事業年度末が近づくと法人税のことを考える様になると思います。「経理を担当してまだ日が浅い」、「会計への知識なく経理部への配属が決まった」といった場合、実際にどうやって法人税を計算するのか気になりますよね。本記事では、そんな初めての人のために法人税の基礎知識と計算方法について順を追って解説します。
この記事を監修した税理士
税理士佐々木広幸事務所 所長 佐々木広幸
大学卒業後 一般企業を経て会計事務所で13年程経験を積んで、都会より人・物・金・マーケットが制約される地方の経営者を支えたいと考え、出身地の青森県で開業しました。経営者が事業をもっと大きく!もっと前へ!進めるようにサポート・提案していきます。得意分は、医業・不動産業・建設業・漁業・農業・富裕層の確定申告などです。ホームページhttp://www.zeirishi-office.com
【法人税の基礎知識】
法人税の計算には、大きく分けて以下の様な2つのステップがあります。
- 課税所得を求めるステップ(「税務調整」と言う)
- 課税所得から法人税を求めるステップ
さらに、実務では法人税をもとに地方税を求めるステップがあります。
また、法人税の申告書を作成して提出することを「申告」、そして実際に税金を金融機関や税務署に支払うことを「納付」といいます。会計初心者の方はこうした知識を覚えておくと良いでしょう。
【1】法人税について
法人税について、会計では「法人税等」という勘定科目で処理することが多く、これは国税である法人税以外に法人事業税、法人住民税などの地方税も含まれています。税金には、納付する「納税者」と実際に税金を負担する「担税者」が同一である「直接税」と、消費税のように「納税者」と「担税者」が異なる「間接税」がありますが、法人税は前者の直接税となります。また、納税者自身が税額を計算して申告・納付する「申告納税方式」になっているため、会計担当の方は税制への知識が必要となるのです。
【2】 申告期限、納税時期
法人税の申告及び納付期限は、年2回あります。確定申告は、原則として「事業年度終了日の翌日から2月以内」です。したがって、3月末日が決算日の法人では5月末日が申告期限となります。法人税の負担を軽減するために中間納付制度があります。法人税の中間納付期限は、「事業年度開始の日から6か月を経過した日から2か月以内」となっています。申告時期になりますと税務署から申告書と一緒に納付書が送られてきますので、申告と納付は合わせて行います。万が一、申告漏れになりますと、ペナルティとして「無申加算税」や「延滞税」などの附帯税がかかってくることがあります。納付だけでは申告漏れになりますから注意しましょう。
監修税理士からのワンポイント
3月決算の法人で申告を忘れていて、調査通知前に自主的に期限後申告と納付(税額50万)を7月末日に行った場合
無申告加算税 50万×10%=5万 ※納付すべき税額が50万までは10%、50万を超えるもの15%
延滞税 50万 (1万未満切捨て) × 3.6% × 61 / 365=3000円 ※法廷納期限の翌月から2月を経過する日の翌月以降は、9.9%
【3】 法人税の税率について
会計で法人税等として納税予定額を計上する際、実効税率を用います。実効税率とは、課税所得に対する法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税等の額の合計の割合、つまり実質の税率のことです。法人税の標準の実効税率の計算方法は下記のとおりです。
税金の種類 | 標準税率 | 計算方法 |
法人税 | 23.2% | 課税所得金額×税率 |
地方法人税 | 4.4% | 法人税額×税率 |
住民税 | 12.9% | 法人税額×税率 |
事業税等 | 9.59% | 課税所得金額×税率 |
実効税率 | 33.59% | ※各税の合計税率 |
※2018年4月1日〜2019年9月30日までに開始する事業年度の資本金1億円以下の普通法人(外形標準課税不適用法人)に適用されます。
また、法人事業税等には地方法人特別税が含まれます。
