慰謝料を自分で請求する方法は、「協議で請求する・請求書を送る・家庭裁判所に申し立てする」の三つです。それぞれの進め方や慰謝料を請求できないケース、請求が失敗するパターン、弁護士や行政書士に依頼するメリットなどについて、確認しましょう。
慰謝料を請求できるケースできないケース
不貞行為は民法上の不法行為の一つです。とはいえ慰謝料を請求できるケースと、できないケースがあるため、それぞれ確認しましょう。
故意または過失により浮気・不倫をした
慰謝料は精神的苦痛を与えた本人に、故意または過失があった場合に請求できます。故意・または過失による損害に対する賠償責任は、民法709条で以下のように認められています。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
浮気や不倫における故意または過失とは、配偶者のある人物と性的関係を持ったことにより、その配偶者の家庭が崩壊する結果が予測できたにもかかわらず、関係を続けた場合などを指します。また相手が既婚者である事実を知らなくても、相手の年齢や地位、発言などから予測できた可能性があるのに確認を怠った場合にも、適用されます。
浮気・不倫によって自分の権利が侵害された
浮気や不倫は法的には「不貞」と呼ばれます。不貞行為は法律上の不法行為に相当し、不法行為によって権利を侵害された場合には慰謝料を請求できます。
不貞は夫婦関係にあるどちらかが、配偶者以外の異性と自由意思で肉体関係を持つことです。
夫婦関係とは事実婚以外に、内縁関係や同性の事実婚も含みます。なお肉体関係がなくプラトニックな関係である場合や、メールや電話などのやり取りのみの場合、またドライブや遊びに興じるなどは、不貞行為になりません。ただし性行為に準じるようなキスや抱擁、性的な接触が認められた場合は、不貞行為とみなされる可能性があります。
不倫相手に故意・過失が認められない
配偶者の不倫相手に故意、または過失が認められない場合は、慰謝料を請求できる可能性が極めて低くなります。例えば配偶者が既婚者である事実を、まったく知らないまま不倫関係にあり、そこに過失がない場合には、慰謝料は請求できません。
しかし常識的に考えて、不倫関係という密接な関係にあるにもかかわらず、相手の私生活に少しも疑う余地がなかったと主張するのは難しい状況です。
配偶者が家庭があることを徹底して隠していたとしても、「結婚しているかも」と疑える状況があれば、故意または過失が認められます。
そのため故意または過失が認められないという状況は、極めて稀なケースともいえます。
相手が自己破産している
慰謝料を請求した相手が自己破産した場合は、慰謝料を請求しても受け取れないかもしれません。自己破産とは裁判所に破産の申し立てをし、免責許可をもらった状態を指します。養育費や税金以外の、すべての負債を支払わなくてよいことにする手続きです。
慰謝料は相手が自己破産していても、「悪意で加えた不浄行為に基づく損害賠償債務」であれば、免除の対象にはなりません。ただし「悪意で加えた」の部分の認定は、非常に厳格なものなので、不貞行為を原因とした慰謝料の場合、減額もしくは免責になってしまう可能性は、高くなります。
慰謝料を請求する方法
慰謝料を請求する方法はおもに三つあります。夫婦間で話し合う協議での請求、内容証明郵便で請求する方法、調停で請求する方法です。それぞれについて確認しましょう。
夫婦間の協議で請求
協議とは皆で集まって話し合うことを意味します。協議の席につく前に下準備として、話し合いたい内容を必ずメモしておきましょう。子どもの養育費、慰謝料、今後の住居や生活など、伝え忘れや聞き忘れがないように、箇条書きで書き留めてから話し合いに臨みます。
話し合いの場では感情を抑え、冷静に相手の話を聞きましょう。メモは必ず残し、話し合いの様子を録音しておきます。不貞行為によって精神的な苦痛を与えた自覚があるか、慰謝料を払う意思はあるか、こちらが希望する金額を支払う用意はあるかについて、聞き出します。
慰謝料の支払いを拒否した場合は、法的手続きも辞さないことも伝えると効果的です。
内容証明で請求する
内容証明郵便はいつどのような内容の文書が、誰から誰あてに差し出されたのかということを、差出人が作成した謄本によって日本郵便が証明する制度です。
内容証明郵便を出すには、文書と文書の謄本2通、差出人と受取人の名前と住所を記入した封筒を用意します。
差出郵便局に謄本1通を提出し、内容証明の加算料金を含む郵便料金を支払います。内容証明郵便は差出郵便局からしか発送できません。そのため発送できる郵便局を、あらかじめ調べておく必要があります。
内容証明郵便の文書は手書きとパソコンによる作成の、どちらでも構いません。
