株式会社の役員になった時、会社から受け取れるのが役員報酬です。自分で会社を設立した時には自分で役員報酬を決めることができますが、金額をいくらに設定したらよいかがわからないことも多いと思います。この記事では役員報酬の性質や決め方などの基本的な知識をおさえましょう。
この記事を監修した税理士
越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山
役員報酬とは
役員が会社から受け取るお金を役員報酬と言います。役員報酬は会社が必ず支払うことになるお金なので、会社を設立する時には役員報酬の性質を知っておきましょう。
役員報酬とは
役員報酬は会社の役員が業務執行の対価として受け取るお金です。会社法で定められている役員は「取締役」「監査役」「会計参与」の3つになります。
会社の役員は法務局で登記されていますが、役員報酬をもらう役員は登記されている役員に限りません。たとえば、執行役員は登記されている役員ではありませんが、役員報酬を受け取ることができます。
損金算入できる役員報酬の種類
損金算入できる役員報酬には次の3種類があります。
定期同額給与
役員に毎月支払われる報酬です。役員報酬というのは、毎月同じ金額することで全額損金に算入できます。言い換えると、定期同額でない部分は損金に算入できないのです。損金とは税金の計算上経費にできる費用になります。
事前確定届出給与
損金として計上するためにあらかじめ税務署に届出をしておく給与のことで、いわゆるボーナスになります。役員にもボーナスを支給できますが、事前に届出をしていなければボーナスを損金に参入できません。
業績連動給与
同族会社でない会社の場合、その事業年度の利益に関する指標を基準として、役員に業績連動給与を支給することができます。
以前は利益連動給与と呼ばれていましたが、平成29年度の税制改正により指標の選択肢が拡大されたことに伴って、業績連動給与と名称も変更になりました。
従業員給与との違いは?
会社の業務を行った対価として支給されるものには、従業員給与もあります。従業員給与は役員ではなく従業員が受け取るものです。従業員給与と役員報酬では、損金に算入できる金額に違いがあります。
従業員給与は不相当に高額でなければ、全額損金に算入可能です。一方、役員報酬は損金算入できる額に制限があります。つまり、役員報酬では、定期同額給与、事前届出給与、業績連動給与のみ損金算入できるということです。
従業員は自分で自分の給与額を決めることはできませんが、役員は自分で役員報酬額を決めることができます。
役員報酬におけるルール【4選】
役員報酬には制限が設けられているので、役員報酬を決める時もルールに従う必要があります。役員報酬を決める際の4つのルールを知っておきましょう。
会社設立後3か月以内に決定する
会社を設立した時には、設立後3か月以内に役員報酬を決めなければなりません。なお、役員報酬は年に1回変更できるので2年目以降は原則、事業年度開始から3か月以内の時期に役員報酬を改定することができます。
毎月同額の役員報酬を支払う
役員報酬は毎月同額でなければなりません。定期同額給与として毎月同額の部分は損金算入できますが、定期同額でない部分については損金不算入となってしまいます。
変更が可能な期間は会社設立後3か月以内
会社設立時に決めた役員報酬を変更して減額・増額したい場合、設立から3か月以内なら変更が可能です。2年目以降についても、期首に決めた役員報酬を期首から3か月以内に変更できます。
株主総会で決議を行う
役員報酬を決める時には、株主総会の決議を行わなければなりません。株主総会で役員報酬の総額を決めて、代表取締役会や取締役会が個々の役員への配分を決めるという方法も可能です。
役員報酬と役員賞与の違いは?
会社の役員に支払われるお金には、役員報酬以外に役員賞与があります。役員報酬と役員賞与は税務上異なる扱いになるのです。このパートでは役員報酬と役員賞与の違いについて分かりやすく説明します。
役員賞与とは
役員賞与とは役員が受け取るボーナスです。ご存じの通りボーナスは毎月の給与とは別に会社からもらえるお金で、日本では夏と冬の2回支給がある会社が多くなってきています。
ボーナスをもらえるのは会社の従業員だけではありません。役員も会社からボーナスの支給を受けることができます。
役員報酬と役員賞与の違い
役員が会社から受け取るお金は、すべて役員報酬になるわけではありません。会社法上は役員賞与も役員報酬に含まれますが、税務上では両者には違いがあります。
税務上の役員報酬の定義は役員に対する給与のうち、賞与及び退職給与(退職金)を除いたものです。そして、役員に対し退職金以外で臨時に支給されるお金は、役員賞与と呼ばれます。
課される税金の違いは?
