「相続税の申告期限っていつなの?」相続税に関する実務を行っているとこのような声をよく耳にします。もちろん、相続自体は頻繁に発生する事柄ではありませんので、あまり知らない方が多いのも無理はありません。ここでは、そのような方のために相続税の申告期限、相続税の申告期限の延長、申告期限を過ぎたらどうなるのかなど、分かりやすく解説していきます。
相続税の申告ってなに?申告に期限はあるの?
相続税の申告は、相続や遺贈(遺言により財産を譲り受けること)により手にした財産が基礎控除と呼ばれる一定額を超える場合に必要です。また、相続税の申告と納税には期限が定められていますので申告期限内に申告書を提出し、納税まで済ませる必要があります。まずは、基本的な相続税申告全体の流れから申告期限などを確認してみましょう。
相続税申告の全体の流れ
相続税の申告は被相続人(亡くなった人)が亡くなった日が起点となります。まずは、遺言書の有無などを確認し、相続人(財産を相続する人)を確定させることが最初のステップです。その後、被相続人に確定申告が必要だった場合は全ての相続人で被相続人の準確定申告を行い、納税等を済ませてから相続対象となる遺産の確定を行います。なお、葬儀にかかった費用等は相続対象の遺産から差し引くことが可能です。最終的に、相続人の間で遺産の分割が決まれば、相続人が相続税の申告書を作成して申告期限内に提出すると共に納税を済ませると完了します。
相続税の申告が必要な人ってどんな人?
全ての相続人が相続税の申告書を申告期限内に提出しなければならないのでしょうか?実はそうではありません。相続税には基礎控除額が存在し、その基礎控除額の範囲内であれば相続税が掛からずに申告書の提出も不要となります。ただし、相続税が発生しないケースでも配偶者の税額軽減等の特例を適用する場合には申告書の提出が必要となるので注意が必要です。もちろん、相続財産が基礎控除額を超える場合も相続税の申告は必要となりますので、必ず期限内に申告しましょう。
相続税の申告期限・納付期限とは?
相続税の申告期限および納付期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月です。
例えば以下のような例で考えてみましょう。
サラリーマンである長男Aの父親が1月31日に意識不明で救急搬送されましたが、未明に治療の甲斐なく長男Aに看取られて亡くなりました(死亡診断書の日付は2月1日)。一方、漁師である次男Bは遠洋に出ており、父の死を戻った日の4月15日に知ったとします。このような場合の相続税の申告期限は、長男Aが父親の亡くなったことを知った2月1日(診断書日付)の翌日から10ヶ月後の12月1日となり、次男Bは翌年の2月15日が申告期限となります。この申告期限までに申告書の提出と納税を終えなければなりません。
これは補足ですが、相続税の申告期限を6ヶ月といわれる方をたまに見受けますが、平成4年に税制改正が行われ現在は10ヶ月となっています。
申告期限日が土日祝のときはどうなる?
相続税の申告期限日が土日祝に当たるときはその翌日(申告期限日の次の平日)が申告期限となります。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、これは所得税や法人税などと同様に上記申告期限の例外となるので注意が必要です。
相続税の申告方法
相続税の申告方法は、おおまかな流れとして相続税の申告書を作成し申告期限までに所轄税務署へ申告書を提出することで完了します。もちろん、納税も納付期限である相続税の申告期限までには済まさなければなりません。ここからは、その相続税申告書作成に必要な書類、提出場所や納税方法などを確認してみましょう。
相続税申告の必要書類に記入しよう
相続税の申告を行う際は指定された相続税申告書に必要事項を記載して提出します。申告書の指定様式は以下の国税庁URLから必要な年度のものをダウンロードすることが可能です。
相続税の申告書は全部で第1表から第15表までありますが、全ての表を記載して提出する必要はありません。記載方法なども上記国税庁のURLから確認できますので、それを基に相続人が申告する際に必要な表だけを漏れなく作成します。ただし、相続税の申告書作成は専門用語も多く、膨大な時間を費やす可能性があることには留意してください。なお、相続人が複数いる場合には全員の連署でひとつの相続税申告書を共同提出するケースもあります。
相続税の申告にはこの相続税申告書以外にも用意しなければならない添付資料があります。まず、被相続人の全ての相続人を確認できる戸籍謄本(平成30年4月1日以降は図形式の法定相続情報一覧図の写しでも可)や遺言書または遺産分割協議書の写し、遺産分割協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書が必要です。その他にも特例を申請する際にはそれぞれ必要な添付資料がありますので、提出漏れが無いように国税庁のホームページなどで確認を行ってください。
その他にも、遺産の評価に関して土地や建物の全部事項証明書と呼ばれる登記簿謄本や固定資産税評価証明書、金融機関発行の預金残高証明書など挙げればキリがないほどの資料も申告書作成の際には必要となります。これらの資料を揃える作業は申告書の作成と同様に手間も時間もかかる作業となりますので、時間に余裕をもって行うようにしてください。
相続税の申告書類についてもっと詳しく知りたい方は、「相続税の申告書と添付書類を徹底解説!申告書は自分で作成できる?」の記事をご覧ください。
申告書類の提出場所・時間は?