なお、資本金の額が1億円以下の一定の中小企業者の法人税率については、下記の【法人税の税額算出の方法】【2】計算のシミュレーションを参照願います。
【益金と損金について】
会計で作成する損益計算書では収益と費用から利益を求めます。法人税の計算では、売上総利益、営業利益などいくつかある利益のうち、最終的に法人税等を差し引いた当期純利益が基礎となります。法人税の計算ではこの当期純利益を基に、税法独自の視点から、次の4つの項目を加減算して課税所得を求めるのです。
益金算入項目(加算項目)
益金不算入項目(減算項目)
損金算入項目(減算項目)
損金不算入項目(加算項目)
【1】益金とは
益金は、端的に言うと法人税の所得計算上、収益となるものです。益金に算入することで税金は増えます。
【2】益金算入になる項目
益金算入になる項目とは、税法上益金となるものを会計上収益に計上していない場合や、無償での商品の販売や、サービスの提供をした場合も益金に算入されます。
【益金の例】
- 当期の売上計上漏れ、各種引当金取崩不足額
- 無償による商品の売上高など
【3】益金不算入になる項目
益金不算入になる項目とは、会計では収益として計上されていても税法上益金とならないもの、つまり減算するものです。代表的な例に受取配当金があります。受取配当金は会計上では収益となりますが、「配当金」はすでに他の会社が法人税を支払った後の剰余金を配当しているものであるため、益金に入れるとさらに法人税の課税対象となり、法人税の二重課税となってしまいます。そこで、受取配当金については益金不算入となる仕組みとなっています。
【益金不算入の例】
- 受取配当金等
- 当期の売上過大(翌期の売上を計上していた場合等)
- 収益処理した法人税、法人住民税等の還付額
【4】損金とは
損金は、法人税の所得計算上の費用となるもので、損金に算入することで税金は減ります。一般に損金に算入されるものは、原価、費用、損失の3種類です。原価は売上に紐づくもの、販管費などの費用は支払義務が確定したものがそれぞれ損金になります。また、損失は売却や除却により物理的に動きがあり、所有の状態が変わるものは損金となりますが、例えば、固定資産の評価損については、原則損金不算入とされ、例外的な場合に損金算入ができることとなっています。例外とは、災害により著しい被害を受けたような究極の場合に限られます。このように、法人税では損失について損金とならないケースがあるのです。
【5】損金算入になる項目
損金算入になる項目とは、税法上損金となるものを会計上費用に計上していない場合や、前期において損金不算入となったが、当期に会計処理済みの場合に損金算入となります。また、貸倒損失については、税法の要件に合致するもののみ損金算入が可能となります。
【損金算入の例】
- 当期の原価、費用計上漏れ、売却損等の計上漏れ
- 発生ベースで計上した場合の前期分の事業税
- 一定の貸倒損失
【6】損金不算入になる項目
損金不算入となる項目とは、会計上は費用であっても、税務上は損金とならないものです。一般的に、税務調整の中では多くの割合を占める項目のため代表的な損金不算入の例を紹介します。
・役員報酬・賞与
年度の開始から3ヶ月目までに支給額を決めておく(定期同額給与)でないと損金として認められず、損金不算入となります。また、年度の開始から4ヶ月目までに税務署に届け出たもの(事前確定届出給与)でない役員賞与は損金不算入となります。しかしながら、届出があったとしても、仕事の対価として相当な額を超える分は損金に算入できません。
・交際費
資本金が1億円以下の法人は、交際費としての支出のうち年間800万円を超える部分は損金不算入となります。また、一定の寄附金以外については、損金不算入となるものがあります。
【損金不算入の例】
- 当期の費用過大額(減価償却超過額、各種引当金繰入超過額等)
- 固定資産の評価損
- 法人税、法人住民税の費用計上額(事業税については、課税所得を基準にした税金ではありますが、「事業」という行為に対して課される税金であるため、申告書を提出した事業年度において損金算入となります。)
このように、税務調整では、会計の収益・費用と法人税法の損金・益金のずれを益金算入・損金不算入や損金算入・益金不算入で調節して、課税所得を求めているのです。
