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個人事業主の法人化のメリットは?所得の分岐点と節税効果

最終更新日: 2022年12月16日

個人事業主から法人化することで、様々なメリットを得ることができます。この記事では法人の設立までの流れから注意点、節税効果まで具体的に解説していきます。法人化を検討している方はぜひご一読ください。

この記事の監修税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

個人事業主と法人の違いは?

個人事業主と法人の違いは?
個人事業主と法人の違いは?

個人事業主と法人にはどのような違いがあるのでしょうか?法人化を検討する前に、まずはそもそも個人事業主と法人はどのように定義されるのかといった基本的な点から押えていきましょう。そのうえで法人化を検討するポイントについてご紹介していきます。

個人事業主とは?

個人事業主とは税務上の区分として「独立して事業を営む個人」のことを指します。税務署に開業届を出すことで税務上、正式に個人事業主として認められます。初期費用が不要なほか、青色申告が可能になるなどのメリットを受けることができます。

法人との雇用契約等を結ばずに反復して継続される仕事(事業)を営むことを指しており、「個人」という名はついていますが、従業員を雇って事業を行なうこともできます。

一方、個人事業主と混同してしまいがちなフリーランスとは、WEBデザイナーやライターといった個人で案件ごとに契約を結ぶ自由な働き方のことを指します。フリーランスとは働き方の呼び名であり、税務上の区分ではありません。

個人で案件ごとに契約を請け負っている
開業届提出済み フリーランスであり個人事業主
開業届未提出 フリーランス

法人とは?(営利法人と非営利法人、その他)

法人とは法律上「人(自然人)」と定められ、「人と同様に法的な権利や義務について認められている組織」のことを言います。そのため個人事業主から法人化した場合、銀行口座の作成や生命保険への加入といった各種契約を法人名義で行うことが可能となります。

また法人は大きく営利法人・非営利法人・その他の法人の3つに分けることができます。それぞれ設立方法や税金面、受けることの出来る助成金などについても違いがありますので、事業の内容に合わせてどの形態を取るのかを決めるようにしましょう。

営利法人 株式会社 ・「株主」の出資した資金を元に経営を行う
・「株主」によって「取締役」が選任される
合同会社 ・経営者と出資者が一緒
・出資者は全員有限責任社員となる
合資会社 ・有限責任社員と無限責任社員が最低でも1名ずつ在籍
合名会社(持株会社) ・経営者と出資者が一緒
・出資者は全員無限責任社員となる
非営利法人 NPO法人(特定非営利活動法人) ・営利を求めない組織
・法によって定められた特定の分野において活動する
・国や地方自治体の定める助成金や支援プログラムに参加が可能
一般社団法人 ・300万円を超える寄付金を利用することを目的とする
その他法人 学校法人、医療法人、社会福祉法人、農業協同組合など

個人事業主が法人化を検討するポイント3つ

個人事業主が法人化することで様々なメリットを得ることができますが、特に重要となるポイントは以下の3つです。

  • 節税対策
  • 対外的な信用力
  • 事業の拡大・継承

中でも節税対策は、売り上げや利益が増えてきた場合はぜひ考えておきたいところです。

次に、個人事業主と法人の納める税金の違いについて確認しましょう。

個人事業主と法人が納める税金の違い

個人事業主と法人の税金
個人事業主と法人の税金の種類

個人事業主と法人では納める必要のある税金の種類や税率に大きな違いがあり、場合によっては課税対象となる金額が同じでも計算方法が異なります。両者の違いについて詳しく解説していきますので、しっかりとチェックしておきましょう。

個人事業主が治める税金

個人事業主が納める税金は主に下記の4種類となっています。

所得税 1月1日~12月31日までの1年間の所得額に応じて課せられる
個人事業税 事業において利用する公共のサービスに対して課される

(事業所得-専従者給与等-各種控除)× 税率

住民税 「所得割」と「均等割」を足した金額で算出される

所得割:(前年の総所得金額等-所得控除額)×税率-税額控除

均等割:道府県民税…1,500円 市区町村民税…3,500円

消費税 前々年の消費税課税対象となる売上げが1,000万円を超えている場合に納める(その他一定の要件あり)

