「利益剰余金」という言葉をご存知でしょうか?
わかりやすく言うと、利益剰余金とは企業が生み出した利益を積み立てたお金のことです。外部に分配されることなく、会社内に留保している状態のものを指します。決算書を読み解いて経営状況を判断するうえで非常に重要な項目です。
利益剰余金とは何か、その内訳や経営判断の際のポイントなどをわかりやすく解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
利益剰余金とは
「利益剰余金」とは企業が生み出した利益のうち、会社内部に蓄積されている金額のことです。株主資本の一部で、貸借対照表では純資産の部に記載されます。利益剰余金は「利益準備金」と「その他利益剰余金」から構成されます。
利益が増えて利益剰余金が増加すると自己資本の額も増加し、安全性の高い会社だとみなされます。反対に、赤字決算が続いて利益剰余金が少なくなったり、マイナスになったりしていれば、厳しい経営状況にあると判断可能です。
剰余金は会社の安定や成長、株主への配当のために存在する
剰余金は財務の安定・経営の成長・株主に対する配当などのために存在します。払込資本にはあたらないため、会社法上、分配できる項目です。
剰余金は「資本剰余金」と「利益剰余金」の2つに区分することができます。資本剰余金は資本取引の結果生じる剰余金のことです。資本準備金とその他資本剰余金に区分されます。
一方、利益剰余金は会社の活動によって得た利益のうち、社内に留保している金額です。利益準備金とその他利益剰余金から構成されています。
利益剰余金は内部留保と呼ぶことも
利益剰余金は「内部留保」と呼ばれることもあります。ただし「内部留保」という言葉は簿記で用いられる勘定科目ではありません。
そのため上場企業が公表する決算書の中を探しても、内部留保という言葉は出てこないのが一般的です。しかし内部留保は企業の経営を安定させる側面があることから、非常に大きな意味を持つ数値であるといえます。
例えば、最近は新型コロナウイルス感染症拡大により、経営に大きなダメージを受けた企業が少なくありません。従業員への給与や固定費の支払いなど、これまで以上に手元資金の重要性が高まっています。結果として内部留保(利益剰余金)の重要性が、改めて注目されているのです。
利益剰余金の内訳
利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金から構成されています。
会社が得た利益から利益準備金を計上せずに株主へ配当を行なえば、債権者への支払いに悪影響を与えます。そのため利益準備金は会社法によって配当時に積み立てると定められている金額です。
一方、その他利益剰余金は各種任意積立金と繰越利益剰余金から成立しています。
利益準備金
利益準備金については、会社法第445条第4項によって「剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に十分の一を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。」と規定されています。
利益準備金は株主総会の普通決議によって、取り崩しができる金額です。利益準備金を減少する場合には、原則として債権者保護の観点から、債権者に対して公告および催告を行なって、債権者が利益準備金の減少に対して、債権者保護手続として異議を申し立てる機会を与えなければなりません。
ただし欠損てん補に充てるなどの事情があり、債権者保護の必要性がない場合には、この手続きは不要です。
その他利益剰余金
会社は事業活動によって得た利益を、基本的には毎年、積み重ねて企業内に蓄積していきます。その他利益剰余金は利益剰余金の中から、会社法によって積み立てを義務づけられている利益準備金を除いた部分のことです。
その他利益剰余金はさらに、任意積立金および繰越利益剰余金の2つに分類することができます。
任意積立金
任意積立金は利益準備金とは別に企業が自主的に積み立ててきた金額であり、予期せぬ損失に備えて留保されている利益です。
任意積立金には次のような積立金が含まれます。
【別途積立金】
特定の利用目的に限定せずに、将来の何らかの使途のために積み立てておく金額です。利益留保に適しています。取り崩す場合は株主総会決議を経る必要があり、キャッシュフロー計算書に別途積立金減少の事実を記載しなくてはなりません。
【配当平均積立金】
企業が業績不振に陥った場合にも、一定の配当額を維持できるようにあらかじめ積み立てておく積立金です。業績が好調なときに積み立てておき、必要に応じて取り崩します。
取り崩す場合には、基本的に取締役会決議を経て、キャッシュフロー計算書にその事実を記載すれば問題ありません。一方目的外の取り崩しの場合は、株主総会決議が必要です。
