こんにちは、税理士の進藤です。相続税の計算において、基礎控除は非常に重要で、必ず押さえなければいけない項目と言っても過言ではありません。そんな基礎控除について、詳しく見ていきましょう。
この記事を執筆した税理士
税理士事務所フリークロス - 東京都千代田区神田猿楽町
相続税の基礎控除とは
相続税の基礎控除とは、相続税の計算をする際に遺産総額から差し引くことができる金額をいいます。遺産総額が基礎控除以下の場合には相続税はかからず、相続税の申告をする必要はありません。
相続税の基礎控除の計算
相続税の基礎控除は、計算式自体はシンプルですが、詳細は非常に奥深いものとなります。詳細を確認する前に、まずは計算式の全体像を確認していきましょう。
相続税の基礎控除の計算式
相続税の基礎控除は以下の計算式により計算されます。
【基礎控除額の計算式】
基礎控除額=3,000万円+(法定相続人の数×600万円)
基礎控除の金額を計算するには、上記計算式の「法定相続人の数」を正しく把握することがポイントとなります。では、法定相続人とは何か、概要を確認していきましょう。
法定相続人とは
法定相続人とは、一言で言うと、相続税法で定める「相続人」のことです。法定相続人は、基本的には民法で定める相続人と一致しますが、以下の点において民法で定める相続人とは異なります。
- 相続の放棄があった場合には、法定相続人は相続の放棄がなかったものとして計算する
- 法定相続人の数に含むことができる養子の数に制限がある
相続税法と、民法の違いは上記のとおりですが、そもそも、民法で定める相続人とはどのようなものでしょうか。
相続人とは、財産を相続する権利を有する人のことをいいます。相続人になれる可能性があるのは、配偶者、子、両親、兄弟姉妹がいますが、これら相続人は以下の2つのグループに大きく分けられます。
グループ①【配偶者】・・・配偶者は必ず相続人となります。
グループ②【子、両親、兄弟姉妹】・・・グループ②の相続人は以下のように順位付けがされており、両親と兄弟姉妹は、前の順位の相続人がいない場合に初めて相続人となれます。
第1順位 | 子 |
第2順位 | 両親 |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
以上が、相続人に関する概要となります。 実際に相続税の基礎控除に関する法定相続人の数を計算するにあたっては、注意しなければならない事項がたくさんあります。そういった注意事項を詳しく見ていきます。
法定相続人の数を計算する際の注意点
基礎控除の計算で最も重要なのが、法定相続人の数を正確に把握することです。ここでは、法定相続人の数を計算する上で注意すべき点をひとつひとつ確認していきましょう。
相続放棄した相続人がいる場合の基礎控除の計算
相続放棄とは、文字通り相続を放棄すること、言い換えれば財産・債務を一切相続しない選択をすることをいい、相続放棄をするためには、原則として相続の開始から3ヶ月以内に相続放棄の旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。
では、相続放棄した法定相続人がいる場合には、基礎控除の計算はどのように行われるのでしょうか。
結論としては、相続放棄があったかどうかは、基礎控除の計算には関係がありません。相続放棄をした法定相続人がいたとしても、相続放棄がなかったものとして基礎控除の計算を行います。
以下の具体例で見てみましょう。
【具体例】
故人の両親が存命、配偶者が死亡、子が一人のケース
上記のケースで子が相続放棄をした場合には、相続税の基礎控除はどのように計算されるのでしょうか。
上述したとおり、基礎控除計算にあたっては、相続放棄はなかったものとして計算を行います。従って、子は相続放棄をしなかったものとして法定相続人に該当するため、法定相続人の数は1人となり、
が基礎控除の金額となります。
なお、上記のケースで子が相続放棄した場合には、民法の規定によると故人の両親が相続人となり、財産を相続することとなります。このように、相続放棄があった場合の基礎控除の計算においては民法と相続税法で取り扱いが異なりますので注意が必要です。
