不動産売却にはさまざまなケースがあり、簡単に買い手が見つかる場合もあれば、売る上での下準備に時間がかかる場合もあります。不動産売却に関する悩みを解消するには、どこに相談すればよいのでしょう。悩みの内容に応じた相談先を紹介します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
不動産の売却全体の悩み:不動産会社
不動産売却について悩んだら、まず相談すべき相手は不動産会社です。売却を前提にした相談であれば断られる可能性は低いでしょう。悩みの内容に応じて、司法書士や税理士などを紹介してくれる場合もあります。
以下のような相談をしたい場合は、不動産会社がおすすめです。
- 物件がいくらで売れるか知りたい
- 売却期間はどれくらい必要か
- 物件に問題があり、売れるかどうか分からない
- どのような方法で販売するのか
相談すべき不動産会社の選び方は、どのような物件を売りたいのかによって違います。
不動産会社は管理・賃貸・売却などの業務を、総合的に取り扱っている場合が少なくありません。得意とするジャンルを見極めて依頼すれば、高い売却力が期待できます。
例えば田舎にある実家を売りたいというケースであれば、その地域で古い家の売却を得意としている不動産会社を選ぶと成功しやすいでしょう。
売却したい不動産に近い条件の物件を直近で販売した実績があるかどうかは、重要な判断基準の1つです。不動産会社のWebサイトなどを見て、強みや得意とするジャンルを調査しましょう。
会社の規模よりも、物件がある地域に情報網を持っているかどうかが重要です。高額物件は大手不動産会社の方が売りやすいとされますが、大手不動産会社だからといって、必ずしも適しているとは限りません。
地元の物件の管理をしながら、地域の情報を入手しやすい環境にある中小不動産会社の方が、売りやすいという場合もあります。
不動産登記に関する悩み:司法書士
不動産の登記について悩んだ場合は、司法書士に相談しましょう。司法書士は他者から依頼を受け、登記や供託に関する手続きを行う専門家です。
主に登記に関する相談の受付や、法務局に提出する書類の作成を行います。司法書士が解決できる悩みには、以下のようなものが当てはまります。
- 相続予定の実家を売却するため、名義を変更したい
- 抵当権を抹消する手続きのやり方が分からない
料金は司法書士事務所によってさまざまですが、電話やメールなどで無料相談を受けているケースもあります。
登記は基本的に法務局が開いている平日しか行えません。個人で手続きをしたくても、仕事を休みにくいなどの事情がある場合は、代行の依頼まで考えておきましょう。
登記に関する手続きは、必要書類や申請内容に不備があるとスムーズに進められません。複雑な手続きを自分で行う自信がない人も、代行を依頼した方がよいでしょう。
登記書類の作成は原則として当事者が行い、作成代行は司法書士のみが行えます。不動産の知識が豊富な人であれば、登記に関する相談に乗ったり登記書類を作成することはそれほど難しくありません。
しかし司法書士の資格を持たない人が相談に乗るのは、司法書士法に違反する行為です。必ず資格を持った人に相談や代行を依頼しましょう。
不動産の契約や権利に関するトラブル:弁護士
不動産の売却時に、契約や権利に関するトラブルが起きるケースもあります。法律の知識がない状態では、自分の権利を守れない可能性があり心配です。
不動産売却を進めていく上でトラブルが発生した場合には、弁護士に相談しましょう。以下のような悩みがあるケースでは、弁護士の出番です。
- 借地権のある不動産の売却で、地主と揉めている
- 離婚することになり、不動産を含めて財産分与をしたい
- 遺産分割で意見の相違があり、不動産を売却できない
- 不動産売却を依頼したら、不動産会社から法外な手数料を請求された
時間あたりの相談料が発生するのが一般的ですが、無料相談を設けている場合もあるので利用しましょう。
弁護士のもとには相続・離婚・債務整理・不動産トラブルなど、さまざまな相談が持ち込まれます。できるだけ不動産売却にまつわるトラブル解決の実績が多く、自信を持っている弁護士を選びましょう。
弁護士事務所のWebサイトを見て解決事例などを確認すると、これまでにどのようなケースを取り扱ってきたのか把握できます。
実績だけでなく対応の早さや話が分かりやすいかどうかも重要です。連絡がなく放置されているように感じる対応だと、不満が残る結果になります。進捗状況を定期的に報告してくれる弁護士に依頼しましょう。
どのような案件かによっても異なるものの、弁護士費用は高額になるケースが少なくありません。費用を明確に提示してくれるかという点も、確認しておくと安心です。
売却や相続にかかる税金の悩み:税理士
税理士は税金に関する知識を持った専門家です。不動産売却により生じる税金に関する悩みがある場合に活躍します。以下のような悩みは税理士に相談しましょう。
- 不動産売却で売却益が出た場合の、確定申告の方法が分からない
- 相続を予定している不動産があり、相続税の額を知りたい
- 不動産売却前にできる節税対策はあるのか
不動産の売却で利益が出ると、譲渡所得の金額に応じた税金がかかります。譲渡所得は『売却金額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額』で計算します。