【圧縮積立金】
法人税法または租税特別措置法上の圧縮記帳の会計処理として、積立金方式で固定資産などの取得価額を圧縮する場合の積立金です。
【特別償却準備金等】
租税特別措置法上の特別償却または割り増し償却の規定の適用を受ける場合に、積立金方式で積み立てた金額です。
繰越利益剰余金
繰越利益剰余金は利益剰余金から利益準備金を除いたその他利益剰余金の内、任意積立金以外の金額です。
大雑把に説明すると、利益剰余金からの配当や振替がないとすれば、毎年損益計算書で計上される当期純利益を積み上げていくと、繰越利益剰余金の金額になります。
純資産の部には会社に出資されたお金の内、最も重要なものである資本金という勘定科目があります。一方、繰越利益剰余金は、企業が1年間の活動を終えた時点で、株主への配当もしておらず、必要性を意識して目的を持って積み立てもされていない金額です。
利益剰余金の多さ=経営体質のよさ
利益剰余金が多いということは、自己資本である純資産の部が多いということです。自己資本が多い会社は財政の安全性が高い会社だといえます。
内部留保として計上される利益剰余金は、本業が順調であれば、年々増え続けるはずです。利益剰余金が増えれば、自己資本が増えます。経営体質そのものが良い状態の企業だといえるでしょう。
利益剰余金の目安
その会社の利益剰余金が多いか・少ないかを判断する上では、会社の創業年数も関係します。仮に配当や振替がないとすれば、利益剰余金の金額を会社が今まで創業してから現在までの年数で割ることで、毎期の平均的な利益の金額を算出できるでしょう。
例えば決算書の利益剰余金が30,000千円であり、それが20期目の決算書であれば、毎期の平均利益=30,000千円 ÷20年 =1,500千円という計算になります。
日本の会社の利益剰余金比率は、ここ10年で大きく上昇傾向です。
利益剰余金比率が安全性を表す指標になる
利益剰余金が多いか・少ないかの判断するひとつの方法として、全業種の中央値と比較する方法があります。ある統計によれば利益剰余金比率の中央値は「約35%」でした。利益剰余金比率は利益剰余金の金額を総資本で割ることで計算されます。
利益剰余金比率を見ることで、倒産しそうな会社なのか安心して取引できる会社なのかの把握がある程度可能です。利益剰余金比率が高ければ高いほど、安全性の高い会社ということができます。
日本の会社の利益剰余金比率が上昇している理由は、企業業績の改善で利益が増加し、結果として利益剰余金が増えたためです。ただし一方で、利益剰余金を従業員に還元し給料等を上げるべきであるという声もあります。
利益剰余金のマイナスは経営状態の悪化を示す
利益剰余金のマイナスは経営状態の悪化を示します。利益が出続けている会社は利益剰余金がマイナスにならないためです。つまり、利益剰余金のマイナスは赤字経営になってしまっていることを表します。
更に利益剰余金のマイナスが、株主からの支持を得るための過剰な配当を実施していることを理由として生じている可能性もあるのです。
赤字経営【具体例①】
赤字経営による利益のマイナスは利益剰余金の取り崩しへと繋がります。そのため今まで積み重ねてきた利益=利益剰余金がマイナスになってしまう場合もあるのです。損失の額が大きければ大きいほど、利益剰余金が減っていきマイナスになる額も大きくなってしまいます。
法人の場合は利益剰余金がマイナスになったからといって、すぐに債務超過(純資産の合計がマイナスになること)になるとは限りません。しかしこのまま損失が出る状態が続けば、債務超過になる可能性は高まるため、注意が必要です。
過剰な配当【具体例②】
日本では過剰な配当を実施することだけで、利益剰余金がマイナスになることは起こりません。なぜなら会社法によって財源規制が定められており、債権者保護のため、剰余金の配当に回せる分配可能額が設定されているからです。分配可能額は以下の通り、求められます。
【分配可能額の計算式】
分配可能額=①分配時点における剰余金の額-②分配時点の自己株式の帳簿価額-③事業年度末日後に自己株式を処分した場合の処分対価-④その他法務省令で定める額 |
【分配時点における剰余金の額の計算式】
分配時点における剰余金の額=①決算日における剰余金の額+②最終事業年度末日後の自己株式処分損益+③最終事業年度末日後の減資差益+④最終事業年度末日後の準備金減少差益-⑤最終事業年度末日後の自己株式消却額-⑥最終事業年度末日後の剰余金の配当額-⑦法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額 |
少なくとも日本では、過剰な配当により利益上剰余金が余り留保できていない状態で、かつ、損失が発生したときに利益剰余金がマイナスになるのだと認識しておいて下さい。
マイナスになったときの配当は?