法人が治める税金

法人が納める税金は下記の通りです。

消費税 前々年度の消費税課税対象となる売上げが1,000万円を超えている場合に納める(その他一定の要件あり)
法人住民税 「法人税割」と「均等割」を足した金額で算出される

法人税割:地方自治体の定める税率が適用される

均等割:資本金額、従業員数ごとに金額が定められている

地方法人特別税 国税として課税し、国から各都道府県へ再分配されるための税金
法人税 法人の利益に対して課税される
法人事業税 事業において利用する公共のサービスに対して課される。所得が赤字である場合は納税の必要なし。

所得税と法人税の税率の違い

所得税と法人税の税率の違いは下記の通りです。個人事業主である場合、所得税には累進課税が適用されるため、所得額の増加に応じて税率が変動するのが特徴です。そのため所得が高くなれば高くなるほど税率も大きくなっていきます。

一方法人の場合は税率が一定となるため、個人事業主としての所得額が増加している場合は法人化した方が高い節税効果を得ることができます。

所得税(個人事業主)

課税所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超~330万円以下 10% 97,500円
330万円超~695万円以下 20% 427,500円
695万円超~900万円以下 23% 636,000円
900万円超~1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超~4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

所得税率早見表 出典:国税庁

法人税

 

区分

平31.4.1以後 平31.4.1以後
普通法人

 

資本金1億円以下の法人など 800万円以下の部分 15% 15%
800万円超の部分 23.2% 23.2%
上記以外の普通法人 23.2% 23.2%

出典:国税庁

個人事業税と法人事業税の違い

個人事業税と法人事業税はどちらも利用する公共のサービスに対して支払う税金ですが、計算方法や納税の条件に違いがあります。

事業税に関しては個人事業主・法人ともにそれぞれ自治体によって定める税率が異なります。詳しくは各自治体に確認するようにしましょう。

個人事業税

個人事業税には290万円の事業主控除が適用されるため、所得が控除額である290万円未満であれば納税する必要がありません。

計算式は以下の通りです。

(事業所得ー専従者給与等ー各種控除)× 税率

専従者控除とは、家族を従業員として雇用している場合に支払う報酬のことを指します。

個人事業税は地方税であり、税率は業種によって異なり、例えば東京都のホームページによると、ほとんどの業種で税率が5%になっています。

【法定業種と税率(東京)】

区分税率事業の種類
第一種事業
(37業種)
5%物品販売業運送取扱業料理店業 遊覧所業
保険業船舶定係場業飲食店業商品取引業
金銭貸付業倉庫業周旋業不動産売買業
物品貸付業駐車場業代理業広告業
不動産貸付業請負業仲立業興信所業
製造業印刷業問屋業案内業
電気供給業出版業両替業冠婚葬祭業
土石採取業写真業公衆浴場業(むし風呂等)
電気通信事業席貸業演劇興行業
運送業旅館業遊技場業
第2種事業
(3業種)
4%畜産業水産業薪炭製造業
第3種事業
(30業種)
5%医業公証人業設計監督者業 公衆浴場業(銭湯)
歯科医業 弁理士業不動産鑑定業歯科衛生士業
薬剤師業 税理士業デザイン業歯科技工士業
獣医業公認会計士業諸芸師匠業測量士業
弁護士業計理士業理容業土地家屋調査士業
司法書士業社会保険労務士業美容業海事代理士業
行政書士業コンサルタント業クリーニング業印刷製版業
3%あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復
その他の医業に類する事業

出典:法定業種と税率(東京都)

個人事業税
  • (事業所得-専従者給与等-各種控除)× 税率
  • 所得が290万円を超える場合にのみ納税する必要がある
  • 開業から1年未満の場合の納税金額は、月割りした金額が控除される
  • 70種類の法定業種のうちどの業種に当たるかで税率が違う

