売れる見込みの少ない在庫の処理に悩んだ経験はありませんか?商品が仕入れた金額以上の売値で売ることが難しい場合に計上されるのが「棚卸資産評価損」です。「棚卸資産評価損」は、会社財産の実態を決算書にきちんと反映させる必要がある重要な会計処理です。
また、在庫を処理する際には、税務上損金と認められるかどうかも重要なポイントです。そこでこの記事では、「棚卸資産評価損」の会計上や税務上の取り扱いなどを詳しくご紹介します。
棚卸資産の評価方法は?
棚卸資産の評価方法には「原価法」と「低価法」の2つがあり、棚卸資産評価損は「低価法」により期末の在庫を評価した時に発生します。
棚卸資産の評価損を損金算入するための条件は?
棚卸資産の評価損を損金算入するための条件は主に3パターン。「棚卸資産が著しく陳腐化した」「棚卸資産が災害で著しく損傷した」「棚卸資産に破損・品質変化などが起きた」のいずれかに該当する場合です。詳しくは記事内で解説しています。
棚卸資産(在庫)評価損とは
「棚卸資産評価損」とは、期末の決算時に計上される損失の一つです。決算時点の棚卸資産の売価が仕入価格などよりも下回っているときに計上する損失のことを意味します。
損失を将来に繰り延べしない大切な経理処理であると同時に、法人税法で認められている評価損の計上は節税にも繋がりますので、きちんと計上するようにしましょう。
棚卸資産評価損とは
在庫は、希望通りの価格でいつでも売れるとは限りません。流行おくれや事故による破損などでどうしても仕入れた価格以上の売値で売ることができないケースは良く見かけます。また、一般的に、在庫期間が長ければ長いほど品質劣化が進み、希望通りの価格で売ることは難しくなっていきます。このような在庫は「不良在庫」や「滞留在庫」とよばれ何らかの経理処理が必要となります。
「棚卸資産評価損」とは、決算時点の棚卸資産の売価が取得価額(製造業では製造するために要した価額、小売業などでは仕入価格)よりも下回っているときに計上する損失のことをいいます。
「棚卸資産評価損」を計上するメリットは二つあります。
1つめは、在庫という会社財産の実態をきちんと決算書に反映できることです。たとえ、税務上認められない損失であったとしても、損失を将来に繰り延べしないことで、早めに在庫処分に取り組むことに繋がります。最近では、融資などにおける金融機関の評価も、きちんとした会計処理を行った上での利益の減少は、肯定的な処理となっています。
2つめは、税務上認められた損失であれば節税に繋がり、不良在庫を抱える財務上のリスクを軽減することができることです。不良在庫を抱えたまま余分な税金を払うよりも、税務上認められた損失の計上はキャッシュフローの改善に繋がります。
棚卸資産評価損の計算方法
棚卸資産評価損は「低価法」により期末の在庫を評価した時に発生します。
棚卸資産の評価方法には、「原価法」と「低価法」の2つがあります。「原価法」とは、帳簿価額を評価額とする方法で「低価法」は棚卸資産を期末の時価と帳簿価額を比較して、低い方を評価額とする方法です。
棚卸資産評価損の計算方法は複雑です。実地棚卸も関連して、実際の計算は、会計実務的にも面倒な処理となっています。計算式は次の通りです。
*1棚卸資産(在庫)の金額-*2棚卸資産の時価=棚卸資産の評価損
*1棚卸資産(在庫)の金額の評価方法
仕入金額の変動などにより、入庫金額は日々異なります。期末段階での在庫の評価方法は、税務上認められた次の計算方法で行います。
①最終仕入原価法②個別法③先入先出法④.総平均法⑤.移動平均法⑥売価還元法
*2棚卸資産の時価
時価の算定は実務的にとても面倒で、税務調査などでも特に注意が必要です。基本的には次の方法で計算します。
①正味売却価額②再調達原価③合理的に算定された価額
会計で棚卸資産(在庫)評価損はどう計上する?