遺言がある場合の基礎控除の計算
故人が遺言を残しており、法定相続人以外の者が遺言により財産を取得する場合、遺言の有無は基礎控除の計算に影響しません。
なぜなら、遺言により財産を取得した者は、法定相続人ではないからです。遺言により財産を取得する者は「受遺者」と呼ばれて法定相続人とは区別され、受遺者は法定相続人とは異なるものとして取り扱われます。
従って、もし、「家族とは全く関係がない第3者に遺産の全てを取得させる」という遺言があった場合でも、基礎控除の計算は、法定相続人の数、言い換えれば遺言がなかった場合に財産を相続する権利のある者の数に基づき行うこととなります。
法定相続人がすでに死亡している場合の基礎控除の計算
法定相続人の中に既に死亡している者がいる場合には、基礎控除はどのように計算されるのでしょうか。
原則として、死亡した法定相続人は、法定相続人の数に含まれないこととなります。しかし、法定相続人の死亡に伴い、他の者が新たに法定相続人となるケースがあります。そのケースを、法定相続人の分類別にお伝えさせて頂きます。
①:子が相続開始以前に死亡していた場合
法定相続人である子が相続開始以前に死亡していた場合で、子に更に子がいた場合(孫がいた場合)には、孫が新たに法定相続人となります。更に孫も死亡しており、孫に子がいた場合(ひ孫がいた場合)には、ひ孫が法定相続人となります。
このような取り扱いがされている理由ですが、もし子が故人よりも先に死亡していた場合に孫が何も相続できなかったとすると、本来であれば子が相続し、その後子が亡くなった時に孫が相続するであろう故人の財産を、全く受け取れないこととなってしまいます。たまたま死亡の順番が前後したことによりこのような不利益が発生するのは望ましくない、というのが大きな理由の1つとされています。
②:両親が相続開始以前に死亡していた場合
法定相続人である両親が相続開始以前に死亡していた場合で、祖父母が存命の場合には、祖父母が法定相続人となります。もし祖父母が死亡していて曽祖父母が存命の場合には、曽祖父母が法定相続人となります。
③:兄弟姉妹が相続開始以前に死亡していた場合
法定相続人である兄弟姉妹が相続開始以前に死亡していた場合には、①の場合と同じく、兄弟姉妹に子がいる場合には、子が新たに法定相続人となります。しかし、兄弟姉妹の子が死亡していて、かつ、孫がいたとしても、兄弟姉妹の孫は法定相続人とはなりません。
このように、孫の相続に関して兄弟姉妹が子と異なる取り扱いがされているのは、兄弟姉妹については一般的な親戚付き合いは甥、姪の世代までであり、甥、姪の子供となると顔も分からない関係であることが多く、そこまで相続の対象にすると兄弟が多い場合には相続の手続きが複雑になりすぎてしまうため、このような取り扱いがされていると言われています。
故人に養子がいる場合の基礎控除の計算
故人に養子がいる場合には基礎控除はどのように計算されるのでしょうか。
故人の養子は、基本的には法定相続人の数に含まれます。しかし、制限を設けないと相続税の節税のために、いくらでも養子を増やすことができてしまうため、相続税法上では基礎控除の計算の上で相続人として認められる養子の数には限度があります。
具体的には、実子がいる場合といない場合とで、以下のように制限されています。
実子がいる場合 | 1人まで |
実子がいない場合 | 2人まで |
このように、法定相続人の数に含まれる養子の数は最高でも2名までですので、相続税の節税のための養子縁組を検討する際はこの点に気をつけましょう。
法定相続人として不適格な行為を行った者がいる場合の基礎控除の計算
法定相続人として不適格な行為を行った者は、財産を相続する資格を失い、法定相続人として認められなくなり、基礎控除の計算に影響を与えます。では、法定相続人として不適格な行為とはどのようなものでしょうか。法律で規定されている主なものは以下のとおりです。
- 故人、又は他の法定相続人を殺害した、あるいは殺害未遂で刑に処せられたこと
