「原価」は製品やサービスを提供するために必要となった、材料費や人件費など費用のことを表します。しかし「売上原価」と聞くと、何を表すのかイメージしづらい方も多いのではないでしょうか。
売上原価の意味や仕訳、計算方法などの疑問を一挙に解決すべく解説します。
売上原価とは何のこと?
売上原価とは「実際に売れた商品の仕入や製造に直接かかった費用」のことです。
売上原価には何が含まれる?
販売した商品の製造にかかった材料費はもちろん、人件費や減価償却費、水道光熱費なども含まれます。
この記事を監修した税理士
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
売上原価とは売れた商品の仕入や製造にかかった費用のこと
売上原価とは「実際に売れた商品の仕入や製造に直接かかった費用」のことです。すなわち「商品が売れたときに計上される原価」のことを意味します。会計上では損益計算書の「費用の部」に計上されます。
売上原価には販売した商品の製造にかかった材料費はもちろん、人件費や減価償却費、水道光熱費なども含まれます。小売業やサービス業、製造業や情報通信業などの業種によって含める原価の範囲が異なりますが、基本的な考え方は変わりません。
売上原価は以下の計算式で求められます。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高
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損益計算書における売上原価
損益計算書(PL)とは、企業の一定期間(1年間)の収益と費用をまとめ、利益の状態をわかるようにした財務諸表です。
売上原価は損益計算書の費用の部に計上されます。上記の図では上から2番目の「売上原価」の箇所です。赤枠の中には売上原価の内訳および金額が記載されています。
損益計算書上における売上原価は、企業のおおまかな利益を表す「売上総利益(粗利・粗利益)」の算出に必要です。さらに本業以外の収益・損失も反映させることで、対象期間中のさまざまな利益を算出できます。
損益計算書の項目 | 概要 |
販売費及び一般管理費 | 宣伝活動やそのほかの管理関係でかかった費用 |
営業利益 |
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営業外収益・営業外費用 | 株式や利息、賃料などの本業以外の損益 |
経常利益 |
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特別利益・特別損失 | 資産売却や災害の損害などの臨時的に発生した損益 |
税引前当期純利益 | 法人税や住民税などの税金を支払う前の利益
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法人税等
(法人税、住民税及び事業税) |
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当期純利益 |
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売上原価は売上総利益を求めるために用いる
売上原価は損益計算書の「売上総利益」を算出するために用いられます。
売上総利益 = 売上高 - 売上原価 |
注意が必要なのが、売上総利益は商品が稼いだ利益であることです。実際に会社が通期で黒字または赤字なのかは、「当期純利益」を確認しなければわかりません。
上記の損益計算書にあるように、売上総利益から販売費や人件費などの販売費及び一般管理費、営業外収益などを足し算・引き算して当期純利益は算出されるのです。
上記の損益計算書では、売上総利益1,180万円から販売費及び一般管理費の1,000万円を差し引いて「営業利益」を算出。法人税、住民税及び事業税の7万円を差し引いた173万円が最終的な会社の利益「当期純利益」となっているのを確認しておいてください。
在庫にかかる費用は当期の売上原価として計上できない
売れずに残っている在庫にかかる費用については、当期の売上原価として計上できません。これには、企業会計原則の「費用収益対応の原則」の考えが関係しています。費用収益対応とは、期間中に発生した収益と費用は同期間の損益に含めるべきという考え方です。商品の在庫を例に挙げてみましょう。
「2020年に作った在庫を2021年に販売して収益を得た」という流れだと、2020年と2021年にまたがって費用と利益が記録されることになり、実際の経済活動の実態が掴みづらくなります。
こうした状況を防ぐために、「在庫は棚卸資産として計上して2020年を締め、2021年に繰り越した在庫を販売したタイミングで、費用計上と資産減少(売上高計上)として反映する」ようにします。これで2021年度中に費用と資産を同時に対応させることが可能です。
売上原価と仕入の違いは?
