離婚が決まり、養育費の協議に入っている人に向けて、金額の相場や決めておくべきことを解説します。公正証書の書き方や、作成にかかる費用にも触れています。養育費の協議のポイントを押さえ、不利にならないよう交渉を進めましょう。
養育費の意義
まずは養育費の意義を解説します。養育費について正しい認識を持つことで、協議において気を付けるべきポイントがわかります。
養育費は子どものための費用
養育費とは未成年の子どもが成人するまでに必要な、監護・教育にかかる費用です。離婚をした夫婦のうち、親権者ではない、非親権者が支払います。
養育費の金額は、非親権者と同等の生活水準を保証する分を支払わなければなりません。つまり非親権者に金銭的な余裕がなくても、支払う義務があります。
子どもにとっては親であることに変わりはないため、非親権者は離婚によって親権がなくなったとしても、養育費を払わなければならないのです。
なお子どもも養育費を請求する権利を持つため、子どもから請求することも可能です。
離婚後も扶養義務は継続される
離婚後も養育費の支払い義務は継続します。離婚とは夫婦関係の解消であり、子どもとの関係は離婚後も続くためです。例えば離婚後に父親が親権を失ったとしても、子どもが社会保険の扶養から外れることはありません。
また養育費の支払いは、義務として定められてはいますが、仮に払わなかったとしても、罰則があるわけでは、ありません。しかし相手の請求を無視し続けた場合は、強制的に支払いをさせるために、財産の差し押さえが行われる可能性があります。
2020年4月に施行された民事執行法の改正により、現在は財産や、勤務先の情報が照会しやすくなっています。そのため養育費の請求から逃れることは、できないといえるでしょう。
非親権者と子どもをつなぐ側面も
養育費は非親権者と、子どもをつなぐ役割も担っています。子どもにとって両親の離婚は、少なからず精神的に影響を与えるものです。離ればなれになってしまった親に対して、複雑な感情を抱くこともあるでしょう。
しかし養育費を毎月支払うことで、子どものことを気にかけていることを示せます。たとえ一緒に住んでいなくとも、1人しかいない肉親が気にかけてくれていることは、子どもにとって大きな精神的支柱になります。
養育費は単なる金銭問題ではなく、子どものこれからにも影響を与えるものと心得ることが、大切です。
養育費の相場とは
養育費の話し合いで一番の争点になるであろう、金額の相場について解説します。おおよその相場を把握することで、客観的根拠にもとづいた議論ができるようになり、結果としてスムーズな合意につながるでしょう。
家庭の経済事情によって異なる
養育費の相場は、家庭の経済状況によって異なります。具体的には子どもの人数や、父母の年収によって、どちらがどれだけ払うかが決まります。
とはいえ最終的には夫婦の話し合いの結果で決まるものであるため、一概に「いくら」と述べることは難しいのが現状です。
厚生労働省の調べによると、母子家庭の養育費の平均は「43,707円」、父子家庭においては「32,550円」です。一般的に養育費の相場は、40,000円となります。
ただし養育費を払う側の年収が高い場合は、必然的に養育費の金額も高くなります。損をしないためには、40,000円という数字に固執しすぎないことが、ポイントです。
算定表で見る養育費の相場
養育費の金額を決める際の参考となるのが、算定表です。算定表とは両親の年収をもとに、養育費の相場をマトリクス上に表した表のことです。裁判所でも用いられており、夫婦間の協議の場でも、公平に決めるためによく使用されています。
義務者(養育費を支払う側)の年収は縦軸、権利者(受け取る側)の年収は横軸で、当てはまるマスが交差する点に記載された金額が養育費の目安です。
例として子どもが1人いる家庭の養育費を、義務者(夫)と権利者(妻)の年収ごとに見てみましょう。
- 夫の年収が5,000,000円、妻の年収が1,000,000円:40,000~60,000円
- 夫の年収が7,000,000円、妻の年収が0円(専業主婦 ):80,000~100,000円
- 夫の年収が4,000,000円、妻の年収が3,000,000円:20,000~40,000円
算定表を用いることで、両親の年収をもとに、妥当な金額の見当をつけられます。主観が入らないため、建設的な議論ができるでしょう。