- 詐欺や脅迫によって、故人に無理やり遺言を作成させたり、遺言の内容を変更させたりすること
- 遺言を偽造、変造、破棄、隠匿すること
もし、法定相続人の中に上記に当てはまる者がいる場合には、法定相続人から除外されることになり、基礎控除の計算における相続人の数には含まれないこととなります。
家庭裁判所の審判により相続権を奪われた相続人がいる場合の基礎控除の計算
故人に対して虐待や侮辱をするなど、相続させたくないと感じるような行動を行った法定相続人に対し、故人は家庭裁判所の審判により、その者の相続権を奪うことができます。
これを専門用語で廃除といいますが、廃除があった場合には、廃除の対象となった者は法定相続人とは認められず、基礎控除の計算から除かれることとなります。
お腹の中に赤ちゃんがいる場合の基礎控除の計算
相続が発生した時点で、お腹の中に赤ちゃんがいる場合の基礎控除の計算はどのように行われるのでしょうか。
このケースは、相続税の申告書を提出するまでに出生しているかどうかがポイントとなります。
相続税の申告書の提出までに出生していれば赤ちゃんは法定相続人としてカウントされますが、申告書の提出までに出生していなければ法定相続人とは認められず、相続税の基礎控除の計算から除外されてしまいます。
お腹の中に赤ちゃんがいる場合には、申告期限ギリギリまで待った方が良い場合もあるかもしれませんね。
相続税額の計算方法
ここからは、基礎控除の計算を踏まえて、相続税額の実際の計算方法を見ていきます。この項をしっかり読めば、ご自身の相続で相続税が発生するかどうか、また相続税の申告が必要かどうか、大まかに判定することができるようになります。
まず、相続税の計算方法を大きく分けると以下のようになります。
①:相続税の課税価格を計算する
相続税の課税価格、すなわち相続税額を計算するもとになる金額は、故人の遺産総額から、負債総額と基礎控除を差し引いて計算されます。
②:相続税額の総額を計算する
最終的には相続税額は各相続人が納付しますが、各相続人の相続税額を計算する前に、いったん相続税額の総額を計算します。
③:各相続人ごとの相続税額を計算する
②で計算した相続税額の総額を、各相続人に振り分ける計算を行います。
④:相続人ごとに税額控除を適用する
故人の配偶者や、未成年の相続人、障害者の相続人などには特別に税額の負担が軽減される場合があります。
では、各項目の計算がどのように行われるのか詳しく順番に見ていきましょう
遺産総額を計算する
遺産総額の計算は、相続税額の計算のうち非常に重要な項目です。
原則として、遺産、すなわち相続や遺贈によって取得した財産の全てに相続税がかかります。例えば、以下のような遺産に相続税がかかります。
- 預貯金
- 生命保険金
- 家屋
- 土地
- 株式
これらの遺産は相続税の申告をするにあたり、どのように評価するのでしょうか。預貯金や保険金は金額が普段から金額で表現されているので分かりやすいですが、土地建物や株式はそうはいきません。
相続税には財産評価基本通達と呼ばれる規定があり、土地、建物、株式などをどのように評価するか規定しています。一部の例外はあるものの、基本的にはこの財産評価基本通達に基づいて遺産を評価していくこととなります。
例えば、上述したそれぞれの遺産は、財産評価基本通達によると以下のように評価することと規定されています。
預貯金の評価額
相続発生日の預貯金残高+相続発生日に解約したとした場合に受け取れる利息の金額(以下「既経過利息」といいます)により評価します。なお、普通預金に関する既経過利息は、少額である場合には評価を省略して良いこととされています。
相続発生日の預貯金残高の確認にあたっては、漏れを防ぐ意味でも、残高証明書を取得するのが一般的です。残高証明書の取得手続きは金融機関により異なりますので、事前に必要書類などを確認した上で訪問することが望ましいでしょう。また、残高証明書に既経過利息の情報を合わせて記載してもらえることも多いので、残高証明書取得の際は、定期預金などについて既経過利息の記載もしてもらえるよう依頼するのが良いでしょう。
