個人事業主にとって、経費を漏れなく計上することは節税につながります。しかし「何が経費として認められて、何が認められないのかを把握しきれていない」という個人事業主の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、個人事業主や家族への給与が経費にできるのか、生活費をどのように処理するべきなのかについてわかりやすく解説します。
個人事業主本人の給与は経費にできない!
個人事業主の給与は経費として計上できません。
そもそも個人事業主には給与という概念がないと覚えておきましょう。
個人事業主の場合、売上から経費を引いて残った金額は「所得」です。個人事業主はこの所得を自由に使えますが、事業を継続させるためには、必要な経費や税金分は確保しておかないといけません。そのため使用できる金額は限られます。
業務に支障のでない範囲で使用できる金額が、個人事業主の報酬という位置づけになります。
生活費は勘定科目「事業主貸」で計上しよう
個人事業主は自身への報酬を給与として経費計上できません。とはいえ、生活費などプライベートな費用を所得から払う場合が多いでしょう。
個人事業主の生活費は「事業主貸」という勘定科目で計上できます。「事業主貸」を使えば経費には算入されずに残金を減らし、帳簿と現金を合致することが可能です。
勘定科目「事業主貸」とは
事業主貸とは事業のお金を個人で使った場合に使用する勘定科目です。
個人事業主の生活費は事業を行った結果、残った事業用のお金から使うものなので「事業主貸」として計上します。
【事業主貸を使うケース】
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一方で個人のお金を事業で使った場合は、「事業主借」という勘定科目を使用します。
【事業主借を使うケース】
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勘定科目「事業主貸」の仕訳例
生活費やプライベートの費用を事業の預貯金から支払ったときの仕訳例を2つ紹介します。
例1:生活費として預金から30万円引き出した
借方 | 貸方 | ||
事業主貸 | 300,000 | 普通預金 | 300,000 |
例2:住民税20万円を預金から納めた
借方 | 貸方 | ||
事業主貸 | 200,000 | 普通預金 | 200,000 |
個人事業主は事業報酬から生活費をいくら使える?
生活費を事業の売上金からいくらまで使っても良いという決まりはありません。ただし、一定のルールを決めて持ち出すのがおすすめです。以下2つのルールで決めるのが無難でしょう。
①「月に20万円」など定額を決めておく
毎月決めた金額を持ち出す方法です。開業当初は少なめに設定し、経営が軌道に乗ってきたら増やすなど、状況に応じて金額を変更するのも良いでしょう。
②利益から固定費・税金を差し引いて決める
お店の利益から「借入金の返済」や「税金等の支払い」を差し引いた残りを自分の生活費とする方法です。計算式は以下の通りです。
利益-借入金の返済-税金等の支払い=生活費
お店に必要なお金が残るように管理できるだけでなく、売上の増減が生活費に直結するためモチベーションが高くなりやすいというメリットがあります。
確定申告における事業主貸の会計処理方法
事業主貸の残高は、青色申告決算書4ページ目の「貸借対照表」に記載します。そして翌年度には、事業主貸と事業主借を相殺して元入金勘定へ振り替えします。
事業主貸が300万円、事業主借が200万円であった場合、仕訳は以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
事業主借 | 2,000,000円 | 事業主貸 | 3,000,000円 |
元入金 | 1,000,000円 |
会計ソフトを使用していれば翌年度の期首に上記の仕訳は自動で計上されるので、ご自身で仕訳を計上する必要はありません。
このように事業主貸は翌年度ゼロからスタートし、12月末での残高は1年間の累計金額になります。
従業員に支払った給与は経費にできる!