相続税の申告書が作成出来たら期限内に提出しなければなりませんが、提出場所は被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署です。相続人の住所地ではありませんので注意してください。なお、管轄の税務署は以下のURLに郵便番号や住所を入力すると簡単に確認することができます。
国税庁「税務署の所在などを知りたい方」https://www.nta.go.jp/about/organization/access/map.htm
提出場所の確認ができたら次は提出方法を確認しましょう。
提出方法は持参と郵送が選択可能です。持参する場合には提出する税務署の開庁時間帯を確認し、申告期限日の閉庁時間までに受付窓口で提出しなければなりません。
郵送の場合には、特定記録郵便や簡易書留などを利用して郵便の引受けや配送の記録が残るようにして提出することが重要です。なお、遠方の税務署へ提出する場合には配達完了まで数日かかることもありますが、この場合は郵便引受け時に押印してもらう通信日付欄に表示された日付が提出日となります。
つまり、申告期限の日までに発送できれば期限内の提出と判断されます。また、どちらの方法で申告書を提出する場合にも申告書の控えを用意して提出日の受付印を押印してもらってください。後日、申告内容などの問い合わせがあったときに確認できるよう備えるために必要です。郵送の場合には、控え用の申告書類と切手を貼った返信用封筒を同封しておけば税務署から受付後に返送してもらえます。
相続税の納付をしよう
相続税の納付は納付期限までに金銭で一括納付することが原則となっています。納付する場所は税務署や銀行、郵便局などから選択可能です。税務署で納付する場合は、税務署に置いてある納付書に住所氏名や納税額を記載して現金と併せて提出し支払います。銀行や郵便局などの金融機関で納付する場合も納付書は必要となりますので、あらかじめ税務署に連絡して準備しておくことがお勧めです(金融機関によっては納付書を置いてあるところもあります)。また、金融機関では窓口で支払うことができますが、現金払いだけでなく、その金融機関に預金口座がある場合には公共料金等の納付依頼書などを添えて提出することで預金口座から直接支払うことも可能です。
これはあまり知られていませんが、相続税の納付は専用サイトにアクセスすることでインターネットバンキングやクレジットカードで支払うことも近年可能になりました。しかし、事前の手続きが必要になることやクレジットカード払いでは納税額に応じて決済手数料が発生することなどから利用件数はあまり伸びていない模様です。
課税額ゼロでも相続税申告は必要かも
遺産を相続する方でも相続税の申告が不要となる場合があることは前述の通りです。相続税の課税対象となる遺産が基礎控除の範囲内であれば相続税は発生せずに申告は不要となります。ただし、相続税が発生しないことと相続税の申告書提出が不要なことはイコールではありませんので注意が必要です。
例えば、課税対象となる遺産の総額が基礎控除を超える場合であっても、「配偶者に対する相続税額の軽減」や「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用を受けることによって相続税額がゼロとなることもあります。
これら特例の適用は相続税の申告期限内に必要な書類を添付して申告書を提出することが条件となっているため、申告書を期限内に提出しない場合には特例の適用ができなくなる可能性もあります。最終的に、相続税の申告が必要かどうかは相続対象となる遺産が基礎控除を超えているかどうかで判断してください。
相続税の申告期限を過ぎた場合ってどうなるの・・・?
