会社の取締役や執行役などに支払われる役員報酬には、給与所得と同様に税金が発生します。また自ら起業して自身に役員報酬がかかる場合、税金の額を計算して自分で納税しなければなりません。
役員報酬にかかる税金の種類から計算方法、納付手続きまで、わかりやすく解説します。
役員報酬にはどのような税金がかかるの?
役員報酬には所得税や住民税がかかります。役員報酬は税制上、給与所得と同様に扱うためです。
役員報酬は源泉徴収が必要?
給与所得と同様に、役員報酬は源泉徴収が必要です。年末調整を通じて会社側で所得税を確定させて納税を行います。そのため確定申告の必要は基本的にありません。
この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
役員報酬にかかる税金
役員報酬は税制上は給与所得と同じ扱いのため、所得税、住民税といった税金がかかります。いずれも毎月の報酬分から源泉徴収を行って、天引きされた後の金額が役員の手元に渡ります。
また健康保険や厚生年金といった社会保険料も、給与所得と同様に源泉徴収を行わなければなりません。
所得税 | 役員報酬の金額に応じて所得税を源泉徴収します。 |
住民税 | 特別徴収の金額を天引きします。 |
社会保険料 (健康保険、厚生年金) | 役員報酬の金額に応じた社会保険料の自己負担分を天引きします。 |
役員報酬にかかる税金と源泉徴収の計算方法
役員報酬は基本的に源泉徴収されます。もしも起業して間もない起業家の場合であれば、自身の役員報酬にかかる源泉徴収額の計算が必要です。
所得税の計算方法
所得税は次の計算式で求められます。
所得税額=課税所得(所得金額-所得控除)×税率-税額控除額 |
ここでは役員報酬月50万円(年収600万)、35歳、専業主婦の妻と東京都でふたり暮らしと仮定してシミュレーションをしてみましょう。
1.所得金額から所得控除を引いて、課税所得を算出する
今回の場合、給与所得控除額164万円の他、所得控除の内容として、基礎控除48万円、社会保険料控除84万6,000円、配偶者控除38万円なので、所得控除額は334万6,000円になります。
課税所得=所得金額-所得控除
課税所得=600万-334万6,000円=265万4,000円 |
上記の計算式から課税所得額は「265万4,000円」と算出されます。
2.所得税率をかけて、税額控除額を引く
所得税率および所得税は、国税庁の速算表で簡単に出すことが可能です。
今回のケースであれば課税所得額が「265万4,000円」なので、税率は「10%」、税額控除額は「9万7,500円」になります。
所得税額=課税所得×税率-税額控除額
所得税額=265万4,000円×10%-9万7,500円=16万7,900円 |
上記の計算式から、所得税額は「16万7,900円」と算出できます。
住民税の特別徴収は市区町村より通知される
住民税の支払いには年4回に分けて自分で支払う「普通徴収」と毎月報酬から天引きされる「特別徴収」がありますが、役員報酬に関しては特別徴収が義務づけられています。
市区町村が計算した住民税額は、毎年5月に「特別徴収税額通知書」として送付されてきます。
通知書には6月から翌年の5月までの税額が記載されており、6月以降は記載金額に基づいた金額分を役員報酬から天引きしていかなければなりません。
社会保険料は表を見るだけでOK
社会保険料は役員報酬の金額や役員の年齢、都道府県によって変わってきます。このように書くとめんどくさそうですが、全国健康保険協会のウェブサイトの表を見るだけで確認できるので大丈夫です。
たとえば東京都であれば、下記のような社会保険料表になります。表に記載されている「介護保険第2号被保険者」は40歳以上64歳以下の方を指します。
社会保険料は会社と折半することになるので、自分の報酬、条件にあてはまる折半額を見ると健康保険料、厚生年金保険料ともに確認することができるのです。
各都道府県別の健康保険料額は全国健康保険協会のホームページから参照できます。
役員報酬にかかる税金などの納付手続き
源泉徴収税(所得税)と特別徴収税(住民税)は、原則として報酬支払月の翌月10日までに納付しなければなりません。しかし「納期の特例」制度を適用すれば、いずれも年2回の納付で済ませることが可能です。
社会保険料は報酬支払月の翌月末までに納付します。
所得税と住民税は報酬支払い月の翌月10日までに納付
【所得税】
役員報酬から源泉した所得税は、源泉した月(報酬を支払った月)の翌月10日までに所轄の税務署に納付します。
「所得税徴収高計算書」に金額を記載して、税務署か銀行、もしくは郵便局で支払います。なおe-Taxを利用したキャッシュレス納付も可能です。
【住民税】
住民税も源泉した月(報酬を支払った月)の翌月10日までに納付します。
納付先は報酬をもらう人が居住している市区町村です。市区町村から送られてくる納付書を使って金融機関で納付します。e-TAXの地方税共通納税システムを使ったキャッシュレス納付も可能です。
「納期の特例」制度を適用すれば年2回の納付に
「納期の特例」制度を適用すれば、納付手続きを毎月ではなく年2回に減らせます。所得税も住民税も、この特例を利用できるのは給与支給人員が常時10人未満である場合のみです。
【所得税】
所得税の特例を適用したい場合は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出します。認められた場合の納期限は以下の通りです。
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原則として提出した翌月に支払う給与から適用されますので、提出月はまだ適用できない点に注意してください。
【住民税】
住民税の特例を適用したい場合は、「特別徴収税額の納期の特例に関する承認申請書」(自治体によって正式名称は若干異なる)を自治体に提出します。認められた場合の納期限は以下の通りです。
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社会保険料は報酬支払い月の翌月末までに納付
