不動産を売却するためには、公的機関から発行された各種証明書や、物件の詳細が分かる書類が必要です。取得できる場所や費用・必要な手続きは異なるため、確認しながら効率的に集めましょう。不動産売却に必要な書類のリストや入手方法を紹介します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
不動産売却に必要な書類一覧
以下は不動産の売却に必要な書類についての一覧です。マンション・一戸建て・土地によって集めるべき書類は異なるため、自分のケースについて確認しましょう。
(〇:必要 △:任意または該当する場合のみ -:不要)
不動産会社の査定依頼までに用意したい書類 | |||
---|---|---|---|
項目 | マンション | 一戸建て | 土地 |
登記済権利証または登記識別情報 | 〇 | 〇 | 〇 |
固定資産税・都市計画税納税通知書 | 〇 | 〇 | 〇 |
物件の図面 | 〇 | 〇 | - |
設備仕様書 | 〇 | 〇 | - |
土地の測量図 | - | 〇 | 〇 |
境界確認書 | - | △ | △ |
不動産会社への売却依頼までに必要な書類 | |||
---|---|---|---|
項目 | マンション | 戸建 | 土地 |
建築確認済証・検査済証 | - | 〇 | - |
建築設計図書・工事記録 | △ | △ | - |
耐震診断報告書 | △ | △ | - |
アスベスト使用調査報告書 | △ | △ | - |
地盤調査報告書 | - | - | △ |
マンションの管理規約・使用細則 | 〇 | - | - |
住宅ローン残高証明書 | 〇 | 〇 | - |
本人確認書類 | 〇 | 〇 | 〇 |
買主に不動産を引き渡す際に必要な書類 | |||
---|---|---|---|
項目 | マンション | 戸建 | 土地 |
実印・印鑑証明書 | 〇 | 〇 | 〇 |
住民票 | △ | △ | △ |
銀行通帳 | △ | △ | △ |
不動産売却の書類といっても、売却のフェーズによって用意すべき書類は異なります。その時々で「どのような書類が必要か」を確認しながら、準備を進めていくことが大切です。
また書類によっては、取得に手間がかかったり費用がかかったりするものもあります。取得できる場所や取得方法・費用についても、適切に把握しておきましょう。
不動産会社の査定依頼までに用意したい書類
不動産売却は、大まかには以下のような流れで進みます。
- 不動産会社に査定を依頼
- 媒介契約の締結
- 販売活動の展開
- 売買契約の締結
- 引き渡し・決済
- 確定申告
まずは不動産売却のファーストステップである、不動産会社に査定を依頼するまでに準備しておくべき書類を見ていきましょう。
- 登記済権利証・登記識別情報
- 固定資産税・都市計画税納税通知書
- 物件の図面
- 設備仕様書
- 土地の測量図
- 境界確認書
登記済権利証・登記識別情報
登記済権利証・登記識別情報は、登記名義人が不動産の所有者であることを証明する重要な書類です。不動産取引ではこの二者はほぼ同じものとして扱われており、不動産会社に査定を依頼すると、いずれかの提出を求められます。
登記済権利証は『権利書』として認知される、法務局の印が押された権利書です。一方で登記識別情報は、12桁の英数字で表示される文字の羅列が記された書類を指します。
2005年に実施された不動産登記法の改正により登記済権利証は廃止され、オンライン申請に対応できる登記識別情報の制度が導入されました。
なお登記済権利証および登記識別情報は、再発行が認められていません。万が一紛失した場合は、『司法書士に証明書を発行してもらう』『法務局による事前通知制度を使う』『公証人の認証制度を利用する』といった代替手段の準備が必要です。
固定資産税・都市計画税納税通知書
固定資産税・都市計画税の納付状況を確認するための書類です。所有者ごとの固定資産税・都市計画税の税額・納付期限などのほか、課税対象となった不動産について一筆ごとの明細が記載されています。
不動産会社への査定依頼、移転登記における登録免許税の算出・不動産引き渡し後の固定資産税の精算などで必要です。
