既婚者と交際しているけれど慰謝料を請求されないか不安、と考えたことのある人もいるでしょう。慰謝料を請求されたからといって、必ずしも支払う義務はありません。どうしたら支払わなくてすむのか、また減額できるのかについて解説します。
突然慰謝料を請求された場合の対応方法
慰謝料の請求は突然やってくるものです。まずはあわてずに、必要事項を確認しましょう。
あわてない・放置しない
慰謝料の請求をされたら、まずはあわてないことが重要です。しかし放置してもいけません。交際相手の配偶者に知られてしまったことだけでもショックですが、慰謝料を請求されたら驚くのは無理もないことです。
しかし急いで謝ったり、支払いを約束したりするのは控えましょう。落ち着いて考えると請求された金額が高すぎるというケースは、よくあるものです。支払うと意思表示をしてしまうと、その後の交渉が難しくなります。
一方で何もせずに放っておくのも、よくありません。相手方はただ感情にまかせて慰謝料請求を持ち出しただけかもしれませんが、対応が遅れると被害者感情がさらに高まり、訴訟に発展する可能性もあります。すみやかに適切な回答をしなくてはなりません。
慰謝料を請求された場合、落ち着いて以下の事項を確認しましょう。
原因となる事実の有無を確認
付き合いはあっても肉体関係がなかったのなら、基本的には慰謝料の対象になりません。肉体関係があったか否か本当のところは、本人たちにしかわからない話です。
しかし頻繁にデートを重ねている、周りからもカップルと公認されているなど、誤解されても仕方がない状況なら、慰謝料が発生する可能性もあります。
不倫関係でなかったとしても、相手方は不倫があったと思い込んで慰謝料を請求しているのです。相手の感情を尊重しながら、事実ではない点を伝え、相手の誤解を解かなくてはなりません。
故意・過失があったか確認
故意・過失というと難しそうに感じますが、重要なのは自分の交際相手が、既婚者だと知っていたかどうかという点です。
不倫は不法行為ですが、故意または過失がなければ、基本的には慰謝料を支払う必要はありません。既婚者と知っていて交際していたなら、故意が認められます。
また注意すれば知りえたことを、知らなかったのであれば、過失があると判断されます。つまり相手の言動から当然、既婚者と気づいていいはずなのに、気づかなかったといった場合です。
たとえば本人は独身だと言うものの、土日は絶対に会えず、連絡もできないといった状況ならば、既婚者かもしれないと疑ってみるべきでしょう。
既婚者だと知らずに付き合っていたのなら、相手方にそのことを伝えます。それに対して「知っていたはずだ」と相手方が主張するためには、証拠が必要です。立証責任は請求者側にあります。
時効が成立していないか確認
慰謝料の請求権にも時効があります。不倫関係が終了してから20年、または不倫が発覚してから3年が経過すると、慰謝料請求権は時効により消滅します。
3年以上前から気づいていたはずだと知っているなら、証拠を探しましょう。交際相手から情報を聞き出したり、交際相手と配偶者の間のメールなどに、証拠になる言動がないかチェックしたりします。
証拠を用意したら、消滅時効が成立しているという意思表示をする必要があります(時効の援用)。この意思表示をしないと、消滅時効の効果は得られません。
慰謝料請求されたらチェックすべき事項
慰謝料請求書が送られてきたら、内容をしっかりチェックしましょう。たとえ怒りにまかせて送ってきたとしても、慰謝料請求書からは相手方の、さまざまな意思を推し量れます。
慰謝料請求書に支払期限は記載されている?
慰謝料請求書には通常、慰謝料の金額とともに支払期限が記載されています。「支払期限を過ぎても支払いがない場合は、裁判に訴える可能性があります」などと、期限を無視された場合の対処についても書かれているケースが多いようです。
いつまでに支払えと伝えられても、簡単に支払えるものではありません。まずは支払う義務があるのかについて確認するのに、時間がかかります。さらにお金を用意するにも時間はかかるでしょう。
慰謝料請求書に書かれている期限は、あくまでも相手方の希望にすぎないのです。書かれている期限通りに、支払う義務があるわけでは、ありません。相手方としては期限を切らないと、いつまでも放置されかねないと考え、確実に回答がほしいから、期限を付しているのです。
相手は不倫の事実をどこまで知っている?
