正社員やパートタイマー、アルバイトなど様々な雇用形態の従業員を雇っていると、有給休暇の付与日数や付与の条件がそれぞれ異なるため、わかりづらくてお困りの方も多いと思われます
法律の改正による有給休暇の取得義務化もあり、有給休暇に対する従業員側の関心も高まっています。従業員に尋ねられてもスムーズに回答できるようポイントを整理しましょう。
年次有給休暇とは
有給の正式名称は「年次有給休暇」といいますが、そもそもこの休暇はどのように定義づけられているのか、労働者の権利だとは知っているが法律でどのように定められているのか、わかるようでわからない方は多いのではないでしょうか。まずはその点をおさえてから、有給休暇の日数や計算方法について確認していきましょう。
年次有給休暇とは
年次有給休暇の権利は「法律上当然に労働者(要件を満たす者に限る)に生ずる権利」です。つまり、労働者には年次有給休暇を取得できる権利があります。この部分を誤解されている方が多いのですが、法律上の条件を満たしている労働者は、自由に有給休暇を取得できるのです。使用者は、特別な理由がないからといって、有給の取得を拒否することはできません。
ただし、その全員が自由に取得すると業務に支障をきたす場合があるため、就業規則上で年次有給休暇取得に関する規定(例:取得する場合は1週間前までに上司に申し出る、等)を設けることや、法律で時季変更権や計画的付与などが認められているのです。
2019年4月から有給休暇の取得が義務に
労働基準法が改正され、2019年4月からは全企業において、年次有給休暇の年間付与日数が10日以上の労働者に対して、その日数のうち5日については使用者が時季を指定して取得させることが義務化されました。
具体的には、年次有給休暇の付与日(基準日)から1年以内に、付与日数のうち5日分は使用者が「〇月△日に休んでください」と指定した日に取得してもらいます。ただし、労働者が自主的に時季を指定して5日取得した場合や計画的付与で5日取得した場合は、使用者側の時季指定は不要になります。また、例えば労働者自ら3日取得した場合は、残り2日分は使用者が時季指定をする必要があります。この時季指定にあたっては、使用者が一方的に決めるのではなく、労働者の意見を尊重して取得日を決めるようにしなければなりません。
この時季指定義務に加えて、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存することも義務化されました。対象となる労働者が公平に有給休暇を取得できるようにするためにも、管理業務は必須といえるでしょう。
年次有給休暇管理簿に関する詳しい記事はこちら>>>年次有給休暇管理簿の作成・保存が義務化! 基礎知識や作成方法について解説!
年次有給休暇付与の2つの条件
労働者が全員年次有給休暇の付与対象となる訳ではありません。「継続勤務」と「出勤率」の2点を満たした労働者だけが、有給休暇を取得することができます。また、パートタイマーやアルバイトの場合は所定労働日数や所定労働時間によっては付与のルールが変わってきます。ここではその各条件の要点をおさえましょう。
有給休暇付与の2つの条件
継続勤務
年次有給休暇付与の条件の1つが「継続勤務」です。これは「6か月間継続して勤務した」という実績がなければならないということです。継続勤務とは在籍期間のことを指すので、例えばパートタイマーから正社員に転換したり、定年退職者を引き続き再雇用したりした場合なども、実質的に労働関係が継続しているため勤務期間を通算して6か月のカウントをする必要があります。
出勤率
条件の2つ目は「出勤率」で、これは「全労働日の8割以上が出勤日」であったことが求められます。全労働日とは、就業規則等で定められた所定労働日のことです。具体的には、雇入れ日から6か月間の総暦日数から、所定休日や使用者に起因する休業日、代替休暇で終日出勤しなかった日などを差し引いて算出します。因みに、所定休日に労働させた場合は、その日は全労働日には含まれないのでご注意ください。
また、「出勤日」には実際に出勤した日以外にも、業務上負傷して休業した期間や産前産後休業期間、育児休業期間、介護休業期間、年次有給休暇取得日なども含まれます。
短時間労働者(パート・アルバイト)の場合
パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者の場合も、前述した「継続勤務」と「出勤率」の2つの条件は必須です。その他に短時間労働者への年次有給休暇付与については、所定労働日数や所定労働時間によって付与される日数が異なってきます。
具体的には、1週間の所定労働日数が4日以下かつ所定労働時間が30時間未満の労働者は、基準日における所定労働日数に応じて付与される年次有給休暇の日数が決まります。週以外の期間によって所定労働日数が決められている労働者の場合は、1年間の所定労働日数が216日以下かつ1週間の所定労働時間が30時間未満であれば、比例付与の対象になります。
つまり、例えば1日の労働時間が3時間であっても週5日勤務している場合や、週4日の勤務でも1日8時間勤務している場合などは、比例付与の対象とはならずに一般の労働者と同じ日数の年次有給休暇を付与しなければなりません。
パートやアルバイトの有給休暇に関する詳しい記事はこちら>>>パートやアルバイトの有給休暇の付与について解説! 条件や日数はどうなる?
