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上場のメリットとデメリット|株式公開(IPO)が企業にもたらす恩恵とは

最終更新日: 2022年03月25日

会社が上場すると、会社の株が一般投資家の間で自由に売買できるようになります。これを新規株式公開(IPO:Initial Public Offering)と呼び、資金調達力が向上したり、会社の知名度や信用力を得られたりするメリットがあります。

しかし、その一方で企業情報の開示義務や買収のリスクが発生するなど、メリットばかりとは一概にはいえません。

「会社が上場すると実際どうなるの?」と疑問に感じているあなたのために、上場のメリットやデメリットをわかりやすく解説します。

この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

 

上場のメリット

オフィスのスタッフ

会社の上場には、資金調達力や知名度の向上をはじめとした様々なメリットがあります。

  • 資金調達方法の多様化・資金調達力の向上
  • 顧客からの知名度向上
  • 取引先や金融機関からの信用力向上
  • 優秀な人材の確保
  • ガバナンスや管理体制の充実
  • 社員の意識・モチベーションの向上

資金調達方法の多様化・資金調達力の向上

会社が上場すると、東証やマザーズなど証券市場から様々な形で資金調達が可能になります。株の売買はもちろん、時価発行増資や新株予約権付社債の発行など、その方法はさまざま。直接金融の恩恵が受けられます。

さらに自己資本の充実は、財務体質の強化にも発展します。業績の向上によって株価の上昇が起これば、さらにその成長曲線は顕著なものとなるでしょう。

上場は会社や事業の成長をより一層加速させるための、強力かつ大きな土台となるのです。

顧客からの知名度が向上する

会社が上場すると、顧客からの知名度が大きく向上します。

約400万社と言われている日本企業のうち、上場企業は3,800社ほど。また新聞や雑誌、テレビなどで会社名が紹介される機会も増加します。

社会的信用の向上により商品やサービスに付加価値がもたらされれば、売上拡大や新規取引先と提携する機会も増加するでしょう。

取引先や金融機関からの信用力が向上する

上場企業になると、会社の財務情報を公開する必要があるため、経営が安定していることを内外に知らしめることになります。このため取引先や金融機関からの信頼度を、非上場の頃と比べて飛躍的に向上させることが可能です。

その一例が、個人保証の解消です。非上場企業は信用度が低いために、銀行から借り入れをする場合は、経営者の個人保証が求められることがあります。上場企業になると、個人よりも会社に対する信用で融資することになるため、個人保証は求められなくなるのです。

優秀な人材が集まってくる

上場企業の知名度は採用においても有利に働きます。広く展開する情報公開により、求職者の目に届きやすくなるばかりでなく、期待も大きなものとなるでしょう。このことから優秀かつ多様なスキルを持つ人材も集まりやすくなります。

ガバナンスや管理体制が充実する

企業が上場すると、ガバナンスや管理体制が充実します。

上場の審査基準の中には「企業のコーポレートガバナンスおよび内部管理体制の有効性」といった項目が存在します。この基準を満たすためには、株主総会や取締役会の運用の徹底や、財務報告を株主へ正しく行なうための内部体制が構築されていなければなりません。

また予算と実績が乖離しないための予実管理体制なども整備する必要があります。

このような内部体制の充実により、ガバナンスや管理体制が自ずと強化されるのです。

【ガバナンスとは】

ガバナンスとは企業などの組織が、企業統治をするうえで不祥事の予防や法令順守を図る管理体制のことです。

社員の意識やモチベーションが向上する

上場することで、会社の注目度が飛躍的に上がるために、社員の中にも上場企業の社員だという自負が芽生えてきます。また従業員持ち株制度を活用して福祉の向上を図ることも可能です。

また上場企業はすべての企業のうち、わずか0.1%ほど。「希少な上場企業で働いている」意識は社員のモチベーション向上にも大きくつながります。

上場のデメリット

オフィスチェア

上場はメリットばかりではありません。上場の維持費がかかるほか、社会的責任の増加や買収の可能性があることも視野に入れておく必要があります。

上場の維持費がかかる

上場すると「年間上場料」と呼ばれる維持費を支払わなくてはいけません。価格は市場によって異なりますが、上場時の時価総額が50億円以下の場合、1年間に東証1部で96万円、東証2部で72万円がかかります。比較的安価なマザーズでも48万円が必要です。

