この記事では、高齢者の雇用にかかわる助成金にはどのようなものがあるのか、また、それらの受給要件や受給額などついて解説しています。
高齢者の雇用にかかわる助成金とは?
国は高齢者の安定した雇用を確保するため、65歳までの継続雇用を義務付けていますが、あわせて高齢者の雇用や定年の引き下げなど雇用環境の改善について助成金を支給しています。
まずは、高齢者の雇用にかかわる助成金とはどのようなものであるのかについて説明します。
受給対象となる「高齢者」とは?
高齢者の雇用にかかわる助成金において、何歳以上の「高齢者」が対象になるのかについては助成金やそのコースによって異なりますが、概ね60歳以上の高齢者が中心です。
ただし、高齢者の雇用促進や雇用環境の改善を目的とした「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では「高齢者」という定義はなく、次のように年齢によって「高年齢者」などと細かく定義し、総合的に対策を講じていくこととしています。
①高年齢者 | 55歳以上の者 |
②中高年齢者 | 45歳以上の者 |
③中高年齢失業者等 | 45歳以上65歳未満の失業者およびその他就職が特に困難な失業者 |
④高年齢者等 | ①~③に該当する者 |
このため、高齢者の雇用にかかわる助成金にも、60歳以上の者だけでなく上記の定義に基づいて対象を広げているものがあります。
助成金に共通する要件
厚生労働省の雇用に関する助成金を、高齢者にかかわるものも含めて「雇用関係助成金」と言います。この雇用関係助成金は事業主が納めた雇用保険料で運用されていることもあり、申請するためには次の要件を満たしている必要があります。
- 雇用保険適用事業の事業主であること
- 支給のための審査に協力すること
- 申請期間内に申請を行うこと
助成金における「中小企業」とは
雇用関係助成金の中には、中小企業と大企業とで助成金の額が異なるものがあります。
「中小企業(事業主)」に該当するかどうかは、原則として次の基準で業種ごとに判断されます。
助成金における「生産性要件」とは?
雇用関係助成金の中には、次の式で計算される「生産性」が、助成金の申請前と比べて一定割合伸びている場合や、申請後に一定割合伸びた場合に助成金の額が増額、あるいは、追加で支給されるものがあります。この「一定割合」を「生産性要件」と言います。
生産性=付加価値/雇用保険被保険者数
※「付加価値」は、原則として「営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課」で求めます。
このあと説明する助成金には、この「生産性要件」が設定されているものと設定されていないものがありますが、あるものについては個別に説明しています。
生産性の計算方法など、詳しくは厚生労働省のホームページでご確認ください。
助成金の受付窓口
高齢者の雇用にかかわる助成金の受付窓口は、国に関するものであれば、管轄の都道府県労働局(一部の助成金はハローワークでも対応)、または、厚生労働省所管の独立行政法人である高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部です。
各受付窓口は、下記のリンクからご確認ください。
特定求職者雇用開発助成金・特定就職困難者コース
「特定求職者雇用開発助成金」は、高齢者や障害者など就職が困難な者をハローワークなどの紹介によって、継続して雇用する労働者として雇い入れた場合に支給される助成金です。
この「特定求職者雇用開発助成金」には7つのコースありますが、まずは高齢者の雇用にかかわる「特定就職困難者コース」の主な受給要件や受給額、申請方法について説明します。
主な受給要件
このコースでは、障害者やその他就職が困難な者の雇い入れも対象になりますが、高齢者の雇い入れに関する主な受給要件は次のとおりです。
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業所の紹介によって雇い入れること
- 60歳以上の者であって、雇い入れ日現在において満65歳未満の者を雇い入れること
- 雇用保険の一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが雇い入れ時点で確実であると認められること
受給額
対象労働者を高齢者(60歳以上の者)に限定すると、このコースでは、雇い入れから1年の「助成対象期間」が設定され、6か月単位で区分した「支給対象期」(計2期)ごとに助成金が支給されます。
具体的には、対象労働者1人あたり、その者の雇用形態と企業規模に応じて、下記の表の額を受給できます。なお、障害者やその他就職が困難な者の雇い入れについては整理が異なります。
- ( )内は大企業の受給額および助成対象期間です。
- 「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者のことを言います。
申請方法
支給対象期ごとにそれぞれの支給対象期の末日の翌日から起算して2か月以内に、「支給申請書」に必要な書類を添えて、管轄の都道府県労働局に支給の申請(ハローワークを経由して申請できる場合あり)をします。