有給休暇の基準日
年次有給休暇の基準日とは、6か月の継続勤務期間を経過した日から1年ごとに区分した各期間の初日(付与日)のことを指します。例えば、4月1日に入社した労働者の場合、10月1日が「6か月の継続勤務期間を経過した日」となり、その日が最初の有給休暇の「基準日」(付与日)になります。その労働者の次の有給休暇付与日は1年後の10月1日であり、以降毎年10月1日が「基準日」となるのです。従って、入社日によって各労働者の有給休暇の基準日は異なってきます。
前述した基準日はあくまでも原則の法令に則したものなので、就業規則に規定すれば入社日に関わらず一定の日に全員同時に有給休暇を付与することもできます。一定の基準日における勤続年数に照らして、その勤続年数に応じた付与日数を基準日に一斉に付与することにより、管理の煩雑さを軽減できることがこの一斉付与のメリットです。
年次有給休暇の日数の計算
ここまで年次有給休暇の定義や付与条件などについてまとめましたが、ここからは具体的な日数の計算方法について説明していきます。付与される日数は最大何日分なのか、パートタイマーやアルバイトなどの比例付与の場合はどうなのか、などケースごとに計算方法を把握しておきましょう。
通常の労働者
通常の労働者の場合、入社後6か月経過した際に付与される有給休暇は10日です。その後2年6か月までは1年経過する度に1日ずつ付与日数が増えます。2年6か月経過日以降は1年経過する度に付与日数は2日ずつ増え、6年6か月経過時点で付与日数は20日に到達します。この20日が有給休暇の最大付与日数で、これ以上は1年経過するごとに増えたりはせず、毎年基準日に20日が付与され続けます。
有給休暇の権利は2年で時効により消滅します。従って、付与日から1年以内に消化できなかった日数分は翌年までは繰り越せますが、2年後までは繰り越せません。例えば、入社後6か月経過後に10日付与されたけれども、翌年の基準日までに6日しか取得できず4日分余ってしまった場合、翌年の基準日時点での有給休暇残日数は、その余った4日と新たに付与された11日の合計15日となります。更にその後1年間に有給休暇を3日しか取得できなかった場合、入社後2年6か月経過時点では2年前の未消化分の有給休暇は繰り越せないため、1日分の有給は消滅し、前年度に付与された11日分だけが繰り越されることになります。
この付与日数は法令に則したものなので、使用者側が勝手にこの日数を減らすようなことをしてはいけません。退職することが決まっている労働者などに対しても、法定通りの有給休暇を付与する必要があります。
また、例えば入社後6か月間の出勤率が8割未満だった労働者に対しては、有給休暇の取得権利は発生しないためその時点では付与対象にはなりません。しかし、その次の1年間の出勤率が8割以上で要件をクリアした場合、1年6か月目の付与となり10日ではなく11日付与する必要があるので注意しましょう。
短時間労働者(パート・アルバイト)
パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者で、1週間の所定労働日数が4日以下かつ所定労働時間が30時間未満の者(週以外の期間によって所定労働日数が決められている場合は、1年間の所定労働日数が216日以下かつ1週間の所定労働時間が30時間未満)は、比例付与の対象になります。所定労働日数に応じて、1回に付与される有給休暇の日数が異なってきます。4パターンに分かれているため、有給休暇管理簿に記載しておくことが望ましいでしょう。
では、所定労働日数が変更された場合はどうなるのでしょうか? 例えば入社時点では週4日勤務(30時間未満)のパートタイマーだったけれども、途中で週5日勤務に変わり入社後6か月経過時点では比例付与の対象ではなくなっていた場合、その労働者への付与日数は10日になります。
