建築物や車両など高額かつ長期的に事業で利用するものは、一括で経費として計上することはできません。利用できる年数で分割し、1年ごとに経費として計上する「減価償却」を行う必要があります。また、1年ごとに計上する「減価償却費」については毎年の確定申告で申告しなければなりません。
今回は、減価償却について詳しく解説していきます。仕訳や計算方法から確定申告書の書き方も紹介しますので、確定申告の際に参考にしてください。
この記事の監修税理士
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
減価償却とは
「長期的に利用できて、高額なもの」を何年かにわたって経費処理していく仕組みを減価償却と言います。
では、どのようなものが減価償却の対象になるのか見ていきましょう。
減価償却とは
一般的に建築物や車両などの資産には価値があり、金額で表されています。しかし、長期にわたって利用する資産の価値はずっと同じではなく、時間の経過とともに低下していきます。減価償却とは、こうした長期にわたって事業で利用する資産の購入費用を利用できる年数で分割し、1年毎に経費として計上することを指します。
例えば、耐用年数(法で定められたその資産が利用できる年数)が4年のパソコンを40万円で購入した場合、
40万円÷4年=10万円/年
なので、1年間で計上できる経費は10万円です。
減価償却の対象になるもの
減価償却の対象になるのは原則として、取得価額が10万円を超え、使用可能期間が1年以上のものです。ただし、取得価額は税抜経理方式か税込経理方式かで異なり、取り入れている経理方式が基準となります。
例えば、定価91,000円のパソコンを購入したと場合の税抜価格と税込価格は以下の通りです。
税抜経理方式:91,000円
税込経理方式:100,100円 |
税抜経理方式だと減価償却の対象外、税込経理方式だと減価償却の対象になるということです。
なお、消費税の納税義務が発生するのは、前々年の課税売上が1,000万円超の場合などいくつか基準があるので事前に確認しましょう。
減価償却の対象にならないもの
10万円以下の購入品以外にも、減価償却の対象とならないものがあります。
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減価償却は、価値が徐々に減少することと、高額なことから対応している制度です。しかし、これらはむしろ年月が経つごとに価値が上昇する可能性があります。そのため、減価償却の対象となりません。
このような資産は「非減価償却資産」と言います。
減価償却費の仕訳
減価償却には、「直接法」と「間接法」の2種類の仕訳方法があります。簡単に説明すると、減価償却資産の金額を減らす方法が「直接的」か、「間接的」かで異なります。
減価償却の仕訳の違いについて、具体例を参考に見ていきましょう。
【直接法・間接法】仕訳方法の違い
2つの仕訳は、減価償却の計算方法が異なります。
固定資産から減価償却費を直接減らすのが「直接法」、減価償却累計額として計上し、これまで固定資産を減らした合計金額を表示するのが「間接法」です。
直接法は「経費にできる金額がわかりやすい」こと、間接法は「過去と現在の情報がわかる」ことがメリットとして挙げられます。しかし、どちらを選ぶにしても、納税額は変わりません。
個人事業主や小規模な会社ではシンプルな「直接法」がいいでしょう。
直接法と間接法の具体的な違いは、以下の仕訳例で確認していきます。
減価償却を行なった時の仕訳例
減価償却の対象となる物品には、どのぐらいの期間使用できるかが「法定耐用年数」として定められています。これによっても計算方法などが変わってくるので注意しましょう。耐用年数については、次の見出しで詳しく説明します。
では、「7月に法定耐用年数9年の車(取得価格:200万円)を購入した」場合の仕訳について見ていきましょう。
直接法での仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
減価償却費 | 222,000円 | 固定資産 | 222,000円 |
直接法での仕訳は、「減価償却費」と「固定資産」で記載されます。計算式は、
取得価格(200万円)×耐用年数の償却率(9年は0.111)=減価償却費 |
となります。
上記の例の場合、減価償却費によって200万円で購入した資産(固定資産)が222,000円減った、ということを表しています。つまり、経費にできるのは残りの1,778,000円(2,000,000円ー222,000円)になるということです。
また、固定資産の項目には固定資産の残高を記載します。
間接法での仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
減価償却費 | 222,000円 | 減価償却累計額 | 222,000円 |
間接法の仕訳では、「減価償却費」と「減価償却累計額」で記載されます。減価償却費の計算方法は、直接法と同様です。減価償却累計額の項目には、これまでの償却額の合計を記載します。
つまり、上記の例の場合、200万円で購入した資産を減価償却した、今までの合計金額は(減価償却累計額)222,000円ということになります。
減価償却資産の耐用年数