生命保険金
保険会社から振り込まれた保険金額が評価額となります。なお、生命保険金には非課税枠があり、非課税額までの保険金は相続税の課税の対象とはなりません。非課税額は以下のとおり計算されます。
生命保険金の非課税額=500万円×法定相続人の数
家屋の評価額
原則として、固定資産税評価額により評価します。
固定資産税評価額は、毎年市区町村から送られてくる固定資産税の納付書と同封されている「固定資産税の納税通知書」により確認することができます。その他、家屋を貸し付けている場合などは、固定資産税評価額から減額することができますので、減額することができる要素がないかの検討が必要です。
土地
大きく分けて、路線価方式と倍率方式による2つの評価方法により評価されます。
①路線価方式・・・国で定めた路線価(指定の道路に面する土地1㎡あたりの単価が記載されているものです。以下の国税庁のホームページから確認することができます)により評価する方法です。
例えば、路線価120,000円/㎡で50㎡の土地は以下のように評価されます。
土地は個別性が強く、同じ路線化でも利用価値が異なる場合があります。例えば、形がいびつである、建築基準法上の要件を満たしておらず建物が建てられない、などです。このような場合には、所定の計算式に基づき、評価額を減額することができます。
②倍率方式・・・土地の固定資産税評価額を基に、国が定めた所定の倍率を乗じて計算する方法です。対象の土地が路線価による評価が必要か倍率方式による評価が必要かは、以下の国税庁のホームページで確認ができます。対象の土地に路線価が設定されていれば路線価で評価を行い、路線価がない地域であれば、倍率評価により評価を行います(固定資産税に乗じる倍率も、下記ホームページにて確認できます)。
株式の評価額
上場株式と非上場株式とで評価額は異なります。
上場株式は、相続発生日の最終株価で評価することを原則としています。しかし、たまたま株価が急上昇した日に亡くなってしまった場合のように、相続発生日の株価で計算することが不合理であることもありますから、以下のいずれか最も低い金額で評価することができるとされています。
- 相続発生日の最終株価
- 相続発生月の毎日の最終株価の平均額
- 相続発生月の前月の毎日の最終株価の平均額
- 相続発生月の前々月の毎日の最終株価の平均額
上場株式の評価については、証券会社から残高証明書を取り寄せるのが一般的です。その際、評価に必要な上記の情報を記載してもらえることも多いので、残高証明書取得の際は合わせて依頼するようにしましょう。
非上場株式は、上場株式のように第三者と取引できる株価が決められていませんので、その会社が所有する財産や負債を個別に評価したり、上場会社の株価と比較ししたりといった複雑な評価手続きが必要となります。その手続全てをここに記載すると量が膨大になるため、詳細は割愛します。
その他、生前に贈与が行われた場合で、以下のいずれかに該当する場合には贈与財産を相続財産に加算する必要があります。
贈与が相続発生日から3年以内に行われたものである場合
相続発生日から3年以内に贈与が行われていた場合、その贈与財産の価額を相続税の計算上加算する必要があります。なお、贈与にあたって贈与税を支払っていた場合には、支払った贈与税額を相続税額から控除することができます。
相続時精算課税制度の適用がある場合
相続時精算課税制度とは、2,500万円まで贈与税がかからず財産を贈与できる代わりに贈与財産の価額を相続財産に加算して相続税を計算する制度です。もし相続時精算課税制度の適用を受けている場合には、相続時精算課税制度を適用した後に贈与により取得した財産の価額を全て相続税の計算上加算する必要があります。
以上となります。これらはあくまで基本的な内容となり、詳細な評価を行う際は個別に検討が必要です。必要に応じて税理士に相談しましょう。
負債総額を計算する
相続税の計算にあたっては、遺産総額から負債総額を差し引くことができます。相続があった日時点において債務として存在していることが主な条件で、具体的には以下のようなものが含まれます。