受給要件や必要な書類の詳細については、管轄の都道府県労働局に問い合わせるか、下記の支給要領でご確認ください。
特定求職者雇用開発助成金・生涯現役コース
上記で説明した「特定求職者雇用開発助成金」には、高齢者だけを対象とした「生涯現役コース」というコースもあります。こちらは、65歳以上の離職者をハローワークなどの紹介によって、1年以上継続して雇用する労働者として雇い入れた場合に助成金が支給されるものです。
この「生涯現役コース」の主な受給要件や受給額、申請方法について説明します。
主な受給要件
主な受給要件は次のとおりです。
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業所等の紹介によって雇い入れること
- ハローワークなどから紹介を受けた日において雇用保険被保険者でない者であり、かつ、雇い入れ日現在において満65歳以上の者を雇い入れること、
- 雇用保険の高年齢被保険者として雇い入れ、1年以上雇用することが雇い入れ時点で確実であると認められること
受給額
先に説明した「特定就職困難者コース」と同様ですが、雇い入れから1年の「助成対象期間」が設定され、6か月単位で区分した「支給対象期」(計2期)ごとに助成金が支給されます。
具体的には、対象労働者1人あたり、その者の雇用形態と企業規模に応じて、下記の表の額を受給できます。
- ( )内は大企業の受給額および助成対象期間です。
- 「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者のことを言います。
申請方法
支給対象期ごとにそれぞれの支給対象期の末日の翌日から起算して2か月以内に、「支給申請書」に必要な書類を添えて、管轄の都道府県労働局に支給の申請(ハローワークを経由して申請できる場合あり)をします。
受給要件や必要な書類の詳細については、管轄の都道府県労働局に問い合わせるか、下記の支給要領でご確認ください。
65歳超雇用推進助成金
「65歳超雇用推進助成金」は、高齢者の雇用自体を対象としたものではなく、定年年齢の引上げや雇用継続制度の導入など、高齢者の雇用促進を図るための措置を対象とした助成金です。この助成金には、講じる措置の内容によって3つのコースがあります。主な受給要件や受給額、申請方法について説明します。
なお、この助成金の支給手続きは、厚生労働省ではなく、厚生労働省所管の独立行政法人である「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が行っています。
65歳超継続雇用促進コース
「65歳超継続雇用促進コース」は、定年年齢の引上げ(65歳以上)または廃止、継続雇用制度(66歳以上)の導入を対象にしているコースです。
主な受給要件や受給額、申請方法は次のとおりです。
主な受給要件
主な受給要件は次のとおりです。
- 定年年齢の引上げ(65歳以上)または廃止、希望者全員を対象とする継続雇用制度(66歳以上)の導入のいずれかを就業規則または労働協約に規定し、実施すること
- 支給申請日の前日において、1年以上継続して雇用している60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること
- 定年年齢の引上げなどの実施にあたって経費(就業規則の作成について社会保険労務士に委託した場合の費用など)を支払っていること
- 「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に基づく「高年齢者雇用推進者」の選任に加え、教育訓練の実施や作業施設・方法の改善など、所定の措置を1つ以上実施していること
受給額
実施した措置の内容(定年年齢の引上げと継続雇用制度の導入についてはその引上げ幅も考慮)と、1年以上継続して雇用している60歳以上の雇用保険被保険者数に応じて、下記の表の額を受給できます。
- 定年年齢の引上げと継続雇用制度の導入をあわせて実施した場合には、いずれか高い額のみ受給できます。
- 受給できるのは1事業主当たり1回限りです。
申請方法
措置の実施日の翌日から起算して2か月以内に、「支給申請書」に必要な書類を添えて、高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部、高齢・障害者業務課(東京支部、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)に支給の申請をします。
受給要件や必要な書類の詳細については、上記の担当窓口に問い合わせるか、下記の支給申請の手引きでご確認ください。
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」は、高年齢者のための新たな評価制度や賃金・人事処遇制度などの導入、実施を対象にしているコースです。
主な受給要件や受給額、申請方法は次のとおりです。
主な受給要件
主な受給要件は次のとおりです。
- 実施期間が1年以内で、下記の「高年齢者雇用管理整備の措置」を記載した「雇用管理整備計画書」を作成し、高齢・障害・求職者雇用支援機構に提出して認定を受けること