相手が不倫の事実を、どこまで知っているのかを把握することは、今後の減額交渉に大きな影響があります。もし興信所による調査書が添付されているようなら、それが証拠になり、相手は事実を知っていると考えられるでしょう。
しかし感情にまかせて要求してきたと思われる場合は、証拠を要求しましょう。不倫の事実を立証する責任は、慰謝料を請求する側にあり、慰謝料請求者は証拠を提示する義務があります。
不倫の証拠が出なければ、慰謝料は支払わなくてもよくなる可能性があり、減額交渉の際にも有利に進められるでしょう。
弁護士からの内容証明郵便の場合
慰謝料請求書が誰から送られてきたのかについても、チェックが必要です。
弁護士の名前で、内容証明郵便で送られてきたのなら、相手方はすでに弁護士に依頼していて、弁護士費用を支払ってでも、慰謝料を取ろうとしています。訴訟も辞さない覚悟かもしれません。
弁護士は依頼人の代理人として、法律行為を行えるので、裁判でも代理人として行動できます。また弁護士の報酬は、慰謝料の金額に左右されるので、高額な慰謝料を勝ち取ることに、積極的な弁護士かもしれません。
慰謝料請求書が弁護士から送られてきた場合は、その後の減額交渉なども、弁護士を相手に行うことになります。その場合には、自分だけで対処するのは難しいので、弁護士に相談する必要があるでしょう。
行政書士からの内容証明郵便の場合
慰謝料請求書が行政書士から、送られてくる場合もあります。行政書士が慰謝料請求書を作成した場合は、本人の名前とともに、行政書士の名前も書類に記載されているでしょう。
この場合だと、相手方は訴訟まで考えていない可能性が高いといえます。行政書士は本人に依頼されて、慰謝料請求書の作成はできますが、法律行為の代理人になることはできないためです。
依頼された行政書士も示談により解決する方向で、アドバイスをしていると考えられます。その場合は減額交渉も受け入れられやすいと考えましょう。
金額が妥当か確認する
慰謝料請求書に書かれている金額は、相手方が希望する金額にすぎません。慰謝料の金額が妥当かどうか必ず確認しましょう。
請求された慰謝料の金額が高いと感じたら
慰謝料にはいくらまでといった基準はないので、双方の合意により金額が決まります。相手方は不倫によって精神的な苦痛を受けているので、被害者感情にまかせて高額の要求をしてくるケースもあるのです。
高いと思ったら慰謝料の相場を調べたり、専門家に相談したりして、減額事由を探しましょう。
慰謝料が減額される事由として、一般的に以下のようなものが挙げられます。
- 故意・過失がない
- 性交渉の証拠がない
- 請求金額が相場とかけ離れている
- 不倫期間が短い、回数が少ない
- 婚姻期間が短い
- 反省・謝罪をして誠実に対応している
慰謝料の相場は?
慰謝料には法的な基準がないので、ケースバイケースでその都度算定が必要です。とはいえ数多くの判例や示談の事例から、おおよその相場を確認できます。
不倫の慰謝料の相場は相手方の離婚が成立した場合と、婚姻関係を継続する場合とで異なります。以下のような金額になると考えましょう。
- 離婚成立の場合:1,000,000~3,000,000円
- 婚姻関係継続の場合:数十万~1,000,000円
しかし相場通りの金額にしなくても、問題はありません。双方が納得できるのであれば、金額はいくらでもいいのです。
慰謝料を支払えない場合の対処法
上記で説明した確認事項が明らかになり、支払うことで合意したとします。しかし妥当とされる金額を支払えない場合には、どのように対処したらよいのでしょうか。
請求期限までに支払えない場合
慰謝料請求書に記載されている期限は、あくまでも請求者が希望する条件です。期限までに支払えないとしても、処罰されたり、損害賠償が発生したりすることはありません。慰謝料の金額や支払条件などは、双方の合意によって成立します。
期限までに余裕がない場合は、つい焦ってしまいがちですが、落ち着いて自分が支払える期日を決めましょう。支払える期日を提案して、期限の延長を交渉します。相手方も期限を延ばせば支払われるのであれば、訴訟になるよりはよいため、条件を受け入れる可能性が高いでしょう。
分割払いの交渉をする
一括払いが無理でも、分割なら支払えるという場合も多いので、分割払いにできないか交渉してみます。支払い能力が低くて支払えない場合は、給与明細や確定申告書などを提示して、支払い能力を示さなくてはなりません。
ただし請求者にとっては分割払いの場合、途中で支払いが滞るかもしれないというリスクがあります。そのため減額してでも、一括払いを希望してくるかもしれません。
その際は現時点で支払えるだけ支払い、残額を分割払いにするという方法を選べば、双方とも受け入れやすいのではないでしょうか。