養育費を決める際のポイント
養育費を決める際には、いくつか考えておくべきポイントがあります。三つ解説するので、いざというときにもめないよう、想定されるケースは、あらかじめ取り決めをしておきましょう。
いつまで払うのか
養育費を支払う期限は、基本的に20歳までと考えておけば、問題はありません。厳密には子どもが社会的に自立するまで、養育費を払い続ける必要があります。
特別な理由がない場合、社会的に自立をすると考えられている年齢は、20歳と考えられています。20歳は成人になる年齢でもあることから、「養育費を払うのは成人するまで」と思っている人もいるでしょう。
また2022年4月の法改正により、成人年齢が18歳に引き下げられたことで、養育費の支払いも18歳までと考える人もいるかもしれません。しかし18歳で成人を迎えても、社会的に自立をしていなければ、養育費を払う必要があります。
そのため従来通り、20歳を一つの基準として考える方が無難といえます。
進学時などの特別費用
私立高校や大学などに進学する際は、通常の養育費に加えて、必要な費用を別途請求できます。現代では約半数を超える子どもが大学に進学しているので、自分の子どもも高校卒業後に、さらに進学することは十分に考えられます。
しかし進学によって、別途費用が必要な場合は請求できるものの、あらかじめ話し合っておかないと、スムーズに費用を受け取れない可能性があるでしょう。
そのため進学時の準備金の負担割合については、離婚時に取り決めておくか、将来協議することを、約束しておくことが重要です。
離婚後に再婚した場合
結論からいうと、親権者・非親権者のどちらも、再婚しただけでは、養育費の免除・減額はできません。再婚したとしても、子どもの生活を保障する義務はなくならないためです。
ただし以下のケースでは、養育費の減額を請求できる場合があります。
- 親権者の再婚相手が子どもを養子縁組に入れたとき
- 非親権者が再婚後、子どもをもうけたとき
- 非親権者が再婚相手の連れ子と養子縁組を組んだとき
一つ目は親権者の再婚相手が養子縁組をし、子どもの一次的な扶養義務者となるケースです。この場合は今まで養育費を払っていた非親権者は、二次的な扶養義務者となるため、養育費の減額請求が可能です。
二つ目と三つ目のパターンでは、養育費を払う側の金銭的負担が増えることになります。そのため元配偶者との子どもに対する、養育費の減額請求ができます。
ただしいずれの場合も、減額の請求ができるだけであり、必ずしも相手が応じるとは限らない点に、注意が必要です。
養育費について書類にすべき?
養育費の取り決めについて、書類に残すべきか迷う人もいるでしょう。養育費について書類を作成する際の、ポイントを解説します。
離婚の条件は契約書にするのがおすすめ
養育費を含め離婚時に取り決めた条件は、契約書に記録するのがおすすめです。養育費の支払いのほかに、必ず全うしてほしいことがある場合には、口約束だけでは不十分です。
月日がたつと記憶があいまいになり、合意した内容に、認識の不一致が生まれる可能性があります。
契約書を作ることで、取り決めたことを証明できるだけでなく、言った言わないの水かけ論を防止することにも、役立ちます。加えて約束を踏み倒さない抑止力になることも、期待できるでしょう。
離婚協議書
離婚時の合意内容を証明する書類に、離婚協議書があります。比較的作成が簡単で、自分たちで作ることも可能です。
離婚協議書には契約書としての効力があり、養育費の支払いが約束通り行われない場合は、書類の内容にもとづいて、請求できます。
ただし離婚協議書は私的な契約書に過ぎず、法的な強制力はありません。そのため相手が約束を破った際、強制執行できるように、法的な強制力を持った「公正証書」を、作成するのがおすすめです。
公正証書
公正証書とは、法務大臣から任命された「公証人」と呼ばれる人が、公証役場で作成する公文書のことです。公正証書を作成する際は、公証役場に当事者が赴き、公証人の目の前で書類の記入を行います。
公正証書のメリットは、取り決めた内容について、法的な強制力を持たせられる点です。そのため相手が養育費の支払いをしなかった場合、公正証書を根拠に、裁判を起こすことなく執行に進めます。
ただし公正証書は役場で作成するものなので、手数料と時間がかかります。
離婚協議書と公正証書のどっちがよい?