- 高年齢者のための賃金・人事処遇制度、短時間勤務制度、隔日勤務制度、在宅勤務制度など所定の措置(高年齢者雇用管理整備の措置)を労働協約または就業規則に規定して、「雇用管理整備計画」の期間内に実施すること
- 支給申請日の前日において、1年以上継続して雇用している60歳以上の雇用保険被保険者で、かつ、講じられた「高年齢者雇用管理整備の措置」によって雇用管理整備計画の終了日の翌日から6か月以上継続して雇用している者が1人以上いること
- 「高年齢者雇用管理整備の措置」の実施にあたって、この助成金の対象となる経費(就業規則の作成について社会保険労務士に委託した場合の費用やシステム・ソフトウェアの導入費用など)を支払っていること
生産性要件
支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前と比べて6%以上伸びている場合には助成金の額が増額になります。なお、増額した助成金を受給するためには、この生産性要件の算定対象となった期間中に事業主都合による離職者を発生させていないことも求められます。
受給額
「雇用管理整備計画」の期間内に要した対象経費の額について、中小企業の場合はその60%、大企業の場合はその45%の額(1,000円未満切り捨て)を受給できます。生産性要件を満たしている場合は、上記の割合が中小企業の場合は75%、大企業の場合は60%に割増しになります。
なお、対象経費の額については、初回の申請では実際の額にかかわらず50万円を要したものとみなされ、2回目以降の申請からは実費(50万円が上限)で計算されます。
申請方法
このコースでは、次の2段階の申請手続きが必要です。
①計画の認定申請
「雇用管理整備計画」の実施期間の開始日から起算して6か月前の日から3か月前の日まで(認定申請期間)に、当該計画を記載した「雇用管理整備計画書」に必要な書類を添えて、高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部、高齢・障害者業務課(東京支部、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)に認定申請を行って、認定を受けます。
②支給申請
「雇用管理整備計画」の実施期間の終了日の翌日から起算して6か月後の日の翌日からその2か月後の日までの間(支給申請期間)に、「支給申請書」に必要な書類を添えて、高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部、高齢・障害者業務課(東京支部、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)に支給の申請をします。
受給要件や対象となる経費、必要な書類の詳細については、上記の担当窓口に問い合わせるか、下記の支給申請の手引きでご確認ください。
高年齢者無期雇用転換コース
「高年齢者無期雇用転換コース」は、50歳以上で定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した場合に対象になるコースです。
主な受給要件や受給額、申請方法は次のとおりです。
主な受給要件
主な受給要件は次のとおりです。
- 実施期間が3年から5年までの「無期雇用転換計画書」を作成し、高齢・障害・求職者雇用支援機構に提出して認定を受けること
- 有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する制度を労働協約または就業規則に規定し、対象労働者を計画実施期間内に無期雇用労働者に転換すること
- 対象労働者は、雇用期間が通算6か月以上で50歳以上、かつ、定年年齢未満の有期契約労働者であり、無期雇用転換日において64歳以上でないこと
- 無期雇用転換後、6か月以上継続して雇用し、6か月分の賃金を支払うこと
- 支給申請日において、有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する制度を継続して運用していること
- 「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に基づく「高年齢者雇用推進者」の選任に加え、教育訓練の実施や作業施設・方法の改善など、所定の措置を1つ以上実施していること
生産性要件
「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」と同様ですが、支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前と比べて6%以上伸びている場合には助成金の額が増額になります。
なお、増額した助成金を受給するためには、この生産性要件の算定対象となった期間中に事業主都合による離職者を発生させていないことも求められます。
受給額
対象労働者1人につき、中小企業の場合は48万円、大企業の場合は38万円を受給できます。生産性要件を満たしている場合は、中小企業の場合は60万円、大企業の場合は48万円に増額になります。