- 葬式費用
- 借入金
- 未払の医療費
- 未払の固定資産税
遺産総額から負債総額と基礎控除を差し引いて相続税の課税価格を計算する
遺産総額から負債総額と基礎控除を差し引きます。この時点で数字が0以下となった場合には、相続税はかからず、相続税の申告書を提出する必要もありません。
計算式で表すと以下のようになります。
【相続税の課税価格の計算式】
課税価格=遺産総額-負債総額-基礎控除の金額
相続税の課税価格が基礎控除額以下となる場合の計算例を見てみましょう。
【計算例】
- 預貯金・・・4,300万円
- 葬式費用・・・200万円
- 相続人・・・子2人
基礎控除額=3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
相続税の課税価格=4,300万円-200万円-4,200万円=△100万円
△100万円<0円のため、相続税額なし、かつ相続税の申告書の提出不要
相続税額の総額を計算する
相続税の計算は、まずは相続税の総額を計算した後に、その総額を実際に相続した遺産の金額に応じて各相続人に配分する、という少々特殊な計算の仕方をします。ここでは最初の段階である相続税の総額の計算を見ていきましょう。
相続税の総額を計算するにあたっては、まず、相続税の課税価格を各法定相続人の法定相続割合に応じて振り分けます。なお、法定相続割合は、法定相続人の組み合わせ別に以下のとおりとなります。
法定相続人が配偶者と子の場合 | 配偶者の法定相続分・・・2分の1 子の法定相続分・・・2分の1 |
法定相続人が配偶者と両親の場合 | 配偶者の法定相続分・・・3分の2 両親の法定相続分・・・3分の1 |
法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合 | 配偶者の法定相続分・・・4分の3 兄弟姉妹の法定相続分・・・4分の1 |
このように、相続税の総額を計算する段階では誰がどの遺産を取得したかは関係がないため、遺産分割方法が相続税の総額に影響するということはありません。
次に、各相続人に振り分けられた金額に、以下の速算表に基づき10%~55%の税率を乗じて各人の相続税額を計算します。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
最後に、各人の相続税額を合計したものが、相続税額の総額となります。文章だけですとイメージが湧かないかと思いますので、以下で具体的な計算例も確認してみましょう。
【計算例】
相続税の課税価格が1億4,800円、法定相続人は配偶者、子1人の場合
法定相続割合は以下のとおりです。
配偶者・・・2分の1
子A・・・4分の1
子B・・・4分の1
法定相続人は3人なので、基礎控除の金額は以下のとおりです。
遺産総額から基礎控除額を引き、課税遺産総額を求めます。
各人の法定相続割合により振り分けられた金額は以下のとおりです。
配偶者・・・1億円×1/2=5,000万円
子A・・・1億円×1/4=2,500万円
子B・・・1億円×1/4=2,500万円
各人の相続税の課税価格に相続税率を掛け、控除額を差し引くことで、各人の税額を算出します。
配偶者・・・5,000万円×20%-200万円=800万円
子A・・・2,500万円×15%-50万円=325万円
子B・・・2,500万円×15%-50万円=325万円
各人の相続税額を足した相続税の総額は以下のとおりです。
相続税額の総額を各相続人に振り分ける
相続税の総額を計算したら、実際の遺産分割により各相続人が取得した遺産の金額に応じて、相続税額を振り分けます。相続税額の総額での計算例を用いて、具体的な計算方法を見てみましょう。
【計算例】
- 相続税の総額・・・1,450万円
- 実際の遺産取得金額
配偶者・・・9,250万円
子A・・・3,700万円
子B・・・1,850万円 - 遺産総額・・・1億4,800万円
上記に基づきますと、各人の相続税額は以下のとおり計算されます。