また、上場企業はその規模にかかわらず、監査法人による会計監査を受けなければなりません。費用としては数千万円かかる上、さらに監査対応の手間が相当な負担となります。

社会的責任が増加する

上場企業になると、ひとつの私企業というよりは、日本という国家を支える社会的存在として位置づけられる要素が強くなります。このため法令順守は当然のこととして、さらには社会貢献も一定程度求められるのです。

このため不正が発覚した際や役員を始め社員が不祥事を起こした場合には、社会的に強く糾弾されることになります。

買収の可能性がある

上場企業は株式を公開しているため、ライバル会社や投資ファンドから買収される可能性が高まります。

もしも買収によって企業の特色が大きく転換することがあれば、社員のモチベーションが大きく低下することも考えられるでしょう。敵対的買収のリスクを考慮しながら、対策を講じるには多くのコストも発生します。

株主の意向に配慮する必要がある

上場企業は、経営者の方針だけで経営を進めることはできません。必ず株主の意向に沿った経営方針を立てる必要があります。

多くの株主は株を所有することで利益を得ることが目的です。このため、つい目先の利益を追うことを優先しがちになり、中長期的な戦略が立てにくいデメリットが発生します。

上場のメリット・デメリットにおける近年の変化

都会に立ち並ぶ高層ビル

資金調達の手段として大きなメリットを発揮する上場。しかし近年では、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)による投資や、M&A(企業や事業の買収・合併)の手段を取る企業も増えています。

またこれまで敵対的買収は目立ってきませんでしたが、グローバル化に伴って増加する懸念もあるでしょう。

CVCによる投資やM&Aによる資金調達方法の多様化

近年、CVCによる投資やM&Aによる新たな資金調達の方法が注目されています。

2021年には大手企業が成長性の高いベンチャー企業へ出資や支援を行なうCVCからの投資予算枠が約6,000億円となるなど、その額は上場による資金調達以上。将来的な上場を視野に踏まえて、投資ファンドにM&Aで買収される企業の数も、過去最多の4,280件を記録しています。

資金調達方法の多様化に伴い、企業が取るべき手段は上場だけではなくなりました。自社の製品やサービス、技術を求めている大手企業との協業体制を取るなど、企業や事業の成長に新たな可能性が見えはじめているのです。

敵対的買収の成功による防衛対策の必要性向上

数年間、日本における敵対的買収の件数は年間1~2件ほどと、数も規模も目立ったものではありませんでした。しかし2020年頃からは、事業会社による敵対的TOBの成功事例が増加している傾向にあります。

【近年の敵対的買収の例】

  • 伊藤忠商事とデサント
  • コロワイドと大戸屋ホールディングス
  • 日本製鐵と東京製綱
  • SBIと新生銀行 など

これは事業会社の成長戦略において、敵対的買収が現実的かつ有効な選択肢となってきていることを意味します。

成長が著しい上場企業は、従業員持ち株会に自社株式を保有してもらったり、友好的な株主に黄金株を付与したりするなど、これまで以上の買収防衛策が求められるでしょう。

きめ細やかな投資家コミュニケーションの必要性向上

配当や株主優待、自社株買いなど、株主に恩恵をもたらす株主還元。2018年度には過去最高の15兆円を記録しましたが、最近では効果が継続しないケースもあります。

これまで株主還元は、急速的な成長が見込めない成熟企業の株価の下支えになったり、株価が割安であることのアピールにもつながったりしてきました。株価を調整する効果も見込めるものの、近年の投資家にとっては企業そのものの成長性や将来性がさらに求められる傾向にあります。

またSDGs銘柄認定企業の株価が急騰するなど、社会的課題への取り組みや姿勢そのものが評価されるケースも増加傾向に。

IRの重要性が高まっている今、これまでのような財務情報の開示だけでは投資家への情報発信は不足しているといえます。企業のビジョンを明確に伝えていくコミュニケーションが求められているのです。

上場企業社員のメリット

オフィスで談笑するメンバー

上場企業のメリットは、そこで働く従業員にもさまざまな恩恵をもたらします。たとえば給料や福利厚生の充実、大きな仕事に携わるチャンスが増えるなどが考えられます。

給料や福利厚生が充実

上場をすることで、信用度が上がり、資金集めも容易に行なえるようになることから、給与額がアップすると共に福利厚生が充実したものになります。これは、現役社員の士気を高めるばかりでなく、優秀な人材を集めるためにも有益であることから、会社にとってもメリットです。

