。しかし、領収書は使ったお金をメモするためだけの紙ではないのです。
まずは、領収書の基本的な役割や性質を知っておきましょう。
領収書は支払いを証明する証拠書類
領収書は「誰が誰にいくら支払ったか」という金銭のやり取りの詳細を証明するために、金銭を受け取った側が発行する書類です。私的なメモ書きではなく、法律上の証拠書類として扱われるため、会計処理上の重要な意味を持っています。
誤って代金を二重に請求された場合でも、領収書があれば支払った事実を証明できるので、二重の支払いを防げるのです。
また、確定申告の際に経費として申請する際にも「間違いなくこの金額を支払った」ということが証明・確認できます。
不正経理を防ぐ意味でも、領収書は重要なのです。このような性質上、金額や宛先が書かれていない白紙の領収書は、法律上何の効力も持たない紙切れに等しいと言えます。
宛名なしの領収書と白紙の領収書の区別
次は「白紙の領収書」の定義をより厳密に説明しましょう。字面だけを見れば、何も記載されていない領収書を思い浮かべる方が多いと思われます。
では金額は書いてあるけれど宛名のない領収書や、逆に宛名だけが記載されている領収書はどのように扱われるのでしょうか。
結論からいうと、金額の記載されていない領収書は事実上「白紙の領収書」として扱われます。前述したように、領収書の役割は金銭のやり取りの証明であり、金額が1番重要だからです。
金額さえ記入してあれば、たとえ宛名が空欄であったとしても「白紙の領収書」とは見なされません。
領収書の宛名が空白であることには問題はない
金額さえ記入してあれば「白紙の領収書」にならないとはいえ、原則としてすべての項目を埋めるべきなのは確かです。では、誤って宛名が空白の領収書を受け取ってしまった場合、何か法的な問題は発生するのでしょうか。
実際のところ、「宛名が空欄」というだけなら、税務調査などで不正を指摘されることはありません。帳簿などと照らし合わせて、金額が合致していることや正しい目的で支払われたことがわかれば、経費として認めてもらえるからです。
とはいえ、いらぬ誤解を招かないためにも、宛先を含めたすべての項目を埋めるのがベストだといえるでしょう。
白紙の領収書に金額を記入すると犯罪に
白紙の領収書を受け取ることは確かに問題ですが、それ自体が即座に犯罪になるわけではありません。しかし、白紙のままでは経理上の役割を果たせませんから、大抵は自分で金額を記入することになるでしょう。
自分で金額を記入するのは犯罪になってしまう恐れがありますので絶対にやめてください。ここでは、白紙の領収書の利用が罪に問われる理由を知っておきましょう。
金額を多めに書いて、水増しで請求することは犯罪
白紙の領収書への記入が犯罪になるのは、金額を多めに記入した(水増しした)場合です。これは私文書偽造等罪(刑法159条)に問われ、3月以上5年以下の懲役に処される可能性があります。
領収書は法律上の証拠書類ですから、内容を改ざんすることは許されないのです。水増しの理由としては、法人税の節約や差額分の不正取得が考えられるでしょう。
加えて、改ざんした人だけが罪に問われるわけではありません。水増しされた領収書を経理に提出した場合、改ざんしたのが別の人であったとしても、偽造私文書等行使罪(刑法161条)に問われる恐れがあります。
さらに、上司が水増し記入した白紙の領収書を、それと知りながら経理に提出するような行為も、自分で改ざんしたのとほぼ同義と見なされて同罪と見なされるのです。
不正な請求はまずバレる
金額の水増しをしてしまう人の多くは「バレなければ問題ない」と考えているはずです。しかし実際のところ、領収書の改ざんというのは驚くほど簡単に発覚します。
会社の経理や総務の担当者はもちろん、税理士や会計士、さらに税務署の職員などは経験と勘によって領収書の不自然さを見抜くからです。中には筆跡から白紙領収書への記入を見抜くケースも。
気づかれる理由としては、「金額が0ばかりのきれいな数字(ラウンド数字)」「筆跡が毎回同じ」「金額が明らかに大きすぎる」といったものがあります。また、領収書の内容について提出した本人に確認を取る時も、反応を注意深く観察しているのです。少しでも言いよどんだり矛盾があったりすれば、疑いを抱かれることは間違いないでしょう。
改ざんに気づいた税理士や税務署職員は、裏付けを取るために「反面調査」を行います。実際に領収書を発行したお店や会社へ行き、金額を照らし合わせるのです。領収書の控えや帳簿を確認すれば、金額が改ざんされたことは簡単にわかってしまいます。不正な請求はまずバレると思っておいてください。
白紙の領収書に自分で記入すること自体がNG!