子Aの相続税額・・・1,450万円×3,700万円/1億円=3,625,000円
子Bの相続税額・・・1,450万円×1,850万円/1億円=1,812,500円
相続人ごとに税額控除を適用する
相続人が配偶者、未成年、障害者である場合には、税額控除の適用があります。また、3年以内に贈与税額を支払っている場合や、10年以内に別の相続が発生している場合にも特別な税額控除があり、このような場合には、各相続人の納付すべき相続税額から一定の金額を控除することができます。
基礎控除額と相続税額の計算例
ここからは、基礎控除額と相続税額の具体的な計算を、相続税の申告書の提出が必要な場合と不要な場合とに分けて見ていきます。
相続税の申告が不要な場合①(遺産総額が基礎控除を下回るケース)
遺産総額が基礎控除を下回り、相続税額が発生しないケースです。この場合には、もちろん相続税の申告書の提出の必要はありませんし、相続税を納付する必要もありません。
では、計算例を確認してみましょう。
【計算例】
- 預貯金:3,500万円
- 相続人:子2人
基礎控除額=3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
預貯金の額3,500万円<基礎控除額の4,200万円のため相続税額なし。
相続税の申告が不要な場合②(相続人の中に障害者がいるケース)
相続人の中に障害者がいる場合には、以下の算式で計算した金額をその者の相続税額から控除することができます。
障害者控除額=10万円(特別障害者の場合は20万円)×85歳に達するまでの年数
この項では、相続人の中に障害者がいて、障害者控除により相続税額が0円以下となるケースを見ていきます。
【計算例】
- 預貯金:4,000万円
- 相続人:子1人(20歳)(一般障害者)
基礎控除額=3,000万円+(600万円×1)=3,600万円
相続税額=(4,000万円-3,600万円)×10%=40万円
障害者控除=10万円×(85歳-20歳)=650万円
相続税額の40万円<障害者控除額の650万円のため、相続税額なし。
障害者控除は、相続税の申告書を提出しなくても適用可能であるため、このケースでは相続税の申告書の提出は必要ありません。
相続税の申告が不要な場合③(相続人の中に未成年者がいるケース)
相続人の中に未成年者がいる場合には、次の算式で計算した金額を、その者の相続税額から控除することができます。
未成年者控除額=10万円×その者が20歳に達するまでの年数
この項では、相続人の中に未成年者がおり、未成年者控除により相続税額が0円以下となるケースを見ていきます。
【計算例】
- 預貯金:4,000万円
- 相続人:子1人(15歳)
基礎控除額=3,000万円+(600万円×1)=3,600万円
相続税額=(4,000万円-3,600万円)×10%=40万円
未成年者控除額=10万円×(20歳-15歳)=50万円
相続税の額40万円<未成年者控除額50万円のため、相続税額なし。
未成年者控除は、相続税の申告書を提出しなくても適用可能であるため、このケースでは相続税の申告書の提出は必要ありません。
相続税の申告が不要な場合④(過去3年以内に贈与税を納付したことがあるケース)
相続発生の過去3年以内に贈与があった場合には、その贈与財産は相続の遺産に加算するとともに、納付した贈与税額は相続税額から控除することができます。
このケースでは、贈与税額控除により、相続税額が0円以下となるケースを見ていきます。
【計算例】
- 預貯金:3,000万円
- 相続開始3年以内の贈与財産:1,000万円(預貯金)
- 上記の合計額:4,000万円
- 相続人:子1人(35歳)
基礎控除額=3,000万円+(600万円×1)=3,600万円
相続税額=(4,000万円-3,600万円)×10%=40万円
贈与税額控除額(過去3年以内に納付した贈与税額)=177万円
相続税額40万円<贈与税額控除額177万円のため、相続税額なし。
贈与税額控除は、相続税の申告書を提出しなくても適用可能であるため、このケースでは相続税の申告書の提出は必要ありません。
