損益分岐点とは「売上高と費用が等しくなる点」であり、利益と損失の境目のことです。経営分析に使われ、事業見直しの指標になります。
本記事では、損益分岐点の概要や計算方法、損益分岐点を活用した経営分析の方法を解説します。損益分岐点を理解し、活用することで事業の改善を行いましょう。
この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
損益分岐点とは
損益分岐点とは売上高と費用が一致する点です。売上高が損益分岐点と同じである場合、事業の損益はゼロになります。また実際の売上高が損益分岐点を上回れば「利益」下回ると「損失」になります。
損益分岐点売上高とも記載されますが、意味は損益分岐点と同じです。
損益分岐点を知ることで、利益を出すために必要な売上高の把握が可能です。実際の売上高が損益分岐点に到達できない場合は、事業内容の見直しをするといった選択肢も生まれます。
損益分岐点の計算式
損益分岐点を求める計算式は3種類あります。
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事前の試算で売上高が分かっていない場合など、状況によって明らかな要素が異なるため、臨機応変な計算が大切です。
損益分岐点の計算に必要な費用
損益分岐点の計算には「固定費」「変動費」の2つの費用が必要です。また2つの費用から求められる「変動費率」「限界利益率」という数字を使って計算することもあります。
固定費
固定費とは売上の大きさに関わらず発生する費用のことです。具体的には「家賃」や「人件費」「リース料」「借入金の利子」等が該当します。これらの費用は一切営業を行わないとしても固定で発生します。
変動費
変動費とは売上の大きさに比例する費用です。具体的には「材料費」や「販売手数料」などです。これらの費用は、サービスや商品を提供する量が増えるほど大きくなります。
変動費率
変動費率は変動費を売上高で割ったもので、比率が低いほど効率よく利益が生み出せます。
変動費率=変動費÷売上高 |
限界利益率
限界利益率とは、売上が1単位増えるたびに増加する利益の割合です。計算方法は売上高から変動費を差し引き売上高で割る方法と、1から変動費率を引く方法の2種類があります。
限界利益率=(売上高ー変動費)÷売上高 |
限界利益率=1ー変動費率 |
損益分岐点の計算例
条件ごとに損益分岐点の計算例を3つ紹介します。
固定費、変動費、売上高が分かっている場合の計算例
以下の条件では損益分岐点は250万円になります。
【条件】
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【計算例】
損益分岐点=150万円÷{1ー(200万円÷500万円)}=250万円 |
売上高や変動費が不明な場合の計算例
常に売上高や変動費が明らかな訳ではありません。事前の試算などでシミュレーションを行う場合、変動費率を仮置きして計算を行います。
【条件】
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【計算例】
損益分岐点=150万円÷(1ー0.4)=250万円 |
限界利益率が分かっている場合の計算例
限界利益率が最初から分かっている場合は、更に計算が簡単になります。
【条件】
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【計算例】
損益分岐点=150万円÷0.6=250万円 |
損益分岐点を下げるには
損益分岐点は以下の3つの企業努力によって下げることが可能です。
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損益分岐点を下げることで、赤字から黒字への転換や、更に利益を大きくすることができます。
赤字に陥った上場企業などが利益体質改善のために管理部門の人員削減などを行うのはこの固定費を削減する取り組みの一環です。
損益分岐点比率とは
損益分岐点比率とは、外部環境の変化などに伴う売上減にどれだけ耐性があるかなどを把握できる経営分析の指標です。どれだけ不況に強いかなども確認できます。
損益分岐点比率は数値が低いほど価格競争力があり、不況などの外部要因による売上減少にも強くなります。逆に100%だと利益が出ていない状態です。
損益分岐点比率の計算式
損益分岐点比率は、実際の売上高に占める損益分岐点の割合で求められます。
損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷実際の売上高×100 |
以下の例では損益分岐点比率は50%になります。
【条件】
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【計算例】
損益分岐点比率=50万円÷100万円×100=50% |
70%以下なら良好な状態
損益分岐点比率の望ましい数値は業種によって差はありますが、一般的に70%以下が良好な状態とされています。90%以上はかなり危険な水準です。なるべく早く事業改革を進める必要があります。
また100%を超えると、現時点で損失が計上され続けている状態になります。大至急対処しないと倒産を招くかもしれません。
