平成30年度、税制改正により事業承継税制が改正され特例措置が設けられました。


贈与税や相続税の納税猶予の枠が大幅に拡大され、今後の活発な活用が期待されています。この特例事業承継税制とはどんな制度なのか詳しく解説をしていきましょう。
【法人版】事業承継税制の特例措置

事業承継税制の特例措置は、中小企業を対象にした「法人版」と、個人事業主を対象にした「個人版」があります。それぞれの違いを押さえたうえで、ここでは法人版を中心に事業承継税制の特例措置の概要をみていきます。
法人版と個人版の対象資産の違いに注意
事業承継税制の特例措置は、会社や個人事業の後継者が取得した資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
法人版の納税猶予は、後継者が贈与や相続により取得した株式の100%の納税が猶予されます。
個人版は、事業用の宅地や建物等の贈与や相続の際の納税が猶予されます。ただし相続において、従来からあった「小規模宅地等の特例」は、特例事業承継税制との選択適用になりますので原則併用はできません。
贈与税の納税猶予制度の仕組み
事業承継税制の特例措置では、先代経営者の相続発生時まで後継者が取得した株式に係る贈与税は100%猶予されます。
この適用を受けるには、経営承継円滑法に基づく都道府県知事の認定を受けた後に、贈与税の申告期限から5年間は代表として経営を行う必要があります。
その後も株式を継続保有する必要がありますが、後継者が死亡した場合や次の後継者に贈与した場合には猶予されていた贈与税は免除されます。
相続税の納税猶予制度の仕組み
後継者が相続によって株式を取得した場合にも、後継者の相続発生時まで納税猶予の制度があります。
この適用を受けるには、経営承継円滑法に基づく都道府県知事の認定を受けた後に、相続税の申告期限から5年間は代表として経営を行う必要があります。
その後も株式を継続保有する必要がありますが、後継者が死亡した場合や後継者に贈与した場合には猶予されていた相続税は免除されます。
認定は2種類存在・贈与から相続は切り替え確認
事業承継税制の特例措置を受けるためには、経営承継円滑法に基づく都道府県知事の認定を受ける必要があります。この認定は贈与税の際の認定と相続税の際の認定の2種類があります。
贈与税の納税猶予中に贈与者が死亡した場合は、贈与された株式は相続によって取得したものと見なされて相続税の対象になります。この際に都道府県知事の切替確認を受けることで相続税が猶予されます。
特例措置により事業承継税制の適用を後押し

事業承継税制は、従前から運用されていましたが、猶予される株式の範囲が限定的であることなどから、あまり広く浸透していませんでした。このため国は平成30年度税制改正によって、事業承継税制の特例措置を創設しました。ただし適用は時限的な措置であり、施行から5年以内に事業計画書を提出して、10年以内に承継を行った経営者が対象です。
特例措置により事業承継がどのように後押しされるのかをみていきましょう。
特例事業承継税制による納税猶予割合は100%
従来は納税猶予の対象は発行株式の3分の2までであり、相続税の猶予割合は80%まででした。これが特例事業承継税制ではすべての株式が納税猶予の対象となっています。
特例事業承継税制では特例承継計画の提出が必須
贈与や相続によって後継者が取得した株式の特例事業承継税制による猶予を受ける場合は、2023年3月31日までに、会社が認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて作成した「特例承認計画」を都道府県知事に提出する必要があります。
認定経営革新等支援機関とは
認定経営革新等支援機関とは、専門知識を有し、一定期間以上の実務経験を持つ支援機関(税理士、公認会計士、弁護士などで構成)を国が審査して認定した組織のことです。
特例事業承継税制では減免制度が導入
従前制度では、後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化で株価が下落した場合であっても、承継時の株価を基に贈与税や相続税が課税されていました。特例事業承継税制では、売却額や評価額を基に納税額を計算し、承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免する制度が導入されました。
特例事業承継での雇用要件の改善
従来は5年平均で雇用の80%を維持できなかった場合、納税猶予が打ち切られていました。しかし特例事業承継税制においては、認定経営革新等支援機関の意見が記載された「雇用確保要件を満たせない理由を記載した書類」を提出してその理由が認められれば、納税猶予は取り消されることはありません。
雇用を確保できなかった理由としては、「従業員の高齢化」「採用活動をしたが応募者がなかった」などが挙げられます。
特例事業承継では対象者の制限が大幅緩和
従来の制度においては、一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与・相続される株式が対象になっていました。特例事業承継税制においては、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象になるよう緩和されています。
特例事業承継税制の適用期限は2027年
特例事業承継税制は時限的な措置であり、施行後5年以内に事業計画書を提出して、10年以内に承継を行った経営者が対象になります。このため2023年3月31日までに事業計画書を提出して、2027年12月31日までに株式の贈与をする必要があります。
特例事業承継の適用に向けて要件を確認する