個人事業主の給与は経費にできませんが、従業員・パート・アルバイトに支払う給与は「給料賃金」という勘定科目で計上し、経費に計上できます。
しかし生計を共にする家族や親族が従業員として働いている場合は、原則として経費に計上できません。専属従業者として申告することで、はじめて給与を経費に計上できるようになります。
家族の給与を経費にする方法は「家族の給与を経費にするには届出が必要」で解説します。
従業員の給与の仕訳例
従業員に給与を支払ったときの仕訳例は以下です。
- 従業員に対して給与として合計100万円、通勤手当として合計10万円を支給
- 従業員の給与から社会保険料など合計20万円、雇用保険料として1万円を天引き
借方 | 貸方 | ||
給料賃金 | 1,000,000 | 普通預金 | 890,000 |
旅費交通費 | 100,000 | 預り金 | 200,000 |
立替金 | 10,000 |
従業員を雇う場合の手続き
従業員を雇用すると個人事業主は、源泉徴収義務者になります。従業員に支払う給与から税金分を徴収して、税務署に納めないといけないのです。
そして、従業員を雇って源泉徴収者となるためには、上記の「給与支払事務所等の開設届」を税務署に提出する必要があります。
家族への給与は青色申告で経費にできる
家族への給与は原則として経費にできません。しかし青色申告によって家族を専属従業者にすれば、給与の全額を経費に計上できます。
専属従業者とは「個人事業主の事業に従事している、生計を一にする親族」のことです。
家族が専属従業者として認められるためには次の条件をすべて満たす必要があります。
【家族が専属従業者として認められるための条件】
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家族の給与を経費にするには事前に届出が必要
家族への給料を青色専従者給与として経費で落とすには「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に事前提出する必要があります。
「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出期限は、開業や事業専従者追加のタイミングによって異なります。
【青色事業専従者給与に関する届出書の提出タイミング】
区分 | 提出期限 |
開業もしくは新たな事業専従者の追加が1月15日以前 | 青色専従者給与を計上する年の3月15日まで |
開業もしくは新たな事業専従者の追加が1月16日以後 | 開業もしくは新たな事業専従者を追加した日から2か月以内 |
青色申告の方法
個人事業主の給与を経費にするなら法人化の検討も
は、税務署に「個人事業の開業届」を提出する際に、合わせて「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。これにより翌年の確定申告から青色申告が認められます。
青色申告には10万円控除と65万円控除が適用されます。税金面で有利な65万円控除の適用を受けるためには、帳簿を複式簿記で記載する必要があります。
個人事業主の給与を経費にするなら法人化の検討を
個人事業主として相当の収益があった場合、個人事業主の報酬が経費にならないために多額の税金を納めることになります。なんとか自分の収入を経費にする方法はないかと思案している方は、一度法人化を検討してみてはいかがでしょうか。
法人化すれば経営者自身の報酬を経費にできる
法人化をすることで、経営者ばかりでなく、家族の給与も経費として計上することができます。これにより、個人事業主と同じ収益を上げたとしても、法人の方が経費が多いので、大幅な節税が可能になります。
収益のすべてを自分の給与にしたとしても、個人事業主の場合、それは事業所得として計算されるために、それに見合った税金を納める必要があります。ところが法人だと、利益のほとんどが給与となった場合、法人に対する税金は大幅に抑えられるのです。
法人化のタイミングはケースバイケース
ただし、何が何でも法人化をすればメリットがあるのかといえば、必ずしもそうとはいえません。収益が低いうちは、法人税よりも所得税の方が税率が低いので、税金の面では法人化のメリットが小さいと言えるでしょう。
ただし、法人化した方が社会的な信用力が高まるなど、節税以外のメリットも。法人化した方が良いか、それともするべきでないかは、経営状況や業種によって異なりますので「売上いくら以上なら必ず法人化するべき」とは一概には言えないのです。
経費の判断や法人化の時期は税理士に相談!
経費の取り扱いは、税金対策に不慣れな個人事業主だと判断に迷うことがあります。また法人化についても、その時期の見極めは専門的な判断を要するので、的確に判断することが困難です。こうした際に、良きアドバイザーになるのが税理士です。
税理士は経費計上の判断をしてくれる!
税理士は青色申告や法人税申告の経験があるため、どういった事項が経費として取り扱われるかを熟知しています。また紛らわしいケースでも、的確に解決できるよう導いてくれます。このため確定申告を税理士に依頼すると、スムーズに手続きが完了するのです。
法人化も含めた税金の相談は税理士に
法人税の申告は税理士が扱う中で最も多い案件です。このため、法人化をすることのメリットもデメリットも詳細まで理解しています。法人化について迷った際は、税理士に相談することが最善の方法です。
節税により報酬以上の効果も
税理士に依頼すると報酬の支払いがあるからと躊躇されている方もいるのではないでしょうか。しかし、税理士に確定申告の実務を依頼すれば適切な節税効対策を講じてくれるので、報酬以上の効果が出現することも期待できるのです。
確定申告で迷った際は、ぜひ税理士にご相談ください。
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