相続財産を分けるにあたり、相続人の間でうまく公平に分けられないとトラブルに発展する可能性があります。
例えば親の相続財産が不動産などの分けにくいものが主なものだった場合、一人だけが多くの相続財産を相続し残りの相続人の相続財産が少なくなるなどの不公平感が残る可能性があります。
そんな時の解決法として、遺産分割方法の一つに「代償分割」という方法があります。これは不動産などの分けにくい相続財産を相続した相続人が、他の相続人に金銭などを支払うことにより不公平感を解消できる方法です。
この記事では、代償分割の制度の内容、代償分割をした場合の相続税の課税価格の計算方法、代償分割の手順、注意点、メリットとデメリットについて分かりやすくご説明します。
この記事の監修税理士
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
代償分割とは?相続税の遺産分割方法について
相続税の遺産分割方法は4種類あり、代償分割はそのうちのひとつです。まずは代償分割の定義、代償分割以外の遺産分割方法はどのようなものがあるか、そしてどのような時に代償分割が選択されるかについてご説明します。
代償分割とは?
代償分割とは、特定の相続人が土地などの現物の相続財産を取得する代わりに、他の相続人に対して債務を負担する(現金などで精算する)遺産の分割方法です。
例えば2人の子供が相続財産を相続する場合、相続財産の主なものが不動産であった場合に、1人が不動産を相続し、もう1人は相続できる財産が少なくなってしまうので代わりに代償金を支払う方法になります。
4つの遺産分割方法
遺産分割の方法には代償分割を含め他にも3つあります。4つの遺産分割方法について簡単にご説明します。
(1)現物分割
現物分割は遺産分割の中でも一番一般的な方法です。相続財産には現金、株式、建物、土地など様々な現物がありますが、それぞれを現物のまま分割する方法です。例えば2人の子供が相続財産を相続する場合、1人が現金、株式、1人が建物と土地というように現物のまま分けます。
ただしこの方法だと現物の価値が違うことが多く、うまく公平に分けられないことがあります。
(2)代償分割
現物分割では不公平感がある場合などに、これを埋めるために利用されるのが代償分割です。特定の相続人が現物の相続財産を相続する代わりに、他の相続人に対しては現金などを支払い不公平感を調整します。
代償分割を選択するケースの事例については次項でご説明します。
(3)換価分割
次に換価分割という方法があります。換価分割とは、現金以外の相続財産を全て売却して現金化した上で、その現金を相続人で分ける方法です。全て現金で分けるので一番公平性がある方法と言えます。
ただし売却する手間、時間がかかり、売却に伴い追加で手数料が発生することも多くなってきます。
(4)共有分割
最後に共有分割についてご説明します。共有分割は相続財産を共有して相続する方法です。土地や建物を相続する場合に、どうしても相続人の間で分割の調整がつかず、かと言って売却することもできないケースが出てきます。その場合には相続財産を共有して相続することができます。
ただし共有するとその相続財産を利用したり売却するにもお互いの意見が一致しないと進まなくなります。後々トラブルに発展する可能性も出てきます。
代償分割はどのようなときに選択されるのか
このように遺産分割の方法には4つありますが、その中でも代償分割が選択される具体的なケースについてご紹介します。
主には現物を相続人の間でうまく分けることができない、現物だけで分けると不公平感が出てしまう場合です。そしてさらに現物を売却して現金化し換価分割ができない事情があるケースになります。
(1)相続財産の主なものが不動産で、相続人の1人がその不動産を利用し続けたい場合
例えば2人の子供が相続財産を相続する場合に、相続財産の主なものが自宅(不動産)であると、相続人の1人が自宅を相続するともう1人が受け取れる相続財産が少なくなり不公平になってしまいます。この場合公平に分けるならば自宅を売却しなければならないところですが、売却してしまうと住むことができません。
