法律上で実の親子扱いになる養子縁組ですが、「相続権についてどうなっているのか」と気になる人は多いのではないでしょうか。結論としては、民法上で養子と実子は同じ扱いです。
本記事では「養子縁組と相続権・相続分の関係はどうなのか」という基本に加え、「なぜ相続税対策につながるのか」の詳細を解説しました。
この記事を監修した税理士
税理士法人better - 東京都中央区日本橋人形町
養子縁組と相続権
血縁関係がない養子縁組にも、民法上で相続権が認められます。養子縁組になった時点で法律上でも実の親子扱いになり、法の適用に実子・養子の区別がなくなるためです。つまり、養子であっても法定相続人として遺産が受け取れます。もちろん、代襲相続人(相続できない人の子が代わりに相続を受ける)になることも可能です。
3 なお、次のいずれかに当てはまる人は、実の子供として取り扱われますので、すべて法定相続人の数に含まれます。
(1) 被相続人との特別養子縁組により被相続人の養子となっている人
ただし、親と養子の関係が「普通養子縁組」か「特別養子縁組」かで相続権が変わります。以下より詳細を見ていきましょう。
普通養子縁組
「普通養子縁組」で養子になった人は、「養子を引き取った養親の財産」と「養子を産んだ実親の財産」の両方を相続できます。普通養子縁組とは、「実親との親子関係を結んだまま」で、養親と養子縁組になる制度です。つまりこのときの養子は、相続権を維持したままの親子関係を2つをもっています。
(1)普通養子縁組になる条件
普通養子縁組とするには、民法第792条を始めとする以下の「縁組の条件」を満たさなければなりません。
- 家庭裁判所の許可を得ること(孫や配偶者の連れ子は除く)
- 養親・養子がどちらも納得していること(養子が未成年の場合は代わりに法定代理人)
- 養親が成年(20歳)以上かつ養子より年上であること
- 養親の尊属(父母以上の世代)ではないこと
- 配偶者の同意があること
- 養子が未成年のときは夫婦どちらも養親になること(配偶者の連れ子は除く)
赤の他人を引き取るという責任が発生することから、厳しめの条件が問われます。気軽にできるものではないと覚えておきましょう。
(2)普通養子縁組にする主なケース
普通養子縁組にする理由で多いのは、主に以下のケースです。
- 再婚相手の連れ子を養子にするとき
- 弟子を家の跡継ぎにしたいとき
- 孫を養子にするとき
- 子どもの配偶者を養子に迎えるとき
上記に当てはまるときは、相続の手続きについて一度確認してみましょう。
特別養子縁組
特別養子縁組の場合は、養親としか親子関係を結んでいないため、実親の財産については相続権がありません。相続の権利があるのは養親の財産のみになります。これはそもそも特別養子縁組が「実親との親子関係を解消している状態」にあるからです。もちろん、実親が亡くなったときの法定相続人にもなれません。
(1)特別養子縁組になる条件
特別養子縁組とするには、民法第817条を始めとする以下の「特別養子縁組の成立」条件を満たさなければなりません。
- 実父母との親族関係が終了すること
- 養親に配偶者がいること
- 夫婦の一方が25歳以上(もう1人は20歳以上)
- 養子の年齢が15歳未満であること
- 養子の実親の同意があること(虐待や悪意の放棄、養子の利益を著しく害する場合を除く)
- 6ヵ月の監護期間(一緒に暮らす)を経ること
参考:民法|e-gov
もともと特別養子縁組は、「子どもの福祉の積極的な確保のため」に取り入れられた制度です。その背景もあり、普通養子縁組より厳しい条件が課せられます。
(2)特別養子縁組にするケース
特別養子縁組にする理由として、主に以下のケースが挙げられます。
- 児童相談所や養子縁組あっせん機関からで引き取るとき
- 実親が経済的に困窮し育てられないとき
- 養育費を払わない、面会謝絶するなど実親に育てる意思がないとき
実の親子関係を破棄することを考えると、複雑な境遇である場合が少なくありません。
養子が死亡した場合の相続人
もし養親より先に養子が死亡したときは、実子が亡くなったときと同じく代襲相続が可能です。ただし、養子の子ども(養親にとっての孫)にできるかは、養子の子が産まれた時期で変わります。具体的には「養子になる前」か「なった後か」です。
養子が産まれた時期 | 代襲相続の可否 |
養子縁組になる前に産まれた | 子どもは代襲相続人になれない |
養子縁組になった後に産まれた | 子どもは代襲相続人になれる(実孫と同じ扱い) |
この措置は、あくまで誕生時点での関係性を重視し、「誕生したときは養親の孫ではない」と判断するためと言われています。
再婚相手の連れ子に相続権はある?