減価償却の対象になる資産には、それぞれ耐用年数というものが定められています。この耐用年数は、減価償却費を計算するための償却率の基準にもなります。
減価償却資産の耐用年数は、公平性を図るために「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」という税法上に定められています。
では、主な減価償却資産の耐用年数を見ていきましょう。
備品・器具
事務所を設立する際や、自宅で事業する場合にも器具や備品は必要になります。10万円を超えるものは減価償却の対象となりますので、耐用年数も定められています。
上記以外にも、時計や写真製作機器などもありますが、事務用品などで一般的と考えられるものを紹介しました。
他の細目の耐用年数は、以下のサイトで確認できます。
車両
高額になりがちな車両関係は、使用用途と大きさなどによって耐用年数が変わってきます。
他にも、運送用や自動車教習所用のものの耐用年数表があります。上記以外の車両や、工具については以下のサイトで詳細を確認できます。
建物
事務所を建てる場合などに関わってくる建物の耐用年数ですが、「土地」と「建造物」で考えられます。建造物の耐用年数は素材によって変わってきますが、土地は減価償却の対象にならないので、建造費用のみを減価償却します。
事務所または、住宅用が一般的と考えられるため、それぞれ以下の表に耐用年数をまとめました。
減価償却費の計算方法
減価償却費は「定額法」と「定率法」の2種類の計算方法から算出されます。事前の届け出をしていない限り、個人事業主の場合は「定額法」が原則です。
また、平成28年4月1日に一部定率法が修正されているため注意が必要です。平成28年3月31日以前に購入した減価償却資産は、旧定率法・定額法で計算しなければなりません。
ここでは、それぞれの減価償却費における計算法や、注意点などを解説します。
定額法による減価償却
定額法による減価償却の計上は、毎年同じ額になります。計算式は、以下の通りです。
購入した時の価格×定額法の償却率=減価償却費 |
例えば、100万円で購入した物品で耐用年数が10年の場合
1,000,000×0.100=100,000円 |
となり、減価償却費として毎年10万円ずつ経費に計上されます。ただし、10年目は耐用年数が終了するため、残存価格から1円を差し引かなければなりません。
100,000円(10年目の残存価格)ー1円=99,999円 |
というように、毎年計上していた金額と計算方法が異なるため、注意が必要です。
定率法による減価償却
定率法は、年が経過するごとに減価償却費が減少する仕組みです。ただし、算出された償却額が「償却保証額(資産の取得額×耐用年数の保証率)」に満たなくなった場合、毎年同額が計上されます。計算式は以下の通りです。
未償却残高×定率法の償却率(調整前償却額)=減価償却費
〈上記の金額が償却保証額に満たなくなった年分以後〉 改定取得価額(※1)×改定償却率(※2) |
※1 調整前償却額が初めて償却保証額に満たないこととなる年の期首未償却残高
※2 改定取得価額に対して、その償却費の額がその後同一となるように当該資産の耐用年数に応じた償却率
100万円で購入した物品で耐用年数が10年の場合を例に、計算してみましょう。
①償却保証額を求めます
1,000,000円×0.06552(保証率)=65,520円(償却保証額) |
②経過年数ごとに償却額を求めます
1年目 | 1,000,000円×0.200=200,000円 |
2〜6年目 | 1,000,000円ー(前年までの償却費の合計額)×0.200 |
「0.200」という数値は、耐用年数10年の定率法の償却率です。
7〜9年目 | 262,144円(改定取得額)×0.250(改定償却率)=65,536円 |
10年目 | 65,536円(10年目の残存価格)ー1円=65,535円 |
7年目以降になると、「改定取得価額×改定償却率」の式で計算しているのは、償却保証額に満たなくなるためです。
減価償却費 計算の注意点
減価償却の対象となる資産でも、耐用年数が過ぎる前に処分した場合や、中古品を購入した場合には、計算や処理の仕方が変わってきます。それぞれのケースごとに見ていきましょう。
期中に購入した場合
購入した月の翌月からが、減価償却費の計算対象となるため、年の途中で購入した場合には計算方法が異なります。
個人事業主の場合、一般的には定額法での計上になるため、定額法の場合の計算方法を説明していきます。
〈10月に100万円の小型車を購入した場合〉
①1年目の減価償却費を計算する(通常の定額法の計算方法) 購入価格×償却率=① 1,000,000円×0.100=100,000円 ②1年目の減価償却費を計算する ①×3ヶ月÷12=3ヶ月使用した分の減価償却費 100,000円×3ヶ月÷12=25,000円 |
使用月を基準に考えるので、月の途中に購入した場合でも、その月の最初から使用しているとみなします。
期末に購入した場合
減価償却資産を購入するのが、期末日(決算日)を超えてしまうと、減価償却費として計上することはできません。確定申告の決算日は、12月31日となります。そのため、その年の確定申告で減価償却費を計上したい場合には、12月31日を超えないように注意しましょう。
なお、計算方法は期中に購入した場合と同様です。
中古で購入した場合
