採用コストの削減や短期間で退職してしまうような入社後のミスマッチを防ぐための対策というのは、企業の人事部や採用担当者の頭を悩ませる大きな要因の1つであると思います。特にせっかく時間をかけて採用したにも関わらず、短期間で退職されては、コスト的にも労力的にも大きなデメリットになってしまいます。
そこで特定の労働者を試行雇用することで、その試行雇用期間で適性や能力を見極めることができ、また助成金も受給することができる「トライアル雇用助成金」という制度について、受給要件、受給金額、申請方法などを紹介していきます。
トライアル雇用とは
「トライアル」という言葉には、「試行」「試み」という意味があります。つまり「トライアル雇用」とは「試しに雇用する」という意味です。ここでは、トライアル雇用の概要やメリット・デメリットなどについて確認していきます。
トライアル雇用とは
「トライアル雇用」とは、長期間のブランクや就業経験の不足等から就職が極めて困難な求職者の救済措置として作られた制度です。それらの求職者の適性や業務遂行能力を見極め、求職者および求人者の相互理解を促進することなどを通じて、その早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的としています。
トライアル雇用のメリット・デメリット
トライアル雇用のメリット・デメリットについて見ていきます。
トライアル雇用のメリット
- 履歴書や面接だけでは判断できないトライアル雇用対象者の適性や業務遂行能力などを実際に見極めることができます。
- 本採用後に短期間で退職してしまうようなミスマッチを減らすことができます。
- 助成金を受けることにより、結果として採用コストをカットすることができます。
企業にとっては、トライアル雇用により本採用後のミスマッチを減らすことができるため、コスト的にも労力的にも大きなメリットになります。
トライアル雇用のデメリット
- 採用コストをカットすることができる反面、トライアル雇用対象者の教育や育成にかかる時間やコストがかかる可能性があります。
- トライアル雇用対象者を受け入れる職場の負担が増える可能性があります。
- トライアル雇用の申請から終了後まで数々の書類の提出が発生しますので、手間がかかります。
採用コストは抑えられますが、手続き書類の作成や受け入れ、通常の中途採用者と比較して教育や育成などに手間や時間などがかかることにも注意が必要です。
トライアル雇用助成金とは
トライアル雇用助成金は、就業経験、知識、技能等から安定的な就職が困難な求職者について、ハローワークや職業紹介事業者等の紹介によって一定期間試行雇用した場合に助成される助成金です。
トライアル雇用助成金には「一般トライアルコース」と「障害者トライアルコース/障害者短時間トライアルコース」の2種類のコースがあります。この後は「一般トライアルコース」について紹介していきます。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の受給要件
ここでは、トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の対象者や本助成金を受給できる要件について確認していきます。
トライアル雇用対象者の要件
本助成金における対象者は、次のいずれかの要件を満たした上で、紹介日に本人がトライアル雇用を希望した場合に対象者となります。
- 紹介日前2年以内に、2回以上の離職又は転職を繰り返している人
- 紹介日前において、離職している期間が1年を超えている人(パート・アルバイトなどを含め、一切の就労をしていないこと)
- 妊娠、出産又は育児を理由として離職した人であって、紹介日前において安定した職業に就いていない期間(離職前の期間は含めない)が1年を超えている人
- 紹介日において、ニートやフリーター等でハローワーク等により支援等を受けている45歳未満の人
- 紹介日において就職支援にあたって特別の配慮を要する次のいずれかに該当する人生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の父、日雇労働者、季節労働者、中国残留法人等永住帰国者、ホームレス、住居喪失不安定就労者、生活困窮者
トライアル雇用を行う事業主の要件
本助成金を受給するためには、以下の要件をいずれも満たす必要があります。ただし、下記の他にも受給要件があります。ここに記載のない要件に関しては、下記リーフレットの「支給事業主の要件」などでご確認ください。
- 雇用保険適用事業所で、ハローワーク・職業紹介事業者等のトライアル雇用求人に係る紹介により、対象者をトライアル雇用(国、地方公共団体、特定独立行政法人、特定地方独立行政法人から受けている補助金、委託費等から支出した人件費により行ったトライアル雇用を除く)した事業主