ただし内容証明郵便の謄本作成には字数・行数に制限があります。縦書きの場合は「1行20字以内、1枚26行以内」で、横書きの場合は「1行20字以内、1枚26行以内」「1行13字以内、1枚40行以内」「1行26字以内、1枚20行以内」のいずれかです。
「」や()は1組で1文字ですが、「㎡」や「km」は2文字とカウントされます。訂正する際は2本線で消してから、正しい文字を横に書き、訂正を加えた字数と箇所を、欄外に記載したうえで押印しましょう。
調停または裁判で請求する
慰謝料について話し合ったものの、一向に支払う様子がなく、内容証明郵便を送っても解決しない場合、家庭裁判所で調停の手続きを取ることも可能です。
家庭裁判所の調停では調停員が双方から、慰謝料請求に至った経緯や理由をヒアリングします。双方の折り合える点を探るため、必要に応じて証拠を提示しながら、妥結点が見つかるまで、話し合いを続けます。
調停の申し立て先は相手方の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意のうえで決めた家庭裁判所です。申し立てるためには、収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手を用意します。
詳しくは管轄の家庭裁判所で確認しましょう。
慰謝料を自分で請求する際の注意点
自分で慰謝料を請求する場合に、知っておきたい時効の考え方と、慰謝料の相場を紹介します。
婚姻中の慰謝料請求権の消滅時効
婚姻中の慰謝料の請求には期限があり、期限を過ぎると慰謝料を請求できなくなるので、注意が必要です。不貞行為に対する、慰謝料の請求期限である「時効」は、以下のように考えます。
- 不貞行為を知ったときから数えて3年
- 不貞行為に気づかないまま時間が経過した場合は、不貞行為が始まったときから20年
この二つの期限は、不法行為による除斥期間と消滅時効です。
不貞行為が始まった日から20年以上気づかなければ、慰謝料を請求するチャンスは消滅します。また不貞行為が始まった日から20年以内に不貞行為に気づけば、その日から3年以内に慰謝料を請求しなければなりません。
離婚後の慰謝料請求権の消滅時効
すでに離婚していても、時効を迎えていなければ、慰謝料の請求は可能です。離婚慰謝料の時効は、離婚後3年とされています。離婚慰謝料は精神的苦痛を被り、離婚に至った理由に基づいて請求します。
離婚の原因が不貞行為である場合、不倫相手に対する慰謝料の請求が可能です。
例えば慰謝料として2,000,000円が認められるケースで、配偶者から1,500,000円を受け取り、不倫相手に500,000円を請求することもできます。ただし双方から2,000,000円ずつ受け取ることはできず、不貞行為の前に夫婦関係が破綻していた場合も、請求できません。
不貞行為の場合の慰謝料の相場
夫婦間の慰謝料は婚姻関係を継続するか、離婚するかによって、相場が変わります。
例えば配偶者の不貞行為は認められたものの、離婚はせず婚姻関係を維持する場合は、婚姻関係が崩壊するほどの影響がなかったとして数十万~1,000,000円が相場です。
婚姻関係を続けられないほどの深刻な影響を受け、不貞行為が原因で離婚に至った場合は、1,000,000~3,000,000円の範囲に収まるケースが多いでしょう。また不貞行為以外にも、生活費が支払われないなどの「悪意の遺棄」や、DV・モラハラでは500,000~2,500,000円が相場となり、婚姻関係の長さや深刻さに応じて高額になります。
慰謝料請求書の書き方
慰謝料請求書は「通知書」「請求書」「ご通知」などの表題から始まり、差出人の名前・住所、日付に続き、以下の内容を簡潔に記します。
- 文書のタイトル
- 請求理由と根拠
- 慰謝料の金額
- 支払い期限
- 支払われなかった場合の措置
- 受取人の名前と住所
請求理由と根拠は不貞行為によって、どのような影響を受け、精神的苦痛を味わったか、何によって現在の境遇に陥ったかを書きます。
書面で請求しても、慰謝料が支払われなかった場合の措置として、民事訴訟に持ち込むことを検討しているなど、相手にプレッシャーがかかるような内容も記載しましょう。慰謝料請求書は「内容証明郵便」を使って送付します。
慰謝料を請求する準備
慰謝料を請求するにあたり、どのくらい深刻な不貞行為が行われたかを、証拠として残すことで、話し合いや調停を有利に進められる可能性が高くなります。
画像・音声・メール・SNS
証拠として有利に働くものとして、以下のようなものが挙げられます。
- 浮気や不倫が明確に伝わる画像や動画
- 浮気や不倫の事実を認めた録音音声
- 肉体関係が推測できる通話内容の記録