このため自宅に住み続けるために1人が自宅を相続し、もう1人には現金等の代償金を支払う代償分割が有効になります。
また自宅ではなく事業用の土地や不動産の場合も同様です。事業を継ぐ相続人は事業に必要な土地、不動産を利用したいのでそれを相続し、他の相続人には代償金で精算する方法が有効になってきます。
(2)自社株を相続する場合
亡くなった方が会社経営をしていた場合、相続財産の中に自社の株式があることがあります。
同族経営をしていると株式はなるべく経営者が集中して持っておきたいニーズがあります。このため自社株は事業を継ぐ相続人が相続し、他の相続人には代償金で精算する方法が有効になってきます。
代償分割課税額の計算方法
では具体的に代償分割を行うにあたって、代償金の金額はどのように決まるのか、そして代償分割をした場合の相続税の課税価格の計算方法、計算例をご紹介します。また代償金が現金で用意できない場合の対処法についてもご紹介します。
代償財産の代償金の決め方
まず代償分割を行う際の代償金の金額の決め方についてご説明します。代償金の金額は当事者が自由に決められるものですが、ここではなるべく公平に分けたいと考えている場合に参考にされる決め方をご紹介します。
主に問題になる点としては相続人の1人が不動産を相続し、その代償として代償金を支払う場合に不動産をどのように評価するかです。これについては大きく2つに分かれます。
(1)実勢価格
取引の実勢価格です。正確に知りたい場合は不動産会社に査定してもらうと良いでしょう。
(2)その他の評価額
以下のような参考になる指標があります。
・固定資産税評価額
・路線価
・国土交通省が定める公示地価
これらの価格間にはかなりの差額があり、一般的には実勢価格(時価)が一番高くなります。
これらを参考にしながら相続人の間で代償金の金額を話し合うことになりますが、どうしても決まらずに争いになってしまった場合は家庭裁判所の調停や審判で決めていくことになります。
代償分割の課税価格の計算方法
次に、代償分割を行うために代償金の金額が決定した後に相続税の課税価格がどのように決定されるかをご説明します。
(1)代償金を払った相続人Aの、相続税の課税価格は
「Aが相続した相続財産の相続税評価額-交付した代償金の価額」
(2)代償金を受け取った相続人Bの、相続税の課税価格は
「Bが相続した相続財産の相続税評価額+交付した代償金の価額」
このように代償金の金額を相続税評価額にそれぞれ調整します。
ただし代償金の額が相続財産の実勢価格を基にして決定されている場合は、時価配分方式を採用して計算される場合があります。時価配分方式は代償金の金額を(相続税評価額÷実勢価格)でかけ合わせて調整する方法です。
代償分割の相続税の計算例
課税価格の計算方法について具体例を示します。
相続人Aが不動産(相続税評価額4,000万円、代償分割時の時価5,000万円)を取得する代わりに相続人Bに現金2,000万円を代償金として支払った場合、
(1)相続人Aの、相続税の課税価格は
4,000万円-2,000万円=2,000万円
(2)相続人Bの、相続税の課税価格は
2,000万円
となりますが、時価配分方式を採用した場合には
(1)相続人Aの、相続税の課税価格は
4,000万円-{2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)}=2,400万円
(2)相続人Bの、相続税の課税価格は
2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)=1,600万円
という計算方法になります。
時価配分方式は相続税の課税価格を実勢価格、すなわち実態に応じた金額に調整する計算方法と言えます。相続人はこのようにして計算された課税価格を基にして相続税が課税されることになります。
代償金の現金が手元にない場合は?