相続税に申告期限があることは確認してきましたが、万が一、相続税の申告期限を過ぎた場合はどうなるのでしょうか?この質問に対する答えは簡単です。過ぎた期間に応じたペナルティを課されることとなります。また、相続税の納付についても遅れると同様にペナルティが課されます。こちらでは相続税の申告期限や納付期限を過ぎた場合について確認してみましょう。
申告期限を過ぎた場合
相続税の申告書を申告期限までに正当な理由もなく提出できない場合には無申告加算税を課される可能性があります。無申告加算税の税率は次の2つのケースでそれぞれ異なります。
1つ目は申告期限が過ぎた後に自主的に申告する場合で、もう1つは税務署の調査により申告する場合です。
申告期限が過ぎた後に自主的に申告する場合には申告納付すべき税額の5%が課されます。
一方、税務署の調査に基づき期限後申告する場合には、その申告により納付すべき金額の15%(50万円を超える部分は20%)となり、より高額なペナルティが課される仕組みとなっています。
なお、無申告の場合は申告期限までに納税も終えていないことが多くなりますが、この場合はこの後で説明する延滞税も併せて課されることとなりますので特に注意が必要です。
納付期限を過ぎた場合
相続税の納付期限を過ぎて納付した場合には延滞税が課されます。相続税の申告書を期限内に提出していても、納付期限を過ぎた相続税の納付は延滞税の対象となるので注意が必要です。延滞税の税率は、毎年変わる可能性がありますが、平成30年は納付期限の翌日から2ヶ月を経過する日までは年2.6%の割合で、2ヶ月を経過した日以後は年8.9%の割合で延滞税が課されます。
相続税の納付は前述の通り金銭での一括納付が原則となりますが、一定の条件を満たせば相続税延納申請書等を提出することで延納することが可能です。しかし、この場合でも延納に係る利子税の支払いが必要となりますので、基本的には納付期限までに支払えない場合は税額以上のものを支払うこととなります。
申告額を間違えた場合
相続税の申告額を間違えた場合もペナルティを課される可能性があります。
申告額を誤って多く計算していた場合にはペナルティを課されることもなく、更正の請求を行うことで払い過ぎた税金の還付を受けることが可能です。
しかし、申告額を少なく計算していた場合では過少申告加算税が課されることもありますので注意が必要です。税務調査などに基づき税額増額の修正申告を行った場合には過少申告加算税が新たに納める税金の10%(修正申告前の税額または50万円を超えている場合は超えている部分に対して15%)課されます。ただし、期限内申告をしていることが条件となりますが、税務調査の通知等を受け取る前に自主的に税額増額の修正申告をした場合には過少申告加算税が発生しません。
相続税の申告額を少なく計算していた場合、故意または意図的に税金を不当に逃れたとみなされれば、よりペナルティの重い重加算税が課される可能性もあるので注意が必要です。
重加算税は悪質な税金逃れに対するペナルティの意味合いがあるため、税率は追加納付する税額の35%(無申告の場合は40%)と非常に高くなっています。
特に、相続税の課税対象となる遺産の申告漏れ等は厳しいペナルティを課されることもあるので要注意です。過去にあった事例では、被相続人が海外に不動産を所有しており、相続人がこの事実を知らずに相続税の申告を行いました。その後、税務調査によって海外への送金履歴などからこの不動産の存在が明らかとなり、重加算税を含めて相当な追徴課税を受けた事例なども存在します。
相続税の申告期限に遅れそうな場合の対処法
相続税の申告期限に遅れそうな場合とは以下のようなケースが考えられます。課税対象となる遺産の評価額等が決まらなくて申告書を作成できないケースと、申告期限までに遺産の分割が決まらないケースです。ここまで確認してきた通り、相続税の申告期限に遅れると基本的にはペナルティを課されますが、これらのケースではペナルティを受けずに済む方法もありますのでその方法を確認してみましょう。
概算申告で多めに支払いを
課税対象となる遺産の評価額等が決まらずに申告書を作成できないケースでは一旦概算額で申告書を提出する方法があります。ここで重要なことは、実際の相続税額よりも必ず多くなるように概算税額を計算することです。そして、相続税の申告期限までに概算額での申告書提出と納税を済ませることも重要です。もちろん、多めの概算額で納税しているために納税資金は余分に必要となりますが、確定額が決まった段階で更正の請求を行い余分に支払った税金は還付を受けることができます。なお、実際の確定税額よりも少ない金額で概算申告と納税を行うと、税務調査前に自主的に修正申告を行ったとしても従来の納付期限から修正後の納付日までの延滞税が発生しますので注意が必要です。
