離婚の際に大きな争いになりやすいのが、子どもの親権問題です。親権を確実に取得する方法は、あるのでしょうか?子どもと暮らしたいと強く望む人に向けて、親権者の条件・決定プロセス・親権者変更など、さまざまなケースについて、詳しく解説します。
親権とは
「親権」という言葉は知っていても、その内容を詳しく説明できる人は、そう多くないはずです。まずは親権がどのような権利であるのか、しっかりと確認しておきましょう。
子どもを育てる権利と義務
親権とは未成年の子どもに対して、親が持つ権利と義務のことをいいます。具体的にいうと、子どもに対する「財産管理権」と「身上監護権」です。
親権者は子どもの財産を管理し、財産に関わる法律行為を、子どもに代わって行います。また子どもの生活や健康を見守り、社会に送り出すまで教育する責任を負うのです。
婚姻している間は夫婦の共同親権ですが、離婚すると父母いずれかの単独親権となるでしょう。親権者となった親は、子どもを自らの手で育て、自分のよいと思う教育を子どもに与えられます。
親権者の条件とは?
複雑な家庭環境にあり、祖父母や親戚が、親権を取りたいと考えることもあるでしょう。しかし親権を持てるのは、原則として両親のみとされています。
祖父母や親戚が親権を取るとしたら、養子縁組の手続きを取るしかありません。養子縁組をするとしても、子どもが15歳未満であれば、父母の同意が必要になります。
さらに父母以外の誰かが、子どもの監護者になっている場合は、その監護者の同意も必要です。「手続きは難しいが、子どもをそばで見守りたい」という場合は、親権ではなく、監護者や未成年後見人になるという方法もあります。
監護権とは
親権には「財産を管理する権利」と「子どもの世話をする権利」がありますが、監護権はそのうちの「子どもの世話をする権利」のみを有します。つまり監護者になれば、いつも子どものそばにいて、成長を見守る権利を得られるのです。
たいていの場合、親権を持つ親が監護権も持つことになります。親権者と監護者が同一であった方が、子どもの幸福につながると考えられているためです。
しかし諸事情により、親権と監護権を分けることがあります。親権を得られない場合、監護権を分ける方法もあると、覚えておくとよいでしょう。
親権者を決定するプロセス
親権について、お互いが納得する取り決めができればよいですが、実際には夫婦間で争うことも、少なくありません。意見が対立したときの、親権問題を解決していくプロセスを解説します。
当事者同士での話し合い
まずは離婚する当事者である夫婦が、話し合いでどちらが親権を持つのか話し合います。親権を含めた諸々に合意できれば、協議離婚が成立するでしょう。
話し合いの場としては、できればカフェやレストランのようなオープンな場所がおすすめです。2人きりだと感情的になりやすく、思ったように話が進まないかもしれません。
子どもが幼く預け場所がないときは、どちらかの実家にお邪魔するのもよい方法でしょう。子どもに気を取られることなく、落ち着いて今後について話し合えます。
調停委員による仲介
夫婦間の話し合いがうまくいかなかった場合は、家庭裁判所への申立から、調停へ進みます。調停は勝ち負けではなく、第三者が介入して問題の解決策を考える場です。
調停での第三者とは、調停委員や裁判官です。調停委員は裁判所の非常勤職員であり、弁護士・司法書士・医師などの専門職から選ばれます。
親権を取得しようと思うなら、自分が親権者としてふさわしいと、調停委員にアピールしなければいけません。遅刻や言葉遣いなど、悪印象を与えることがないように注意しましょう。
裁判による判決
調停でも合意に至らなかった場合、多くは訴訟から裁判へ移行するでしょう。裁判は最終手段です。
どちらが親権を持つかが必ず決まるので、確定した判決には従わなければいけません。裁判ではお互いの主張や証拠が精査され、子育てや経済の状況が客観的に判断されます。
なお弁護士に依頼するとなると、相談料・着手金・成功報酬金など、さまざまな費用がかかります。決着がつくまで時間がかかることも多いため、できれば話し合いで、穏便に解決するのが望ましいでしょう。
親権者に必要な条件
調停でも裁判でも、親権は「子どもが幸せになれるかどうか」を重視して判断されます。具体的にどのような事柄を精査するのか、調停委員や裁判官に注目されるポイントについて、見ていきましょう。
これまでの養育状況
第一の条件として、育児に積極的に参加していたかどうかが問われます。離婚後もできる限り、子どもの生活環境を変えないためです。
具体的には、風呂や食事の世話・宿題や勉強のサポート・習い事の送り迎えなどを、父母のどちらがメインで行っていたかにより、監護能力の高さが判断されます。養育実績を確認するための資料として、以下のようなものがあると、よいでしょう。
- 保育園・幼稚園・学校との連絡帳
- 母子手帳
- 子どもと過ごしたときの写真
- 成長過程が分かる育児日記
もしこれらの資料がなければ、聞き取りによる調査が行われます。
子どもの愛着と年齢
親権問題には子どもの年齢や、本人の意向も大きく関わってきます。
ほんの少し前までは「母性優先の原則」といって、母親が子どもを育てた方がよいと、考えられてきました。しかし近年では、母性優先の原則を重要視するケースは減少傾向にあり、一概に母親だから有利とはいえません。