水増しをする意思がなくても、白紙の領収書を受け取ってしまうケースはあると思われます。このような状況で、正しい金額を自分で記入したとしても、やはり犯罪になってしまうのでしょうか。
結論を言うと、正しい金額を記入したとしても、立派な私文書偽造になります。領収書は「金銭のやり取りの証明」を目的として「金銭を受け取った側」が発行するものであり、金銭を支払った側には記入する資格自体がないからです。「金額が合っているのだからいいじゃないか」という問題ではありません。
加えて、自分で金額を書き込んだことが税務署の調査などで発覚すると、たとえ正しい金額であったとしても疑いを持たれます。「自分で記入しているのだから、やはり改ざんしているのでは?」と、税務署の担当者が考えるのは当然でしょう。もし反面調査が行われれば、発行した会社やお店にも迷惑がかかってしまいます。
したがって、金額が正しいかどうかを問わず、白紙の領収書に自分で記入すること自体を避けてください。安易な行動に走らないよう、領収書の役割をしっかりと理解しておくことが大切です。
もし白紙の領収書をもらってしまったら
領収書の重要性を理解していても、うっかり白紙の領収書を受け取ってしまうことはありえます。もちろん、白紙のままでは経費として処理できません。自分で記入するのがNGなのであれば、どのように対応するのが正しいのでしょうか。
ここはやはり、発行元の会社やお店に行って、金額の記入を依頼するのが望ましいといえます。領収書は、金銭を受け取った側が発行する書類ですから、発行者には正しく金額を記入する責任があるのです。たとえ面倒でも、「経理上の問題があるから」と丁寧に説明し、金額を記入してもらってください。
白紙の領収書を発行する側も罪に問われることも
ここまでは、白紙の領収書を受け取ってしまった場合のリスクについて解説してきました。次は逆に、白紙の領収書を発行してしまった場合のリスクを考えてみましょう。
領収書は、受け取った側のみならず発行した側にも一定の責任が生じます。悪意の有無を問わず、白紙の領収書を発行することにはどのような問題があるのでしょうか。
頼まれても白紙の領収書を渡してはいけない
白紙の領収書を発行してしまう主な状況としては、うっかりミスや忙しさなどの理由で記入を省略してしまうケースと、支払人から頼まれて白紙で渡してしまうケースが考えられます。
前者も問題ですが、後者はより大きなトラブルに発展しやすいので、注意しなければなりません。自分から白紙の領収書を求める以上、何らかの理由があるはずだからです。
考えられる可能性の筆頭は、やはり経費の水増しでしょう。そうでもなければ、領収書を白紙で受け取るメリットはまったくありません。
「急いでいるので白紙でちょうだい」などと言われたとしても、真意を確認する手段はないのです。悪用される可能性が否定できない以上、頼まれたとしても白紙の領収書を絶対に渡すべきではないといえます。
白紙の領収書を発行すると罪に問われることも
白紙の領収書に金額を水増し記入すると、私文書等偽造罪になってしまうのと同様に、白紙の領収書を発行した側も罪に問われる可能性があります。
とはいえ、白紙で渡しても100%悪用されるとは限りませんから、必ず犯罪になるわけではありません。問題は、相手に悪用する意思があると知りながら、白紙の領収書を発行してしまった場合です。
適用される具体的な罪名としては、法人税法違反幇助罪(法人税法159条)があります。白紙の領収書による経費の水増しを可能にし、法人税額の不正な減額=脱税を手助けしたと見なされるわけです。まさか自分が脱税に加担しているなどとは、想像もしない方が多いかもしれません。
現実として、白紙の領収書を大量に発行した会社役員が、懲役刑に処された判例も存在しています。数があまりにも多いので、「水増し・脱税に使用されることは当然想像がついたはずだ」と判断されたわけです。罪に問われる可能性を回避したければ、どのような事情であろうと白紙の領収書を発行しないようにしてください。
白紙の領収書によるリスクを回避する方法
何も考えずに白紙の領収書を大量に発行したり、得意先から頼まれて脱税に協力したりするのは論外です。とはいえ、すべての白紙の領収書が悪意に基づいて発行されているわけではありません。
「ついうっかり」「時間がなかった」というケースはよくあるからです。そこで最後は、白紙の領収書による問題を回避する方法を考えてみましょう。
金額が書かれているかその場で確認
基本中の基本は、やはり受け取ったその場での確認です。白紙の状態だとわかれば、すぐに金額を記入してもらうことができます。
わずか数秒の確認でトラブルを防げるのですから、たとえ急いでいたとしてもしっかりと目を通しましょう。遠方のお店や得意先で領収書を発行してもらう場合は、二度手間を防ぐためにも特に重要です。
もちろん、落ち着いて確認できるだけの時間の余裕を持つことも忘れてはいけません。早めに精算をすませて領収書を発行してもらう、あらかじめ連絡を入れて領収書を作成しておいてもらうなど、発行する側の負担を減らすための工夫も行いましょう。
名刺や名前・社名が書かれたメモを渡して書いてもらう
白紙の領収書を受け取ってしまう理由として多いのが、時間の節約です。会社名などが長く複雑な場合、口で説明するのは確かに面倒でしょう。
記入ミスにより書き直しになってしまうこともありえます。そのうちレジが混み始め、後ろに何人も人が並んでいるような状態になれば、「もう白紙でくれ」と言いたくなるのも仕方ないかもしれません。
そこで、領収書を発行してもらう際には、氏名・社名が書かれた名刺やメモを手渡しましょう。
こうすれば口で説明する手間も省けますし、発行者も落ち着いて記入することができます。さらに時間を短縮したければ、氏名・社名のスタンプを持ち歩いてください。宛名部分はスタンプでも構わないので、一瞬で記入を終えることができます。
白紙の領収書は渡さない、受け取らない!
白紙の領収書は、絶対に発行せず受け取りもしないのが鉄則だといえます。金額の水増しが許されないのはもちろん、自分で記入すること自体が犯罪なのです。
発行する側も罪に問われるリスクがありますから、誰も得をしません。経費処理を正しく行い、脱税などの問題を引き起こさないためにも、必ず記入された領収書を受け取る、発行することを徹底しましょう。