※税率は各自治体によって変動あり

法人税

法人化した場合、「法人事業税」を登記している都道府県に納める必要があります。法人事業税の税率は以下表の通り、所得に応じて3段階に分かれています。

計算式は以下の通りです。

所得×法人事業税率
年間事業所得法人事業税率
400万円以下3.4%
400万超え800万以下5.1%
800万円超え6.7%
法人事業税
  • 所得×法人事業税率
  • 赤字の場合は納税義務の免除あり
  • 資本金が1億円を超える場合は「外形標準課税」が適用され、「所得割」「付加価値割」「資本割」の3つ課税対象についても合算される

※税率は各自治体によって変動あり

法人化の分岐点の目安を税金でシュミレーション

法人化の分岐点の目安を税金でシュミレーション
法人化の分岐点の目安を税金でシュミレーション

「事業所得」に課税される税金の金額から法人化を考えるタイミングについて検討してみましょう。法人化すると実際にはどのくらいの節税効果があるのでしょうか?具体的にシュミレーションしていきましょう。

分岐点① 「事業所得」が600万円を超えるとき

個人事業主と法人の税金の比較

今回は個人事業主と法人で大きく税率が異なる、以下の税金について比較します。

【個人事業主】

  • 所得税
  • 個人事業税

【法人】

  • 法人税
  • 法人事業税

個人事業主の所得税額(青色申告の場合)

青色申告をしている個人事業主で扶養控除などを考慮しない場合、所得税額は以下の通りです。

(事業所得600万円-基礎控除38万円-青色申告特別控除65万円)×20%-税額控除額42万7500円=56万6,500円

個人事業の税額(税率5%・専従者なし)

次に、個人事業税の税額を、税率5%の業種と仮定して計算すると以下の通りになります。また、計算を簡単にするために、専従者については考えないものとします。

(事業所得600万円-290万円)× 5%=15万5000円

法人税の税額

法人化した場合の法人税は以下の通りです。

600万円×15%=90万円

個人事業主のままだと、所得税と個人事業税の合計は72万1500円(56万6500円+15万5000円)となり、法人化した場合の法人税と法人事業税の合計は、120万円(90万円+30万円)です。法人の方が50万円以上、多く税金を支払う結果となりました。

事業の拡大を目指すのであれば、法人成りを検討

確かに、単純な納税額では個人事業主に軍配が上がります。しかし後ほど説明する給与所得控除を考慮すると、個人と法人で負担額が逆転するラインが600万円程度といわれています。また、法人成りには税制以外にも後ほどご紹介するようにメリットが多くあります。

なので事業所得600万円を分岐点として、法人化を検討すべきなのです。

分岐点② 「課税売上高」が1000万円を超えるとき

個人事業主の場合売り上げが1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生します。対して法人は一部例外はあるものの、設立から2期目までは売り上げ金額にかかわらず納税義務が発生しません。

そのため個人事業主としての売り上げが今後1,000万円を超えることが予想される場合は法人化を検討する良いタイミングであると言うことができるでしょう。

実際は、事業所得だけでは判断できない!

所得税・法人税について大まかにシュミレーションを行いましたが、実際は事業所得だけでは税金の金額を判断することはできません。法人の場合は個人事業主とは違い、自分の給与や各種経費、社会保険料といった要素によって課税所得額は大きく変わってきます。

法人化を検討する際は税理士に相談のうえ、より具体的な項目を含めてシュミレーションしてもらうようにしましょう。

個人事業主と法人の社会保険の違い

個人事業主と法人の社会保険の違い
個人事業主と法人の社会保険の違い

個人事業主と法人では加入する社会保険の種類が異なり、将来の年金受取額にも大きく影響してきます。そのため、自分が加入することになる社会保険の制度についてしっかりと把握しておくことはとても重要と言えます。まずは国民年金と厚生年金保険の違いといった基本的なところから見ていきましょう。

国民年金と厚生年金保険の違い

国民年金は20歳以上60歳未満の国民全員が加入対象となり、「基礎年金」とも呼ばれています。保険料は定額で全額個人負担であり、加入期間に応じて支給額が決定されます。