相続税の申告が不要な場合⑤(過去10年以内に別の相続が発生していたケース)
相続が発生する過去10年以内に別の相続が発生していた場合には、過去の相続の際に納付した相続税額の全部又は一部を、今回納付する相続税から控除できる場合があります。これを、相次相続控除といいます。
ここでは、相次相続控除の適用により相続税額が0円以下となるケースを見ていきます。
【計算例】
- 預貯金:4,000万円
- 相続人:子1人(35歳)
基礎控除額=3,000万円+(600万円×1)=3,600万円
相続税額=(4,000万円-3,600万円)×10%=40万円
相次相続控除額=100万円
相続税額40万円<相次相続控除額100万円のため、相続税額なし。
相次相続控除は、相続税の申告書を提出しなくても適用可能であるため、このケースでは相続税の申告書の提出は必要ありません。
相続税の申告が必要な場合①(遺産総額が基礎控除を上回るケース)
ここからは、相続税の申告書の提出が必要なケースを見ていきます。まずは最もオーソドックスなものとして、遺産総額が基礎控除額を上回るケースを見ていきましょう。
【計算例】
- 預貯金:4,000万円
- 相続人:子1人(35歳)
基礎控除額=3,000万円+(600万円×1)=3,600万円
相続税額=(4,000万円-3,600万円)×10%=40万円
納付すべき相続税額が40万円のため、相続税の申告書の提出が必要。
上記のように納付すべき相続税額が発生してしまった場合には、相続税の申告が必要となります。
相続税の申告が必要な場合②(小規模宅地の特例の適用を受けるケース)
遺産の評価のうち土地の評価については、小規模宅地の特例という規定により、大幅に評価額を下げられる場合があります。この特例を適用できるのは大きく分けて以下3通りであり、それぞれの場合の評価減割合は以下のとおりです。
- その土地建物が、故人や故人から仕送りを受けて生活していた人の居住の用に供されていた場合・・・80%評価減
- その土地建物が、故人の個人事業、又は故人等が経営する会社の事業の目的で使用されていた場合・・・80%評価減
- その土地建物が、賃貸用不動産として第3者に賃貸されていた場合・・・50%評価減
ここでは、小規模宅地の特例の適用により、相続税額が0円以下となるケースを見ていきます。
【計算例】
- 預貯金:1,500万円
- 建物:500万円(故人の自宅建物)
- 土地:5,000万円(故人の自宅敷地:100㎡)
- 財産総額:7,000万円
- 相続人:子1人(35歳)
小規模宅地の特例の適用による評価減=5,000万円×80%=4,000万円
小規模宅地の特例適用後の財産総額=7,000万円 ー 4,000万円=3,000万円
基礎控除額:3,000万円+(600万円×1)=3,600万円
小規模宅地の特例適用後の財産総額3,000万円<基礎控除額3,600万円のため相続税額なし。
相続税額はなしとなりましたが、ここで注意しなければならないのが、小規模宅地の特例は相続税の申告書を提出しなければ適用が認められないということです。ですので、このケースでは相続税の納付は必要ないものの、相続税の申告書の提出は必要となります。
相続税の申告が必要な場合③(配偶者控除の適用を受けるケース)
故人の配偶者には、配偶者控除として大きな税額控除が認められています。具体的には、「配偶者が取得した財産が法定相続割合以下、又は1億6,000万円以下」であれば、相続税はかからないというものです。
ここでは、配偶者控除の適用により相続税額が0円以下となるケースを見ていきます。
【計算例】
- 預貯金:1億2,000万円
- 相続人:配偶者1人(65歳)
配偶者が取得した財産の金額が1億6,000万円以下のため、相続税額なし。
配偶者控除も前述の小規模宅地の特例と同様、相続税の申告書を提出しないと適用が受けられません。ですので、この場合も相続税額はないものの、相続税の申告書を提出する必要があります。
遺産総額が基礎控除額を超えた場合の相続税申告の期限は?
