資本金は企業の運転資金となるお金です。しかし、資本金が実際にどのような役割を持っているのか知らない方も多いのではないでしょうか。
会社規模や株主など出資者との関係性が見えてくる資本金について、基礎からわかりやすく解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
資本金とは出資者が会社に払い込んだお金のこと
資本金とは、株主などの出資者が会社に払い込んだお金のことです。会社の設立時に出資する運転資金のほか、新規事業などでお金が必要になった際に追加出資を受けたお金も、資本金として分類されます。
資本金として払い込まれたお金は会社の運転資金となります。設立時に他者から出資を受けられるケースは少ないため、最初は経営者の自己資金が資本金として払い込まれるのが一般的です。
なお資本金は、あくまで出資された金額の合計です。したがって売上や利益が大きい企業が、必ずしも資本金も大きいとは限りません。
資本金は会社のすべてのことに利用できる
資本金は会社に関するすべてのことに利用できるお金です。会社で利用する備品・消耗品の購入や従業員への給与、事務所の家賃など、用途の制限なく使えます。
一方で資本金を利用できるのは、あくまで会社に関する支出のみです。従業員の生活に関する支出など、会社と関係ない目的には一切利用できません。
個人のお金を出資し、資本金とすることは可能です。ただし個人資金を会社に払い込みすぎてしまうと、会社からお金を借りるような状態に陥る恐れがあります。このようなケースは「個人と会社のお金を分けられていない(混同している)」とみなされ、信用度が下がるリスクが高いです。
資本金はあくまで会社で使うお金であり、個人での支出に使うことがないよう、注意する必要があります。
資本金から企業の方向性や関係性が見えることも
資本金の情報から、企業の方向性や、その企業と関係性の深い投資家・企業などの情報が見えることがあります。
新規事業の立ち上げには多額の資金が必要ですが、設立直後で実績が乏しい状態や新しいビジネスモデルなどの場合には、金融機関からの借り入れが困難です。そのため新たなビジネスモデルの展開を進める企業は、エクイティファイナンス※で資金を調達し、結果として資本金が大きくなるケースが多いです。
【※エクイティファイナンス】
株式資本を増加させる資金調達法。投資家からの出資により資金を集めることを指す。 |
また上場企業の場合、資本金の出資を受けた先の株主名・企業名を公開します。どこから出資を受けているかを確認することで、企業と外部の関係性がある程度見えてきます。
このように資本金は、企業に関するさまざまな情報を得られる要素のひとつです。
資本金は1円から設定可能
資本金の金額に特別な決まりはなく、1円から設定可能です。
かつては会社法のなかで、会社形態ごとに資本金の最低金額が決められていました。しかし平成18年に施行された改正会社法で、資本金の下限に関する決まりがなくなっています。現在、資本金は1円から自由に設定できます。
資本金の多さは会社の信頼性向上につながる
資本金は出資者によって払い込まれたお金であり、返済の必要がありません。完全に自己資本であるため、会社の規模や体力を表す指標ともなります。したがって資本金が多いほど、会社の信頼性向上につながりやすいです。
会社としての信頼性が高いことには、さまざまなメリットがあります。そのため資本金の最低金額に決まりはありませんが、低すぎない金額を設定するのが理想です。
融資を受けやすくなるメリットがある
資本金が大きいことによるメリットとして、融資を受けやすくなる点があげられます。
資本金の大きさは、会社が有する自己資本、すなわち会社の資金力を表します。資本金が大きい会社は資金力が高いという評価を得やすいです。金融機関は融資にあたって会社の返済能力を考慮しますが、資本金が大きければ、返済能力も十分に有していると判断されやすくなります。
新規事業の立ち上げや事業拡大など、まとまった資金が必要となる場面は多く起こり得ます。そのような場面で融資を受けやすくするには、ある程度の大きな資本金を設定するのが効果的です。
事業拡大がしやすくなる
事業拡大がしやすくなる点も、資本金を多く設定するメリットのひとつです。
事業が順調に進み売上が大きくなってきたら、新規店舗の出店や新たなサービス展開などを考えるようになります。このような事業拡大の場面では、まとまったお金が必要です。しかし売上が大きくなったからといって、事業拡大に使える運転資金まで大きくなるとは限りません。事業拡大は、資本金が大きいほどスムーズに進みやすくなります。
資本金の大きさは、会社が運転資金として使えるお金の大きさを表します。すなわち資本金が大きければ、その分運転資金に余裕があることを意味します。したがって資本金を多く設定すれば、運転資金に余裕があるため、事業拡大がしやすくなるのです。
新規取引の際の指標になることも
資本金の大きさは、新規取引の際の指標になることもあります。
資本金は会社の信頼性に大きく関わる要素です。資本金ですべてが判断できるわけではありませんが、会社の規模や体力などをみるにあたって欠かせない情報といえます。そのため新規取引の検討時に、相手会社の資本金を確認する会社も存在します。資本金について一定の基準を定め、新規取引を進めるかの判断材料とするのです。
資本金の小ささが理由で信頼を得られず、新規取引の締結ができないケースも考えられます。取引先からの信頼を獲得しやすくするためにも、資本金はある程度大きい額を設定するのが理想です。