売上原価は、期首の在庫と当期に仕入れた商品から期末の在庫を差し引いて算出する「その年度に販売された商品の仕入額」です。
一方、仕入とは「その年度に仕入れた金額」を指します。期首の在庫とは前年度以前に仕入れた商品であり、当期に販売すればその年度の売上原価に含まれるわけです。
業界によって違う売上原価の考え方
正確にいうと、売上原価は小売業やサービス業での考え方が反映されています。製造業や建設業では違った名称だったり含められる費用が異なったりするため、あなたの事業に合った考え方を知っておかなければなりません。
ここからは業界によって違う売上原価の考え方について解説します。
サービス業
サービス業の売上原価は「人件費は売上原価ではなく販管費になる」「売上原価がほかの業種より少なめ」などの特徴があります。理由は次のとおりです。
- 従業員が常に自社サービス提供のために動いているわけではなく、販売に直接関係のない宣伝活動や会議、研修にかかわる機会が多いことから「人件費が販管費扱い」になるから
- 商品売買や製造などが発生しないため、売上原価とする費用が少ないから
以上のことから、サービス業は売上原価が少なく販管費の割合が多い傾向が見られます。ただし企業規模が大きくなると、自社工場の設立や他企業との提携等による商品仕入れなどが発生するため、その分だけ売上原価は増えると考えられます。
中小企業実態基本調査を見ると、売上高に対する売上原価の比率である「売上原価率」は、製造業や建設業、小売業より低めの数値となっていました。
名称 | 金額(百万円)
宿泊業、飲食サービス業 |
金額(百万円)
生活関連サービス業、娯楽業 |
金額(百万円)
他に分類されないもの |
売上高 | 12,969,920 | 21,560,560 | 19,944,586 |
売上原価 | 4,616,951 | 14,081,942 | 11,810,605 |
商品仕入原価・材料費 | 3,615,030 | 10,075,227 | 3,203,391 |
労務費 | 490,759 | 487,348 | 3,667,804 |
外注費 | 147,249 | 415,246 | 3,209,541 |
減価償却費 | 65,712 | 62,321 | 152,878 |
売上原価率 | 35.59% | 65.31% | 59.21% |
販管費 | 8,123,603 | 7,091,294 | 7,292,930 |
サービス業の支出を見直す場合は、まず販管費の削減に注目したほうがよいでしょう。
製造業
製造業の場合、製造工程そのものが売上に直接関わる業務とされるため、原則として売上原価は製品の製造にかかわる費用である「製造原価」とほぼ同じ扱いになります。製造原価に含まれる主な費用は次のとおりです。
- 当期に製品を製造する際に費やしたすべての部品や原材料の「材料費」
- 製造に関わる従業員に支払う「労務費」
- 工場の水道光熱費や減価償却費などの「経費」
上記3つを合計した費用が「製造費用」です。
そして製造原価を算出するには、製造費用と製造途中でまだ完成品ではない「仕掛品」を使った計算式を用います。具体的には次のとおりです。
このように製造業はほかの業種と比べて、少し特殊な見方が必要になります。ちなみに同じ企業が製造と商品販売のどちらも行っている場合は、製品と商品どちらの棚卸高も記載し、合算して計算します。
中小企業実態基本調査では、製造業の売上原価率は約80%と非常に高くなっていました。
名称 | 金額(百万円) |
売上高 | 128,509,199 |
売上原価 | 102,485,142 |