逆に、入社後6か月経過日時点で比例付与の対象となる労働条件であれば、仮にその後1年間(次の付与日まで)の間に比例付与の対象から外れたとしても付与日数をプラスする必要はありません。このように、有給休暇の付与日数はあくまでも「有給休暇の権利発生日(基準日)」時点の労働条件によって決定されます。
認定職業訓練を受ける未成年の労働者
職業能力開発促進法に基づいた職業訓練を受ける未成年者に関しては、通常の労働者とは異なり付与日数が多いことが特徴です。上記の表にあるように、勤務年数6か月で12日、その後は13日、14日、と増えていき、最大付与日数は通常の労働者と同様に20日となります。
半日や時間単位での付与は可能?
有給休暇は原則として1労働日単位で付与しますが、労働者が請求した場合半日のみの付与も可能です(その場合付与日数は0.5日となります)。労使協定を締結すれば、次の1~4の事項を定めた場合において、労働者の請求に応じて時間単位で有給休暇を付与することができます。比例付与の対象である労働者も、労使協定を締結すれば時間単位で取得することが可能です。
- 時間単位で有給休暇を付与できる労働者の範囲
- 時間単位で付与できる有給休暇の日数(5日以内に限る)
- 時間単位で付与できる有給休暇の1日あたりの時間数(1日の所定労働時間を下回らないもの)
- 1時間単位以外の時間数で有給休暇を付与する場合、その時間数
時間単位の有給休暇も日単位と同様に次年度までは繰り越せます。ただし、その場合次年度の時間単位の有給休暇日数は、繰り越し分も含めて5日以内にする必要があります。
このように有給休暇は割と柔軟に付与単位を決めることができますが、日単位もしくは時間単位で取得できるかは使用者の同意や労使協定の有無によって変わってきます。
有給休暇取得時の給与の計算方法
有給休暇とは文字通り「給与が有る休暇」なので、給与支給時には当然ながら有給分の給与も含めて計算する必要があります。有給休暇中の賃金算出方法は3つあり、どの方法で支給するかは就業規則に定めなければなりません。それぞれの方法の要点をおさえておきましょう。
所定労働時間から算出される賃金
最もわかりやすいのは、所定労働時間分の通常の賃金を支払う方法です。月給などの固定給の場合は有給分も含めて基本給を支払えば済みますが、日給制の労働者やパートタイマーやアルバイトなどの時給制の労働者の場合は、所定労働時間から有給休暇分の額を算出します。
例えば、時給1,000円で1日の所定労働時間が6時間のパートタイマー労働者が有給休暇を3日取得した場合は、1,000円×6時間×3日=18,000円が有給分の賃金となります。
日給制の労働者が時間単位で有給休暇を取得した場合は、日給÷1日の所定労働時間で時間あたりの賃金を算出し、その金額×消化した有給休暇時間数=有給分の賃金として計算します。
平均賃金
労働基準法で定められている平均賃金とは、直近の3か月分の賃金総額をその期間の総日数で除した金額を指します。ここに賞与などの臨時的な賃金は含めないので注意しましょう。
例えば、賃金が月末締めの会社で勤務する労働者が、5月中に2日有給休暇を取得したとします。この労働者の2月~4月分の総支給額の合計を、2月~4月の総暦日数(89日)で除して得られた金額が平均賃金となります。その平均賃金の額×2日=5月の有給分の賃金と算出されます。仮にこの労働者が時間単位で有給休暇を取得した場合は、平均賃金÷1日の所定労働時間=時間あたりの平均賃金を算出して有給分を計算する必要があります。