中古商品の購入にあたって、資本的支出の金額が購入価格の50%を超えた場合は新品と同じ耐用年数となります。普通に中古商品を購入した場合の計算方法は以下です。
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ただし、年数に1年未満の端数がある場合は切り捨てを行います。また、算出された耐用年数が2年に満たない場合には2年とします。
では、法定耐用年数が20年で、経過年数が5年の中古資産の場合を例に計算してみましょう。
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購入したものを事業と家庭の両方で使う場合
減価償却資産を事業と家庭、両方で使用する場合には、「事業専有割合」を算出する必要があります。
居住兼事務所である住宅建物や、自動車がこのパターンに当てはまることが多いでしょう。事業とプライベートの利用割合は、「家事按分」で算出します。
減価償却が終わった場合
減価償却が終了するまでの間に売却、譲渡、廃棄などの処分をしない限り、固定資産の対象となります。償却後は、備忘価額の「1円」が計上され続けることになります。
除却する場合
事業で使用し続ける場合に、1円の計上でも除却すると、取得価額と減価償却累計額を立てているのに放置していることになってしまします。帳簿から除却したい場合には、その資産を廃棄するか新しい対象商品などを購入した時が良いタイミングです。
減価償却の特例について
減価償却費は、耐用年数に則って毎年の確定申告で計上する必要があります。しかし、一括や短期間で経費として計上した方が、その年に経費として計上できる金額が増えます。
そんな時に利用できるのが、「少額減価償却資産の特例」と「一括償却資産」です。では、それぞれの特例についての詳細や適用方法について詳しく見ていきましょう。
中小企業者等の少額減価償却資産の特例
30万円未満の資産を取得した場合、「少額減価償却資産の特例」の対象となり、30万円未満の資産を減価償却することなく、一括で経費として計上できます。なお、この特例を利用する場合、必ず青色申告をしなければなりません。
ただし、申告する年度の少額減価償却合計額は300万円が限度となるため、300万円を超える部分は計上できません。
下記に適用対象をまとめています。
〈適用法人〉
上記のどちらかに当てはまる法人 |
少額減価償却資産の特例は、中小企業者等にのみ認められているものなので、注意が必要です。
〈適用を受けるための手続き〉
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2、3はどちらかを行ってください。
明細を添付する場合には、以下のように記載します。20万円のパソコンを購入した場合を想定しています。
また、以下の場合には少額減価償却の特例対象外となるため注意しましょう。
〈適用対象外〉
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一括償却資産
減価償却資産を10万円以上20万円未満で取得した場合、「一括償却資産」の適用対象になります。使用開始し、一括償却資産として計上した年から3年にわたり、合計金額を3分の1ずつ必要経費として計上することができる特例です。実際の耐用年数より短い年数で償却できるため、各年で経費として計上できる金額が増えます。
耐用年数の判断が難しいスマートフォンは、一括償却するのが良いでしょう。
では、それぞれの記載方法を「12月末までに、10万円のパソコン3台を購入した」場合を例に見ていきましょう。
個人事業主の場合
法人の場合
また、少額減価償却と違い以下のようなメリットがあります。
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確定申告書の書き方
減価償却資産を計上する場合は、青色・白色どちらの場合も確定申告書への記載が必要です。
では、青色申告書と白色申告書への減価償却の記載方法について詳しく解説していきます。
青色申告の場合
青色申告決算書への減価償却費は、3枚目「減価償却費の計算」の欄に記載します。以下は、2019年度分の申告書で、1月に法定耐用年数9年の車を200万円で取得した場合の記載例です。
各項目への記載内容を詳しく説明します。
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さらに詳しく知りたい場合には、以下のサイトで確認できます。
白色申告の場合
白色申告の場合は、2枚目の「収支内訳書」、「減価償却費の計算」の欄に減価償却費を記載します。青色申告と同様、2019年度分の申告書で、1月に法定耐用年数9年の車を200万円で取得した場合を記載例とします。
記載方法は、青色申告決算書と同様です。
確定申告の減価償却:まとめ
減価償却費の計算は、耐用年数や取得年月日によって異なります。様々なケースが考えられますのが、複雑な場合が多く、個人での算出は難しい場合が多いです。
確定申告で確実に減価償却費を計上するためには、一度プロに相談してみるのが良いでしょう。ミツモアでは、確定申告に詳しい税理士に相談できるので、ぜひ相談や見積もりの依頼に利用してみてください。
監修税理士のコメント
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