なお、対象労働者の合計人数は、1年度1事業所あたり10人が上限です。
申請方法
このコースへの申請は、次の2段階の手続きが必要です。
①計画の認定申請
「無期雇用転換計画」の実施期間の開始日から起算して6か月前の日から2か月前の日まで(認定申請期間)に、当該計画を記載した「無期雇用転換計画書」に必要な書類を添えて、高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部、高齢・障害者業務課(東京支部、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)に認定申請を行って、認定を受けます。
②支給申請
対象労働者を無期雇用へ転換後、6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内(支給申請期間)に、「支給申請書」に必要な書類を添えて、高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部、高齢・障害者業務課(東京支部、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)に支給の申請をします。
受給要件や必要な書類の詳細については、上記の担当窓口に問い合わせるか、下記の支給申請の手引きでご確認ください。
中途採用等支援助成金・生涯現役起業支援コース
「中途採用等支援助成金」は、中途採用や東京圏からの移住者の採用、また、起業による中高年齢者等の雇用機会の創出を対象とした助成金です。
この助成金には3コースありますが、その中で中高年齢者等の起業および中高年齢者等の雇い入れを対象とする「生涯現役企業支援コース」について、主な受給要件や受給額、申請方法を説明します。
概要
このコースは他の助成金と少し整理が異なるため、受給要件などの説明に入る前に、まず概要について説明します。次の点が他の助成金と異なる点です。
- 対象となる事業主が、40歳以上の起業者に限定されていること
- 中高年齢者等を雇い入れるなど、このあと説明する受給要件を満たした場合に、対象労働者の募集や採用に要した費用などの一定割合が「雇用創出措置に係る助成」として助成金が支給されること
- 「生産性要件」などを満たした場合には、「生産性向上に係る助成」として別枠で助成金が支給されるが、受給できるのはこのあと説明する計画書の提出から3年以上先になること
主な受給要件
「雇用創出措置に係る助成」と「生産性向上に係る助成」のそれぞれの主な受給要件は次のとおりです。
雇用創出措置に係る助成
- 起業基準日(法人であれば「新たに法人を設立した日」、個人事業主であれば「新たに事業を開始した日」)における起業者の年齢が40歳以上であること
- 起業基準日から起算して11か月以内に「雇用創出措置に係る計画書」を管轄の都道府県労働局に提出し、認定を受けること
- 計画書に定めた計画期間(12か月以内で任意に定める期間)内に、対象労働者の募集や採用に関する取り組み、対象労働者が従事する職務に必要な知識・技能を習得させるための研修や講習、訓練の実施など、所定の雇用創出措置を行うこと
- 計画期間内に、「60歳以上の者を1人以上」、「40歳以上60歳未満の者を2人以上」、「40歳未満の者を3人以上(40歳以上の者1人と40歳未満の者2人でも可)」のいずれかの雇い入れを行うこと
生産性向上に係る助成
- このコースの「生産性要件」である、「計画書を提出した日の属する会計年度の生産性と、その3年度後の会計年度の生産性とを比較して、伸び率が6%以上であること」を満たしていること
- 支給申請時点において、雇用創出措置に係る助成金が支給決定されており、助成金を受給していること、かつ、認定された計画の事業が継続していること
- 雇用創出措置に係る助成金の支給申請日の翌日から、生産性向上に係る助成金の支給申請日までの間に、雇用する雇用保険被保険者を事業主都合で解雇していないこと
受給額
「雇用創出措置に係る助成」と「生産性向上に係る助成」のそれぞれの受給額は次のとおりです。
雇用創出措置に係る助成
対象労働者の募集や採用に関する取り組みなどに要した費用の一定割合を受給できます。助成率および上限額は、起業者の起業基準日の年齢に応じて次のようになっています。
生産性向上に係る助成
上記の雇用創出措置に係る助成として受給した額の4分の1の額を別途受給できます。
申請方法
このコースへの申請は、次の3段階の手続きが必要です。
①計画の認定申請
起業後11か月以内に、「雇用創出措置に係る計画書」に必要な書類を添えて、管轄の都道府県労働局に認定申請(ハローワークを経由して申請できる場合あり)を行って、認定を受けます。
②雇用創出措置に係る支給申請
計画期間の末日の翌日から起算して2か月以内に、「支給申請書(雇用創出措置分)」に必要な書類を添えて、管轄の都道府県労働局に支給の申請(ハローワークを経由して申請できる場合あり)をします。
③生産性向上に係る支給申請