特例事業承継税制は、贈与税や相続税の納税猶予が受けられることで、事業承継の促進に寄与しています。一方でこの税制の適用を受ける要件が厳格に定められています。どのような要件があるのか詳しくみていきましょう。
会社に関わる要件を確認しよう
特例事業承継税制の対象になるのは、中小企業です。中小企業法に定める中小企業の範囲は業種ごとに資本金と従業員数が次のように定められています。資本金と従業員数はどちらかが該当すれば対象になります。
業種 | 資本金 | 従業員 |
---|---|---|
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 59人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
中小企業のうち、特定事業承継税制の対象になるのは、次の要件に該当するものです。
- 会社法上の会社である
- 非上場企業である
- 性風俗関連特殊営業会社ではない
- 資産管理会社に該当しない
会社法の会社であることが条件になっていますので、社会福祉法人やNPO法人は対象になりません。
後継者に関わる要件を確認しよう
贈与の場合、後継者に関わる要件は次のとおりです。
- 会社の代表者である
- 20歳以上である
- 役員就任後3年を経過している
- 同族関係者を合わせて過半数の株式を有し、かつ同族関係者中の筆頭株主である
後継者になるためには、承継しようとする会社で3年の役員経験が必要ですから、計画的に準備を進める必要があります。
先代経営者に関わる要件を確認しよう
贈与の場合、先代経営者は次の要件を満たす必要があります。
- 会社の代表者であったこと
- 同族関係者を合わせて過半数の株式を有し、かつ同族関係者中の筆頭株主である
特定事業承継税制の適用を申請する

特定事業承継税制は、書類の作成や申請が複雑なのが特徴のひとつです。納税猶予を受けるためには、「都道府県知事の認定」と「税務署への申告」手続きが必要です。どのような書類をどんなタイミングで申請すればいいのかみていきましょう。
都道府県知事に特例承継計画を提出
手続きに際しては、会社が特例承認計画を作成して、認定経営革等支援機関が所見を記載したものを都道府県知事に確認申請します。
承継後、経営承継円滑化法の認定申請を都道府県知事にします。相続の場合は相続開始から8カ月目までに、贈与の場合は贈与の翌年の1月15日までが期限です。いずれも審査後に認定書が交付されます。
税務署に申告
認定後は認定書の写しとともに、相続税あるいは贈与税の申告書を税務署に提出します。贈与税の申告では、相続時精算課税制度の適用を受けるのであれば、その旨を明記します。
5年目までは報告と届出書を毎年提出
認定後5年目までは、都道府県知事に「年次報告書」を年に1回提出します。また税務署に「継続届出書」を年に1回提出します。
5年経過後は届出書を3年ごと提出
5年経過後、雇用が5年平均で80%を下回った場合には、満たせなかった理由を記載して、認定経営革新等支援機関が確認をします。その理由が経営状況の悪化によるものであれば、同機関から指導や助言を受けます。
また税務署に「継続届出書」を提出します。5年を過ぎると提出は3年に1回になります。
納税猶予の申請に必要な書類を確認しよう
認定申請には、認定申請書に次の書類を添付します。
- 定款及び株主名簿の写し
- 登記事項証明書
- 遺言書又は遺産分割協議書の写し及び相続税の見込額を記載した書類
- 従業員数証明書
- 貸借対照表、損益計算書等
- 上場会社又は風俗営業会社でない旨の誓約書
- 被相続人、相続人及び株式を保有している親族の戸籍謄本又は抄本
納税猶予には申告書に次の書類を添付します。
- 都道府県知事から交付された認定書の写し
- 都道府県庁へ提出した認定申請書の写し
- 定款及び株主名簿の写し
- 登記事項証明書
- 従業員数証明書
- 後継者の戸籍謄本又は抄本
- 遺言書又は遺産分割協議書の写し及び相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書に押印したもの(相続税のみ)
- 貸借対照表、損益計算書等
- 贈与契約書の写し等(贈与税のみ)
事業承継税制のデメリットと対策について考える

税制面のメリットが大きい特例事業承継税制ですが、反対にデメリットもあります。どんなデメリットがあるのか、そしてその対策について解説をします。
取消事由に該当すると多額の税を払わなければならない
特例事業承継税制は認定申請に際して、いろいろな要件を満たしている必要があります。それらの要件は認定後も引き続き維持していく必要がありますが、経営者の交代などの取消事由に該当すると、猶予されていた税制に加えて利子税も支払わなければいけません。
ただし従来併用ができないとされていた相続税精算課税制度の適用については、認定取り消し時の負担が大きいことから平成29年の税制改正で併用が可能になりました。これにより、従前は、認定取り消し時にすべて税率の高い贈与税の対象になっていたものが、一部のみ贈与税の対象となり、残りは相続時に相続税として納税することができるようになっています。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税とは、2500万円以下の贈与に対して贈与税を非課税とし、相続発生時に相続税として支払う仕組みの制度です。
制度や要件が複雑
特定事業承継税制は、特例承継計画の作成や経営承継円滑法の認定など極めて専門的な分野の書類を作成する必要があります。また要件も複雑であるため、この制度を利用するためには、専門的な知識と膨大な時間を要することになります。
事務手続きが煩雑
事務手続きも、都道府県知事や税務署ばかりでなく、専門家の組織である認定経営革新等支援機関との関わりがあるなど、手続きを進めるプロセスが複雑になっています。
猶予期間が極めて長期間に及ぶ
納税猶予期間が、経営者の死亡や会社の解散等といった事態になるまで続くので、極めて長い期間において、納税猶予という不安定な環境を継続することになります。
事業承継税制の手続きは専門の税理士に相談を
事業承継税制は極めて複雑な手続きと専門的な知識を要するため、会社経営の傍らに進めることはとても困難です。スムーズに特例事業承継税制の適用を進めるためには、やはり専門家の力を借りるのが最善の方法でしょう。
ただし特例事業承継税制は、税理士の業務の中でも特殊な分野の業務です。これまで一度も扱ったことのない税理士だと手続きに時間を要することが予測されるため、これまでに特例事業承継税制を取り扱った経験のある税理士に依頼した方が安心です。
監修税理士のコメント

アテンド会計事務所 - 神奈川県横浜市西区
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この記事の監修税理士

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