亡くなった人が財産だけでなく、借金やローンなどの債務も抱えているケースは意外と多いもの。そして抱えていた債務は相続人の誰かが引き継いで、返済しなければなりません。
相続人が被相続人の債務を引き受ける方法は「重畳的債務引受」と「免責的債務引受」の2種類があります。これらの違いや相続で利用する際のポイントをふまえながら「重畳的債務引受とは何か?」についてわかりやすく解説します。
この記事を監修した弁護士
石尾理恵弁護士
相続案件を中心に取り扱う事務所に所属し、遺産分割、遺留分侵害請求、相続放棄、遺言書作成のなど相続案件を数多く取り扱っている。日々、依頼者の安心・納得を重視して、相続事件を解決している。
重畳的債務引受とは
重畳的債務引受(ちょうじょうてきさいむひきうけ)とは、元の債務者が債務を返済する状態のまま、第三者がその債務の返済を引き受けることです。併存的債務引受といわれることもあります。従来の債務者に加えて、引受人として新たな債務者が増えるため、結果として連帯債務のような状態となります。
被相続人が保有していた債務は、法律上は相続人が法定相続分どおりに引き継ぎます。たとえ遺産分割協議書で債務を引き継ぐ人を指定したとしても、金融機関などの債権者との合意がなければ意味がありません。
そして、引き継いだ債務をどのように返済するか金融機関と話し合い、重畳的債務引受の契約を行います。これにより、債務を引き継いだ相続人が返済できなくなった場合には、ほかの相続人が返済しなければならなくなるのです。
相続のほか、子供の借金を親が肩代わりするような場合には、重畳的債務引受が成立する一方で贈与税の対象となります。さらに、個人だけでなく会社が分割した場合にも、元の会社が保有していた債務を新しくできた会社が引き受ける一方で、元の会社が重畳的債務引受を行う場合があります。
重畳的債務引受では求償権が発生する
重畳的債務引受では求償権が発生します。求償権とは、連帯債務者の中の1人が他の連帯債務者の分まで肩代わりして弁済した場合に、肩代わりした分を請求できる権利のことです。
重畳的債務引受は「債務の引受人」と「従来の債務者」が連帯して債務を負担するものです。そのためどちらかの債務者が債務を肩代わりして弁済した場合は、もう一方に対し求償権が生じます。
重畳的債務引受のメリット
重畳的債務引受を行えば連帯債務となるため、従来の債務者や引受人は負担を減らる可能性があります。求償権が生じるのもひとつのメリットといえるでしょう。
重畳的債務引受を行いたいのは、金融機関などの債権者の側です。債務の返済を行う人が増えるため「AさんがダメならBさん」というように多くの人に債務返済を請求できる状態となり、貸倒れるリスクが軽減されます。
重畳的債務引受のデメリット
重畳的債務引受を行うと連帯債務になり、引受人は債務者とともに債務の返済義務者となります。特に引受人となった人は、従来の債務者がまったく返済できない場合には全額負担しなければならず、大きなリスクを負担しなければなりません。
また債権者にとってのデメリットは特になく、債権者にとって有利な方法だといえます。
重畳的債務引受の要件
重畳的債務引受は次のいずれかの場合に効力が生じます。
債権者、債務者、引受人の三者による契約
契約時に、その契約の効力が生じます。
債権者と引受人の間の契約
契約時に、その契約の効力が生じます。また、債務者の意思に反していても、債務者の意思に関係なく、その契約は有効です。
債務者と引受人の間の契約
この場合は債権者の承諾が必要です。債権者の承諾を得たときから、その契約の効力が生じます。
免責的債務引受とは
免責的債務引受とは、債務者が負担しなければならない債務を第三者が代わりに引き受けることをいいます。債務は従来の債務者から引受人に完全に移転して、従来の債務者は債務を免除されます。新たに債務者となった引受人だけが債務者になるため、債権者は従来の債務者に対して弁済を求めることができません。
なお、免責的債務引受の契約を行う場合は債権者の承諾が必要です。負債は本来、積極的財産と同じ割合で相続人に分割されますが、承諾が得られれば、従来の債務者が抱えていた負債の全額を引受人に引き継ぐ取り決めも可能です。
たとえば相続の際に、被相続人の債務を1人の相続人が全額引き継いで債務者になったとします。この場合、仮に債務を引き継いだ人が返済できなくなっても、ほかの相続人に返済請求できなくなります。
免責的債務引受のメリット
免責的債務引受は、資力のある人が引受人になれば債権者にとってメリットがあります。相続の場合は、財産を多く相続した人が債務も多く引き継ぐケースが多く、債権者にとってもメリットがないわけではありません。
一方、債務を引き受けた人は、ほかの相続人などが返済できなくなるリスクから解放できます。また、債務者にならずに済んだ人は、その後債務者となった人がスムーズに返済できなくなった場合でも、その返済を請求されることはありません。
免責的債務引受のデメリット
債権者にとっては、免責的債務引受を認めると返済請求できる人が減ってしまうため、貸倒れリスクが高くなると考えられます。そのため、実際には免責的債務引受が認められない事例も少なくありません。