「雇用創出措置に係る計画書」を提出した日の属する会計初年度から3年度後の会計年度が終了した日の翌日から起算して5か月以内に、「支給申請書(生産性向上分)」に必要な書類を添えて、管轄の都道府県労働局に支給の申請(ハローワークを経由して申請できる場合あり)をします。
受給要件や対象となる経費、必要な書類の詳細については、管轄の都道府県労働局を確認して問い合わせるか、下記の支給要領でご確認ください。
高齢者を雇用する際のルールや手続き
ここまで、高齢者の雇用にかかわる助成金について説明してきましたが、そもそも高齢者の雇用については、先に説明した「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」やそのほか関係法においていくつかのルールが定められています。
最後に、高齢者を雇用する際のルールや求められる手続きについて説明します。
65歳までの雇用機会の確保
現在の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、定年年齢は60歳以上としなければならず、そのうえで次のいずれかの措置を講じなければならないことになっています。
- 65歳までの定年年齢の引上げ
- 65歳までの継続雇用制度の導入
- 定年の廃止
②の「継続雇用制度」とは、雇用している高年齢者について、本人が希望すれば定年後も65歳までは引き続き雇用する「再雇用制度」などのことを言いますが、コスト的なこともあり、多くの企業ではこの制度を採用しています。
なお、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正により、2021年(令和3年)4月からは、 65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置(定年引上げや継続雇用制度の導入、定年廃止、労使で同意した上での雇用以外の措置(継続的に業務委託契約する制度や社会貢献活動に継続的に従事できる制度)の導入のいずれか)を講ずることが企業の努力義務になることが決まっています。
高年齢者雇用に関する届出
高年齢者の雇用に関しては次のような届出義務があります。
①高年齢者雇用状況報告
従業員31人以上の事業所が対象になりますが、毎年7月15日(土日祝の場合は調整あり)までに、6月1日現在の高年齢者を含めた従業員の年齢分布や、定年制や継続雇用制度の状況などについて「高年齢者雇用状況報告書」にまとめ、管轄のハローワークに提出しなければなりません。
なお、この報告は、従業員45.5人以上の事業所を対象とする「障害者雇用状況報告」とあわせて対応が求められています。
②多数離職届
雇用する45歳以上65歳未満の労働者について、1か月以内の期間に5人以上の者が解雇やその他の事業主の都合、継続雇用制度の基準に該当しなくなったことにより退職する場合には、あらかじめ、「多数離職届」を管轄のハローワークに提出しなければなりません。
継続される有期雇用労働者の無期転換申込権の特例
労働契約法の改正により、2013年(平成25年)度から「無期転換ルール」、つまり、同一の使用者との有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新された場合には、労働者の申込みによって無期労働契約に転換するルールが導入されています。
ただし、この無期転換ルールには特例があり、年収が1,075万円以上の「高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者」と「定年後引き続き継続雇用される有期雇用労働者」については、都道府県労働局の認定を受けることで適用させないことができるようになっています。
「高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者」の説明は省略しますが、「定年後引き続き継続雇用される有期雇用労働者」にこの特例が設けられたのは、例えば、60歳で定年を迎えた者を65歳までの有期労働契約で再雇用すると、最終的に無期労働契約に転換しなければならなくなるという矛盾を解決するためです。
この特例についての詳細や手続きについては、以下のパンフレットでご確認ください。
高齢者を雇用する際の社会保険手続き
社会保険には、厚生年金保険と健康保険がありますが、厚生年金保険の上限年齢は70歳、健康保険の上限年齢は75歳です。
※雇用保険についても65歳の上限年齢がありましたが、2017年(平成29年)1月から撤廃されています。
このため、新たに70歳以上の従業員を雇用したり、雇用している従業員が70歳になったときは、厚生年金保険や健康保険について、日本年金機構(年金事務所)に一定の届出をする必要があります。
70歳以上の従業員に関する厚生年金保険・健康保険の手続きの詳細については、下記の記事でご確認ください。
まとめ
少子高齢化が進む中、企業は高齢者を中心とした労働環境にしていかざるを得ませんし、将来的には70歳までの雇用が義務になることも予想されますので、いまのうちに助成金を活用して高齢者の雇用環境を整備していきたいところです。
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