一方厚生年金保険は会社員や従業員を5人以上抱える個人事業主などが加入の対象となります。保険料は給与とボーナスを元に算出され、会社が折半して支払いを行います。また支給の際は加入期間や支払額に応じた金額が国民年金に加算されて支給される形となります。

国民健康保険料と社会保険の違い

国民健康保険料と社会保険の主な違いは下記の通りです。両者の違いとして注意しておきたいのが扶養制度の有無です。

国民健康保険には扶養制度の概念がないため、家族で国民健康保険に加入したい場合は、それぞれ個人で加入することになります。社会保険の場合は親族を扶養に加えることが可能であり、保険料も人数によって変動することはありません。そのため国民健康保険に加入している方が金銭的な負担が大きくなる傾向にあります。

国民健康保険 社会保険
運営元 市区町村 健康保険組合もしくは全国健康保険協会
加入対象者 自営業者・退職者・無職者 会社員・サラリーマンなど
保険料 所得・資産・同一世帯内の被保険者の人数によって算出 給与金額に応じて算出され、支払いは会社との折半
扶養制度 なし 親族の扶養が可能

年金の受取額に大きな違いが!

社会保険に加入している場合国民年金と厚生年金の双方から年金が支給されるので、将来受け取る金額が高くなります。社会保険に加入することで老後に手厚い保障を受けられることに繋がるため、これも法人成りするメリットの一つであると言うことができるでしょう。

個人事業主が法人化するメリット

個人事業主が法人化するメリット
個人事業主が法人化するメリット

個人事業主が法人化することで節税・社会的信用・事業の継承や拡大といった点においてメリットがある点をお話しました。では具体的にはどのようなメリットを得ることができるのか、個人事業主の場合と比較しながら詳しく解説していきます。

節税に繋がる対策の幅を広げることができる

法人化した場合、個人事業主との制度の違いから節税対策の幅を広げることができます。経費として認められる支出や消費税の課税制度についてどのように定められているのか確認していきましょう。

給与所得控除と家族の給与支給で節税

法人化メリット節税
法人化メリット・節税

法人化により、利益を給与という形で得られると、税制面で大きな節税となります。これは、給与による収入には、給与所得控除があるからです。仮に800万円の給与を得たとすると、このうち200万円が給与所得控除、38万円が基礎控除として控除されるので、課税対象額は562万円です。

もし、これが個人事業主だったとすると、控除されるのは青色申告の特別控除の65万円と基礎控除38万円なので、課税対象額は、697万円になります。つまり給与として支給した方が、課税対象額が135万円も低く抑えられることになるのです。

しかも、この利益を家族従業員に分散して給与という形で支払ったとすると、所得税率表のさらに下のランクの税率が適用されるので、より大きな節税効果が期待できます。

経費の幅が増える

法人成りすると経費は原則全て事業活動のために支出されたものとして見るため、経費として扱うことのできる費用の幅が増えます。経費として認められる主な例は下記の通りです。

  • 自動車
  • 退職金
  • 自宅兼事務所
  • 生命保険料

欠損金を10年間繰越できる

一定の要件を満たしている法人であれば、赤字が出た年度がある場合、それ以降の10年間の間に出た利益と相殺することができます。これを欠損金繰越控除と言います。これは個人事業主である場合には3年間しか繰越を行うことができません。利益が大きい年に課税所得を減額することができるため、利用することで大きな節税効果を得ることができます。

消費税の免税効果

消費税は原則的に個人事業主である場合は2年前、法人である場合は2期前の課税売上金額によって納税する必要があるかどうかが判断されます。開業から1~2年目は対象となる「2年前の課税売上金額」を参照することができないため、消費税を納めなくても良いことになっています。

これは法人であっても同様で、消費税は設立から3年目以降に納税義務が発生することになります。そのため最大で4年の間消費税の納税が免除されることになります。

ただし納税義務の特例規定によって免除がされない場合や課税事業者を選択した方が良い場合もあるので、詳しくは税理士に相談のうえ判断するようにしましょう。

役員報酬を経費にできる

法人化すると「不相応に高額でないこと」「定期同額であること」という2つの条件を満たす場合、自分の給与を役員報酬として経費で扱うことが可能となります。役員報酬を経費とすることで、会社の利益を減額し法人税の負担を軽くすることに繋がります。