資本金の平均額は約300万円
資本金をいくらに設定するか悩んでしまった際は、日本企業の平均額を参考に決めるのもひとつの手段です。日本企業の資本金の平均額は「約300万円」といわれています。
資本金は設立から事業がある程度安定するまでの運転資金となります。資本金が小さすぎると、利益を得るより前に資金が尽きてしまう恐れが大きいです。一般的には「営業開始から3ヶ月間、利益がなくても事業を進められるだけのお金」が資本金の目安となります。
資本金の額は事業内容や規模によって相場に違いはありますが、300万円をひとつの基準として考えると良いでしょう。
日本企業の50%以上が資本金1,000万円未満
日本企業の50%以上は、資本金として設定した金額が1,000万円未満です。資本金3,000万円未満にまで広げると、90%を超える日本企業が該当します。
資本金階級でみると、資本金の額300万円以上500万円未満の企業がもっとも多く、続いて1,000万円以上3,000万円未満となります。これらは設立時点だけでなく、その後の増資分も含めた資本金のため、創業段階では300万円が目安というのは納得できる結果ではないでしょうか。
資本金が多い企業のランキングTOP20
資本金が多い企業のランキングを上位20社紹介します。
企業名 | 資本金額(百万円) |
日本郵政 | 3,500,000 |
ゆうちょ銀行 | 3,500,000 |
三井住友FG | 2,341,274 |
みずほFG | 2,256,767 |
三菱UFJ | 2,141,513 |
武田薬品工業 | 1,668,145 |
東京電力HD | 1,400,975 |
NTT(日本電信電話) | 937,950 |
ソニーグループ | 880,214 |
日本ペイントHD | 671,432 |
トヨタ自動車 | 635,402 |
日産自動車 | 605,813 |
野村HD | 594,493 |
新生銀行 | 512,204 |
かんぽ生命 | 500,000 |
関西電力 | 489,320 |
ANAHD | 467,601 |
日立製作所 | 460,790 |
中部電力 | 430,777 |
NEC | 427,831 |
資本金を増やすときは「増資」を行なう
資本金を増やすときは「増資」という手段を取ります。増資の方法は3種類です。それぞれの特徴やメリット・デメリットをまとめました。
方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
公募増資 | 新しい株式を発行し、証券会社を通じて一般の投資家に広く出資を募る | 出資を広く募るため、多額の資金を調達しやすい | 株主構成や持ち分割合が変化しやすい |
株主割当増資 | すでに株式を保有している株主を対象に新しい株式を発行し、出資を募る | 株主構成や持ち分割合が変化しにくい | 株主によっては出資をしてもらえない可能性がある |
第三者割当増資 | 親会社など特定の第三者に対して新しい株式を発行し、出資してもらう | 相手との交渉で株価を設定できる
株式を発行する相手を指定できる |
増資によって交付する株式と実際の株式の価値が異なるため、既存株主に不利益が生じやすい |
またいずれの方法も株式の流通量が増えるため、1株あたりの価値が下落する点に注意が必要です。
増資で手元の資金を増やせば経営に余裕が生まれる
増資の大きなメリットは、手元の資金を増やせる点です。返済の必要がない自己資本を調達できるため、経営に余裕が生まれます。資本金には用途の指定がないため、事業拡大や設備投資など、会社に関連する内容であれば自由な活用が可能です。
金融機関などからの借入では、一時的には手元の資金が増えますが、金利の支払いなどによる負担が大きいです。期日までに確実に返済できるよう、資金繰りに注意を払う必要もあります。しかし増資による資金調達では、借入金のような負担はありません。余裕のある経営を進めるには、資本金を増やす方法が効果的といえます。
株の利益率や持株比率が下がることによるデメリットも
資本金を増やすことには大きなメリットがある一方で、無視できないデメリットも存在します。増資による主なデメリットは以下の2点です。
1株あたりの価値が下がる
株式の流通量が増えるため、1株あたりの利益が下がり、既存の株主に不利益が生じる恐れがあります。
持株比率に影響を与える
持株比率とは株主の出資割合です。増資により第三者の持株比率が上がると、経営者の持株比率が下がってしまいます。持株比率の高い第三者によって経営方針が変わってしまう事態が起こりやすくなります。
資本金を減らすときは「減資」を行なう
資本金は増やすだけでなく、減らすことも可能です。資本金を減らすときは、減資の手続きを行ないます。減資は以下の2種類に分けられます。
【有償減資】
会社の財産が実質的に減る減資 【無償減資】 帳簿上での手続きを踏む減資。決算書類上の数字が変わるだけで、実質として会社の財産が減るわけではない |
減資を行なう主な理由は以下の3点です。
累積赤字の補てん
繰越利益剰余金のマイナスを解消するために資本金を減らす方法です。
株主への配当
資本金を減らすと「その他資本剰余金」というものが発生します。その他資本剰余金は株主への配当に充てられるため、赤字続きで配当が出せていない場合に、配当を行なうために減資を行なうケースもあります。