代償金の現金が手元にない場合はどうなるのでしょうか。結論から言って代償金を用意できなければ代償分割を行うことができません。
なんとかして代償金を用意する手段としては、まず代償金は必ずしも現金でなくてもかまいません。各相続人の合意のもとであれば車などの動産や有価証券などでも精算が可能です。
また、一括ではなくて分割での支払も可能です。ただしこちらも各相続人の合意が必要ですし、後々支払ができなくなる可能性もあります。
このため代償分割を選択する可能性がある場合には、相続が発生する前から準備をしておく必要があると言えます。準備としては資金を溜めておくだけでなく、いくつか有効な方法がありますのでご紹介します。
(1)生命保険を活用する
生命保険金は相続財産には含まれません。受取人の固有財産になります。このため生前から代償金を支払う側が生命保険金を受け取れるように準備しておくと、それを代償金に充てることができます。
(2)遺留分のみの相続とすることを遺言書で作成してもらう
代償金が足りないことで相続人間で争いになりそうな場合は、代償金をもらう側が遺留分のみの相続とする旨の遺言書を作成してもらうことも有効です。
遺留分は法定相続人に認められている最低限の相続分です。このため法定の割合よりも低くなりますので、代償金も少なくて済みます。
代償金を支払えない可能性がある場合には、必要となる代償金をざっくりとでも試算しておき、できる対策を練っておくと良いでしょう。
代償分割の手順
続いて代償分割の実際の手順についてご説明します。
遺産分割協議を行う
相続が発生したら遺産分割についての話し合い、遺産分割協議を行います。相続財産を洗い出し、どの相続財産を誰が相続するかについて協議します。代償分割の場合は誰が相続財産を相続するのか、誰に代償金を支払うのかを協議します。
不動産鑑定士、税理士などに相談する
代償分割の場合、代償金の金額を決める必要があります。相続人間の協議で決めることができればスムーズですが、公平性を保つためより相続財産の価値を正確に算定したいケースもあるでしょう。
不動産は上記でも述べたようにいくつかの評価方法があります。必要に応じて不動産鑑定士へ依頼すると良いでしょう。
また、代償金の金額は各相続人の相続税の金額に影響します。各相続人が相続人の負担感を認識し、後々トラブルにならないためにも税理士に相談するとスムーズでしょう。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が済んだら、その内容を遺産分割協議書にまとめます。相続人の中の誰かが作成しますが、専門家に依頼することも可能です。
遺産分割協議書のひな型は特にありませんが、必要事項を全て記入します。ポイントとしては下記になります。
・誰がどの財産を取得するかを明記する
・新たに相続財産が発見された場合の対処法を記載しておく
・相続人全員の署名と実印をもらっておく
代償金の支払い
遺産分割協議書を作成したら、実際に代償金を支払います。相続人間での合意があればどのような支払方法でも良く、また期限もいつでも良いのですが、後々トラブルにならないようにするためにも支払方法や期限は明確にしておいた方が良いでしょう。
不動産登記の名義変更
次に相続した不動産の相続登記が必要です。相続登記は不動産の名義を相続人に変更する手続きになります。登記をしていないと不動産の所有権を主張できません。不動産をすぐに売却したい場合には、先に相続登記をしておかなければ売却できません。事業用の不動産の場合などで不動産を担保に融資を受けたい場合でも相続登記をしておかないと融資が受けられません。速やかに相続登記をしておきましょう。
また相続登記をしないまま、相続人が亡くなってさらに相続が発生した場合には、名義人の相続から遡ることになり別の法定相続人が出てきたりと複雑になる可能性も高くなります。
今まで相続登記は義務化されていませんでしたが、政府は2021年3月5日の閣議会議で民法等関連法案の改正を決定しました。国会で成立後、相続登記の義務化が2023年度に施行される予定です。
相続税の申告・納付
最後に相続税の申告と納付を行います。代償分割をした場合の相続税の課税価格は上記でご説明した通りですので、課税価格に基づいて相続税を計算して納付します。
代償金を支払う側の相続人は、代償金だけでなく相続税の資金も用意する費用があります。ある程度の金額を見積もった上で、現金またはすぐに現金化できるものの準備が必要となります。
代償分割の注意点
ここまでが簡単な代償分割の流れですが、次に代償分割の注意点についてご説明します。代償分割という方法をとったせいで追加の税金が発生してしまうかもしれないケースについて、贈与税、譲渡所得が発生することによる所得税の観点から考えます。
贈与税の対象になるケース
まず贈与税についてです。贈与税は個人からの贈与によって財産を取得した場合に、その取得した財産に課税される税金です。代償分割を行った時の代償金は贈与税の対象になるのでしょうか?
