いったん焦がしてしまった鍋をきれいにすることは重労働です。しかしちょっとした化学の知識を活用することで、水や塩、身近な洗剤だけで驚くほど簡単に落とせます。洗剤の種類別による焦げ落としの方法、注意点についても解説します。
鍋の焦げ落としには重曹が使える
料理・消臭・掃除など幅広い用途で大活躍する「重曹」は、鍋の焦げ落としにも有用です。
「重曹」は「炭酸水素ナトリウム」のことで、「重炭酸ナトリウム」「重炭酸ソーダ」「ベーキングソーダ」とも呼ばれます。
「ベーキングパウダー」も同じものと思われがちですが、これは重曹に食品添加物など他の物質が加えられており用途が異なります。
2つは名前も紛らわしく見た目もほぼ変わらないため、混同しないよう注意しましょう。
なぜ重曹で焦げが落とせるのか
重曹と水を混ぜ加熱すると化学変化が起きるため、洗浄力がアップします。重曹(炭酸水素ナトリウム)は加熱することによって「炭酸ナトリウム・水・二酸化炭素」に分解されます。
重曹入りの水が煮立つことにより、二酸化炭素がシュワっとした気泡を発生して泡の力で焦げなどを落とすのです。
また、重曹は60℃以上の熱で「炭酸水素ナトリウム」から「炭酸ナトリウム」へと変化し、より高いアルカリ性質になります。加えて煮沸の熱により、油汚れや鍋の焦げ付きへの洗浄力が高くなるのです。
重曹が使える素材か確認しよう
鍋の素材によっては、重曹が使えない場合があるため注意が必要です。特にアルミ製・銅製のものだと、化学反応を起こして黒ずみが生じたり、腐食して穴が空いたりする場合もあります。
それ以外の素材では、フッ素樹脂加工がされている鍋も要注意です。せっかくのコーティングが剥げる原因になりかねません。重曹は使用しない方が無難です。
「鍋の素材がよくわからない」という場合は、アルカリ性・酸性洗剤より洗浄力が劣るものの、中性洗剤を用いると安全です。
重曹を使った焦げの落とし方
ここからは焦げの落とし方の手順を具体的に解説します。
重曹と水を混ぜる割合はだいたいでOKです。特にペースト状にする場合は、作業がしやすい硬さに調整するとよいでしょう。
重曹と熱湯を入れて放置し、軽くこする
必要なものは重曹・水・スポンジのみで、作業手順は下記の通りです。
- 焦げた部分がきちんと浸るように、水を鍋に入れる
- コップ1杯(約200cc)に対して、重曹を大さじ1杯の比率で加える
- 鍋を弱火にかける。沸騰してから約10分加熱を続ける
- 火を止め、そのまま半日ほど放置する
- 溶液を捨て、柔らかいスポンジで焦げた部分を軽くこする
- もしこれでも汚れが残る場合は、上記の作業を繰り返す
溶液を加熱しすぎると、液が冷めたときに炭酸塩が鍋に付着する恐れがあります。強火・長時間かけて煮すぎないように注意しましょう。
頑固な焦げ付きはラップを使って
頑固な焦げをピンポイントで対処するには、重曹ペーストとラップを使った「重曹パック」がおすすめです。
重曹1カップ(約200cc)・水約100cc・スポンジ・ラップ・古い歯ブラシを用意し、次の手順で作業しましょう。
- 重曹と水を加えて混ぜて練り、重曹ペーストを作る
- 焦げた部分に歯ブラシで塗りつけ、上からラップを貼る
- そのまま1時間ほど放置する
- ラップで汚れを軽くこすって落とす
- 細かい部分は歯ブラシを、全体はスポンジを使いながら汚れを落とす
- 水洗いしてすすいだ後、鍋を乾燥させる
重曹以外で焦げを落とす場合
重曹以外で焦げ落としに使える洗剤や身近な素材の中から、よく使われるものを3つピックアップしました。近くのスーパー・ホームセンターなどで手軽に入手できるものばかりです。
酢とクエン酸は酸性、セスキは重曹と同じアルカリ性の性質です。有効となる汚れがそれぞれ異なるため、両タイプとも揃えておくことをおすすめします。
お酢やクエン酸を使う
重曹だとあまり効果がない場合には、酢またはクエン酸を試してみるとよいでしょう。
焦げ付きは原因となる食品によって性質がかわります。肉・魚・卵などの酸性食品が原因の焦げにはアルカリ性の重曹、野菜・きのこ・大豆製品などのアルカリ性食品が原因の焦げには酸性のクエン酸や酢が効果的です。
やり方はどちらも同じで、水と一緒に弱火で約10分加熱し、冷ましてからスポンジなどでやさしくこすり落とします。
両者の違いは次の通りです。ニーズによって使い分けましょう。
- 酢:酢1対水2の割合で使う。ツンとする臭いがあり、べたつきが残りやすいため最後はしっかり水洗いする。
- クエン酸:水カップ1(200ml)に小さじ1の割合で使う。無臭だが手が荒れる可能性がある。仕上げは軽くふき取るだけでOK。
セスキを使う
「セスキ炭酸ナトリウム」「セスキ炭酸ソーダ」などという名前で呼ばれる「セスキ」はアルカリ性を持ち、重曹の代用品として使用可能です。
重曹と比べてアルカリ性が強く、酸性の汚れに対してより高い洗浄効果が期待できます。
水に溶けやすく手荒れの心配もそれほどありません。常温で長期間保存しても変質しにくいなどといった特徴があります。
使用量は、水2.5カップ(500cc)に対して小さじ1です。焦げの落とし方は重曹と同様で、セスキと水を鍋に入れ弱火で約10分加熱後、しばらく放置してからスポンジなどでこすります。