愛着の度合いは、裁判所での面会交流や家庭訪問などで、判断されます。子どもがはっきり意思表示できる年齢であれば、子どもが両親のどちらと暮らしを望むかも、重要な判断材料となるでしょう。
安心して暮らせる生活環境
離婚後の子どもの生活環境についても、養育状況と同様に変化が少ない方が望ましいとされています。すでに別居しているなら、現在一緒に暮らしている親の方が有利になるでしょう。
離婚後に別居するのであれば、引越しが必要になるのか、親が一緒に過ごす時間が取れるのかなど、子どもが精神的に不安定になる要素がないか、確認されるはずです。
なお収入については多少考慮されますが、それほど重視されません。そのため生活環境を整えさえすれば、「収入が少ないから、親権が取れない」といった心配は、しなくて大丈夫です。
親権争いに母親が負ける場合
母親がメインで育児を担うことが多い日本では、親権争いは母親が有利になりやすいでしょう。しかし近年では、父親が親権を取るケースも珍しくありません。では、どのような状況にあると、父親に親権が渡るのでしょうか?
子どもの世話をしてこなかった
父親に親権が認められる大きな要因として、母親に監護実績がないことが挙げられます。もし今まで父親が主に子どもの世話をしていて、母親が育児にほとんど関わっていなかったなら、父親が親権を取る確率が、高くなるでしょう。
子どもは多くの時間を過ごした親の、影響を受けて育ちます。離婚により主な養育者が変われば、子どもはこれまでと異なる暮らしに、対応しなければいけません。
子どもと現在同居している親が有利なのはもちろんですが、「子どもの行事に参加していた」「休日に一緒に遊んでいた」といった、子どもとの関わりの深さも考慮されます。
虐待の過去や精神疾患がある
母親に子どもを虐待していた過去がある場合、親権争いはかなり不利になります。殴る・蹴るといった身体的虐待だけでなく、心理的虐待・性的虐待・育児放棄なども含まれます。
虐待は子どもの利益を著しく害する行為です。たとえ現在は虐待していなかったとしても、過去の虐待について証明されれば、調停委員や裁判官の心証は悪くなるでしょう。
また母親の心身が健康ではない場合、今後の子どもの生育環境に不安が残ります。精神疾患などにより、子どもへ悪影響があると判断されれば、母親が親権を取るのは難しいでしょう。
子どもが父親との生活を選んだ
成長すると転校や引越しによる影響が大きくなるため、子ども自身が環境の変化を嫌がることも、珍しくありません。もともと父親と仲がよく、子どもが母親よりも父親を選ぶケースもあります。
子どもが15歳以上の場合、裁判所は子どもの意思を確認しなければいけません。15歳未満であっても、はっきりと意思を表明できる場合には、子どもの意見が参考にされます。
子どもが父親との生活を強く望んだ場合、母親に落ち度がなくても、父親が親権者に選ばれる可能性があるでしょう。
決定後に親権者が変わるケース
離婚したときは納得して譲ったものの、後から「親権を取り戻したい」と考える場合もあるかもしれません。一度決まった親権者は、どうしたら変更できるのでしょうか。
親権者を変更するための手続きと、変更が認められるケースについて解説します。
変更は調停か審判が必要
親権者は簡単には変更できません。ただし現在の状況が「子どもの利益」に反していた場合、親権者の変更が妥当だとみなされるでしょう。
変更の際には親権者変更調停か審判が必要です。申立の際には次の書類を用意しましょう。
- 親権者変更調停申立書の原本とコピー
- 当事者目録
- 申立人、相手方、子どもの戸籍謄本
- 事情申立書
- 連絡先等の届出書
申立書のコピーは相手方に送付されます。戸籍謄本は全部事項証明書をそろえましょう。もし他に審理に必要とされる書類があれば、追加で提出を求められることもあります。
養育環境の悪化
離婚時にはこれまでの監護実績や、子どもとの関係が重視されます。親権者変更の際には、離婚時から現在の養育状況の変化に、焦点が当てられることを覚えておきましょう。
親が遠隔地へ転勤になるなど、生活環境が大きく変化する場合には、変更が認められやすくなります。子どもが成長して、別居中の親と暮らしたいと望んだ場合も、同様です。
また児童虐待の増加を受けて、民法が改正されるなど、虐待に対して厳しい措置が取られるようになっています。離婚後に虐待が始まっていれば、養育環境が悪化したとして、親権者が変更される可能性は高いでしょう。
相手による親権放棄
親権放棄は原則としてできません。親権の辞任が認められるのは、やむを得ない事情が認められたときのみです。解雇や転職による経済的問題や、病気・けが、服役などにより養育が困難になった場合などが、親権放棄のやむを得ない事由にあたります。
また再婚により環境が変わる、再婚相手と子どもがうまくやっていけない、といったケースもあるでしょう。この場合も子どもの負担の度合いを考慮して、親権変更の可否が判断されます。
親権争いに関するよくある疑問
離婚するときの状況や、親権に関する悩みはさまざまです。話し合いや調停の参考にできるよう、親権に関してよく聞かれる疑問についてまとめました。
母親の不倫による離婚の場合、親権は?