会社の損金(経費)で退職金を支給できる

法人では自分自身や家族はもちろん、従業員への退職金を会社の損金(経費)として支給することが可能です。また退職金制度の利用によって退職金を受け取る際にも退職所得控除が適用されるため、住民税・所得税を低く抑えることができます。

社会的信用を得ることができる

個人事業主から法人化すると事業情報が公示されるため、社会的な信用度が上がります。社会的な信用を得ることができると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

取引先の獲得や金融機関の信用獲得で有利に

法人化メリット資金調達
法人化は資金調達の面でも有利となります

法人化は、取引先や金融機関の信用獲得において有利となります。

会社によっては取引先が法人に限定されている場合も少なくありません。そのため会社が法人化していると、個人事業主よりも取引の幅が広がることに繋がるのです。

また個人と法人の資金をそれぞれ別に会計する必要があり、財務管理の面でも個人事業主より明確です。そのため金融機関から融資を受ける場合にも法人化している方が有利であると言えます。

人材確保

優秀な人材の確保において社会的信用力は欠かすことのできないポイントです。法人化している場合社会的な信用度が高いほか、個人事業主と比べると社内の制度が整っている場合が多いので優秀な人材が集まりやすくなります

社会保険に加入できる

法人化することで事業の規模にかかわらず社会保険に加入することができるようになります。

社会保険は国民年金に比べると保険料が高いですが、将来受給できる年金額が大幅に増加するほか病気や怪我など万が一の時も手厚い保障を受けることが可能です。そのため社会保険に加入できるという点も、法人化の大きなメリットの一つであると言うことができるでしょう。

事業の拡大、承継を見越した事業運営が可能になる

事業の拡大・継承を考える際に、法人化には下記のようなメリットがあります。事業の拡大や継承まで見越したうえで事業運転を行いたい場合は、法人化を検討する良い機会であると言えるでしょう。

資金調達

法人成りすると個人事業主と比べ財務管理面が明確化されるため、金融機関に融資を申し込む際には融資額や融資期間といった条件を判断しやすくなります。そのため法人化することは、資金調達のうえで個人事業主よりも有利になると言えます。

事業承継

法人化メリット事業継承
事業継承がスムーズになるのも法人化のメリットです

法人は会社の事業継承が個人事業主よりもスムーズに進めることができます。法人は代表者の個人的な財産と法人の財産が明確に区別されているため、万が一代表者が死亡しても銀行口座が凍結されたり相続の問題が起こる心配がありません。

経営者の交代も役員を適任者へと変更するだけで完了します。また交代する人物は親族、会社の内外問わず選ぶことが可能です。代表者が死亡した際にも事業が中断されないという点は、法人であることの大きなメリットだと言えます。

決算日

個人事業主は決まった期間に確定申告を行う必要がありましたが、法人は決算日を任意で決定することができます。そのため決算日を業務に余裕のある時期に設定することが可能であり、年末年始の業務が立て込みがちな時期に申告の準備をする必要がなくなります。

個人資産の差し押さえがない

法人では事業が失敗した際に出資額の範囲内で責任を負う「有限責任」という制度を取ります。そのため経営状態の悪化によって事業の継続が難しくなったというような場合でも、差し押さえが個人資産にまで及ぶのを防ぐことができるのです。

法人化するメリットについてもっと詳しく知りたい場合はこちらの記事をご参考ください。

個人事業主が法人化するデメリット

個人事業主が法人化するデメリット
個人事業主が法人化するデメリット

法人成りする場合には多くのメリットがありましたが、実際は良い面ばかりではありません。同時に発生するデメリットについてもしっかりと把握しておく必要があります。費用面や実務面での影響について具体的に見ていきましょう。

設立には資金と時間が必要

個人事業主から法人化するには、資本金や登記に必要な費用などの設立資金のほか、申請に必要な各種書類を揃えるための時間が必要となります。

資本金は1円からの申請も可能ですが、百万円単位で申請しておく方が社会的な信用を得やすくなります。また登記に必要な費用は最低でも24万円を超え、司法書士に申請手続きを依頼する場合には報酬が加算されます。そのため資金に余裕の無い場合は大きな負担となってしまいます。