- トライアル雇用労働者に係る雇用保険被保険者資格取得の届出を行った事業主(65歳以上の労働者を雇入れた場合は除く)
- 基準期間(トライアル雇用を開始した日の前日から起算して6か月前の日からトライアル雇用期間を終了する日までの期間をいう)に、トライアル雇用に係る事業所において、雇用保険被保険者を事業主都合で離職させたことがある事業主以外の事業主
- 過去1年間において、対象者を雇用していた事業主と資本的・経済的・組織的関連性等から密接な関係にある事業主以外の事業主
- トライアル雇用労働者に対して、トライアル雇用期間中に支払うべき賃金(時間外手当、休日手当等を含む)を支払った事業主
- トライアル雇用を行った事業所において、労働基準法に規定する労働者名簿、賃金台帳等を整備・保管している事業主
- ハローワーク・職業紹介事業者等の紹介時点と異なる労働条件によりトライアル雇用を行い、トライアル雇用労働者に対し労働条件に関する不利益又は違法行為があった事業主以外の事業主
- 高年齢雇用確保措置を講じていないことにより、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第10条第2項に基づき、当該確保措置を講ずべきことの勧告を受けていない事業主
- 助成金の支給又は不支給の決定に係る審査に必要な書類等を整備、保管し、管轄労働局長の求めに応じ提出又は提示する、管轄労働局の実地調査に協力する等、審査に協力する事業主
- 過去5年間において雇用保険二事業の助成金等について不正受給の処分を受けていない事業主
- 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度における労働保険料の滞納がない事業主
- 暴力団に関係していない事業主
- 併給調整の対象となる助成金の支給を受けていない事業主
トライアル雇用で雇い入れた労働者の社会保険
トライアル雇用労働者の社会保険への加入については、一般的な社会保険加入要件(下記参照)を満たしていれば加入させなければなりません。
①一般社員の1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数の4分の3以上であること
②上記①の要件を満たしていなくても、次の「短時間労働者の要件」全てに該当すること
- 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 月額賃金が8.8万円以上あること
- 学生でないこと
- 従業員501人以上の企業に勤務していること
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の受給金額
ここでは、本助成金を受給できる期間と受給金額について見ていきます。
トライアル雇用助成金の支給対象期間
本助成金は、トライアル雇用対象者の入社の日から1か月単位で最長3か月間(以下「支給対象期間」という)助成が行われます。
トライアル雇用助成金の受給金額の計算式
本助成金の受給額は、トライアル雇用対象者1名につき、月額最大4万円(最長3か月で、4万円×3か月=最大12万円)になります。また、支給対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合、若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の支給対象者に対しトライアル雇用を実施する場合は、いずれも1人当たり月額最大5万円(最長3か月で、5万円×3か月=最大15万円)になります。
ただし、支給対象者が支給対象期間の途中で離職した場合、支給対象期間の途中で常用雇用へ移行した場合又は支給対象者本人の都合による休暇又はトライアル雇用事業主の都合による休業があった場合、その月分の月額は対象期間中に実際に就労した日数に基づいて下記の式によって計算された額になります。
割合 | 月額支給額 |
A ≧ 75% | 4万円 |
75% > A ≧ 50% | 3万円 |
50% > A ≧ 25% | 2万円 |
25% > A > 0% | 1万円 |
A = 0% | 0円 |
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合
実際に就労した日数の割合により月額支給額は以下になります。
割合 | 月額支給額 |
A ≧ 75% | 5万円 |
75% > A ≧ 50% | 3.75万円 |
50% > A ≧ 25% | 2.5万円 |
25% > A > 0% | 1.25万円 |
A = 0% | 0円 |
若者雇用促進法に基づく認定事業主がトライアル雇用を実施する場合
上記同様、実際に就労した日数の割合により月額支給額は以下になります。
割合 | 月額支給額 |
A ≧ 75% | 5万円 |