離婚の原因が母親の不倫だったとしても、それだけを理由に、親権取得を主張することはできないでしょう。
父親にすれば結婚生活、ひいては子どもにとって安心できる環境を壊したのは、母親の身勝手な行動によるものだと考えるかもしれません。しかし司法は、夫婦間の問題と子どもの幸せを別の問題としてとらえます。不倫の事実だけでは、親権争いの決定打とはなりません。
ただし母親が不倫をしている間に、子どもが1人で留守番をしていたなど、明らかに子どもが不利益を被っていた場合は、母親の親権取得が難しくなるでしょう。
子どもの連れ去りは親権争いに影響する?
子どもとの同居が親権争いに影響することから、現在養育している親の元から、子どもを連れ去るケースがあります。実際のところ、これはあまりよい行動ではありません。
夫婦間での合意なく子どもを連れ去ると、違法性を問われることもあるのです。夫婦が別居する際に、夫婦の片方がもう一方に無断で、子どもを連れていった場合も同様です。
どのような状況にせよ、自己判断による子どもの連れ去りは、子どもの福祉に反しているとみなされ、親権争いにも影響しかねません。子どもを取り返したいときは、適切な手順により「子の引き渡し請求」をして、法的に取り戻すことを検討するとよいでしょう。
非親権者と子どもの関係はどうなる?
子どもと暮らしたいと思っていても、状況的に親権取得の望みが薄いことがあります。「親権がなければ親ではなくなる」といった不安に襲われるかもしれません。
しかし親権がなくても、親子関係は保たれます。親権はあくまで財産管理権と身上監護権を意味するものであり、離婚しても親であることには変わりありません。
子どもと生活をともにする時間がなくなる分、子どもとのつながりを持つために、面会交流を要求しましょう。面会交流の頻度は、離婚の取り決めの際に細かく話し合います。約束を守ってもらえるよう、決めごとは全て公正証書として残しておくのがおすすめです。
公正証書作成時の注意点
公正証書とは、法的な強制執行力のある公文書です。万が一相手が約束を破った場合には、裁判を起こすことなく法的手段に訴えられます。公正証書の作成方法について確認しておきましょう。
離婚を専門にしている行政書士を選ぶ
公正証書は大きな効力を持つ特性から、公証人による細かいチェックがあって、初めて認められる書類です。案文を作成するだけでも労力がかかり、公証役場には夫婦が都合を合わせて、出向かなければいけません。もし不備があれば、全て最初からやり直しです。
自分で作成することも可能ですが、素早く不備のない内容に仕上げるとしたら、行政書士に依頼するのが賢明でしょう。行政書士はそれぞれ得意な分野を持っているため、親権について公正証書を作成する場合は、離婚に強い行政書士を選ぶと安心です。
行政書士選びはミツモアが便利
よい行政書士を選ぶには、最初から1箇所に決めるのではなく、数カ所の事務所にあたってみた方がよいでしょう。電話やメールの対応、初回の相談だけでも、安心感や信頼感といった人柄は測れるものです。
しかしながら1人で何カ所の事務所とやり取りをしたり、見積もり依頼したりするのは、骨が折れます。そこで利用したいのが、ミツモアの一括検索サービスです。
ミツモアなら多くの離婚専門行政書士が検索でき、同じシステム上でそれぞれの行政書士と連絡が取れます。見積もり価格やその他の内容を吟味し、最も相性のよい行政書士を選べるでしょう。
子どもの幸せを最優先に親権を決めよう
親権が決定される際には、子どもの利益が最優先されます。子どもの利益とは、すなわち父親と母親のどちらと暮らすことが、子どもの幸福につながるかということです。
子どもが幼ければ母親といることを望むかもしれませんし、関係性次第では、父親との暮らしを望むかもしれません。子どものことを第一に考えて、自分の方が子どもを幸せにできるという確信があるなら、法的に適切な手順で、親権を勝ち取るべきです。
親権が取れなかった場合には、監護権や面会交流について話し合いましょう。その際には、決めごとの遂行を確実にするためにも、行政書士に公正証書の作成を依頼するとよいかもしれません。