【主な費用】

  • 定款認証手数料:5万円
  • 定款印紙代金:一通4万円(電子認証定款に場合は不要)
  • 登録免除税(15万円が下限・資本金の0.7%):15万円

国税庁によると登録免除税は、資本金の0.7%とあります。しかし、国税庁より

15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円

とあります。仮に資本金800万円とすると、800万円×0.7%=56,000円です。

15万円が下限なので、登録免除税は15万円です。

申請にかかる時間は司法書士に依頼した場合でおよそ2~3週間と言われています。全て自分で準備する場合は書類の不備などがあると修正などが発生するため、設立までに1ヶ月~2ヶ月かかることもあります。

会社運営・維持に費用がかかる

法人化すると個人事業主であった時に比べて会社の運営・維持に費用がかかるようになります。業績不振による赤字がある場合でも住民税などの税金は支払いの義務があるため、ある程度の会社の運転資金を準備しておく必要があります。

法人は社会保険への加入も必須となっているので、その分の費用も支払わなければなりません。法人化を検討する場合は、法人設立後の会社運営・維持にかかる費用まで考えておきましょう。

書類実務の増加

個人事業主の法人化 準備
法人化により事務作業が増加します

法人化には書類実務が増加するというデメリットがあります。増加する事務作業の一例は下記の通りです。

  • 複式簿記での決算書の作成
  • 社会保険への加入手続き
  • 税務調査の対象となる書類の保管
  • 法人税申告書の作成

それぞれ書類の作成方法も複雑になっているので、知識のある人材を確保しなければなりません。また税務関係の書類に関しては自分で作成することは大変困難です。通常は税理士へ依頼することになるため、その分の費用も発生することになります。

また重要事項はあらかじめ定款で定められている通り、株主総会や取締役会の決議をもって決定する必要があります。その際併せて議事録の作成も行わなければならないため、個人事業主のように自由な意思決定ができないだけでなく、作業の手間もかかることになります。

赤字の場合でも税金がかかる

個人事業主の場合、赤字であれば所得税の負担はなかったのですが、法人になるとそうはいきません。法人は住民税均等割があり、たとえ赤字であっても課せられるからです。自治体によって異なりますが、概ね7万円程度が必要になるでしょう。

重要事項を決定するには決議が必要になる

法人化した場合は、様々な意思決定に株主総会や取締役会の決議が必要になります。これは予め会社の定款で定められており、その方法に従って議事進行を行ない、議事内容を議事録として残しておく必要があります。

個人事業主であれば自由に決められたことが、思いどおりにはならない点がデメリットといえるでしょう。

交際費に限度額がある

個人事業主の場合、交際費の上限は設けられていませんでしたが、法人化すると、期末資本金額が1億円以下である法人は、上限が年800万円までです。税法上の交際費の適用は、細かく事例が示されているため、適正に執行することが求められます。

個人事業主が法人化するときの注意点

個人事業主が法人化するときの注意点
個人事業主が法人化するときの注意点

個人事業主が法人化するにあたって、忘れてはならないのが運転資金の確保・法人の体制の整備・社名変更の3点です。どれも会社の運営を開始するうえでどれも欠かせないポイントとなりますので、しっかりとチェックしておきましょう。

会社の運転資金を確保する

個人事業主から法人化する場合は、約3ヶ月分程度の運転資金を確保しておくようにしましょう。

会社を設立してもすぐには事業が軌道に乗らないこともあります。しかし思うように利益が上がらない場合でも、法人住民税は支払わなければなりません。また従業員がいる場合は社会保険料や給与も支払う必要があります。

各種支払いが滞ることは、会社の信用を失うことにも繋がります。法人化する際は設立の費用に加え、余裕を持って運転資金を準備しておきましょう。

法人の体制を整える

法人化するにあたって、新しく増える事務手続きなどの作業体制を整える必要があります。パソコンや会計ソフトの導入、それぞれを担当する人材の確保とともに業務を適正化するための作業体制の整備を行っていきましょう。