75% > A ≧ 50% | 3.75万円 |
50% > A ≧ 25% | 2.5万円 |
25% > A > 0% | 1.25万円 |
A = 0% | 0円 |
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の申請手続き
ここでは、本助成金の申請手続き時に必要な書類と申請手続き方法について紹介していきます。
トライアル雇用助成金の申請に必要な書類
本助成金の申請の際に必要な書類について確認します。
下記様式や共通様式記載例、その他各種様式、支給要領については、以下の厚生労働省のページからダウンロードできます。
トライアル雇用実施計画書様式
共通様式第1号 | トライアル雇用実施計画書 |
実施様式第1号 | トライアル雇用対象者確認票 |
実施様式第2号 | トライアル雇用助成金支給対象事業主要件票 |
結果報告書兼支給申請書様式
共通要領様式第1号 | 支給要件確認申立書 |
共通様式第2号 | トライアル雇用結果報告書兼トライアル雇用助成金支給申請書 |
〔別添様式〕トライアル雇用期間勤務予定表 |
トライアル雇用助成金の申請手続き流れ
本助成金の申請手続きの流れについて、ハローワークから紹介を受けた場合を例に見ていきます。
(1)ハローワークでトライアル雇用の求人を出す
まず求人票を作成し、ハローワークに求人の申込みを行います。求人票提出の際には、「トライアル雇用求人」として助成金の給付を希望している旨を伝え、実施様式第2号(トライアル雇用助成金支給対象事業主要件票)を記入します。
ハローワークはその条件に合致した求職者に対して求人を紹介し、求職者がトライアル雇用に申込む場合は、その求職者を事業主に紹介します。
(2)面接で選考を行う
ハローワークより求職者の紹介を受けたら、応募者との面接を行います。トライアル雇用の応募者に対しては、書類による選考ではなく面接によって採用の可否を決める必要があります。
(3)トライアル雇用開始から2週間以内に実施計画書を提出
トライアル雇用で採用する労働者が決まったら、労働条件を明確にし、トライアル雇用期間中の雇用契約書を作成して雇用契約を締結し、トライアル雇用を開始します。「トライアル雇用実施計画書」はトライアル雇用の開始日から2週間以内に、対象労働者と十分に話し合い、同意を得た上でハローワークに提出します。計画書を提出する際には、
②対象労働者が母子家庭の母等又は父子家庭の父であることの確認書類(②は対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父に該当する場合に限る)
を添付してください。
(4)原則3か月のトライアル雇用を実施
トライアル雇用の間に勤務態度や仕事の適性などをもとに、トライアル雇用期間終了後に常用雇用するかどうかを総合的に判断します。
(5)トライアル雇用の期間終了後2か月以内に支給申請書を提出
トライアル雇用期間が終了した日(トライアル雇用労働者がトライアル雇用期間の途中で離職した場合は当該離職日、又は常用雇用へ移行した場合は当該常用移行日の前日)の翌日から起算して2か月以内(以下「支給申請期間」という)に「トライアル雇用結果報告書兼トライアル雇用助成金支給申請書」を提出します。
支給申請書には、トライアル雇用実施計画書の写し、出勤簿等、賃金台帳、雇用契約書、共通様式第2号「トライアル雇用期間勤務予定表」、その他支給要件を確認するにあたって管轄労働局長が必要と認める書類を添付してください。
(6)助成金が支給される
全ての申請手続きが滞りなく完了した際には助成金が支給されます。
労働者がトライアル雇用の期間中に退職した場合
労働者がトライアル雇用期間中に退職を希望した場合、通常の退職と同様の手続き(就業規則に則った申出期間など)を行います。必要に応じて、労働者には後任者への引継ぎをさせてください。
まとめ
トライアル雇用は、求職者および求人者双方の相互理解を深めることができる制度です。本助成金が支給されることは、コスト面を考えても非常にメリットがあると言えますが、この制度の主旨は「雇用のミスマッチを防ぎつつ、労働者の早期就職の実現や新たな雇用機会の創出」であることを忘れないようにしてください。
様々な業種・業界で人材不足が叫ばれている昨今、企業はどのようにしてコストを抑えながら自社に合う人材を確保すれば良いのかを考えた際に、有効活用できる選択肢の一つとして考えられるのがこのトライアル雇用助成金です。
このトライアル雇用助成金の申請手続きは社会保険労務士に依頼することができます。制度について理解を深めた上で検討し、活用したい場合にはぜひミツモアに登録している社会保険労務士に見積り依頼を出してみましょう。
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