また相続した財産の額によっては相続税がかかり、現金以外に不動産を相続した場合も課税の対象です。
税理士に相談や確定申告などを依頼すると、料金がかかります。しかし税理士に相談すれば税金に関する正確な知識をもとに、間違いなく節税対策や申告を実行できるところがメリットです。
税金に関する相談先は、税理士だけではありません。国税局電話相談センター、所轄の税務署、市役所などで行われる無料相談なども、併せて利用するとよいでしょう。これらを利用しても自己解決できない場合は、税理士に依頼するのがおすすめです。
参考:土地や建物を売ったとき|国税庁 |
参考:財産を相続したとき|国税庁 |
不動産の価値評価の悩み:不動産鑑定士
不動産鑑定士は不動産の適正価格を調査します。法律に基づき『不動産鑑定評価書』を作成できるのは、国家資格を持つ不動産鑑定士だけです。例えば以下のような相談をしたい場合に向いています。
- 親族間で不動産の売買をするので、正確な価値を知りたい
- 財産分割を行うにあたって、不動産の価値が適正かどうか知りたい
- 不動産を担保にして金融機関からお金をいくら借りられるか知りたい
売却予定がない場合でも利用できるところが、不動産会社がしている無料査定との違いです。不動産会社の無料査定は業務の一環であり、仲介手数料や利益を獲得するために行っています。
不動産鑑定士は鑑定料自体が収入となるので、不動産を売却するかどうかに関係なく、業務を依頼できるのがポイントです。
例えば裁判などで法的な根拠を持つ不動産鑑定額が必要になったときに、不動産鑑定士に依頼するケースが想定されます。
都道府県別に不動産鑑定相談所が設けられているので、必要になった場合は最寄りの不動産鑑定士協会に連絡してみましょう。定期的に無料相談会も開催されています。
土地の測量・境界確定の悩み:土地家屋調査士
土地家屋調査士は不動産の表示に関する調査や測量、登記を行うための国家資格を持った専門家です。
売却したい土地の面積や境界が曖昧な状態にあり、測量すべきか悩んでいる場合に相談しましょう。以下のような悩みは、土地家屋調査士への相談をおすすめします。
- 隣地との境界が分からなくなってしまった
- 広い土地を分割して売却したい
- 所有地をまとめて1つにした状態で売却したい
- 地目が住宅地以外になっていて、売買に支障がある
土地の面積や境界が不明な状態では、査定や売却ができません。そのまま売却すれば、隣地の所有者とのトラブルに発展する可能性があります。
通常は境界標が設置されていますが、古くからある土地では境界を示す石や杭などが土砂で埋まったり破損したりして、どこにあったか分からなくなるケースも少なくありません。
また登記簿に記載されている地目が実際とは違っている場合は、変更が必要です。地目とは土地の種類のことで、現況と使用用途が異なる場合は、土地家屋調査士が調査を行い、申請の手続きをして変更します。
測量を行う範囲が広ければ広いほど、費用がかさむ傾向です。都道府県によって無料相談会を行っているケースもあるので、正式に依頼する前に利用しましょう。
農地売却についての悩み:行政書士
農地の売却を考えている場合は、行政書士への相談がおすすめです。行政書士は許認可の申請に必要な公的書類や、権利義務に関する民事書類を作成する役割を担います。
各省庁・都道府県庁・役所・役場・警察署などへ提出する書類を、報酬を得て作成できるのは行政書士だけです。以下のような場合は、行政書士に相談しましょう。
- 売却したい不動産が農地である
- 農地を住宅地に転用して売却したいが、方法が分からない
- 売却したい土地が市街化調整区域にある
農地は住宅地とは違い、農地法によって売買に制限が設けられています。売却条件が厳しいので、専門的な知識を持った人の助けが必要です。
農地転用では土地家屋調査士と行政書士が共同で業務を進めていきます。行政書士は農地転用許可申請ができますが、地目変更登記申請をするのは土地家屋調査士です。
農地を売却する際は農地のまま売却する方法と、住宅地に転用して売却する方法があり、いずれも売却先が要件を全て満たす必要があります。
農業委員会に申請書を提出して許可を受ける必要もあり、手続きが複雑です。農地の所有者本人が、個人で申請できない場合は行政書士に代行してもらいましょう。
行政書士に依頼すればスムーズに手続きを進められ、所有者は売却活動だけに集中できます。売却したい農地がある地域で、農地の売買や転用許可申請を扱った経験がある行政書士に依頼すると安心です。
日本行政書士会連合会のWebサイトから、行政書士を検索できます。自力で探す以外に不動産会社から紹介を受けられる場合もあるので、不動産会社が決まっている場合は相談してみるとよいでしょう。
不動産を売却したい場合は不動産会社の査定を受けるのがおすすめ
不動産売却の際は不動産会社に依頼して、査定額を出してもらいましょう。一括査定を利用すると、一度に複数社の簡易査定を受けられるので便利です。
大手企業だけでなく、地元のニーズをよく知る中小不動産会社にも査定を依頼し、どの不動産会社に売却を依頼すべきか、総合的に判断する方法をおすすめします。
不動産会社を通じて、税理士や行政書士などの専門家を紹介してもらえるケースもあるので、売却を考えているなら、まずは不動産会社に相談するとよいでしょう。