節税
資本金が1億円以下だと、さまざまな優遇税制を受けられます。そのため節税を目的に減資を行なうケースも多いです。
資本金の額によっては税負担や許認可に影響がある
資本金の大きさは会社の信頼につながるため、大きければ大きいほど良いと感じるかもしれません。しかし資本金の額によっては、税負担や許認可に影響があります。
資本金を増やさない理由として、税負担が大きくなることを避ける目的をあげる企業は少なくありません。資本金の額を決める、もしくは増資・負担を検討する際は、資本金と税負担や許認可などとの関係についても確認が必要です。
資本金が1,000万円以上なら消費税の免税措置を受けられない
設立して間もない会社は、一定の要件を満たせば消費税の免税措置を受けられます。こちらは設立から1年間は消費税が免除、設立から6か月間の課税売上高が1,000万円以下の場合は2年目も免除される制度です。この消費税の免税措置を受けられるのは、資本金が1,000万円未満の小規模な会社のみとなります。
会社設立直後は資金の余裕が小さく、なるべく税負担を抑えたい時期です。最大2年間の消費税の免税措置を受けるために、設立時の資本金は1,000万円未満にするのもひとつの選択肢です。
許認可を受ける際に下限が設定されていることも
事業によっては、許認可を受けるために資本金の下限が設定されているケースがあります。
たとえば特定建設業の場合、資本金2,000万円以上かつ自己資本の額が4,000万円以上という条件が設けられています。また一般労働者派遣事業で許認可を受けるには、資産の総額から負債の総額を控除した基準資産額が1,000万円以上必要です。
登記上の資本金だけが目安とは限りませんが、資本金を満たしておけば、許認可がスムーズに進みやすいと考えられます。許認可が必要な事業であれば、資本金の下限について事前の確認が必要です。
一定額以上の資本金が融資の要件になる場合も
融資の種類によっては、一定以上の資本金が要件となる場合もあります。
たとえば日本政策金融公庫の「新創業融資制度」には、「創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方」という要件があります。
また設立したばかりの会社に対する融資額は、資本金の2倍ほどが目安です。このように融資を受ける際は、資本金の額が要件のひとつとなる可能性が高いです。
税法上では資本金1億円以下が「中小企業」の扱い
税法上では、資本金1億円以下の会社が中小企業として扱われます。1億円が大企業と中小企業を分ける基準となるのです。
中小企業には以下のような優遇税制が受けられ、節税に関するメリットが多くなります。
法人税の軽減税率が適用される
法人税率は通常23.2%ですが、資本金1億円以下の中小企業では、課税所得800万円までは原則として15%となります(800万円を超える部分は23.2%)。
事業税の外形標準課税が適用対象外となる
法人事業税の外形標準課税は赤字でも支払う必要がありますが、資本金1億円以下の中小企業は対象外です。
交際費を800万円まで全額損金に算入できる
大企業の場合、損金算入できる交際費は金額に関わらず全体の50%までとなります。
特別償却ができる
通常の減価償却費以上の超過した償却費も、要件を満たせば損金として計上できます。
資本金だけでは会社の安定を測ることはできない
資本金は会社の体力や信用力を示す指標となります。企業分析で見逃せない要素であり、投資家や取引先、金融機関などからも重点的にチェックされるポイントです。
しかし資本金だけでその会社が安定しているかどうか判断することは難しいです。資本金とはあくまでも、過去に出資を受けた金額を指します。継続して売上を上げられたかどうか、社会貢献できているかどうかなどは、資本金だけでは判断できません。
資本金が大切な要素であるのは事実ですが、資本金だけで会社を判断できない点は認識する必要があります。
自己資本比率のチェックが大切
会社の安定を見る時に注目すべき数値の1つが、自己資本比率です。自己資本比率とは、総資本(総資産)に対する返済不要の自己資本(純資産)の割合のことを指します。
自己資本比率は、次の計算式で求めることが可能です。
自己資本比率(%)=(自己資本÷総資本)×100 |
自己資本比率が高い、つまり自己資本が潤沢である場合、積極的な事業展開や拡大できます。
逆に自己資本比率が低い、つまり自己資本が不足している場合、銀行などからの資金援助に頼らざるを得なくなり、経営が不安定なものになりがちです。
資本金から見えるのは企業の信頼の積み重ね
資本金は会社が受けた出資の合計額を表すものであり、売上や利益の大きさ、事業の安定性などとは必ずしも一致するとは限りません。そのため企業分析の際には、資本金とは別に、業績などの情報も確認する必要があります。
資本金から見えるもののひとつが、企業が積み重ねてきた信頼です。資本金が大きい状態は、多くの投資家や企業からの出資を得てきたことを意味します。企業としての体力が大きいだけでなく、多くの信頼を積み重ねてきた企業といえるのです。
企業としての信頼性を推測するうえで、資本金は大切な指標となります。
監修税理士からのコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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