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安全余裕率とは
安全余裕率とは、実際の売上高が損益分岐点売上高をどの程度上回っているかを示す指数です。安全余裕率が高いほど利益になっている割合が多く、事業経営の安全性が高いことを意味します。
例えば安全余裕率が20%の場合、売上があと20%下がっても赤字にはなりません。
安全余裕率の目安は以下のようになっており、20%以上あるのが理想と言えます。
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安全余裕率の計算式
安全余裕率は売上高と損益分岐点の差の売上高に占める割合です。
安全余裕率=(売上高ー損益分岐点)÷売上高×100 |
以下のような条件の場合、安全余裕率は33%になります。
【条件】
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【計算例】
安全余裕率=(1,500万円ー1,000万円)÷1,500万円×100=33% |
損益分岐点をエクセルで求める方法
損益分岐点はエクセルを使うと、以下の3つのステップで求められます。
1.固定費と変動費を計算する
固定費と変動費の計算では、売上原価や販売費及び一般管理費といった費用を固定費と変動費に分ける作業が必要です。これを固変分解と言います。
固変分解にはいくつかの方法がありますが、ここでは中小企業庁のホームページにも紹介されている勘定科目精査法を紹介します。
勘定科目精査法とは、業種ごとに発生する費用を勘定科目によって固定費と変動費に分ける方法です。
例えば、卸売業における販売員の給与手当は固定費、支払運賃は変動費というように勘定科目によって固定費と変動費を分けます。この方法で分けた勘定科目ごとの固定費と変動費の合計額を下図のように計算します。
詳しい固定費と変動費の区分は以下のウェブサイトを参考にしてください。
2.限界利益率を計算する
固定費と変動費の計算ができたら次は限界利益率の計算を行います。
限界利益率=1ー(変動費÷売上高) |
売上高(例として1,500万円)と変動費合計で計算できるので、以下のようにエクセルに計算式を入力します。
3.損益分岐点を求める
損益分岐点となる売上高は以下の計算式で求められるため、エクセルには下図のような計算式を入力します。
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率 |
エクセルを使ったグラフの作り方
損益分岐点のグラフはエクセルを使うと3ステップで簡単にグラフを作れます。
1.グラフ作成に必要な数字を入力
まずは下図のように売上高と総費用、固定費を売上が「0」のケースと最大のケースでそれぞれのセルに入力します。ここでは上記の計算で用いた数値をそのまま使用します。
「総費用」のAの欄は売上高が無いので変動費は「0」となり固定費だけの金額です。
2.グラフの作成
数値の入力が完了したら入力した範囲を指定して、挿入タブのグラフから面を選択します。
この操作でできるのが以下のグラフです。
3.グラフを見やすくする
このままではグラフが塗りつぶされて分かりにくいので、グラフの塗りつぶしをなくします。
塗りつぶされたグラフの上で右クリックすると「データ系列の書式設定(F)」が出てくるのでクリックします。「塗りつぶしと線」の項目で「塗りつぶしなし」を選択すると塗りつぶしを消すことが可能です。
同時に枠線を「線なし」から「線(単色)」に変更し、色を付けると見やすくなります。
このグラフにタイトルなど必要な項目を入力したら損益分岐点売上高のグラフの完成です。
青い線の売上高と赤い線の総費用の交差する点が損益分岐点売上高の740万円です。
損益分岐点は課題や目標を見出す経営指標
ここまで損益分岐点の概要からグラフの作成方法まで説明しました。損益分岐点は現状を分析する経営指標であると同時に「将来どのような企業経営をするか?」という課題や目標数値も見出すことができる経営指標です。そのため、せっかく損益分岐点のことを理解しても経営に活かせる情報として整理できなければ意味がありません。
損益分岐点は経営に役立つ
損益分岐点への理解は企業経営に大変役立ちます。もちろん、固変分解などの手間がかかる作業も必要ですが、企業の最大目標である利益確保の目安にもなる経営指標です。しかし、どれだけ役に立つ経営指標でもその知識を知っているだけでは意味がありません。その知識を上手に活用することではじめて役立つ指標となる点には注意が必要です。
損益分岐点は、新商品を販売する際の単価決定や利益体質の改善など様々な場面で活用することのできる指標です。必要に応じて税理士などの専門家の手を借りながら損益分岐点の分析や活用を行うことも損益分岐点を上手に活用する選択肢の一つとなります。
監修税理士からのコメント
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
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この記事の監修税理士
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