相続税の申告書を概算額で提出する場合には、あまりに相違のある金額で申告していると更正の請求を提出した際に税務署から詳細の確認が行われることもあります。これにより申告内容に疑いをもたれる可能性もないとは言えませんので、やはり申告期限内に適正な相続税の申告をできることがベストです。
相続額が決まっていないなら未分割申告を
相続税の申告期限までに遺産分割が決まらない場合でも未分割のままで申告書を提出することができます。この場合は、法定相続分で分割したと仮定して計算を行うので、原則として一部の特例措置の適用を受けることはできません。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告書に添付して申告期限内に提出することで分割後に特例の適用が可能となります。この手続きにより後から適用できる特例措置は以下の通りです。
①配偶者に対する相続税額の軽減
②小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
③特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例
④特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例
どの特例の適用を受けるかは、「申告期限後3年以内の分割見込書」へ丸印をつけて事前に申告しておく必要があります。その後、相続税の申告期限から3年以内に遺産の分割が行われた場合には、更正の請求を提出することで軽減された税額の還付を受けることが可能です。なお、この更正の請求は遺産の分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内に提出しなければ還付を受けることができなくなりますので注意してください。特例措置の中でも、配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の計算特例は適用できるケースも多く、節税効果も高いため必ず特例の適用を受けることができるか確認しておきましょう。
もしも、申告期限後3年が経過しても遺産の分割が完了していない場合には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の提出が必要です。この申請書に遺産分割ができていない理由を明記して、申告期限後3年が経過する日の翌日から2ヶ月以内に納税地の所轄税務署に提出し、承認を受けると引き続き特例の適用が可能です。ただし、3年を超えて遺産分割ができていない場合には、相続に関して訴訟を起こされている、または調停の申立がなされている等の相応の理由がなければ承認されない可能性も高くなります。
申告期限を延長できるケースもある
相続税の申告期限を延長できるケースもありますが、実務上はあまり発生しないのが現実です。これらのケースは国税当局が認める止むを得ない事情に該当する場合に限られます。具体的には、相続人の異動があったことや、遺留分の減殺請求があった、相続発生から一定期間が経って遺贈の遺言書が見つかった、相続人となるべき胎児が生まれたなどの特定のケースで2ヶ月の申告期限延長が認められます。その他では、東日本大震災の後にも適用されましたが、自然災害などにより申告や納税が難しい状況だと判断された場合には申告期限の延長について個別に定められることもあります。
まとめ
相続税の申告期限や申告方法ついて解説してきましたが、いかがでしょうか?
相続税の申告は税法に則った処理をしなければなりませんので、税理士などの専門家でなければ膨大な労力や時間を要する大仕事となります。これは、相続税申告の約9割が税理士に依頼しているという事実にも大きく表れています。
特に相続税に関しては税額が大きくなる傾向にあるため、申告ミスによる追徴等のペナルティは時に甚大な被害となります。また、相続税額算定の基礎となる遺産の評価額算定などではプロである税理士の節税知識が活きる場面も多く、申告から納税まで幅広い見識で助言をもらえることも大きな利点となります。このような状況の下、ミツモアでは数ある税理士事務所の中でも特に相続税に長けた税理士を探すことが可能です。すでに相続が発生している方はもちろん、今後相続が発生する可能性のある方も気軽に相談してみてはいかがでしょうか。税理士へ支払う費用以上の効果が得られるケースは多いはずです。