商品仕入原価・材料費 | 55,319,821 |
労務費 | 15,803,593 |
外注費 | 11,362,941 |
減価償却費 | 2,889,969 |
売上原価率 | 79.51% |
販管費 | 21,401,681 |
製造業の支出を見直す場合は、製造に使用する材料費や製造現場の労務費から始めるとよいかもしれません。
IT企業(情報通信業)
IT企業の多くが分類される情報通信業では、売上原価の数値は小さくなる傾向が見られます。なぜならIT企業はサービス業と同じく商品仕入れや製造が発生しづらく、モノではなく人によるサービス提供であるケースが多いためです。
中小企業実態基本調査でも、売上原価率は約55%と低めの数値でした。
名称 | 金額(百万円) |
売上高 | 12,605,834 |
売上原価 | 7,052,148 |
商品仕入原価・材料費 | 2,086,291 |
労務費 | 1,536,186 |
外注費 | 1,787,484 |
減価償却費 | 122,633 |
売上原価率 | 55.94% |
販管費 | 4,934,785 |
IT企業の場合は、1人ひとりのスキルや生産性が費用に大きくかかわってくるといえます。
建設業
建設業も製造業と同じく、モノづくりにかかわる原価が売上原価となります。建設業の場合は売上原価を「完成工事原価」といいます。さらに「建設業会計」と呼ばれる特別な会計を用いて処理しなければなりません。
建設業における取引は、工事の着工から完成までが1年以上かかることも珍しくありません。つまりほかの業種と同じく1年周期での会計だと、会計処理が複雑になってしまいます。そのため、建設業会計を別途作成しています。
建設業会計における会計用語は次の通りです。
- 完成工事高:売上高のこと
- 完成工事原価:売上原価のこと
- 完成工事総利益:売上総利益のこと など
建設業における売上原価は、外注費の割合が非常に大きく売上原価率も高めになっています。これは建設業における元請けや下請け、孫請けといった外注構造が一般化していることが原因です。
その代わり、自社従業員にかかる労務費や販管費が低めの数値を示しています。
名称 | 金額(百万円) |
売上高 | 79,781,571 |
売上原価 | 61,697,701 |
商品仕入原価・材料費 | 18,173,960 |
労務費 | 6,699,344 |
外注費 | 29,655,925 |
減価償却費 | 558,622 |
売上原価率 | 77.33% |
販管費 | 14,599,457 |
建設業の支出を見直す場合は、外注先の選定や「外注していたところを自社でまかなうか」についての検討が必要と考えられます。
小売業
小売業、つまりスーパーや百貨店といったビジネスの場合、売上原価としてかかる費用のほとんどが商品仕入原価・材料費となっています。
とはいえ、売上原価率は製造業や建設業と比べると低めです。これはその分、事業全体や自社店舗の宣伝にかかる広告宣伝費やバックオフィス系の人材にかかる人件費など、販管費の割合が多いからだと考えられます。
名称 | 金額(百万円) |
売上高 | 71,441,538 |
売上原価 | 51,198,753 |
商品仕入原価・材料費 | 48,177,659 |
労務費 | 663,096 |
外注費 | 529,920 |
減価償却費 | 71,327 |
売上原価率 | 71.66% |
販管費 | 19,635,110 |
小売業の支出を見直す場合は、商品の仕入先の選定や商品の販路、広告宣伝費の対費用効果に注目するとよいでしょう。
売上原価と販管費の違いとは?