固定資産税は毎年1月1日時点における不動産の所有者に課せられる税金であり、納税通知書は毎年4~6月頃に各自治体から郵送されます。税の滞納がある場合、その不動産は売却できません。早急に納税し滞納を解消しましょう。
なお都市計画税は『市街化調整区域』の不動産に課せられる税金です。区域外の不動産については、納税の必要がありません。
物件の図面
一戸建て・マンションの売却時に必要な図面です。不動産会社は図面を見て物件の間取りを確認するほか、図面を元に不動産広告に掲載する間取り図を作成します。
また不動産会社と『専属専任媒介契約』『専任媒介契約』を結ぶ場合は、不動産流通機構が運営する不動産流通標準情報システムである『レインズ(REINS)』に売却物件を掲載することが可能です。
レインズに掲載された物件は、日本全国の不動産業者に共有されます。多くの人の目に触れることで、不動産を売却できる可能性が高まるかもしれません。このレインズへの掲載を希望する場合も、物件の図面が必要です。
設備仕様書
一戸建てやマンションにどのような設備が実装されているかについて、詳しく記載した書類です。
売却物件に関して、設備の詳細まで知りたいと考える購入希望者は少なくありません。設備の詳細が分かる仕様書は、購入希望者にとって重要な情報源となります。不動産会社と契約する際に提出を求められるため、早めに準備しておくのがおすすめです。
各設備の仕様書は、物件購入時に業者から渡されます。玄関ドア・キッチンから壁・床まで網羅されているはずなので、可能な限りそろえておきましょう。
中でもリフォームした設備・新たに追加した設備は、他の物件との差別化を図る上で重要なアピールポイントとなります。買い手の購入意欲を刺激できそうな設備については、必ず仕様書をそろえておきたいところです。
土地の測量図
土地や一戸建ての売却で必要な書類です。測量図には以下の3種類がありますが、土地の売却では『確定測量図』が求められます。
- 確定測量図:全境界が画定した図面。土地家屋調査士に依頼
- 地積測量図:土地の地積について法的に確定した図面。法務局で取得可能
- 現況測量図:立ち会いなしで現況に即して作成された図面。土地家屋調査士に依頼
確定測量とは土地の正確な面積・境界を決定するための測量です。測量は対象地に隣接する全ての土地所有者の立ち会いのもと実施されます。
つまり確定測量図は『全ての境界が確定済みかつ境界に関する争いがない』という証拠として有効です。土地の境界を確定することにより、土地の正確な価格を決定しやすくなる・境界トラブルが発生しないなどのメリットを得られます。
地積測量図は法務省令で定められた公的な図面ですが、境界の信頼性が担保されていません。図面内で境界が確定していないケースもあり、不動産売却では確定測量図の方が重視される傾向です。
境界確認書
土地や一戸建ての売却で、境界を証明できる測量図がない場合に準備する書類です。隣接地との境界が明確に記載されており、土地の境界トラブルを防ぐ上で有益な書類といえます。
境界確認書を作成したい場合は、土地家屋調査士に依頼するとともに、隣接地の所有者にも立ち会いの依頼が必要です。
関係者全員の立ち会いのもと土地家屋調査士が境界を決定したら、当事者・隣接地の所有者が書類に署名・押印します。これにより境界確認書が有効となり、それ以後は境界についてトラブルが発生する懸念はありません。
ただし土地売却における境界の明示については、確定測量図の提出を求められるケースが多いようです。
不動産会社への売却依頼までに必要な書類
査定が終わり不動産会社に売却について依頼する場合、物件の状況を確認できるさまざまな書類が必要です。売却の依頼までに用意しておきたい書類を紹介します。
- 建築確認済証・検査済証
- 建築設計図書・工事記録
- 耐震診断報告書
- アスベスト使用調査報告書
- 地盤調査報告書
- マンションの管理規約・使用最速
- 住宅ローン残高証明書
- 本人確認書類
建築確認済証・検査済証
一戸建ての売却で必要とされます。物件の建築を請け負った施工業者によって発行される書類で、内容は以下の通りです。
- 建築確認済証:工事内容や建築物が法律に違反していないことを確認した書類
