印鑑を押していない請求書であっても法的には有効です。しかし印鑑が一切いらないという訳でもありません。印鑑を押す目的やメリットもあるため、自身が作成する請求書に印鑑は必要かを正しく判断することが大切です。
また印鑑の押し方や請求書の作成・送付方法にも押さえるべきポイントがあります。請求書や印鑑に関する正しい知識を身に付け事業に活かしましょう。
この記事の監修税理士
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
印鑑なしでも請求書は有効【PDFでもOK】
請求書の発行時に印鑑を押すのは、法的な義務ではありません。また請求書はPDFといった電子データでも有効であり、必ずしも書面である必要もないのです。
しかし請求書に押印するとトラブルの回避や信用の獲得に繋がります。これらは事業が有利に進む要因ともなるため、特別な事情がなければ押印するメリットが大きいと言えます。
請求書の押印に法的な義務はなし
請求書の押印に法的な義務はありません。印鑑なしの請求書であっても法的には有効に扱われ、請求相手には支払い義務が生じます。
また請求書は必ずしも書面である必要はありません。現在はPDFといった電子データで請求書をやりとりするケースも増加しています。電子データでのやりとりも双方で同意していれば、法律や税務調査の観点からも問題はありません。
しかし取引先によっては、請求書への押印や書面での請求を必須としている場合も存在します。そのため自己の都合で判断するのではなく、請求先に合わせて押印の有無や媒体を選択することが大切です。
押印はトラブル回避と信用獲得が目的
請求書への押印は義務ではありませんが、印鑑を押すことで「トラブル回避」と「信用獲得」に繋がります。
請求書に企業の印鑑が押されていると発行元の法律上の推定ができます。そのため押印されていない請求書よりも信頼度が向上するのです。
また請求書に押印していると、偽造のトラブルのリスクも減少します。印鑑のない請求書を偽造すると「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」を課されます。その一方で印鑑のある請求書の偽造の罰則は「3ヵ月以上5年以下の懲役」です。このように印鑑が押されている請求書を偽造する方が罰則が重いので、不正が行われにくくなると言えるでしょう。
請求書に印鑑を押す手間だけで、これらのメリットが受けられます。特段の理由がない限りは、請求書に押印した上で送付するのがおすすめです。
印鑑の種類を解説!請求書押印におすすめなのは?
請求書に押す印鑑は、シャチハタなどのゴム印以外で作成した角印を押すのが一般的です。実印や銀行印は、偽造されると大きな影響がでてしまい、シャチハタなどのゴム印は、印影が変わりやすく証明力が落ちるためです。
個人事業主の場合は、個人名の横に個人名の認印を押してもかまいません。屋号を持っている場合は、屋号の角印を押印すると、見栄えも良くなります。
ただし請求書発行の際、代表社印の押印を求められる場合もあります。官公庁など公的な機関と仕事をする場合や、金額が大きい仕事をした際などです。
請求書発行の際に角印を押印すると、契約の際に押印した丸印と異なってしまい、同じ会社の証明できないことが理由です。請求書を発行する前に、押印する印鑑に決まりがないか、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
角印
角印とはその名の通り四角い印鑑です。会社の名前が入っており、押印にはその請求書の発行者が会社のものであることを承認する意味があります。いわゆる「会社の認印」です。
社外へ発行される多くの書類には角印が押されるため、ゴム印として作られている会社もあります。
丸印(実印・銀行印)
形が丸く、印面に会社名と代表者の記載があるのが丸印です。代表者の記載は「代表取締役印」(株式会社の場合)という記載になります。会社実印、法人実印、代表社印とも呼ばれ、法人登記や契約の際に使用するとても重要な印鑑です。実印は法務局への登録が必要で、大きさなどの規定があります。
同じ丸い形で実印より一回り小さいものが銀行印です。一見すると会社実印と同じ内容に見えますが、代表取締役印などの役職名ではなく「銀行之印」という記載が入っています。会社実印と銀行印を分けるのは、盗難や紛失の際のリスクを避けるためです。
また銀行印は押印することが多く、使い続けるうちに摩耗してしまいます。実印を銀行印として使っていると、一部が欠けたり擦り減ったりすると、実印の印章が変わってしまい、使えなくなる場合もあります。これを防ぐために、実印と銀行印を分けて使っている会社が多いのです。
シャチハタ(ゴム印)
シャチハタはスタンプタイプのゴム印です。インクが浸透する仕組みがあり、インクをつけて押印する手間が省けるので、押印頻度が多く、会社の住所印や、角印に使われることが多い印鑑です。