売上原価と似た費用に「販管費(販売費及び一般管理費)」が存在します。売上原価とは「商品の販売や製品の製造に直接関係しているか否か」という点で異なります。
販管費の概要や売上原価との具体的な違いについてみていきましょう。
販管費(販売費及び一般管理費)とは
販管費(販売費及び一般管理費)とは、商品または製品を販売するために間接的にかかった費用のことです。販売費と一般管理費をそれぞれ以下でまとめました。
- 販売費:商品や製品を販売するために直接かかる費用
- 一般管理費:会社全般の業務の管理活動にかかる費用
主な販売管理費及び一般管理費の種類は次のとおりです。
販売費及び一般管理費の種類 | 概要 |
広告宣伝費 | テレビCMやパンフレットなどの不特定多数に向けた宣伝効果を意図して支出する費用 |
販売手数料 | あらかじめ交わした商品の販売実績に関する契約のもとづき委託先に支払う手数料 |
販売促進費 | サンプル製作やキャンペーン用の費用など商品の販売を促進し売上を伸ばすために使う費用 |
交際費 | 事業主が仕入先やそのほか自社に関係する相手との接待や供応、慰安、贈答その他これらに類する行為にかかる費用 |
給与手当・賞与・役員報酬・雑給等 | 従業員や役員、アルバイト、パートに支払う報酬のうち売上原価 |
消耗品費 | 工具や器具、備品のうち1つの取得価額が10万円未満のもの |
租税公課 | 国や地方に納める「租税」と国や公共団体などに支払う「公課」を合わせた費用 |
法定福利費 | 健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料などの「社会保険料」と雇用保険料や労災保険料などの「労働保険料」 |
販管費を売上高で除したものを「販管費比率」といいます。売上に対してどれくらい販管費がかかっているのかを見ることが可能です。
売上原価と販管費の違い
売上原価は、商品の販売または製品の製造に関して「直接的にかかった費用」になります。一方、販管費は商品の販売または製品の製造に関して「間接的にかかった費用」です。
例えばレストランを例に挙げると、売上原価は「料理のために仕入れた材料費」や「シェフやウェイトレスの人件費」など、顧客に提供する料理やお店のサービスに関係する直接費です。
一方販管費は、「レストランに客を集めるためのチラシやWebサイト制作」や「日々の売上や出費を管理する経理への人件費」など、顧客には直接関係ないものの事業を行う上では必要な間接費となります。
また製造業の場合、売上原価と販売費のいずれにも減価償却費が含まれていることを覚えておきましょう。売上原価に含まれる減価償却費は商品を製造している工場や機械の減価償却費です。
売上原価の内訳と計算方法
売上原価は期首・期末の在庫数と期中の仕入高から計算するのがポイントです。当期に仕入れた金額が売上原価ではないため注意しましょう。売上原価の内訳と計算方法をわかりやすく解説します。
売上原価の内訳
売上原価は期首商品棚卸高・当期商品仕入高・期末商品棚卸高によって算出します。
売上原価は業種によって原価に含める範囲が異なります。例えば、商品を製造する際に工程の一部を下請けに発注すれば外注費がかかりますし、システムを販売している会社であれば開発に直接費やした人件費も売上原価として計上できるわけです。
売上原価の計算方法
前述したように、売上原価は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」によって求めます。わかりやすく一例を挙げて売上原価の求め方を解説していきましょう。
期首に前期に1個500円で仕入れた10個の商品があるとします。期中に1個500円で100個仕入れ、期末に20個が売れ残った場合、期中に売れた商品の金額は以下のとおりです。
売上原価:期首商品棚卸高10個 × 500円 + 当期商品仕入高100個 × 500円 - 期末商品棚卸高20個 × 500円 = 45,000円 |
期中に1個500円で100個仕入れた50,000円は当期の仕入額であり、売上原価ではないため注意してください。売上原価は売れた商品にかかる費用ですから、上記の場合は45,000円が売上原価になるのです。
ちなみに、1,000円で販売した場合の売上高は「1,000円×90個=90,000円」ですから、売上総利益は「90,000円-45,000円=45,000円」となります。
期末商品棚卸高の計算方法
売上原価の算出に欠かせないのが期末商品棚卸高です。「期末在庫を見れば数値が分かるのでは」と思われるかもしれませんが、実際は帳簿と実数の差異や評価方法を反映しなければ正確な値が求められません。