社名変更への対応

法人を設立したら、各種書類や看板、ホームページ、領収書などの社名変更を行いましょう。個人事業主として使用していた屋号を継続して使用していく場合でも、書類には法人としての正式な社名を記載する必要があります。

また取引先にも設立日の1ヶ月前~2週間前までに挨拶を送付しておくと良いでしょう。前もって周知しておくことで、既存の契約がある場合でも相手側もスムーズに手続きを進めることができますよ。

個人事業主から法人化する際の手続き

個人事業主から法人化する際の手続き
個人事業主から法人化する際の手続き

個人事業主から法人化する場合、様々な手続きを行う必要があります。特に登記は準備から申請完了まで時間がかかりますので、必要となる書類や全体の流れについて把握しておくことが重要です。では法人設立の手続きについて詳しく確認していきましょう。

法人登記の手続き

個人事業主から法人化するにあたって最も重要な手続きとなる法人登記ですが、完了までの基本的な流れは下記の通りです。登記の申請から完了まではおよそ7日~10日ほどかかります。

手続き 提出先 提出期限
1 定款の作成
2 定款の認証 公証人役場 締約の作成が完了次第
3 資本金の払い込み 銀行 締約作成後速やかに
4 法人登記 法務局 できるだけ早いうちに行う

法人登記する過程で必要となる費用と登記に必要な書類については下記の通りとなっています。登記書類に関しては法務局のホームページからダウンロードが可能ですので、注意事項を参照のうえ作成していくようにしましょう。

法人登記に必要な費用

費用項目 金額 支払先
定款認証手数料(もしくは電子認証費用) 50,000円 公証人役場
定款印紙代 40,000円
定款謄本代 2,000円程度(1冊)
登録免許税 150,000円 法務局
印鑑証明書代 450円(1通)
登記事項証明書代 600円(1通)

法人登記の必要書類

書類 必要な印鑑 署名
登記申請書 会社の実印 代表取締役
登録免許税分の収入印紙 個人の実印 不要
定款 個人の実印 発起人
発起人の決定書 個人の実印 発起人
取締役の就任承諾書 個人の実印 取締役
代表取締役の就任承諾書 個人の実印 代表取締役
監査役の就任承諾書(監査役を置く場合) 個人の実印 監査役
資本金の払込を証明する書類 会社の実印 代表取締役
取締役の印鑑証明書
印鑑届出書 会社の実印

個人の実印

代表取締役
登記内容を保存したCD-RかFD

資産・負債の引継ぎ

登記の申請が完了したら新しく設立した法人へ資産・負債の引き継ぎを行う必要があります。法人への資産の引き継ぎ方としては下記の3つとなります。

法人への資産の引き継ぎ方

売買契約 個人事業主から資産・負債を法人に売却する
現物出資 必要となる資産・負債を法人に出資する
賃貸借契約 法人へ資産を貸し付ける

資産・負債の引き継ぎの際には下記の書類も併せて作成しておくようにしましょう。

  1. 財産目録(引き継ぐ資産・負債の一覧表)
  2. 事業譲渡(営業譲渡)契約書
  3. 株主総会(取締役会)議事録

各種契約の名義変更

個人事業主から法人化した場合には、事業を営むうえで結んでいた契約を個人名義から法人名義に変更しなければなりません。名義変更の必要がある契約は主に下記の通りです。それぞれ変更の届け出先が違うほか、借入金の名義変更は銀行に承諾してもらう必要があるため注意が必要です。

  • 預金通帳
  • 不動産の賃借契約
  • 事業用に所有する車両
  • 借入金
  • 電話・ガスなどの公共サービス
  • 官公庁へ届け出ている書類

新法人に関する届出書・申請書の提出

新法人設立の際には多くの届け出・申請書を提出する必要がありますが、主なものは下記の通りです。届出書・申請書の提出に費用はかかりません。ただしそれぞれ提出期限が定めてありますので、申請漏れのないよう注意しておきましょう。