ゴム印やシャチハタ印は劣化が起きやすく、力加減によって印影が変わる可能性があります。そのため印鑑の照合が必要な重要書類や、個人や会社を確認する書類、銀行との取引などには使えません。
請求書への印鑑の押し方
請求書への印鑑は法的な義務でないため、印鑑の押し方も厳密な規則で定められている訳ではありません。しかしビジネスのマナーとして好印象となる印鑑の押し方は存在します。
社名と重ねて押印する
請求書のフォーマットは様々であるため、それぞれの様式に適応した印鑑の押し方をしましょう。請求書に捺印欄がある場合は、その中央に押印します。一方で捺印欄がない請求書の場合は、社名の右側に重ねて印鑑を押すのが一般的です。
社名に重ねて押印すると、見た目が分かりやすくなるだけでなく、書類の証拠能力も向上します。印鑑を社名と重ねて押すことによって請求書の複製がしにくくなり、信頼性がある書類となるのです。
また社名の最後の1文字が、社印の中心と重なるように押印するとバランスの良い書類になります。
印影が残るように押印する
請求書に印鑑を押す際は、印影が綺麗に残るように押印しましょう。印鑑が残らないと見栄えが悪いだけでなく、請求書の証拠能力を確保する目的を果たせないためです。
印影を綺麗に残すには、請求書に対して垂直に印鑑を立て、印鑑の角全体が紙に推しあたるようにします。離す際も垂直にゆっくりと離すと、陰影のかすれを防ぐことができます。
請求書に訂正印は使わない【再発行が原則】
請求書の訂正は再発行が原則です。修正テープなどで修正をせず、正しい内容に書き換えて再発行しましょう。発送後に間違いに気づいた場合は、先方に連絡をいれた後「再発行」と記入した請求書を送るようにします。
特別な理由があり、請求書の再発行ができない場合は、間違った場所を二重線で消し、正しい内容を記載します。二重線で消した場所には請求書に押している印鑑と同じ印鑑を押し、訂正印とします。
二重線と訂正印で内容を書き換えるのはあくまでもやむを得ない場合のやり方です。請求書に印鑑を押す前の十分が確認を徹底し、誤りがあった場合には再発行しましょう。
電子印鑑の作り方【Excelへの画像挿入・印影透過等】
電子印鑑の作成方法には「印鑑をスキャンして作る方法」「電子印鑑作成ソフトやツール」「電子印鑑作成サービス」の3種類があります。
印鑑をスキャンして画像挿入する
紙に押した印影をスキャンし、画像を整えることで電子印鑑は作成できます。
【印鑑をスキャンして電子印鑑にする方法】
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スキャナーと画像編集ソフトが必要ですが、実際の印影と同じものが作れます。
電子印鑑作成ソフトやツールを利用する
フリーソフトやオンラインツールを使うと簡単に作成できます。
ただしフリーソフトやオンラインツールを使った電子印鑑は、規定のフォントや画像を使用するため、複製しやすいというデメリットが強くなります。
【フリーソフト】クリップスタンプ
認印だけでなく、角印や日付印なども簡単に作成できるフリーソフトです。文字だけでなく、フォントや印鑑のサイズなども調整できます。作成した電子印鑑は、WordやExcelに貼り付けて使用できます。
【参考】クリップスタンプ |
【フリーソフト】Excel電子印鑑
Excelに組み込んで使用するアドインソフトです。Excel上で右クリックすれば電子印鑑の作成や押印ができる手軽さが人気。Excelで請求書を作成する方におすすめです。ただし、アドインソフトのため、使用環境によってはExcelの動作が不安定になる場合があるので注意しましょう。
【参考】Excel電子印鑑 |
【オンラインツール】電子印鑑素材
苗字を検索すると、自分の名前の電子印鑑画像が表示されます。楷書体、隷書体など6つのフォントから選べ、大きさも4パターン同時にダウンロードできます。
【参考】電子印鑑素材 |
【オンラインツール】印影透過
珍しい名前の場合や屋号を電子印鑑にしたい場合、文字入力で印影画像を作成できます。作成したい印鑑の文字を入力するだけで、背景を透過した画像を作成してくれます。実印など実際の印影を使った画像も作成可能です。
【参考】印影透過 |
電子印鑑作成サービスを利用する
電子印鑑作成サービスでは、本物の印鑑と同じフォントで電子印鑑を作るだけでなく、手作業で画像を調整、修正するので、オリジナリティが高く、複製されにくい電子印鑑が作成できます。
【電子印鑑作成サービス】My電子印鑑
角印、会社認印、個人認印などを、その印鑑だけのオリジナルフォントで作成してくれるサービスです。本物の印鑑のような滑らかな印影なので、どんな文書にも押印できます。角印には使用者名が埋め込まれており、不正コピーを防止することもできます。
【参考】My電子印鑑 |
【電子印鑑作成サービス】京都光林堂
はんこ屋さんの電子印鑑作成サービスです。実物の印鑑と同じ作成方法でデザインしたり、フォントを組み合わせたりし、オリジナル印影の電子印鑑が作成できます。そのため、同じ内容でも使う人によって少しずつデザインを変え、使用者を限定することも可能。セキュリティ性も高められます。同じデザインで実際の印鑑も作ってもらえます。