養育費について協議をする際、離婚協議書と公正証書の、どちらを作成するべきなのでしょうか?離婚時の状況ごとに、どちらの文書が適しているかを解説します。
金銭の支払いがあるなら公正証書
養育費や慰謝料など、金銭の支払いが絡む場合は、公正証書がおすすめです。公正証書なら法的な拘束力があるため、万が一相手が支払いを踏み倒したとしても、財産の差し押さえができます。
公正証書は万が一の、リスクヘッジに優れているだけでなく、そもそも問題の予防にもつながります。養育費を支払う側としては、公正証書がある限り、うかつに約束を破るわけにはいきません。
このように心理的にプレッシャーをかけることで、不払いを未然に防げることも期待できます。
円満離婚なら離婚協議書でもOK
やむを得ない理由で離婚する場合や、いわゆる円満離婚が実現するのであれば、必ずしも公正証書を用意する必要はありません。養育費の支払いがなく、将来的に金銭トラブルが発生しない場合も、離婚協議書があれば事足ります。
公正証書は公証役場でしか作成できません。公証役場は平日の日中にしか営業していないので、予定が合わず、作成までに時間がかかる場合があります。しかし離婚協議書なら、自分たちで作成可能なため、離婚を急いでいるときにもおすすめです。
離婚の公正証書で書くべき内容
養育費を受け取る場合は、公正証書を作っておいた方が安心です。公正証書で書くべき内容を解説するので、あらかじめ必要な情報は、調べておきましょう。
離婚に合意した旨
まずはお互いが離婚に合意した旨を記載します。このとき離婚届を提出した日付や、どちらが離婚届を提出したかを、記載するケースもあります。
公正証書の作成には、夫婦どちらも同席する必要があるため、作成することについて、相手を説得しなければなりません。
特に養育費の支払い義務が発生する側は、公正証書の作成に渋る可能性があります。必要に応じて、周囲への根回しといった準備をしておきましょう。
子どもに関する項目
次に子どもの親権者はどちらかや、養育費についての取り決め、面会方法についての協議内容を、記載します。養育費については金額・支払い頻度・支払期間を記載し、金額は算定表を用いて、お互いが納得できる額を設定しましょう。
また親権がない方の親には、子どもへの面会交流権があります。子どもとの面会を、どのように行うのかについては、おおまかに決めておくのが一般的です。
面会については、子どもの意思も尊重しなければなりません。中学生以降は子どもの希望にもとづいて、面会方法が決まることが多くなっています。
財産に関する項目
続いて預貯金や不動産、年金分割など、財産に関する取り決めを記載します。財産分与については、結婚してから築いた財産を、均等に分けるのが一般的です。年金を分け合う場合は、その旨も記載します。
DVやモラハラ、不倫など、結婚期間中に精神的苦痛を与えられた場合は、慰謝料を請求することもあるでしょう。その場合は金額や支払い方法、利息・遅延金についての取り決めも、ここで明記しておきます。
強制執行の付与を忘れずに
公正証書に法的な強制力を持たせるには、ある条件が存在します。それは公正証書に「強制執行認諾文言」を入れることです。この文言を入れないと、強制力は発揮されません。
強制執行認諾文言とは、金銭の支払いに関する取り決めが、果たせなかった場合に、強制執行をするという内容の文言です。お互いに合意して記載することで、初めて効力を発揮するため、単に公正証書を作っただけでは強制力がない点に、注意しましょう。
清算条項・連絡先の通知義務
清算条項とは公正証書に記載したもの以外に、金銭の要求をしないことを明記する条項です。将来の金銭トラブルを防ぐために、重要な条項といえます。
一方連絡先の通知義務とは、引っ越しによって住所が変わる際や、電話番号・振込先口座情報が変更になるときに、その旨を相手に通知する義務を定める条項です。
養育費を支払ったり、子どもへの面会を行ったりする場合、常に連絡を取れる状態にしておく必要があります。特に養育費の踏み倒しを防ぐために、重要な項目です。
公正証書の作成手続き
公正証書を作成するまでの手続きを解説します。事前にやっておくべきことや、当日必要な書類も紹介するので、しっかりと押さえておきましょう。
離婚の条件を話し合い
書類を作成する前に、離婚の条件をすり合わせておく必要があります。公証役場でしてもらえることは、書類の作成であり、話し合いの調整や、仲裁をしてくれるわけではありません。