期末商品棚卸高の計算方法や、棚卸資産の評価方法についてみていきましょう。
期末商品棚卸高の計算式
期末商品棚卸高とは期末時点での在庫、つまり年度末にまだ売れ残っている在庫金額の総額です。当期に仕入れた商品の金額はもちろんのこと、前期からの繰り越し在庫金額である「期首商品棚卸高」も含めて算出します。計算式は次のとおりです。
簡単な具体例もみていきましょう。
しかし実際のところ、帳簿の在庫数と現存する在庫数が合致するとは限りません。数え間違いや報告忘れといった事務処理のミスや紛失・破損などの物理的要因で、帳簿と実数でずれが生じている可能性があります。また傷や劣化、流行り、季節などの要因で在庫の時価が下がっているケースもあります
そこで正しい期末商品棚卸高を出すには、まず「帳簿上の在庫数」と「実際にある在庫数」の差異や、在庫そのものの状態を確認する「実地棚卸」が必要です。現場作業員や担当者が自分の目で在庫の数や状態を確認します。確認事項は次のとおりです。
- 在庫の数
- 在庫の傷や劣化具合
- 在庫の使用期限や消費期限
- 帳簿上の在庫数との差異 など
もし帳簿上の在庫より実際の在庫数が少ない場合は「棚卸減耗損」として、在庫の時価が仕入れ時よりも下がっていた場合は「商品評価損」として費用を計上します。
棚卸減耗損と商品評価損が発生した場合は、どちらも損益計算書へ注釈として記載することで、経営実態の把握や計上間違いを防ぐことが可能です。
売上高 80,000円
売上原価 期首商品棚卸高 4,000円 30,000円 売上総利益 50,000円 |
ちなみに製造業の場合も、大筋の考え方は同じです。期末商品棚卸高を「期末製造棚卸高」として考えます。
棚卸資産の評価方法
期末商品棚卸高の算出に必要な在庫の原価は、所得税法施行令第99条や法人税法第29条などの税法や企業会計基準にて定められた「棚卸資産の評価の方法」を用いて算出します。具体的には原価法もしくは低価法のことです。
原価法とは、実際にある在庫を評価して取得価額を計算する方法です。以下6つの方法に分かれます。
- 個別法
- 先入先出法
- 総平均法
- 移動平均法
- 最終仕入原価法
- 売価還元法
上記の原価法に低価法を加えた、合計7つの評価方法があります。
どの棚卸資産の評価方法を適用するかを選ぶのは事業者自身です。選択する評価方法を「棚卸資産の評価方法の届出」に記載し、所轄の税務署へ提出して報告しなければなりません。提出期限は、事業開始年度の確定申告期限です。納める税金が所得税か法人税かで提出書類の書式が異なるため注意しましょう。
申請内容 | 提出書類 |
所得税 | 所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書|国税庁 |
法人税 | 棚卸資産の評価方法の届出書|国税庁 |
途中で評価方法を変更したい場合 | 棚卸資産の評価方法・短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出方法・有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の変更承認申請書|国税庁 |
一度決定すると原則として継続適用になり、よほどのことがなければ変更は認められません。自分の事業はどの評価方法が適切なのかを事前にしっかり検討しておきましょう。以下ではそれぞれの評価方法を解説します。
個別法
個別法とは、実際に仕入れを行ったときの価格で、それぞれ個別に評価を行うことです。在庫を1つずつ評価するため、正確な評価と個別ごとの管理ができます。
ただし、実際の仕入れや払出しについてそのまま計算する必要があることから、他の評価方法よりも時間や労力がかかるデメリットがあります。大量生産の商品や製品より、不動産や美術品などの個別性が強い棚卸資産に向いている方法です。
先入先出法
先入先出法は、「先に仕入れたものから販売したり使用したりする」という先入れ先出しの考え方にもとづいて評価する方法です。この方法だと、期末商品棚卸高はすべて新しく取得した商品と見なされます。
つまり先入先出法は、期末時点での物価によって額が大きく左右される評価方法です。期末時点で物価が高いインフレ状態だと利益も高く、物価が低いデフレ状態だと利益も低くなります。
現場では先入れ先出しが基本の流れであるため、実際の資産の流れと一致しやすい評価方法といえるでしょう。
総平均法
総平均法とは、「前期から繰り越した在庫の総額(期首時点の在庫)」と「当期中に取得した資産の総額」を合算し、期末の在庫数で割った数値を取得価額とする評価方法です。