- 肉体関係があったことが分かるメールやSNS
画像や動画だけでは証拠としての効力が弱く、複数の証拠が揃うほど有利になります。例えば配偶者と相手がホテルに出入りする場面を画像に残し、クレジットカード履歴や通話、メールの履歴と日付を一致させるといった方法です。
音声を証拠として使う場合で、慰謝料請求の際に有利になるのは、性的な行為や性的な行為があったと推測できるレベルの内容です。浮気を問い詰めて相手が認めたときの録音は、一定の効果は見込めるものの言い逃れできる余地があり、証拠としては弱いといえます。
慰謝料請求に失敗するパターン
慰謝料請求に失敗しないように失敗するパターンを三つ紹介します。いずれも心得ておけば、忌避できるポイントなので、参考にしましょう。
請求額が多額すぎる
法外な金額を請求すると、慰謝料を取れなくなる可能性が高くなるので、相場の範囲で金額を決めましょう。
不倫で請求される慰謝料の相場は500,000~3,000,000円です。また慰謝料は婚姻期間の長さや、不貞行為の頻度、離婚するほどの深刻さだったかといった点でも、増減します。
相手の年収をはるかに超えた額や非常識な金額は、そもそも支払えない、相手にされないといった事態につながります。相場と問題の大きさを総合的に見て、客観的に慰謝料の金額を考えましょう。
論点がずれている
慰謝料を請求する際の話し合いにおいて、論点がずれていると話し合いが進みません。同じ過ちを繰り返してほしくない、配偶者とは関わらないでほしい、二度と目の前に現われてほしくないなど、お金以外の要望を明確にしておきましょう。
慰謝料はあくまでお金という形で、苦痛を和らげるためのものです。主たる目的がお金になってしまうと、説得力を失ってしまいます。今後どうしてほしいのかという、相手に求める要求を明確にしてから、話し合いに臨む必要があります。
相手を感情的に責める
感情的になると、慰謝料請求に失敗する可能性が高くなるので、注意しましょう。信じていた相手から裏切られた場合、冷静に対処できなくなる人が大半です。不倫や浮気の原因となった相手と面と向かえば、取り乱す可能性も十分に考えられます。
しかし怒りの感情をあらわにしたところで、解決にはつながりません。むしろ言葉尻を捉えられて、揚げ足を取られたり、荒々しい態度を証拠に使われたりと、相手に有利な材料を提供しかねません。
慰謝料請求を専門家に依頼する
慰謝料を請求する方法のうち、内容証明郵便を送る方法と裁判で獲得する方法は、専門家に依頼が可能です。弁護士と行政書士、それぞれのメリットを紹介します。
慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
自分1人で闘うよりも味方を揃えて望んだ方が、有利になるケースはたくさんあります。弁護士に慰謝料の請求を依頼する場合、以下のようなメリットがあるでしょう。
- 常識的な慰謝料の金額で請求できる
- 法的な後ろ盾がある
- 請求に関係する一切を任せられる
- 慰謝料以外の条件も相談できる
当事者にとって慰謝料の金額は、主観的に捉えがちです。離婚や慰謝料請求を得意分野にする弁護士であれば、一般的な慰謝料の金額を把握しているので、妥当な金額が分かりやすく、慰謝料を受け取れる可能性も、高くなります。
法律関係に詳しい専門家が同席するだけでも、一般の人にとっては威力になります。請求に必要な業務や、処理を任せられるのも、大きなメリットといえるでしょう。
慰謝料請求を行政書士に依頼するメリット
慰謝料請求の際に行政書士に依頼できる内容は、書面の作成です。内容証明郵便で送付する通知書の作成代理人として、依頼人が相手に伝えたいことを、正式な書面にして発送できます。行政書士に書面作成を依頼するメリットは、以下の通りです。
- 法的に有効な通知書を作れる
- 書くべき事柄を相談できる
- 迅速に通知書を作成・発送できる
慰謝料の請求を書面で送る場合には、一般的な手紙や文書とは異なり、法的な効力があるという点が重要です。また慰謝料を請求するのに必要な事柄を、漏れなく書く必要があります。
内容証明郵便で文書を発送する際は、日本郵便の定める利用規定に従わなければなりません。これらの理由から、内容証明郵便の作成を行政書士に依頼するメリットは、十分にあるといえるでしょう。
慰謝料請求は専門家に依頼した方が安心
慰謝料請求は相手がいることと、法律が関係することから、専門外の人が1人で対応するのはなかなか難しいものでしょう。内容証明郵便について考えてみても、書き方には厳格なルールがあり、不備が一つあるだけで効力を失ってしまいます。
精神的苦痛を少しでも軽くしたい、相手を懲らしめたいと思うのであればなおのこと、専門家の手を借りた方が安心です。