ここまでで、相続税の提出が必要な場合、不要な場合を確認してきました。では、相続税の申告書の提出が必要な場合には、その期限等はどのようになっているのでしょうか?
相続税申告の期限
相続税の申告の期限は、相続の開始があったことを知った日から10ヶ月以内です。ぱっと見ですと時間的猶予はかなりあるような印象を受けますが、特に遺産分割の決定にとても長い時間がかかることもしばしばあります。そういった事情を考えると、10ヶ月という期間も長いとは言えませんので、相続の手続きは早め早めに進めていくと良いでしょう。
相続税の申告手続きに必要なもの
相続の申告手続きに必要なものはケースにより様々ですが、必ず必要なものとしては、故人の過去の戸籍謄本が挙げられます。これは、法定相続人が誰であるかを確認するために必要となります。過去の戸籍謄本は他の名義変更手続きでも必要となりますので、多少多めに取得しておくようにしましょう。
その他、相続税の申告は実際の遺産分割に基づいて行いますので、遺産分割協議書や、相続人全員の印鑑証明書が必要となります。
また、財産の評価にあたっては、預貯金や株式については残高証明書、土地建物については固定資産税の課税明細書や評価証明書が必要となりますので、こういった評価に必要な資料の収集も必要です。
相続税を申告する時の注意点
相続税申告する際に特に注意が必要なのは名義預金です。名義預金は何かといいますと、故人が親族等の名義を使って積み立てているお金のことです。よく孫の名義で預金を積み立てている方がいますが、見方によっては故人の預金であると否認される場合がありますので注意が必要です。相続税の税務調査で最も指摘が多いのがこの名義預金に関する事項とされておりますので、相続税の申告を行う際には慎重な検討が必要です。
相続税の申告は税理士におまかせ
誰しも相続税の支払いはなるべく少なくしたい、と考えるものですが、相続税の財産評価の中で特に土地の評価は非常に複雑で、申告期限の10ヶ月以内にご自身で全て調査して手続きを行うのはとても難しいかと思います。また、相続税は特に税務調査が行われる可能性が高いと言われますが、税理士が書面添付を行った場合には、税務調査の確率が大幅に下がると言われます。
相続財産に土地建物等の不動産があり、かつ相続税が発生する場合には、相続に強みがある税理士に依頼することで、税理士費用はかかりますが結果的に納付すべき税額を最小限に抑えることができますし、後日税務署から連絡がある可能性も減らすことができます。相続税の発生が見込まれる方は、まずは税理士にご相談されてみてはいかがでしょうか。
この記事を執筆した税理士
税理士事務所フリークロス - 東京都千代田区神田猿楽町
ミツモアで税理士を探そう
税理士とのお付き合いは、そのときだけのものではなく、長期間に渡るものです。だからこそ、費用だけでなく、相性や対応の誠実さも、事前に十分に確認しておきたいですね。
そんな税理士選びにおすすめなのが、全国の税理士が登録しているマッチングサイト「ミツモア」です。地域と依頼したい内容に応じて、まずは見積もりが確認できます。その後、メッセージでのやりとりで担当業務の範囲やオプションなどを確認できるので、面談するのと同じように、税理士の人柄が見えてきます。
簡単!2分で税理士を探せる!
ミツモアなら簡単な質問に答えていただくだけで2分で見積もり依頼が完了です。
パソコンやスマートフォンからお手軽に行うことが出来ます。
最大5件の見積りが届く
見積もり依頼をすると、税理士より最大5件の見積もりが届きます。その見積もりから、条件にあった税理士を探してみましょう。税理士によって料金や条件など異なるので、比較できるのもメリットです。
チャットで相談ができる
依頼内容に合う税理士がみつかったら、依頼の詳細や見積もり内容などチャットで相談ができます。チャットだからやり取りも簡単で、自分の要望もより伝えやすいでしょう。
税理士に依頼するならミツモアで見積もり依頼をしてみてはいかがでしょうか?