たとえ再婚相手の連れ子であっても、養子縁組の手続きを行わないと連れ子に相続権は与えられません。再婚しただけでは、再婚相手と連れ子の間でしか親子が認められないためです。遺留分(相続人が最低限もらえる財産)もありません。
ただし連れ子を養子縁組にする条件は通常よりも緩めです。ちなみに、婚姻関係にない内縁の妻の連れ子のときは、子どもを認知することで相続権が発生します。
養子の相続分や遺留分
ここでは相続に関する養子の扱いについて、以下3つのケースを解説します。
- 養子の相続順位
- 養子の相続分
- 養子の遺留分
それぞれについての根拠も合わせ、以下で詳細をご紹介します。
養子の相続順位
養子の相続順位は、実子と同じく第一順位扱いです。つまり、養子への相続は最優先されます。相続順位は以下の通りです(民法第887・889・890条など)。
血族相続人の順位 | 血縁関係 |
順位関係になく法定相続人になる | 配偶者 |
第一順位 | 子ども(実子・養子) |
第二順位 | 直系尊属(実父母・祖父母など) |
第三順位 | 兄弟姉妹 |
順位が低い人は、順位が高い人がいないときに初めて相続人に選ばれます。たとえば、通常は「配偶者と子ども」に相続されます。しかし、子どもがいないときは「配偶者と直系尊属」、さらに直系尊属がいない場合は「配偶者と兄弟姉妹」という組み合わせになります。要するに、養子は基本的に必ず相続の対象です。
養子の相続分
養子の相続分の割合は、実子と同じく1/2になります。たとえば、3,000万円の相続が発生したときは、配偶者に1,500万円、こどもに1,500万円の分配です。さらに子どもが複数人いる場合は、1,500万円を子どもの数で割って、それぞれが相続します。
養子の遺留分
養子の遺留分も、実子と同じ割合になります。もし養親が遺言等で遺産の分配を決めていたとしても、養子は遺留分の遺産について請求可能です。割合は以下の通りです。
遺留分を受け取れる人 | 割合 |
直系尊属のみ | 被相続人の財産の1/3 |
それ以外(配偶者と子どもなど) | 被相続人の財産の1/2 |
ただし、もしトラブルで養子の遺留分が侵害されたとしても、「相続開始または遺留分の侵害を知ってから1年(時効)」あるいは「相続開始を知らないまま10年(除斥期間)」が経過すると権利を主張できません。
相続における養子縁組のメリット
養子縁組の手続きを行い養子として迎えると、相続に関してさまざまなメリットが発生します。具体的なメリットを、以下より3つ見ていきましょう。
相続税の基礎控除額
相続税法第15条によると、相続税の基礎控除額は「法定相続人×600万円」分だけ増えます。つまり「増加した養子の人数×600万円」だけ、課税される財産を減らすことが可能です。
たとえば遺産が5,000万円あったとすると、法定相続人が2人の場合は基礎控除4,200万円、課税所得は800万円です。ここに養子が1人加わると、課税所得が200万円まで減ります。相続税は1,000万円以下で10%かかるので、相続税額はそれぞれ80万円と20万円と、60万円も違ってきます。
生命保険金の非課税限度額
養子が法定相続人になることで、生命保険金の非課税の限度額を引き上げられます。法定相続人の数で金額が決まるためです。
たとえば法定相続人が配偶者・実子・養子が3人だと、非課税枠は1,500万円です。この場合は生命保険金が1,500万円までなら、相続税が一切かかりません。
ただし、この非課税枠は「生命保険金の保険料を負担していた人(例:養親)」の生命保険金を「相続人が受け取る(例:養子)」場合にのみ適用です。相続人以外が受け取るときは、相続税ではなく所得税や贈与税の対象になります。
死亡退職金の非課税限度額
死亡退職金も、養子が増えた数だけ非課税限度額が上がります。計算式や適用条件も生命保険金と同じです。死亡退職金は「会社から被相続人に支払われる所得」のような形ですが、「みなし相続財産」として相続税の対象になります。
2 死亡後3年以内に支給が確定したものとは次のものをいいます。
(1) 死亡退職で支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
(2) 生前に退職していて、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
ただし、支払いの確定が被相続人の死亡から3年以上経過してからだと、所得税としての課税です。
生命保険金と死亡退職金の非課税枠を超えた分
もし生命保険金や死亡退職金が非課税額を超えるときは、非課税枠が死亡退職金の受け取り人ごとに分割されます。「死亡退職金4,000万円」「法定相続人2人(母と子の3人)」「母2,000万円と子1,000万円ずつで分ける」の3つの条件で見ていきましょう。