洗剤を使わないで落とす方法
ここでは重曹や他の洗剤を使えない場合の洗浄方法を3つ紹介します。なるべく洗剤を使いたくないエコ派の人にもおすすめです。
購入時には、素材や手入れの方法についての説明書を読み、手順に従うことが大切でしょう。
鉄鍋は空焚きをして焦げ落とし
表面にフッ素樹脂加工がされていない鉄鍋であれば、空焚きにより焦げを炭化させて落とすことが可能です。
鉄鍋を煙が出るまで強火で空焚きし、冷めたらヘラ・金タワシなどで焦げをこそぎ落とします。その後は水洗いしてサビ・鉄くずを洗い流し、再度火にかけ水分を蒸発させましょう。
最後に食用油を表面にまんべんなく塗り、再度火にかけ油のテカリがなくなったら火から下ろします。
注意点として、この方法は鉄鍋のみに有効であり原則として鍋の空焚きはNGです。
ほかの素材の鍋だと、有害物質が発生したり火災の原因になったりすることもあるため、くれぐれも注意しましょう。
銅鍋は水を沸騰させて浮かせる
銅鍋は水を入れて沸騰させ、焦げを柔らかくして浮かせる方法がおすすめです。
銅はアルカリ性物質に弱く、重曹・セスキなどを使うと黒ずんだり穴が空いたりすることもあるため、使用は避けましょう。
水だけで試してもまだ焦げが残っていたり、銅鍋に付いたサビを落としたりするには、酢と塩が有効です。
酢と塩を1対1の割合でミックスし、スポンジか布に付けてこすります。その後は中性洗剤を使いながら洗い、最後は水ですすぎます。
銅鍋はデリケートな素材なので、あまり力任せにこすると傷が付くこともあるため、取り扱いには注意しましょう。
フッ素樹脂コーティングの鍋も使える方法
フッ素樹脂加工がされた鍋も、水を入れて沸騰させ、冷めてからゴムベラなどでこそげとります。
もともと表面をコーティングして焦げにくい構造である上、水をはじくように作られているため、たいていの場合は水のみで掃除可能です。
ポイントは「強火はNG、中火にかけること」「ゴムベラやスポンジなど柔らかいものでこすること」です。
特に金属製のタワシや研磨剤は、鍋のコーティングを剥がして表面を傷めることになるのでやめましょう。
焦げ落としの注意点
鍋の焦げ落としに関して、どの素材の鍋にも共通する一般的な注意点を2つ挙げました。適切な道具と洗剤を使うことが、ポイントです。
硬いスポンジやヘラでゴシゴシこすらない
金属製のタワシやヘラなど、硬い道具で鍋をこするのはNGです。
頑固な汚れに対しては、つい力任せにガリガリとやりがちですが、鍋の表面を傷つけかえって焦げやすくなることもあり得ます。
酸性・アルカリ性の洗剤をうまく使い分けるとともに、ラップやシリコン製のスクレイパー、メラミンタワシなど、それほど硬くない道具を組み合わせることで作業がグッと楽になるでしょう。
金属はオキシクリーンが苦手
「万能漂白剤」というイメージがあるオキシクリーンですが、金属製やフッ素樹脂加工された鍋には使えません。素材を傷めたり、変質させたりする恐れがあるためです。
オキシクリーンは重曹やセスキと同じく弱アルカリ性で、成分は過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムです。
「同じアルカリ性の重曹は鍋に使えたから、オキシクリーンもOK」と思いがちですが、オキシクリーンの使えない素材に「金属全般」とあります。「漂白といえばオキシ漬!」と思っている人は要注意です。
鍋の焦げ付きに悩まされないために
そもそも鍋を焦がさないに越したことはありません。できるだけ焦げつきを起こさないよう、普段から心がけることが大切です。
焦げを減らすためにできることを2つ提案します。
火力に気を付ける
焦げ付く原因のひとつには「火力が強すぎる」可能性が挙げられます。「しっかり火を通したいから」「強火だと早く調理ができるから」という理由で、つい調節ツマミを最高にしていませんか?
レシピに「強火で」と書いてある場合もあるでしょう。しかしそれぞれのコンロの火力はもとより、キッチンの環境、鍋の種類や大きさなど、条件がそれぞれ異なるものです。
焦げができてしまったということは、火加減が強すぎた証明といえます。もう少し火力を弱めて調理してみましょう。
焦げにくい鍋を使う
焦げにくい素材・構造の鍋を選ぶこともひとつの手です。フッ素樹脂加工がされたものは、そもそも焦げ付きにくくできています。
近年では鍋の底や側面全体が多数の金属層で作られている「多層鍋」なども人気です。
特にステンレスとアルミを組み合わせた「ステンレス多層鍋」は、熱を鍋全体に均等に伝え底面だけに集中させない工夫がされています。中でも底が厚めの鍋を選ぶと、さらに焦げ付きにくくなるでしょう。
きれいに保って長く鍋を愛用しよう
酸性・アルカリ性など簡単な化学の知識を活用することで、鍋の焦げ落としはうんと簡単になり効率もアップできます。力を入れてこする必要もありません。
その反面で洗剤や道具の使い方を間違えると、鍋を傷める可能性もあります。
洗剤や鍋の素材について注意書きなどをよく読み、適切な素材に正しい方法で適用することが大切です。
くわえてこまめなケアで鍋の状態を維持することは、気持ちよく調理ができるだけでなく鍋を長持ちさせるためにも有効です。ちょっとした心がけが節約にもつながります。