業績が悪化すると利益剰余金がマイナスになる場合があります。利益剰余金がマイナスであっても、株主の信頼を失わないために配当をしなければならないケースもあります。そこで、利益剰余金のマイナスを補填すべく資本金や資本準備金から充当します。
株主への配当を含めた補充した金額を資本金から「その他資本剰余金」に振り替えた後、利益剰余金への補填を行なう「欠損てん補」によって配当が行なわれるのです。
ただし配当を行なう場合には会社法上、配当できる金額は「剰余金の分配可能額」の範囲内とされているため、注意が必要です。
その他資本剰余金による欠損てん補が可能
資本剰余金の利益剰余金への振替は、企業会計原則で禁じられている「資本と利益の混同」に当たるため、企業会計上、原則として認められていません。しかし利益剰余金の額がマイナスである(欠損の)場合、そのマイナスの範囲内でその他資本剰余金から利益剰余金に振り替えること(補填)が認められています。
いつの時点でのマイナスの額が基準になるかというと、確定した(直近の定時株主総会で承認を受けた)貸借対照表上の利益剰余金のマイナスの金額が基準です。
当事業年度にて欠損となることが予想されているからといって、まだ確定していないその欠損の額についてその他資本剰余金からてん補することは認められていない点には注意してください。
利益剰余金と当期純利益の関係
損益計算書で計上される当期純利益は、貸借対照表では利益剰余金として積み上がっていきます。
当期純利益は売上など全ての収益から、人件費・販売費などの全ての費用を差し引いた金額です。「当期純利益=税引前当期純利益(税金を引く前の企業の利益)-法人税等±法人税等調整額」で計算されます。
利益剰余金と当期純利益は貸借対照表と損益計算書の両方に関係しています。損益計算書の当期純利益が繰越利益剰余金として積み上がっていき、それが貸借対照表の利益剰余金になるのです。
利益剰余金の求め方
利益剰余金は、前期までの利益剰余金と当期純利益を積み上げた金額です。以下の計算式で求められます。
【利益剰余金の計算式】
利益剰余金=過去に蓄積された利益+当期に計上した純利益 |
利益剰余金がプラスであり株主に配当が行なわれれば、利益準備金が積み立てられます。別途積立金を積み立てた後の剰余金は、繰越利益剰余金として計上される金額です。
【繰越利益剰余金の計算式】
繰越利益剰余金=(当期純利益+繰越利益)-配当額-利益準備金-別途積立金 |
子会社に利益剰余金が計上されている場合は、連結決算で処理されます。連結決算では個別の財務諸表を合計した後、連結修正仕訳を行なうことがポイントです。
個別決算を合算し、金額に連結修正仕訳で金額を加減した後、連結財務諸表が作成されます。
利益剰余金の使い道
企業が生み出した利益は事業の拡大や株主への利益還元など、さまざまな用途によって処分されます。
株主配当
会社は株主ものであるという考えのもと、利益が余っているのであれば配当として還元しなければなりません。社員の給与を増やしたり、設備投資に回したりする前に多くの場合で株主への配当が優先されます。
また、株主へ配当を行なう際には、会社法上利益剰余金から配当の1/10を資本金の1/4に達するまで利益準備金として計上しなければなりません。
設備投資
事業を拡大する目的で設備投資に使用されます。購入した設備は資産として計上し、法定耐用年数に沿って減価償却で毎年少しずつ費用として計上します。
賃金引き上げ
社員への賃金引き上げで利益を処分する場合もあります。ただ、実際には利益剰余金を賃上げに使用されることは少ないのが現状です。多くの企業では事業を拡大するための設備投資や、将来の不測の事態に備えて資金を蓄えておくことを優先します。
資本組み入れ