結論として贈与税の対象にはならず、相続税の課税対象になります。相続税の課税価格に代償金を調整したため、相続税の対象となっているのです。
しかし相続税の対象とするために、遺産分割協議書に「代償分割があること、代償金の支払があること」を明記する必要があります。この記載がないと、代償金の支払に対して贈与税が課税される可能性も出てきます。
例えば、
「相続人Aは相続人Bに対して第1条の遺産取得の代償として金2,000万円を、令和〇年〇月〇日に限り相続人Bの指定する口座に振り込む方法により支払う。」
といった文言を追記します。
所得税の対象になるケース
代償金の支払は必ずしも現金でなくても良く、車などの動産や有価証券などでも精算が可能です。
しかしこの場合には譲渡所得が発生する場合がありますので注意が必要です。現金以外で精算する場合、これら精算する「現物」が一旦時価で譲渡されるとみなされるためです。「現物」の時価が取得時よりも高くなっている場合には所得税の課税対象となってきますので、この税負担もあらかじめ考慮しておきましょう。
代償分割のメリットとデメリット
最後に代償分割のメリットとデメリットをご紹介します。それぞれの内容を踏まえて代償分割を選択するか熟考し、できれば事前に税理士に相談をすることをおすすめします。
代償分割のメリット
まずは代償分割のメリットです。
(1)相続財産の中で売却したくない財産がある場合、売却せずに遺産分割をすることができる
代償分割がどのように時に選択されるかという項目でもご説明しました通り、何といっても代償分割は相続財産を売却せずに残して利用できるという点がメリットです。
自宅に住み続ける、事業で不動産を使用して続けることができることなど、相続人の生活の基盤となる相続財産を残すことができます。
(2)現金以外に不動産などの相続財産がある場合、比較的公平に遺産を分割できる
また現物分割だけではどうしても出てきてしまう不公平感を埋めることができます。相続財産が現金だけではない場合は、なかなか等価に遺産分割するのは難しい面もあります。代償金を調整することで比較的公平な遺産分割を行うことができます。
(3)遺産分割がスムーズに進められる
これは(2)の結果とも言えますが、不公平感がなくなれば各相続人の同意も得られやすく、遺産分割がスムーズに進められます。
(4)相続税の負担を軽減することができるケースがある
代償分割で自宅を相続したり、事業用の不動産を相続した場合に小規模宅地等の特例の適用を受けることができるケースがあります。
小規模宅地等の特例の適用は亡くなった方が住んでいた土地や事業を行っていた土地、貸していた土地について、相続税の課税価格を80%減額してくれる特例です。
特例を受けるにはいくつか要件がありますが、「小規模」な土地であることが条件です。その他それぞれについて取得者の要件などがありますので適用にあたってはよく確認が必要ですが、代償分割を選択せざるを得ないケースで例示した「自宅に住み続けたい」「事業を継続したい」といった場合には適用できることが多いので確認してみましょう。
代償分割のデメリット
メリットがある一方で、デメリットもあります。以下デメリットについて見ていきます。
(1)代償金の負担が大きい、資金がないと選択できない
まずデメリットとして言えるのは、代償金を支払う側が代償金を準備することが負担になることです。代償金は通常は相続人自身の財産から用意することになるので負担が大きくなります。
そして代償金が用意できない場合は代償分割を選択することができません。
代償金は分割払いでも可能ですが、未払が生じる危険もあるのでなかなか他の相続人の合意が得られないケースが多いでしょう。資金力がないと利用できない点がデメリットになります。
(2)代償金の金額がなかなか決まらないケースがある
また代償金の金額は不動産などの相続財産を評価した上で決定して行くため、評価に時間がかかってなかなか決まらないことがあります。また評価方法も複数あり、それぞれの価格に違いがあることから相続人の間で意見がまとまらないケースがあります。
代償金を払う側ともらう側では、「評価を低くしたい」「評価を高くしたい」と要望が逆になるのが普通ですので、折り合いをつける際に揉めるリスクがあります。
(3)代償金の金額を誤ると贈与税が発生するリスクがある
代償金の金額を誤ってしまい、代償分割の対象となる不動産などの現物に対して代償金が多すぎてしまった場合には、その差額が贈与とみなされ贈与税が課税されるリスクがあります。相続財産の評価を適切に行い、代償金の金額を誤らないようにする必要があります。
相続が発生する前に税理士に相談
代償分割を行う可能性があると思われた場合には、以上のようなデメリットを避け、メリットを享受するためにも、専門家である税理士に相続が発生する前に相談をすることをおすすめします。
監修税理士のコメント
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
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このように代償分割は不動産等の評価、代償金の金額の決定などが必要になり、誤ると相続人の間でトラブルになるだけでなく、相続税の金額を誤まったり、追加で贈与税などの税金が発生するリスクがあります。このため税理士に事前に相談することがおすすめです。
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菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区