ローンやカードの審査が通りやすい

ローンやクレジットカードの審査は、年収や会社の信用度が大きく関わってきます。上場企業になったことで、社会的信用は一気に向上して、ローンやカードの審査が通りやすくなるでしょう。住宅ローンでは、融資限度額のアップも期待できます。

大きな仕事に携わるチャンスがある

上場企業になると取引先も大きく拓けてきて、世界的企業との関わりが増えるでしょう。そこで展開されるプロジェクトの中には、世界規模の事業も含まれることがあるため、大きな仕事に携わるチャンスを得る可能性が高まります。

ネームバリューが転職に役立つ

万が一転職を余儀なくされた場合でも、ネームバリューのある会社に勤めていたという実績は、新しい職を得る際に有利に働くでしょう。上場企業は、十分にネームバリューがありますから、そこで働いていたという経験があるだけで、付加価値が生まれます。

上場するための主な条件

シェアオフィス

会社が上場するためには、主幹事証券会社による引受審査と証券取引所による上場審査の二段階を経ることになります。ここでは、証券取引所による上場審査について解説をしていきましょう。

企業の継続性と収益性

事業計画によって、事業が安定的に継続し、かつ成長の見通しがあるかについて審査が行なわれます。事業基盤の整備状況や、その構築の見込みについて確認しましょう。

企業の健全性

企業の健全性は、一般株主の利益保護のために、公正に事業運営がなされているかについて確認します。

企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性

企業のコーポレートガバナンスや内部管理体制が有効に構築されているかについて確認しましょう。

企業内容等の開示の適正性

投資家が判断するのに必要な会社情報を適切に開示できる体制の構築方法や情報管理の体制について確認します。

代表的な株式市場

上場には証券取引所の審査がある

株式市場を一般投資家が安心して利用するためには、いつでも投資金を回収できる仕組みが必要になります。これを実現させているのが証券取引所です。日本の証券取引所は、東京、名古屋、札幌、福岡の4カ所になります。

証券取引所は、「本則」と呼ばれる市場一部、二部と「新興市場」と呼ばれるその他の市場に分類されます。ここでは、東京証券取引所にある代表的な株式市場である「東証一部」「東証二部」「マザーズ」「JASDAQ」について解説していきましょう。

それぞれの株式市場の上場会社数は次のとおりです。

株式市場名 東証一部 東証二部 マザーズ JASDAQ
上場会社数(社) 2,181 475 430 690

日本取引所グループ上場会社情報より 2022年3月22日現在】

東証一部・二部

東証一部・二部とは、株式市場の一つである東京証券取引所の市場第一部及び第二部の略称です。新興市場に対する表現として「本則市場」と呼ばれています。

東証一部・二部は、大企業や中堅企業が上場している日本の中心的な株式市場であり、特に東証一部は海外投資家で占められており世界でもトップクラスの市場です。

一部と二部は、株式数や株主数、時価総額などによって振り分けられています。東証一部は、上場会社のゴール地点と捉えられており、社会的な信用力はかなり高いと言えるでしょう。

マザーズ

マザーズは、将来市場第一部への上場を視野に入れた企業向けの市場です。このため将来の成長を見込めることが条件となります。高い成長性を示すことができれば、小規模の会社や直近が赤字の企業であっても上場することは可能です。

また上場の10年後に、マザーズでそのまま継続して上場するか市場第二部に移行するかの選択をすることになっています。

JASDAQ(ジャスダック)

JASDAQは新興市場に分類されていますが、1963年に店頭登録制度として創設された歴史があります。新しい産業や中堅・中小企業に幅広く資金を供給しているのが特徴です。

またJASDAQは、「スタンダード」と「グロース」の2つの区分があります。それぞれ対象としている企業は次のとおりです。

  • スタンダード:一定の事業規模と業績の有る成長企業が対象
  • グロース:特色のある技術あるいはビジネスモデルを有しており、かつ将来の成長の可能性がある企業が対象

監修税理士からのコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

上場するには大変な労力が掛かりますが、得られるものも大きいです。 創業者には、上場時に多額の資金が入りますし、従業員は信用力が上がるなど、恩恵も大きいです。 上場を目指す場合は経理業務を適正にこなしていることが非常に重要になります。 日頃から適正な会計処理・納税を心掛けましょう。

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この記事の監修税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・CFP🄬)1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格、2010年京都大学経済学部経営学科卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。所得税・法人税だけでなく相続税申告もこなす。