『共有持分』とは、不動産を複数人で共有する際の各所有者の権利割合を指します。売却可能ではありますが、簡単な売却がトラブルの原因になる可能性もあります。共有持分について概要、売却方法、予想されるトラブルを説明します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
共有持分とは
共有持分とは、複数人で同一の不動産を所有している場合における、個々が持つ権利の割合を指します。例えば名義人が複数となる以下のようなケースでは、共有持分が発生すると考えるのが妥当です。
- 夫婦名義でマンションを購入する
- 相続により兄弟姉妹で土地を共有する
- 親子で出資して二世帯住宅を建てる など
共有持分は、『共同で不動産を取得した場合はそれぞれが支払った資金額』『相続の場合は法定相続分に応じた割合』を適用するのが一般的です。
なお共有名義となった不動産については、『共有持分権』が発生します。不動産そのものの変更(処分)行為・管理行為の実施については、共有者全員の合意が必須です。
共有持分の不動産は売却できるか
共有名義の不動産は個人の自由が利きにくく、所有負担が大きくなりがちです。負担が大きく手に負えない場合、共有持分の売却は可能なのでしょうか?
「自分の持分のみ」なら売却可能
共有している不動産そのものは、共有者全員の合意がないと売却できません。ただし共有持分をどうするかは、個人の自由です。自分の持分のみであれば、他の共有者の合意を得なくても売却できます。
共有持分の売却については、『自分の権利を売却すること』と同義と考えればよいでしょう。たとえ共有しているのが物理的に分割できない『一軒家』であっても、共有持分の売却は可能です。
売却相手を探すのは難しい
共有名義の不動産は、共有者同士が親族・親子であるケースがほとんどです。縁もゆかりもない第三者が購入するにはハードルが高く、購入希望者はそう簡単には現われません。不動産の一部しか権利を所有できない点もマイナスポイントとなり、共有持分は敬遠されるのが現状です。
どうしても共有持分を売却したい場合、専門業者に売却する方法もあります。ただし売却価格は相場より低くなるのが一般的なため、あまり好ましい売却先とはいえません。
共有持分を解消して売却する方法
共有持分を維持したまま相続が続くと、共有者はどんどん増えていきます。月日がたつほど処分が難しくなるため、早急な共有状態の解消がおすすめです。
共有持分を解消し、売却する方法を紹介します。
- 他の共有者に売却する
- 共有者全員で第三者に売却する
- 土地を分筆して売却する
他の共有者に売却する
2人で共有している不動産なら、もう1人の共有者に売却できるとスムーズです。不動産が単独名義となることで、相手も不動産管理・処分の自由度が高まるメリットがあります。
他の共有者に共有持分を売却するときは、不動産鑑定士に査定を依頼し、適正価格で売却を進めましょう。共有持分を相場の8割以下で売却すると、贈与税の対象となる恐れがあります。後のトラブルを防ぐなら、書面で売買契約書を取り交わすことも必須です。
一方共有者が複数人いる場合は、全員に声をかけます。後に「自分だけ声がかからなかった」などと言われないよう『全員に相談した』という事実を残しておくと安心です。
共有者全員で第三者に売却する
共有名義の不動産そのものを売却するのも1つの方法です。共有持分の扱いに頭を悩ませているのは、他の共有者も同じかもしれません。共有者同士で話し合えば、売却への合意を形成できる可能性があります。
不動産の売却が決まったら、売却益や売却にかかる費用負担の割合について話し合っておきましょう。売却益については、共有者の持分割合に基づいて分配されるのが一般的です。一方売却にかかった諸経費は、共有者全員で平等に負担するとトラブルが発生しにくくなります。
土地を分筆して売却する
分筆とは、登記簿上1つの土地を複数に分割して登記することです。共有状態が解消され、単独でも土地を売却できるようになります。
注意点は、土地によっては分筆が難しい点です。
例えば、分筆によって土地の使い勝手が悪くなる・位置によって条件のよい場所・悪い場所の差が生じてしまうなどがあると、『誰がどの土地を持分とするか』でもめる可能性があります。
また土地の分筆については、隣接地との境界が明確であることが必須です。隣接地の所有者と境界トラブルが発生していたり、所有者が見つからなかったりする場合は分筆できません。
共有持分の売却で起こるトラブル