【参考】京都光林堂 |
電子データで請求書を作成・送付する際のポイント
現在はPDFといった電子データで請求書を作成・送付するケースも多いです。電子データを用いれば、印鑑を電子印鑑で代用でき、発送等の手間も削減できます。しかし電子データでの請求書のやり取りならではの注意点も存在します。
電子データで送付する際は取引先に事前確認する
PDFといった電子データで請求書を送付する際は、取引先に事前確認をしましょう。中には紙媒体であることが必須の企業も存在するためです。
また突然電子データで送信すると混乱を招く恐れがあります。更に予告なしでメール送信をする場合、迷惑メールやウイルスメールとして扱われる危険性も生じます。取引先との良好な関係を築くには、遅くとも2〜3日前の確認が大切です。
事前確認の際は宛先(TO/CC)や印鑑の要否も一緒に確認するとスマートな対応が可能となるでしょう。
編集や修正がしにくい請求書の形式にする
請求書の形式は編集や修正がしにくいものを選択するのが重要です。現在はwordやexcelなどを使用すれば簡単に請求書が作成できます。しかし内容の編集も簡単にできるというデメリットにも繋がるのです。その結果、金額や取引内容が改ざんされるリスクが生じるでしょう。
そのためPDFといった簡単には編集できないデータに変換してから、請求書を送付することが重要となります。
同様の理由から無料で使用できるフォーマットをそのまま使用するのもおすすめしません。 自社のロゴや会社の印鑑などを入れて、少しでも改ざんされにくい請求書としましょう。もちろん電子署名などの使用も有効な対策となります。
請求書に関するメールのやり取りを保存する
偽造を防ぐために重要なのは、メールでのやり取りをしっかりと保存しておくことです。いつ、どんな内容の請求書を添付したのか、メールの履歴が残っていれば証拠になります。
また作成した日付がわかるよう、原本となるPDFファイルには手を触れず、作成履歴や更新履歴がわかるようにしておきましょう。さらにPDFファイルを作成する際は「編集制限」のオプションを付け、編集にパスワードが必要な設定にしておくのも効果的です。
心配であれば一度出力したものに押印し、スキャンして送付すると、偽造防止効果が高まります。
請求書が添付されている旨を件名に記載する
請求書をメールで送信する際は、請求書が添付されている旨を件名に記載しましょう。取引先の担当者は毎日数多くのメールを確認している可能性があるためです。件名に請求書の送付の旨を記載すれば、見落としを防ぎ、確実に受領してもらえるでしょう。
またメール本文にも支払金額や支払期日といった取引内容の概要を記載すれば、相手先の確認漏れも防げます。他にもメールをいち早く確認してほしい場合は、その旨も件名や本文に記載しておくのがおすすめです。
また当然ですが、送信前に請求書の添付や印鑑の漏れ等を確認し、二度手間にならないよう注意しましょう。
請求書データにパスワードをかける
請求書のデータには社名や住所、取引内容、口座番号など、多くの機密情報が記載されています。そのため請求書を送付する際は、パスワードを設定してセキュリティ強化に努めましょう。
しかしパスワード付きzipに変換する方法は、安全性や手間から採用されなくなっている点に留意しましょう。また印鑑とは別に本人であることを証明する電子証明書も有力なセキュリティ手法となっています。
取引内容がわかりやすいファイル名にする
請求書の電子データは取引内容が分かりやすいファイル名を付けることが大切です。請求書の保存義務は7年間あるため、ファイル名を見やすくすると取引先も管理しやすくなります。
特に現在は電子帳簿保存法によって「検索性の確保」が定められています。これは電子データのファイル名に「取引年月日」「取引金額」「社名」を含める必要がある規則です。例えば「20xxyyzz_(株)○○_55,000」のような形です。
電子データでやり取りをすれば、電子印鑑が使用できるといったメリットがあります。しかしその一方で、電子帳簿保存法によって細かい規定がある点に留意しましょう。
監修税理士コメント
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
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ペーパーレス化やデジタル化など、業務だけでなく請求手続きにも大きな変化の流れが起きています。そんな状況に対応し、より安心して請求業務を行うためには、電子印鑑の作成やPDFでの請求書作成にも柔軟に対応することが重要です。
請求書の作成方法や電子印鑑を使用した請求書の効果など、不安なことや迷うことがあれば、会計や税務に詳しい税理士の力を借りるのもおすすめ。顧問税理士になってもらえば、分からないこともすぐに教えてもらえる、強い味方ができます。