会社が資本金を増やしたいとき、その他利益剰余金である任意積立金を資本金に組み入れる方法が使われる場合があります。任意積立金とは、もともと繰越利益剰余金から振り替えられた資金であり「会社に余っていたお金」と考えればよいでしょう。
つまり、任意積立金を利用すれば新たに出資せずとも資本を増やせるわけです。ただ、期中に資本金を増やしたい場合には利益剰余金を資本金に組み入れることはできません。確定した貸借対照表に計上されている剰余金のみ組み入れできるのです。
利益剰余金の配当と処分
利益剰余金の配当と処分について説明します。配当も処分も利益剰余金の使い方を表しています。
配当は社外に財産が流出し、株主に分配されることを指します。処分は社内に財産が残るような使い道、具体的には、任意の積み立て・準備金の計上・利益の繰越などのことです。
配当時の利益準備金積立額の計算や配当と処分の際の仕訳例についても説明します。
配当は外部流出で処分は内部留保
利益剰余金の配当では社外に財産が流出し、処分では社内に財産が残ります。
配当は株主へ利益の分配をすることです。言い換えると財産が社内から株主という社外に流出することに繋がります。一方「処分」は、利益剰余金を他の勘定科目に振り替えるなど、社内で使われる内部留保です。
具体的には「利益準備金」や「任意積立金」への振替を表します。使い道が決まらなかった分は、繰越利益剰余金として次期以降へ繰り越される金額です。
配当時の利益準備金積立額の計算
それでは株主へ配当をした場合に積むべき利益準備金積立額の計算を見ていきましょう。
会社法では「利益準備金として、配当金額の10分の1を確保しておかなければならない」と決められています。また限度額に関して法定準備金(利益準備金+資本準備金)は資本金の4分の1までというのが決まりです。
これらを合わせて考えると、次の1と2のいずれかの少ない金額を利益準備金として積み立てなければいけません。
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配当と処分の際の仕訳例
配当と処分の際の仕訳例について紹介します。
【黒字の場合】
例えば、期末に1,000千円の収益があり、費用は500千円であるとすると、利益は500千円です。その場合の仕訳は以下のとおりになります。
借方 | 貸方 | ||
諸収益 | 1,000千円 | 諸費用
当期純利益 |
500千円
500千円 |
当期純利益 | 500千円 | 繰越利益剰余金 | 500千円 |
【赤字の場合】
例えば期末に900千円の収益を計上し、費用は1,000千円で、100千円の損失があったとします。仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
諸収益
当期純損失 |
900千円
100千円 |
諸費用 | 1,000千円 |
繰越利益剰余金 | 100千円 | 当期純損失 | 100千円 |
【株主に配当した場合】
例えば500千円の配当をした場合の仕訳は以下のとおりになります。
借方 | 貸方 | ||
繰越利益剰余金 | 550千円 | 未払配当金
利益準備金 |
500千円
50千円 |
配当金は500千円です。しかし配当を行なった際には「資本金×1/4-(資本準備金+利益準備金)」または「配当金額×1/10」のどちらか小さい方の金額を、利益準備金として積み立てる必要があります。
今回のケースでは500千円の1/10にあたる50千円を利益準備金として積み上げるとすると、繰越利益剰余金が550千円減ることになり、上記の仕訳になります。
監修税理士からのコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通