提出書類 提出先 提出期限
法人設立届出書 税務署 法人の設立から2ヶ月以内
青色申告の承認申請書

(青色申告をしたい場合)

税務署 法人の設立から2ヶ月以内
給与支払事務所等の開設届出書

(従業員が在籍する場合)

税務署 給与支払事務所等を開設してから1ヶ月以内
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

(給与の支給人員が常時10人未満の場合)

税務署 随時
法人設立届出書 都道府県及び市町村 法人の設立から1ヶ月以内
健康保険・厚生年金保険新規適用届 年金事務所 法人の設立から5日以内
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 年金事務所 法人の設立から5日以内

個人事業の廃業手続き

個人事業の廃業に必要な手続きは下記の通りです。

提出書類 対象者 提出先 提出期限
個人事業の開業・廃業等届出書 廃業する個人事業主 税務署 廃業から1ヶ月以内
事業開始(廃止)等申請書 廃業する個人事業主 都道府県税務署 各自治体の定める期限に準じて

提出

所得税の青色申告の取りやめ届出書 青色申告を行っている場合のみ提出 税務署 廃業する年の翌年3月15日
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 従業員を雇っていた場合のみ提出 税務署 廃業から1ヶ月以内
事業廃止届出書 消費税納税者のみ提出 税務署 廃業から1ヶ月以内
所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書 予定納税をしている場合のみ提出 税務署 廃業する年の7/1~7/15、11/1~11/15の期間中に提出

個人事業主が法人化する際に税理士に依頼するメリット

個人事業主 税理士
税理士に頼むメリットは?(画像提供:buritora/Shutterstock.com)

法人を運営するうえにおいて、税理士の存在は欠かせません。個人事業主が法人化するにあたり税理士に依頼すると、どのようなメリットがあるのかをみていきましょう。

法人化の手続から依頼できる

法人化の手続に関しては、税理士が代理できることはありません。しかし、順調な事業成長が見込めても、今後の経営の見通しには専門家の判断が必要なことが多く、法人化する段階から税理士に相談に乗ってもらうことには大きな意義があります。

面倒な記帳代行を代行してくれる

税理士に納税手続の依頼だけでなく、経理事務作業の記帳代行といわれる複式簿記の作業も含めて依頼することがあります。会社内で経理事務員を雇用するほどの業務量ではなく、事務量に見合った報酬額で税理士が引き受けてくれるのであれば、効率面でメリットを享受できるでしょう。

固定資産管理を適切にしてくれる

設備投資が大きい事業であれば、固定資産管理における事務作業量が多いため、税務判断が必要となり、また、減価償却費の金額が大きくなり、節税という点からも精緻な管理が求められます。

購入を検討する段階で税理士に相談すれば、購入のタイミングなどでアドバイスを得られるため、結果として節税につながることもあります。

税務調査への対応も任せられる

法人は個人事業者に比べて税務調査が入る可能性が高く、税務調査が入ると、会社申告の場合は、会計担当者や代表者が直接対応することになります。

税理士に依頼しているケースであれば、税務調査にも税理士が立ち会ってくれ、さまざまざ質問にも的確に回答してくれるので、税務調査対策という観点からも所得税・事業税・法人税・消費税などの税務処理を税理士に依頼するメリットは大きいといえるでしょう。

監修税理士のコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

読んでいただいた通り、法人化は非常に手間と時間、お金が掛かります。ですが、その分、節税効果は大きく、事業を拡大していく中では必ず通る道と言えます。 その他、役員報酬の設定次第では社会保険料の節約にもなります。 法人化をする際に税理士が代理で行なえる業務はありませんが、決算期の設定や資本金の額をいくらにするかなど、有益なアドバイスをもらえますので一度相談してみてはいかがでしょうか。

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個人事業主の法人化への分岐点について、ご紹介をしてきましたが、いかがでしたでしょうか。法人化する際には様々な準備が必要になるため、すこし難しく感じた方もいるかもしれません。

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この記事の監修税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・CFP?)1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格、2010年京都大学経済学部経営学科卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。所得税・法人税だけでなく相続税申告もこなす。