役員報酬から源泉した社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)は、報酬を支払った月の翌月末までに納付します。
年金事務所から送られてくる保険料納入告知書を持って金融機関で支払うか、手続きをすれば口座振替も可能です。
口座振替を希望する場合は届出の用紙を年金事務所より入手し、必要事項を記入した上で口座振替をする銀行の確認を受けた後に提出します。
役員報酬と給与にかかる税金の違い
役員に支払われる「役員報酬」と一般社員に支払われる「給与」には、税務上の取り扱いに関して大きな違いがあります。給与は全額損金に算入できるのに対して、役員報酬は一定の条件内でなければ損金に算入できません。
「益金-損金=法人税の課税対象金額」なので、損金に算入することができれば、結果として法人税を減らすことができます。
役員報酬を全額損金算入できるようにしてしまうと、役員報酬を過剰に増やして、法人税を減らす調整に利用されてしまう可能性があるからです。
損金算入できる3つの種類
役員報酬を損金に算入できるパターンとして以下の3つがあります。
・定期同額給与:役員報酬は毎月一定額を支払う必要があります。たとえば、毎月30万円の役員報酬を支払っていて、期末月だけ100万円に増やした場合、30万円までしか損金に算入することができません。
・事前確定届出給与:いわゆる一般社員で言うところの「ボーナス」に似た報酬です。事前に「支払時期」と「金額」を税務署に申告することで、損金に算入することができます。事前に申告をしていない役員賞与は損金に算入できません。
・利益連動給与:有価証券報告書に記載された事業年度の利益に関する指標を基準にして支払われる役員報酬です。利益確定後、1ヶ月以内に支払われる必要があります。
役員報酬を受け取る役員の範囲
役員報酬を支払う対象になる役員は取締役、執行役、会計参与、監査役などです。それぞれの役割は以下のとおり。
・取締役:取締役は業務遂行に関する意思決定を行う役員です。すべての株式会社で設置する必要があり、取締役の中から「代表取締役」が選出されます。
・執行役:執行役はその名の通り、業務を執行する役員です。名前の似た制度で、執行役員がありますが、執行役が法律上の役員にあたるのに対して、執行役員は法律上の根拠がないという違いがあります。
・会計参与:会計参与は取締役と共同して計算関係書類を作成する役員です。税理士、公認会計士、または税理士法人、監査法人以外はなることができません。
・監査役:監査役は取締役の職務に不正がないか調査、報告し、不正行為が発覚した場合、差し止め請求を行う権限を持つ役員です。
役員報酬の金額の決め方【相場も紹介】
役員報酬の金額を決める際は、税金と生活費、そして付加価値分配比率のバランスを取ることが大切です。また役員報酬を決める際にはいくつかのルールを押さえておかなければなりません。
役員報酬の金額を決める際の手順
役員報酬の決定は、株主総会をとおす必要があります。また、損金算入をする際には、前述したようなルールがあるので注意が必要です。ここでは主に2つの注意点に関して書きます。
事前確定届出給与:繰り返しになりますが、税務署に事前申告しなければ損金に算入することができません。
定期同額給与:こちらは毎月一定額を支払う必要があると前述しましたが、事業年度開始の日から3か月以内の変更であれば全額損金に算入することができます。期間外で報酬を変更することも可能ですが、その場合損金算入できない役員報酬が発生してしまいます。
役職報酬の金額を決めるときはバランスが大事
役員報酬の金額を決める際は、主に「生活費」「所得税・住民税・社会保険料・法人税」「付加価値分配比率」の3点からバランスを考えるとよいです。
生活費
役員報酬は役員、また役員の家族の生活費となる報酬です。当たり前ですが、生活に不自由しない金額というのが役員報酬を考える上でのひとつの基準になるでしょう。
所得税・住民税・社会保険料・法人税
役員報酬を高くすればするほど、所得税、住民税といった個人にかかる税金は高くなります。
また、労使折半する社会保険料に関しては、役員報酬を高くすればするほど、会社も個人も負担が大きくなります。
一方、法人税に関しては、役員報酬を損金算入することで小さくすることができるでしょう。
これらのバランスを考えて、役員報酬を決定するのも重要です。このあたりは税理士に相談すると最適なバランスを提案もらえるでしょう。
付加価値分配比率
「付加価値分配比率」と書くと少し難しそうですが、簡単に言えば、役員報酬が高すぎると従業員の立場からすると「もらい過ぎだろ!」となるという話です。
付加価値の考え方はいくつかありますが、ざっくりと付加価値=粗利と考えておくと、だいたいのイメージはつかめるでしょう。
利益をどのように分配すれば公平な感じになるかを考えて役員報酬を決定しましょう。こちらは労働集約型か資本集約型かなど、会社のモデルによって適性と言われる額が変わりますので、やはり税理士に相談するとよいと思われます。
中小企業の役員報酬の相場は?
あくまで参考値ですが、「平成29年度分 民間給与の実態調査結果」によると資本金ごとの男女別の相場は下記のようになっています。
資本金 | 男性 | 女性 |
2,000万円未満 | 649.2万円 | 388.7万円 |
2,000万円以上 | 1,001万円 | 514.5万円 |
5,000万円以上 | 1,157.6万円 | 596.4万円 |
1億円以上 | 1,555.9万円 | 687.6万円 |
役員報酬の金額の変更は株主総会での決議が必要
役員報酬の変更は、役員報酬の決定時と同様に、株主総会での決議が必要です。また、議事録を保管しておかないと、税務調査に入られた際に損金算入を否認されてしまう可能性があるので注意しましょう。
監修税理士からのコメント
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
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