共有持分の売却をめぐっては、さまざまなトラブルが懸念されます。どのような事態が考えられるのか、詳しく見ていきましょう。
- 他の共有者との関係悪化
- 買取業者による圧力
他の共有者との関係悪化
共有している不動産を処分したい場合は、共有者全員を説得する必要があります。共有者が複数人いる場合、必ずしも利害が一致するとは限りません。共有者間で『賛成派』『反対派』に分かれ、対立する恐れがあります。
また共有持分の売却が自由とはいえ、『売却するなら共有者の合意を得るのが道理』と考える人も少なくありません。共有者への配慮なく売却に踏み切ると、共有者である親戚・家族から非難を浴びるリスクもあります。
買取業者による圧力
共有持分を率先して買い取る業者の多くは、『残りの共有者からも不動産を買い取ること』『他の共有者に売ること』を目的としています。業者に共有持分を売却すると、他の共有者が売却圧力をかけられたり、共有持分の購入を迫られたりするかもしれません。
また買取業者は、共有物分割請求訴訟で共有の解消を求めます。
共有物分割請求とは、不動産の単独所有を求めて分割請求することです。訴訟を起こされた共有者は『価格賠償』『現物分割』『換価分割』などを行う必要があり、不動産の競売や不本意な分割につながるケースがあります。
訴訟トラブルが発生すれば、原因を作ってしまった売却者に非難の矛先が向かうかもしれません。
共有持分の売却にかかる費用・税金と必要書類
共有持分を売却するには、売却費用や売却益にかかる税金を用意する必要があります。手続きにはさまざまな書類が求められるため、必要なものを漏らさずに準備することも必要です。
共有持分の売却にかかる費用や税金、必要書類を紹介します。
共有持分の売却にかかる費用
共有持分の売却にかかる費用には以下のものがあります。
- 登記費用
- その他雑費
- 司法書士への報酬
- 仲介手数料
- 税金
不動産を売却した場合は、所有権移転登記が必要です。売却による名義変更では、『不動産価額(課税額)×2%』で算出した登録免許税が必要となります。(2026年までに登記を行う場合は、税率1.5%)
また登記手続きでは、印鑑証明書・戸籍謄本・住民票といった公的書類の取得費用も用意しておかなければなりません。費用は自治体によって異なりますが、1通につき300~700円程度かかります。
このほか司法書士に手続きを依頼した場合は司法書士への報酬、不動産会社を利用した場合は仲介手数料も必要です。
共有持分の売却にかかる税金
共有持分を売却した場合、譲渡所得税・印紙税の納付が必要です。
譲渡所得税は、『課税譲渡所得金額』に規定の税率を掛けて計算されます。まずは課税譲渡所得金額を明確にすることが必要です。
課税譲渡所得金額=譲渡価額‐(取得費+譲渡費用)‐特別控除
課税譲渡所得金額を算出したら、不動産の保有期間に合わせ、以下の税率をかけて計算します。
- 5年以内:課税譲渡所得金額×30%(住民税9%)
- 5年超:課税譲渡所得金額×15%(住民税5%)
また印紙税は、契約書などの課税文書に課せられる税金です。税額は文書に記載されている額面によって異なる上、購入側が負担するケース・売却側が負担するケースがあります。状況に応じて、適切な収入印紙を用意しましょう。
共有持分の売却に必要な書類
共有持分の売却に当たり必要なのは、主に以下の書類です。
- 登記識別情報(登記済権利証)
- 地積測量図、境界確認書
- 固定資産評価証明書
登記識別情報は、不動産の正式な所有者であることを証明する符号です。英数12文字で構成されており、符号の確認で登記名義人を特定できます。制度の適用は2006年からのため、それ以前の不動産は『登記済権利証』で所有者の確認が必要です。
地積測量図、境界確認書は、土地の面積や境界を確認できる書類です。所有していない場合は、土地家屋調査士に測量を依頼しましょう。
また固定資産評価証明書は、固定資産の正しい評価額が記載された書類です。登録免許税の計算は、証明書の金額をベースに行います。毎年4月1日に更新され、前年度のものは使えません。
共有持分の売却は慎重に進めよう
共有名義の不動産でも、共有持分の売却について制限はありません。共有状態の負担が大きい場合は、売却も1つの選択肢です。
ただし共有持分の売却は難しく、買い手を探すのは容易ではありません。とはいえ買取業者への売却は競売や不動産の分割などを招きやすく、共有者間に感情的なしこりを残す可能性があります。
共有持分の解消についてはなるべく共有者同士で話し合い、円満な解消を目指すのがおすすめです。