- 検査済証:建築物が施工中・施工後の検査に合格したと証明する書類
建築確認済証・検査済証は建築物が建築基準法に則って施工されたことを証明する書類です。建築確認済証がない物件については、買い手は住宅ローンを利用できません。検討の対象から除外される可能性が高くなるため、物件売却では必ず準備しておきましょう。
なお両書類とも再発行は認められていません。紛失した場合は、自治体が発行する『建築台帳記載事項証明書』で代用が可能です。証明書には建築確認済証・検査済証の交付日や番号が記載されています。
建築設計図書・工事記録
一戸建てやマンションの売却において準備したい書類です。建築設計図書を見れば工事目的や具体的な施工方法が、工事記録を見れば物件工事の進捗状況や工事過程を把握できます。
取引で必須な書類というわけではないものの、物件がどのような設計・工事によって施工されたのかを把握する上で有益です。買い手側に提示できれば、物件の信頼性を高められます。
一戸建ての建築設計図書・工事記録は、施工業者から引き渡されたはずです。保管してあるものをそのまま不動産会社に渡しましょう。マンションの場合は、管理組合または管理会社から取り寄せなければなりません。
耐震診断報告書
旧耐震基準で建てられた一戸建て・マンションの売却において、準備したい書類です。具体的には新耐震基準が適用された、1981年6月以前に施工された建築物が対象となります。
旧耐震基準は震度5強程度の中規模地震を想定した基準です。一方で新耐震基準は震度6強~7程度の大規模地震が想定されており、現在の建物は全て新耐震基準によって建てられています。
地震が多い日本では、耐震基準を重視する買い手が少なくありません。物件をスムーズに売却したいのであれば、耐震性が高いことの証明は必須です。
耐震診断は耐震診断資格者が在籍する建築事務所に依頼できます。診断を依頼すると、調査員が屋内・屋外・小屋裏などを調査して、4段階で評価する流れです。物件について『耐震性がある』とアピールするためには、総合評価1.0以上が必要となります。
アスベスト使用調査報告書
一戸建て・マンションについて、アスベスト被害の心配がないことを証明する書類です。調査は売り手の義務ではありませんが、書類の提示が買い手の安心感につながります。
アスベスト含有建材の使用が禁止されたのは、2006年になってからです。これ以前に建てられた一戸建て・マンションは、アスベスト調査を検討してもよいかもしれません。
アスベスト調査を実施できるのは、『特定建築物石綿含有建材調査者』の資格を持つ人です。調査者は建物の建築年代や使用された建材の照合・各種情報収集により、アスベストの使用可能性を判断します。
調査を依頼したい場合は、測定会社を選定しなければなりません。判断が難しい場合は不動産会社に相談すると、適切な業者を紹介してもらえる可能性があります。
地盤調査報告書
必須ではありませんが、土地の売却で用意するとメリットが大きい書類です。また一戸建てを土地から購入して新築したケースでは、建築前の地盤調査報告書があるかもしれません。報告書が残っている場合は、そのまま提出しましょう。
地盤調査報告書は地盤の強度について、詳細を記した報告書です。軟弱な地盤は地震に弱く、液状化するリスクがあります。多くの買い手は地盤の固さを重視するため、地盤調査で土地の信頼性を高めることは非常に有益です。
ただし調査によって、土地の状態が好ましくないと判明するケースもあります。この場合は不動産会社に相談し、いつ・どのように買い手側に伝えるべきか検討しましょう。
マンションの管理規約・使用細則
マンションの売却時に必要な書類です。マンションの管理方法や使用ルールについて、詳細が記載されています。ただし通常は不動産会社が取得してくれるため、売り手の準備は不要なケースがほとんどです。
中古マンションを購入したい人にとって特に重要なのは、リフォームに関する規定です。中古マンションはリフォーム前提で購入する人が少なくありません。『どの程度のリフォームが可能なのか』が分かる資料があると、買い手も購入について検討しやすくなります。
住宅ローン残高証明書
住宅ローンの残債がある場合に必要です。証明書により住宅ローンの残債がいくらか・いつ頃に完済する予定なのかを示します。