例えば繰り越した在庫が10,000円×100個の100万円、当期中に取得した資産が7,000円×200個の140万円だった場合は次のとおりです。
この場合だと、期末時点で100個の在庫があった場合は8,000円×100個の80万円が期末商品棚卸高となります。物価変動に左右されない上に計算がシンプルになるのはメリットですが、一定期間が経たないと計算できない点がデメリットです。
移動平均法
移動平均法は、当期中に仕入れが発生する度に平均取得価額を計算しなおす評価方法です。それまでの取得価額の総額に仕入れ時の取得価額の総額を合算し、在庫の総数で割ります。
具体的にみていきましょう。
発生した仕入れ | 平均取得価額 |
5月5日に5,000円×20個の仕入れが発生した | 5,000円 |
5月15日に3,500円の仕入れが10個発生した | (5,000円×20個)+(3,500円×10個)÷30個=4,500円 |
5月25日に6,000円の仕入が20個発生した | (5,000円×20個)+(3,500円×10個)+(6,000円×20)÷50個=5,100円 |
移動平均法では、常に最新の在庫評価額の把握が可能です。しかし計算に膨大なデータの利用と保存が必要な点と、事務処理に手間がかかる点がデメリットといえます。
最終仕入原価法
最終仕入原価法とは、期末に一番近いタイミングで取得した資産の金額を取得価額とする方法です。先入先出法と同じく期末の物価変動に左右されますが、計算や記録の必要がないことから計算や事務処理が非常に楽になるメリットがあります。
この最終仕入原価法は税法上の法定評価方法として定められていますが、企業会計原則上では定められていません。有価証券報告書を発行する上場企業で用いられることがほとんどない方法です。
34-4. 現在、一部の企業で採用されている最終仕入原価法は、最終仕入原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法である。この方法は、企業会計原則注解(注 21)(1)では棚卸資産の評価方法として例示されておらず、本会計基準においても、この方法を棚卸資産の評価方法として定めていない。
しかし実際のところは、期間損益の計算上著しい弊害がない場合は最終仕入原価法を用いることができると、「中小企業の会計」に関する指針に記載があります。そのため、中小企業の多くは最終仕入原価法を実務で使用しているケースが多いです。
ちなみにもし棚卸資産の評価方法の届出書を提出していない場合は、自動的に最終仕入原価法が選ばれることになります。
売価還元法
売価還元法は、取得価額ではなく売価を用いて評価する方法です。売価と仕入原価の差と売価の比率である「値入率等」が類似する資産をグループ化し、グループごとの取得価額を算出します。
つまり、「商品A、B、Cは種類が違うけど似た商品だから、A、B、Cをグループとしてまとめて同じ取得価額として評価する」ということです。具体的にはグループ化して合計した売価に原価率を乗じます。
原価率の求め方は次のとおりです。
売価還元法は取り扱い商品が多く、商品ごとの原価を調べることが難しい業種で使われます。例えば、スーパーや百貨店などの小売業です。
低価法
低価法は、ここまで解説した「原価法で算出した取得価額」と「期末時点での時価」を比較して、いずれか低いほうの価額を評価額とする方法です。
もし期末時点で在庫の時価が減少していた場合、低価法を適用すれば原価法で算出した取得価額との差額を費用計上できます。節税効果が期待できるでしょう。
売上原価の4つの仕訳
売上原価の仕訳には4つのパターンがあります。三分法・分記法・売上原価対立法・総記法です。直接的また間接的に計上するパターンに分かれており、いずれの仕訳方法を用いても問題ありません。勤務先によって採用している仕訳方法が異なることもあるため、まずは仕訳のパターンをしっかりと覚えておきましょう。
三分法
三分法とは商品を売買する際に仕入(費用)・売上(収益)・繰越商品(資産)の3つの勘定科目で仕訳する方法です。
もっとも一般的に採用されている仕訳方法であり、期中の原価管理はできないものの、計算がシンプルで実務上の処理もしやすくなっています。
例:原価1,000円の商品を5個仕入れた
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 |
例:原価1,000円の商品を1,500円で3個売り上げた
借方 | 貸方 | ||
現金 | 4,500円 | 売上 | 4,500円 |