法律的な観点から、書類作成の助言はしてくれるものの、どちらか一方に有利になることを、教えてくれるわけではありません。あくまでも条件は、当事者間で決めましょう。
公正証書に記載する項目は多岐にわたりますが、全てを詳細に決めておく必要はありません。しかし最低でも養育費や財産分与、慰謝料については明確にしておきましょう。
公証役場に申し込み
公正証書に記載する内容が固まったら、公証役場に文書作成の申し込みを行いましょう。まずは事前相談の予約を取り、公証人と書類に記載する内容の確認を行います。
公証役場は必ずしも、自宅の最寄りを選ぶ必要はありません。2人にとって、都合のよい場所を選ぶとよいでしょう。
打ち合わせには、公正証書に記載したい内容が記入された書面が必要です。打ち合わせ後は原案の作成を行い、でき次第、署名・捺印の日程調整を行います。
必要書類について
公証役場に提出する書類は、以下の通りです。
- 本人確認書類(運転免許証・パスポートなど)
- 戸籍謄本
- 公正証書の記載内容に関係する書類
記載内容に関係する書類とは、主に財産分与に関わる書類を指します。不動産の受け渡しがあるなら登記情報・固定資産評価額がわかる書類を、また年金を按分するなら、年金手帳の写しなどです。上記に加え印鑑も持参しましょう。
公証役場で署名・捺印
予約した日時になったら、夫婦で公証役場に向かいましょう。どうしても本人が来られない場合は、代理人を立てることも可能です。
内容について最終的な確認を行い、問題がなければ署名・捺印をして、証書が完成します。原本は公証役場で保管するので、書類が失われることはありません。
養育費を受け取る側には、正本が渡されるので、大切に保管しましょう。最後に手数料を現金で支払えば、全ての手続きが完了です。
公正証書作成にかかる費用
公正証書の作成にかかる費用がいくらか、気になっている人は多いでしょう。公正証書作成にかかる、一般的な費用を解説します。
取り扱う金額によって費用が異なる
公正証書の作成にかかる手数料は、書類内で規定する金銭の額に応じて、変動します。手数料には「法律行為に関する書類作成にかかる手数料」と、「法律行為以外の事実に関する書類作成にかかる手数料」の二つがあります。
離婚の協議で想定される金銭のやりとりは、養育費と慰謝料、財産分与でしょう。これらは別個の法律行為としてみなされ、それぞれの金額に応じた手数料を合算した額を、支払う必要があります。
通常は数万円になりますが、場合によってはその限りではありません。なお強制執行の手数料は1,700円です。
離婚協議書や公正証書作成は自分ですべき?
離婚協議書や公正証書は、自分でも作れるのでしょうか?書類を作成する際のポイントを解説します。
自分で作成することもできる
離婚協議書と公正証書はどちらも、自分で作成することは可能です。公正証書については、必ず役場に持っていく必要がありますが、作成自体は自分たちで進められます。
ただし公証役場は、平日の日中にしか開庁していないため、会社員は時間の都合をつけるのが難しいでしょう。また自分たちだけで、法律的に有効な文書を作ることは、難易度が高いといえます。
難しいなら行政書士への依頼がおすすめ
素人が法律に則った文書を作成するのは、なかなか難しいものです。そこでおすすめなのが、行政書士に作成を依頼することです。
離婚問題に強い行政書士もいるので、お互いに納得できる書類を、スムーズに作成してくれます。また弁護士に依頼するよりも、比較的安価に依頼できるのもメリットです。
行政書士に依頼するなら、ミツモアで探してみましょう。ミツモアでは簡単な質問に答えるだけで、最大5名の行政書士に見積もりを依頼できます。手続きの負担を少なくしたい人は、利用してみてはいかがでしょうか。
離婚後も養育費をきちんと払ってもらおう!
たとえ離婚したとしても、子どもの親であることに変わりはありません。親には子どもを扶養する義務があるので、養育費はしっかりと払ってもらいましょう。
トラブルを起こさないためには、離婚協議書や公正証書などで、合意内容を記録することが重要です。文書作成は自分でもできますが、難しい場合はプロに任せるのがおすすめです。
弁護士よりも行政書士の方が比較的安価に依頼できるので、ミツモアで依頼できる行政書士を探してみましょう。