非課税限度額
500万円×3人=1,500万円
母親に適用される非課税枠と課税金額
非課税枠=1,500万円×(2,000万円÷4,000万円)=750万円
課税額=2,000万円-750万円=1,250万円
子1人あたりに適用される非課税枠と課税金額
非課税枠=1,500万円 ×(1,000万円÷4,000万円)=375万円
課税額=1,000万円 – 375万円=625万円
上記の例では母が1,250万円、子はそれぞれ625万円に相続税がかかります。
法定相続人として数える養子の数には上限があるので注意
法定相続人になれる養子の数は、相続税法第15条にて決まっています。被相続人(養親)に実子がいない場合は2人、いる場合は1人までです。
非相続人の実子の状況 | 法定相続人になれる養子の数 |
被相続人に実子がいない | 2人まで |
被相続人に実子がいる | 1人まで |
意図的に養子を増やして相続税の減税を狙うケースをなくすよう、このような決まりが設けられています。実際に虚偽の養子縁組の届け出は問題になっており、過去に法務省が「養子縁組等に関する実態調査結果概要」をまとめたことがありました。
相続における養子縁組のデメリット
相続税法上でさまざまな節税が受けられる養子縁組ですが、多くのデメリットも存在します。以下で4つ見ていきましょう。
孫を養子にした場合には相続税が2割増し
もし孫を養子縁組にして相続・遺贈しようとすると、かかる相続税が通常の2割増しになります。相続税法第18条で「配偶者と1親等(子どもと父母)」以外は割増になると決まっているためです。
(1) 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人で、被相続人の配偶者、父母、子ではない人(例示:被相続人の兄弟姉妹や、おい、めいとして相続人となった人)
(2) 被相続人の養子として相続人となった人で、その被相続人の孫でもある人のうち、代襲相続人にはなっていない人
ただし事前に相続予定の人の相続権がなくなり、孫が代襲相続人となっていた場合はその限りではありません。
養子縁組解消には手続きが必要
養子縁組になるには条件クリアと手続きが必要なように、養子縁組を解消するのにも「離縁」の手続きが発生します。離縁する方法の種類は以下の通りです。
養子離縁の種類 | 詳細 |
協議離縁 | 双方が離縁に同意し「協議離縁届」を役所に提出する |
離縁調停 | 意見がまとまらないときに、家庭裁判所の調停手続きを行い話し合う(状況次第では審判離縁になる) |
離縁裁判 | 法律上の離縁理由がある場合に、裁判によって離縁を争う |
死後離縁 | 養親・養子のどちらかが亡くなったときに、家庭裁判所に手続きする |
実子との関係と同じく、養子縁組にも自然消滅がありません。もし解消したいときは、正式な手続きを行いましょう。
安易に養子縁組をするとトラブルの元になることも
親子関係を結ぶということは、関係が深くなる分だけトラブルを呼び込みます。たとえば以下のケースが考えられるでしょう。
- 遺産分割で親族、もしくは養親と実親と間でトラブルになる
- 一人ひとりへの相続額が減る
- 養子の扶養義務が発生する
もちろん、金銭や人間関係だけでなく当人同士の気持ちの問題も考えなければなりません。デリケートな部分も多いので、慎重な検討をおすすめします。
節税目的とみなされると税額控除が認められない
「明らかに節税するためだけに養子縁組にした」と判断された場合は、養子として認められず税額控除とはなりません。相続税法第63条に明示されています。
第十五条第二項各号に掲げる場合において当該各号に定める養子の数を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)及び相続税額を計算することができる。
出典:相続税法|e-Gov
そもそも養子縁組の本来の目的を考えると、節税制度はメインではありません。「自分の子どもとして家族に迎えたい」、その気持ちが最初にあることを忘れないようにしましょう。
まとめ
法律上では、養子・実子が受け取れる遺産や遺留分の権利に違いはありません。むしろ法定相続人が増えることで節税につながります。ただし、責任やトラブルの関係もあり、安易な考えで養子縁組にすることは避けましょう。
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監修税理士のコメント
税理士法人better - 東京都中央区日本橋人形町
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