「損金算入できる役員報酬の種類」のパートで述べた3つの役員報酬は全額損金に算入可能です。これに対し、役員賞与は原則として損金に算入できません。
会社が負担する法人税などの税金は、益金から損金を引いた所得に課税されます。
たとえば、役員に対して会社から年間600万円を支払う場合、全額を役員報酬として支払うか、一部を役員賞与として支払うかで、次のような違いが生じます。
役員報酬として毎月50万円を支給した場合 | 600万円全額損金算入可能 |
役員報酬として毎月40万円を支給し、役員賞与として60万円を夏と冬の2回支給した場合 | 480万円のみ損金算入可能 |
なお、役員賞与もあらかじめ税務署に届けておいてから支払いをすれば、事前届出給与となり損金算入が可能です。
役員報酬が決まるまでの流れ
役員報酬の金額は社長が1人で勝手に決めてよいものではありません。株式会社の実質的なオーナーは株主なので、役員報酬を決める時にも株主の意見を聞く必要があります。役員報酬が決まるまでの流れを知っておきましょう。
株主総会で役員報酬の総額を決定
株主総会で役員報酬を決定する場合、一般的には定時株主総会で議決をとります。会社は新しい事業年度が開始したら3か月以内に定時株主総会を開催しなければならないので、その際に新年度の役員報酬についても決めるのがスムーズです。
株主総会で決めるのは、役員報酬の総額でかまいません。個々の役員への支払い額については、取締役会や代表取締役に一任することができます。
しかし、株主総会で役員報酬の総額しか決めなかった場合、問題として挙げられるのは、株主が個々の役員の報酬額を知ることができないということです。そのため、取締役会や代表取締役への一任ができないようにする法改正を求める議論もされています。
取締役会で各役員の役員報酬を決定
株主総会で個々の役員の報酬額決定を委任された取締役会では、取締役の話し合いにより配分を決めます。取締役会の決議で代表取締役に一任することも可能です。
役員報酬を決める際の注意点
会社を設立して初めて役員報酬を決める時には、相場や平均額もわからず、何を基準にすべきかはっきりしないかもしれません。役員報酬を決める際に注意しておいた方がいいのは、次のような点です。
役員報酬を経費にできる額にする
役員報酬が毎月同額の場合、損金に算入できる役員報酬は全額です。また、事業年度の途中で役員報酬を増額した場合、増額した分の役員報酬は損金に算入できません。役員報酬を決める時には、定められたルールを守りましょう。
使用人兼務役員は税務調査の対象になりやすい
会社に使用人兼務役員の立場の人がいる時には、使用人兼務役員の扱いに注意しましょう。使用人兼務役員とは、取締役部長のように、役員の業務を行いながら従業員としての仕事もしているような人を指します。
使用人兼務役員は使用人としての給料の部分は定期同額給与の制約を受けずに済むほか、残業手当や賞与も支給できるなど、税務上有利です。ただし、税務調査の対象になりやすいので注意しておきましょう。
正確な損益の予測をたてる
役員報酬を決めるためには、売上や利益を正確に予測しなければなりません。役員報酬は会社の利益の中から支払うべきものです。利益が出ていないのに高額の役員報酬を支払うことになると、資金繰りが厳しくなってしまいます。
役員報酬が上がるにつれて法人税は減額される
役員報酬の金額をいくらに設定するかは、法人税などの税金や社会保険料に影響します。役員報酬を決める時には、税金等の負担も考慮しながら金額を設定するようにしましょう。
役員報酬別の税金
役員報酬は損金算入できるので、役員報酬の金額を大きくすると法人税等の会社が負担する税金を安く抑えることが可能です。一方、役員報酬の金額が大きければ、役員個人の所得が増えることになり、個人の所得税や住民税が高くなってしまいます。
さらに、社会保険料についても考慮しなければなりません。社会保険料は会社と個人で折半して支払うものですが、役員報酬が高くなると社会保険料は上がってしまいます。
役員報酬を決める時には、次の表のようにかかる税金や社会保険料をシミュレーションしてみて、節税効果の高い金額にするのがおすすめです。
<法人の支出>
役員報酬400万円 | 役員報酬600万円 | 役員報酬800万円 | 役員報酬1,000万円 | |
法人税等 | 1,298,600円 | 756,200円 | 247,800円 | 74,500円 |
社会保険料 | 606,800円 | 910,200円 | 1,213,600円 | 1,517,000円 |
法人の支出計 | 1,905,400円 | 1,666,400円 | 1,461,400円 | 1,591,500円 |
<個人の支出>
役員報酬400万円 | 役員報酬600万円 | 役員報酬800万円 | 役員報酬1,000万円 | |
所得税・住民税 | 250,700円 | 511,400円 | 800,500円 | 1,100,900円 |
社会保険料 | 596,000円 | 894,000円 | 1,192,000円 | 1,490,000円 |
個人の支出計 | 846,700円 | 1,405,400円 | 1,992,500円 | 2,590,900円 |
監修税理士のコメント
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