例:期首商品棚卸高は1,500円、期末商品棚卸高は2,000円で決算を迎えた
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 1,500円 | 繰越商品 | 1,500円 |
繰越商品 | 2,000円 | 仕入 | 2,000円 |
決算仕訳によって、仕入勘定の残高を当期の売上原価に調整できるわけです。つまり、仕入勘定の借方残高が売上原価となります。
分記法
分記法は商品の売買において商品(資産)と商品販売益(収益)の2つの勘定科目で仕訳する方法。期中から原価管理をおこなう仕訳であり、売上原価を直接確認できる勘定科目がないのが特徴です。
分記法では売上を計上するごとに売買益を計算するため、決算を待つことなく商品売買での儲けを把握できます。
ただし、売買管理と原価管理をする必要があるため、管理が煩雑になりやすいのが難点です。
例:原価1,000円の商品を5個仕入れた
借方 | 貸方 | ||
商品 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 |
例:原価1,000円の商品を1,500円で3個売り上げた
借方 | 貸方 | ||
現金 | 4,500円 | 商品 | 3,000円 |
商品販売益 | 1,500円 |
分記法では決算時の仕訳は不要で、売上原価は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」で求めます。
売上原価対立法
売上原価勘定によって売上原価を直接管理するのが売上原価対立法です。期中から原価管理をおこなう仕訳で、売上を計上するごとに売上原価を計上する必要があります。仕訳数と計算回数が多くなる仕訳方法です。
例:原価1,000円の商品を5個仕入れた
借方 | 貸方 | ||
商品 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 |
例:原価1,000円の商品を1,500円で3個売り上げた
借方 | 貸方 | ||
現金 | 4,500円 | 売上 | 4,500円 |
売上原価 | 3,000円 | 商品 | 3,000円 |
売上原価対立法での売上原価は借方残高になるため、決算時の仕訳は必要ありません。
総記法
期末にまとめて原価管理をおこなう仕訳方法。「商品販売益」という勘定科目を用いるのが特徴です。売上原価を直接確認できる勘定科目がないため、売上原価の管理には適しません。
例:原価1,000円の商品を5個仕入れた
借方 | 貸方 | ||
商品 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 |
例:原価1,000円の商品を1,500円で3個売り上げた
借方 | 貸方 | ||
現金 | 4,500円 | 商品 | 4,500円 |
例:期首商品棚卸高は1,500円、期末商品棚卸高は2,000円で決算を迎えた
借方 | 貸方 | ||
商品 | 1,500円 | 商品販売益 | 1,500円 |
総記法では最終的に分記法の残高となり、売上原価を直接示す勘定残高はありません。売上原価は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」で求めます。
売上原価のまとめ
売上原価とは商品の販売や製品の製造に直接関係する費用です。損益計算書では上から2番目に記載されており、原則としては仕入高や販管費とは異なる費用になります。今回の記事のポイントは次のとおりです。
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売上原価の考え方は少し複雑ですが、数値を用いることで経営分析に関するさまざまな場面で役に立ちます。しかし業界ごとに売上原価として含められる費用に違いがあるため、知識がなければ正しい会計処理ができないかもしれません。
もし自社の売上原価について相談や質問がある場合は、ミツモアにて会計や税務に強い税理士に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
監修税理士からのコメント
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
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この記事の監修税理士
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