棚卸資産評価損が発生したときには、損益計算書では売上原価に計上され、利益の減少要因となります。また、貸借対照表では、棚卸資産が損失分の金額だけ減少します。
評価損は売上原価として計上する
損益計算書上、通常は棚卸資産評価損は売上原価(製造業の場合製造原価)に含めることとされています。そのため、売上総利益を減少させる要因になります。
上場企業等の損益計算書上に評価損の金額を表示している場合はほとんどありません。一般的には、PL関連の注記事項に、売上原価に含められている評価損の金額が記載されています。
評価損が特別損失として計上される場合も
在庫評価損には、特別な事象によって生ずるものがあります。特別な事象によって生じ、かつ、金額が大きい場合には、特別損失として損益計算書に表示されます。特別損失として計上されると、税引前当期純利益を減少させる要因となります。
(特別な事象例)
- 地震、風水害、火事などによって商品が全損又は一部損失
- 部門の統廃合など事業リストラよる商品の販売停止、処分
棚卸資産(在庫)評価損になりやすい商品の特徴
売り時のタイミングを逸し、在庫の評価損が生じやすい商品には、いくつかの特徴があります。代表的な特徴は
- 仕入価格が変動しやすい
- 季節や流行に左右されやすい
- 新商品がでると型落ちする
の3つです。自社の取り扱う商品がこのような特徴を持つ場合には、市場の動向を注視して仕入・販売計画を策定する必要があります。
1.仕入価格が変動しやすい
仕入価格が変動しやすい商品には、石油関連商品や農水産物などを原材料とする商品があります。生産量、捕獲量及び為替など不確定な価格決定要因が多いと仕入価格は大きく変動します。
たとえば、釣り餌につかうアミエビの豊漁・不良により釣り餌の価格は左右されます。仕入れ値に合わせて売値を変動させると売れ残りとなるリスクが高くなります。
2.季節や流行に左右される
アパレル商品など季節や流行によって売上が大きく左右される商品は、一旦販売の時期を逃してしまうと商品価値が下がってしまうことがあります。
来シーズンに販売できるチャンスがあれば問題ありませんが、多くの季節商品には流行が売れ行きに影響するものが多く、実質的には販売がとても困難な場合が多くなっています。
たとえば、カレンダーや干支関連商品などは、時期を外してしまえば、販売できるチャンスはありません。そのため、季節の変わり目には、前のシーズンの商品を値下げし在庫を少なくし、なるべく早く次のシーズンの新商品を店頭に並べる取り組みが必要となります。
3.新商品が出ると型落ちする
スマホなど電化製品は、新作モデルがどんどん発表されると型落ちモデルが値崩れを起こしやすいのが特徴です。発売からたった半年で、未使用品が半額近くに値下がりしてしまうケースもあります。
最近では、電化製品によっては、新作モデルが機能的にはマイナーチェンジの場合が多いため、型落ちモデルの中古品市場も活性化しています。
評価損を損金算入するための条件
会計上は、棚卸資産の評価損を財務諸表にきちんと反映させることが基本です。ただ、法人税法上は、全ての評価損が損金として認められるとは限りません。
税務上、棚卸資産評価損の損金算入が認められるためには、棚卸資産評価損について損金経理し、いくつかの条件を満たす必要があります。詳細は、「国税庁 第2款 棚卸資産の評価損」をご参照ください。
1.棚卸資産が著しく陳腐化した
「著しく陳腐化したこと」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにも関わらず、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいいます。
(著しく陳腐化したことの例示)
- 季節商品の売れ残りで、今後通常の価額では販売することができないことが過去の実績等から明らかな場合
- 形式、性能、品質等が著しく異なる新商品が販売され、今後通常の方法で販売できなくなった場合
2.棚卸資産が災害で著しく損傷した
商品や原材料等の棚卸資産が災害により滅失又は損壊した場合には、その損失又は費用の額は損金の額に算入されます。また、災害による著しい損傷によって、棚卸資産の時価が帳簿価額を下回る場合には、その差額を資産の評価損として損金算入することができます。
3.棚卸資産に破損・品質変化などが起きた
破損、型崩れ、棚ざらし品、品質劣化(日焼けや色あせなど)などにより長い間売れ残っている在庫品で通常の方法では販売できない場合にも評価損が認められます。
損金算入できないケース
期末時点の時価が、物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、評価損は認められません。
評価損を損金算入する際の注意点
棚卸資産評価損は、課税所得や納税額を減少させますので、税務調査で指摘されやすい事項の1つです。損金算入を否認されないためのポイントは2つで、評価損が発生した理由と期末時点の時価の算定方法です。
税務調査では、この2つのポイントをきちんと説明できる資料を取りそろえておく必要があります。
証拠となる資料を用意しておく
税務上、棚卸資産評価損は「著しく陳腐化した場合」「災害などによって損傷した場合」「破損や品質劣化などの場合」にのみ損金算入が認められます。そのため、評価損を計上した理由がどれに当てはまるかを証明できる資料を用意する必要があります。
評価損の計上要因 | 証明できる資料例 |
著しく陳腐化した場合 | 新製品のカタログ、チラシ
商品の販売実績の低下を証明できる集計表 中古市場、WEB市場の価格表、 |
災害などによって損傷した場合 | 災害等の様子が掲載された新聞記事
災害によって損傷した商品などの写真 災害現場の状況報告書 |
破損や品質劣化などの場合 | 破損、型崩れ、棚ざらしになっている状況の写真
正常品(品質劣化する前)の写真 |
時価の算定根拠をしっかりと示す
棚卸資産の評価損を損金算入するときには、「時価の算定根拠」を明らかにすることが重要です。この際の時価は、その商品が実際に売れる金額が基本になります。
又、陳腐化や損傷などの度合いがひどく、市場での販売が現実的には期待できない場合は、帳簿価額を処分見込価額(0又は備忘価額)まで切り下げる必要があります。その場合の時価はゼロとなります。
区分 | 根拠書類例 |
売却市場がある場合 | 中古市場、ネット販売など売却市場での価格表など |
売却市場が無い場合 | 期末前後での販売実績に基づく価格
顧客との契約により取り決められた価格 在庫セール(予定・実績)の価格 他社類似品の期末前後の販売価格表 過去商品の下落率などがわかる販売実績表 |
再調達原価 | 製造業における原材料を再調達する時の価格 |
監修税理士のコメント
アテンド会計事務所 - 神奈川県横浜市西区
この記事を監修した税理士
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