住宅ローンを組む際、金融機関は対象不動産に『抵当権』を設定します。抵当権とは融資した資金を確実に回収するための担保権の一種です。抵当権が設定された不動産について債権の回収が見込めない場合、金融機関は対象不動産を競売にかけて債権を回収することが認められています。
住宅ローンが残っていると、抵当権を抹消できません。売り手が返済を怠ると物件が差し押さえに遭うリスクもあるため、不動産会社は残債の有無や金額を重視します。
住宅ローン残高証明書を紛失した場合は、身分証明書を提示し再発行手数料を支払えば、再発行が可能です。
本人確認書類
不動産会社と媒介契約を結ぶ際に、売り手が本人であることを証明する書類です。提出の必要はなく、提示のみで問題ありません。『運転免許証』『マイナンバーカード』『パスポート』など、公的機関が発行した顔写真付きのものを用意しましょう。
また媒介契約では契約書への署名捺印が必要です。印鑑は認印でも構いませんが、スタンプ印は認められていません。
なお近年は媒介契約の電子化も認められており、電子契約を導入する不動産会社が増えつつあります。電子契約を求められた場合は、電子署名で対応しましょう。
買主に不動産を引き渡す際に必要な書類
買い手が見つかったら、売買契約を締結するための書類が必要です。買い手に不動産を引き渡す際に必要な書類を紹介します。
- 実印・印鑑証明書
- 住民票
- 銀行通帳
実印・印鑑証明書
売買契約を締結する際には、実印を使うのが基本です。市区町村役場に登録済みの正式な印鑑を用意しましょう。
売買契約書そのものは認印でも構いませんが、登記に関する書類は全て実印を押す決まりです。あれこれと使い分けるよりも、実印で統一した方が手間を省けます。
また実印の有効性を証明するため、印鑑証明書の取得も必要です。印鑑証明書は『発行から3カ月以内のもの』という決まりがあります。印鑑証明書の取得から時間が経ってしまった場合には、改めて取得しましょう。
住民票
不動産の売却では登記簿上の住所と現住所との整合性が取れていることが必須です。対象不動産の登記簿上の住所と現住所が異なる場合、住民票を取得して住所のつながりを証明しなければなりません。
また住所が2回以上変わっている場合は、現在の住所までの変更履歴が分かる『戸籍の附票の写し』が必要です。結婚などにより苗字が変わっている場合は、戸籍謄本も用意しなければなりません。いずれも本籍地の役所に依頼すれば取得できます。
銀行通帳
銀行通帳は売却代金の振込先を提示するために必要です。金融機関名・預金種目・口座番号・口座名義人が分かれば、キャッシュカードでも構いません。また通帳のないネットバンクを利用する場合は、必要な口座情報を漏らさず書き留めて提示しましょう。
重要なのは売り手の本人名義の口座情報を提供する点です。代金の振り込みに別名義の口座を指定した場合、110万円を超えた部分に贈与税が課せられる恐れがあります。
必要書類は不動産会社が教えてくれる
不動産の売買ではタイミングごとに、必要となる書類が異なります。全体の流れを把握した上で書類の準備を始めると、「これがない」「あれを取得しなければ」と焦らずに済むはずです。
とはいえ実際のところは、売却に必要な書類については不動産会社から適宜フォローが入ります。良心的な不動産会社であれば、事前にリストを作成してくれたりアドバイスをくれたりするケースも珍しくありません。
売却をスムーズに進めたいのは、不動産会社も同じです。書類を取得する上でのトラブルや困ったことにも、丁寧に対応してくれます。集める書類の多さや提出のタイミングについては、過度に心配する必要はありません。
不動産売却を検討し始めたら早めに書類の収集を
不動産の売却を検討している場合は、必要な書類や提出のタイミングについて大まかに把握しておきましょう。書類によっては取得に時間・コストがかかるものがあります。慌てて準備すると不備が生じるリスクもあり、売却の妨げとなるかもしれません。
不動産の売却をスムーズに進めるなら、売却実績やノウハウが豊富な不動産会社を選択するのがおすすめです。書類の取得について気軽に相談できる担当者に出会えれば、質問や相談をしながら負担なく売却準備を進められるでしょう。