なお、賃金が日・時間によって算定されている場合は、最低保障額を計算し、平均賃金と比べ多い方を採用します。
社会保険の標準報酬日額から算出
社会保険に加入している労働者の場合は、標準報酬月額の30分の1の額を基に有給休暇分の賃金を算出することもできます。
例えば、標準報酬月額が200,000円の労働者が2日分の有給を取得した場合、200,000÷30≒6,667円がベースとなり、6,667円×2日=13,334円が有給分の賃金となります。時間単位で取得した場合は、6,667円を1日の所定労働時間で除して算出された額を基に計算します。
有給休暇の「時季変更権」と「計画的付与」
基本的に、有給休暇は労働者が請求する時季に与えなければなりません(労働者の時季指定権)。
しかし、全労働者の請求どおりに付与していけば人手不足などで業務に支障をきたすことも考えられます。それを避けられるよう、使用者側には一定の権限が認められています。
ここではそれらの権限について解説していきます。
時季変更権
労働者が請求してきた有給休暇取得時季について、その時季に取得されることで業務の遂行に影響を及ぼす場合は、使用者側が取得時季を変更することができます。
かといってむやみやたらにに時季を変更することはできません。原則として使用者は、繁忙期においてもできる限り労働者が請求する時季に有給休暇を付与できるよう、人員確保や勤務割の変更を行うなど状況に応じた努力をする必要があります。それでもなお業務に支障をきたす場合にのみ、時季変更権を行使できます。
使用者側には、常日頃から労働者が有給休暇を好きな時季に取得できる職場環境を整える義務があるといえるでしょう。
計画的付与
労使協定を締結することで、5日を超える部分の有給については予め協定で定めた時季に付与することができます。これを「計画的付与」といいます。逆に言えば、最低でも5日分の有給休暇は労働者が自由に時季を指定して取得できるよう確保しておかなければならないということです。
例えば、有給休暇の付与日数が10日の労働者については5日まで、12日の労働者については7日までを計画的付与の対象とすることができます。前年度の繰り越し分の有給休暇も、計画的付与の対象に含まれます。ただし、時間単位の有給休暇は対象にならないのでご注意ください。
計画的付与には主に3つの方式があり、職場の実態に合わせた方法を選択して活用することができます。
①一斉付与方式 | 全労働者に対して同じ日に一斉に有給休暇を与える |
②交替制付与方式 | グループ別に交替で有給休暇を与える |
③個人別付与方式 | 個人別に時季を指定して有給休暇を与える |
①一斉付与方式は、一斉に休みにした方が効率的な製造部門などの業種で有効です。それ以外の業種の会社であっても、閑散期にまとめて一斉付与にした方が業務が円滑に進むケースもあります。
サービス業など一斉に付与することが難しい業種の場合は、②交替制付与方式の方式を採用することが多いです。
③個人別付与方式は、誕生日や記念日などの労働者の個人的な記念日に有給休暇を予め充てることができます。
年次有給休暇の計画的付与に関する詳しい記事はこちら>>>年次有給休暇の計画的付与とは? 年5日の取得義務に対応!
まとめ
年次有給休暇の条件や日数などのルールについて要点はおさえられたでしょうか?
日本は有給休暇の取得率が非常に低く、過重労働の要因として大きな社会問題になっています。
有給休暇は労働者が自由に取得できる休暇の権利です。生産性を向上させるためにも、使用者は労働者がより有給休暇を取得しやすい職場環境を整える義務があります。
この記事を監修した社労士
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