相続人の中で債務者にならなかった人にとっては、一切の返済義務がなくなるためデメリットはありません。一方で債務者となった人は債務を自身ですべて返済しなければならず、将来的に返済が苦しくなった時にも、助けを求める人がいない状態となります。
免責的債務引受の要件
免責的債務引受の効力が生じる要件は次の通りです。
債権者、債務者、引受人の三者による契約
契約時に、その契約の効力が生じます。
債権者と引受人の間の契約
この場合は債権者が債務者に「免責的債務引受の契約をした」ことを通知しなければいけません。債権者が債務者に通知したタイミングで契約の効力が生じます。ちなみに、通知は債権者から行う必要があり、引受人から通知しても契約の効力は発生しません。
債務者と引受人の間の契約
この場合は債権者の承諾が必要です。債権者の承諾が引受人に到達した時から、その契約の効力が生じます。
重畳的債務引受と免責的債務引受の違い
重畳的債務引受と免責的債務引受の最も大きな違いは「従来の債務者の債務が免責されるかどうか」です。またそのほかにも、債務引受の要件や求償権の有無が異なります。
連帯債務か否か
重畳的債務引受と免責的債務引受の根本的な違いは、従来の債務者の債務が免除されるか否かです。
重畳的債務引受では、従来の債務者の債務は免除されません。引受人と債務者は連帯して、同等の債務を負担するためです。
一方の免責的債務引受では、債務が従来の債務者から引受人に完全に移転し、従来の債務者は債務が免除されます。
債務引受の要件の違い
基本的には「債権者」「債務者」「引受人」の三者の承諾により債務引受の契約の効力が生じますが、債務引受の契約方法によって、効力の生じる要件に違いがあります。
「債権者、債務者、引受人の三者による契約」の場合、三者が契約当事者のため、契約時に効力が生じます。また、「債務者と引受人の間の契約」の場合、債権者が契約当事者でないため、債権者の承諾を得たときから契約の効力が生じます。これらの契約方法は「重畳的債務引受」と「免責的債務引受」のいずれも同じ要件です。
一方で「債権者と引受人の間の契約」の場合、契約方法により効力の発生タイミングが違います。
【債権者と引受人の間の契約の効力発生タイミング】
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求償権の有無
重畳的債務引受は従来の債務者も債務が免除されません。そのため従来の債務者が債務を弁済した場合は、求償権が発生し、債務の引受者に対して求償できます。
一方で免責的債務引受は引受人だけが債務を追うことになるため、引受人と従来の債務者の間で求償権が発生しません。
相続で債務引受を行うときのポイント
債務の相続を行うときは以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
- 債務は基本的に法定相続分に応じて相続
- 遺産分割協議書では債権者に主張できない
- 債務引受の契約は債権者の承諾が必要
債務は基本的に法定相続分に応じて相続
遺言による相続割合の指定がない場合、債務を含む財産は民法上、相続人が法定相続分に応じて相続します。これは他の財産と同様です。そのため全ての相続人が債務者となり、債権者は弁済を求められます。
相続放棄を行い相続人でなくなった場合は、債務を含むすべての財産を放棄することになり、債務弁済の必要はありません。財産を相続することによるマイナスが多い場合は相続放棄も選択肢の1つです。
また遺言により遺産を譲り渡す(遺贈する)こともできます。遺贈は遺産を具体的に指定されている場合もありますが、遺産の半分や4分の1など一定の割合によって行う場合もあります。
このような遺贈を「包括遺贈」といい、包括遺贈を受ける人(包括受遺者)は相続人と同じ権利や義務が生じます。債務も併せて相続するため弁済しなければなりません。
遺産分割協議書では債権者に主張できない
相続人で相続財産の割合を協議し、遺産分割協議書を作成すれば、債務の遺産分割や特定の相続人が全債務を相続することもできます。しかし遺産分割協議書を作っただけでは、そのことを債権者に主張できません。
そのため債権者は法定相続分で返済を求める場合があります。
債務引受の契約は債権者の承諾が必要
債権者に遺産分割協議書の内容を主張するには、重畳的債務引受や免責的債務引受の契約が必要です。契約は債権者と結ぶか承諾を得る必要があります。
特に「債務者と引受人の間の契約」では債権者は契約の当事者ではありません。債権者の承諾がないと効力は発生しないため注意しましょう。
監修弁護士からのコメント
石尾理恵弁護士
相続が発生した場合、それぞれの相続人が法定相続分に応じた割合で債務を引き受けます。そして、マイナスの財産がプラスの財産を上回ることが明らかな場合は、相続放棄をすべきです。反対に、プラスの財産の方が多いため単純承認する場合は必ず遺産分割協議をする必要があります。
遺産分割協議において、一人の相続人が多くの遺産を引き継ぐ場合、残りの相続人はプラスの財産はほとんど引き継げないのに、債務だけは法定相続分に従って債権者に請求されるということがないように、免責的債務引受などの契約締結を忘れないようにしましょう。
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