【法人税の税額算出の方法】
法人税は、課税所得に税率を乗じた後に税額控除があればそれを差し引いて法人税額を求めます。税額控除とは、例えば一定の試験研究費がある場合に、その支出額に応じた金額を法人税額から差し引くことができる、といった制度です。これは、租税特別措置法という時限立法に基づいています。
【1】法人税の計算式
法人税の税額は、次の式で求めます。
- 法人税額 = 課税所得 × 法人税率
そして、さらに該当する支出がある場合は法人税額から租税特別措置法による税額控除を差し引いて納付税額を決定します。
課税所得をまとめると、次の式となります。
- 課税所得 = 会計上の純利益 + 益金算入項目 - 益金不算入項目 - 損金算入項目 + 損金不算入項目
結局、損益計算書で計算した当期純利益に税務調整により加算または減算して求めた課税所得とは、その法人がその事業年度に事業活動を行った結果、獲得した所得なのです。
【2】計算のシミュレーション
ここで、実際に法人税の計算のシミュレーションをしてみましょう。
まず、法人税率の確認をします。事業年度により、法人税率が異なることがあるため、税率のチェックは毎年必要となります。下記の表は2018年4月1日~2019年9月30日までに開始する事業年度の普通法人に適用される法人税率です。
資本金と課税所得によって適用する税率や計算が異なってくるため、注意が必要です。
2021年3月31日までに開始する事業年度までは、中小企業者に対しては法人税額が本則19%に対して、15%と優遇されています。
ケース1:900万円×23.2%
ケース2:700万円×15.0%
ケース3:800万円×15.0%+(950万円-800万円)×23.2%
【法人税の計算手順まとめ】
法人税は「確定した決算に基づき」申告書を提出することとなっています。確定した決算に基づくとは、株主総会の承認を受けた貸借対照表や損益計算書等の計算書類に基づくということになります。そして、計算書類から法人税の課税所得を求めるために加算・減算による税務調整を実施するのです。法人税の計算の中心は、やはり税務調整といえるでしょう。
【1】該当する法人税率を確認する
ここでは、普通法人の例を挙げましたが、公益法人や人格のない社団等法人の種類によって、また、対象となる事業年度によって法人税率が変わってくることがあります。法人税の計算を始めるにあたっては、法人税率だけでなく住民税率等も合わせて、国税庁のサイト等で「法人の区分別税率表」を十分にチェックしましょう。
【2】益金と損金を算出し、課税所得を算出
会計の利益を基に「税務調整」によって益金と損金を加減することが法人税計算の心臓部です。ここで威力を発揮するのが、会計帳簿とその証憑です。
各取引について、会計仕訳段階から期間のあるものは期間を明示し、証憑においても受領した領収書や請求書に日付や印鑑の確認が取れていると、加算・減算は機械的に判断できるようになります。
会計とは違った切り口ではありますが、帳簿や証憑がそろっており取引内容が明快であれば、税法上の取り扱いもクリアとなります。
【3】課税所得に税率をかける
課税所得に税率を掛けて、法人税を求めますが、これで法人税は最後ではありません。
税額控除の適用があれば積極的に活用したいものです。しかしながら、税額控除を考える場合は会計処理の段階から書類を作成する必要があるほか、一定の申請も必要となります。少しでも会社にお金を残すために、面倒臭がらずにきちんと対応しましょう。
なお、課税所得は税率を乗じる前に1000円未満切捨てとなります。こうして求めた課税所得や法人税額を基に地方税などの計算に進んでいきます。
【4】まとめ
法人税の計算の順序の中では、益金と損金を加減する税務調整が最も重要です。
益金と損金にはそれぞれに算入するものと不算入となるものがあります。この損金不算入についてはなぜそうなるかを理解することが、法人税の計算をマスターする近道といえるでしょう。
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