減額交渉をする
支払い能力が低くて減額を依頼する場合にも、分割払いと同様に、支払い能力を示す給与明細や確定申告書などの提示を、要求される可能性があります。
預貯金がないことを伝え誠意をもって交渉すれば、相手方も理解を示してくれるでしょう。相手にとってもまったく慰謝料を受け取れないよりは、減額してでも支払ってもらう方がよいためです。
不倫の慰謝料は請求する側も、満額で受け取れるとは考えていないケースが多く、減額を予定して最初は多めの金額を設定している可能性もあります。支払い可能な金額を提示して、協議を進めましょう。
減額できれば支払う用意がある場合の対処法
減額できれば支払える場合は、代理人を立てずに自分で交渉して、手続きするのが近道です。
自分で減額交渉をするメリット
自分で直接相手と交渉するメリットはとして、「話が早い」「費用が安い」という2点が挙げられます。
間に人を交えずに直接交渉するので、相手が合意してくれれば、話し合いはまとまります。相手方が弁護士を立てずに自分で慰謝料を請求してきている場合は、訴訟にせずに解決したいという意思が、あるでしょう。
この場合にはこちらも自分で対応するのが、スムーズな方法です。もし相手方が弁護士を立てているのであれば、自分で対応するのは難しいので、専門家に相談することをおすすめします。
もう一つのメリットは、弁護士費用がかからない点です。弁護士に依頼すると1時間10,000~20,000円程度のタイムチャージがかかります。弁護士がどのくらい時間をかけて仕事をするのかがわからず、弁護士費用がどの程度になるのか、不安が尽きません。
また内容証明郵便の作成・送付費用、文書作成費用などは、30,000円程度が目安です。慰謝料を減額できても、弁護士費用の方が高くなりかねません。
直接相手と協議する際の注意事項
自分で慰謝料の交渉をする際に、最も大切なのは、感情的にならないことです。
相手は配偶者の不倫が発覚して、精神的につらい思いをしている状態です。まずは相手の怒りを少しでも鎮められるように、真摯な態度で謝罪しましょう。相手の言い分も聞きつつ、自分の希望もはっきりと伝えます。
その際には相手の痛みを増長するような言動は、極力控えなくてはなりません。反省・謝罪の態度が感じられないと思われると、逆に慰謝料増額の事由にされるおそれもあります。
減額要望の回答書を送付する
相手との交渉は多くの場合、慰謝料請求書に対する回答書を、送付するところから始まります。慰謝料請求書の内容をよく確認して、金額・支払期限などについて、自分の希望を示す回答書を作成します。回答書に記載すべき項目は以下の通りです。
- 日付(回答書を作成した日付)
- 宛先
- 回答書の作成者(自分の住所・氏名)
- 希望する事項(減額、分割、延期など)
- その理由
回答書が完成したら、内容証明郵便で送付します。「受け取っていない」「内容が違う」といったクレームを回避するためです。
示談が成立したら文書にしよう
交渉がまとまって示談が成立したら、必ず文書に残しましょう。これも後々のトラブルを避けるために必要なことです。
示談書の作成を行政書士へ依頼するメリット
示談書はもちろん自分で作成することも可能ですが、行政書士に依頼するのが確実です。専門家に相談することによって、慰謝料の適切な金額などについても、アドバイスを受けられるメリットがあります。自分の代わりに書類を作成してもらえるので、書類上の不備を回避できる安心感も、大きいでしょう。
行政書士は数多くの案件を扱ってきているので、精神面でもさまざまなサポートを期待できます。相手方の反応に対しても、感情を抑えて対処していけるでしょう。弁護士に比べると、費用を抑えられる点もメリットです。
慰謝料の交渉には謝罪の気持ちも大切
不倫・浮気というと不誠実な感じがしますが、好きになった人が、たまたま既婚者だったというのは、よくあることです。不幸にも慰謝料を請求される事態になってしまったら、支払う義務はあるのか、減額できないかという点を確認しましょう。
事実関係や故意・過失など、上述した項目をチェックします。金額が高すぎるとわかれば減額交渉を、支払う義務がないことがわかれば、その旨を書き込んで、回答書を送付します。
協議が進んで合意が成立したら、示談書を作成しておくのがおすすめです。後々トラブルにならないように、証拠として残しましょう。
慰謝料についての交渉・協議では、自分で直接交渉する場合も、代理人を立てて交渉する場合でも、相手への謝罪の気持ちを明確にすることが大事です。感情にまかせて口走った、たった一言が問題をこじらせ、それが泥沼への入口になるというケースも珍しくないため、気を付けましょう。