アクリル板や照明器具などに使われる「アクリル樹脂」。様々な製品に用いられていますが、塗料としては、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。この記事では、アクリル塗料の基礎知識を紹介します。
アクリル塗料とは?
塗料に使われる樹脂は、「アクリル」「ウレタン」「シリコン」「フッ素」の4種類が代表的です。
そもそもアクリル樹脂ってどんな成分?
アクリル塗料の主成分は、「アクリル樹脂」というものです。
塗料以外にもプラスチックやコップ、照明器具など様々な製品に使われています。温度・湿度の変化に強く、耐候性に優れているのが特徴です。
普及が始まった1950年代には、安価でありながら発色も良いため、画期的な製品でした。塗料としては、プラモデルや車用のスプレーとしても幅広く使われています。
ただし外壁・屋根の塗装には、現在あまりアクリル塗料が使われることはありません。後から登場したシリコン塗料やウレタン塗料のほうが、耐久性に優れていて建材の塗装に向いているうえ、価格とのバランスも良いためです。
アクリル塗料とほかの塗料を比較
現在は、外壁・屋根塗装の主流とは言えないアクリル塗料。実際、ほかの樹脂塗料と比べてどのように違いがあるのでしょうか。単価相場と耐用年数を比べてみましょう。
単価相場 | 耐用年数 | |
---|---|---|
アクリル | 約1,200円~1,500円/㎡ | 5~7年 |
ウレタン | 約1,600円~2,200円/㎡ | 8~10年 |
シリコン | 約2,500~2,800円/㎡ | 10~15年 |
フッ素 | 約4,000~5,000円/㎡ | 15~20年 |
このように、アクリル塗料は4つの樹脂のなかで、もっとも安価です。耐用年数も、1番短い傾向があります。
現状、外壁・屋根の塗装において主流なのはシリコン塗料です。耐用年数が長く、それでいて価格もそこまで高くないので、コストパフォーマンスに優れています。
フッ素塗料は高価ですが、そのぶん寿命がとても長いのが特徴。耐汚性も強いので、長く住む予定の住居であれば、長期的なメンテナンスコストは抑えられます。
アクリルウレタン、アクリルシリコンとは別物?
外壁塗装や塗料の種類を調べていると、いろいろな言葉が出てきて混乱してしまいますよね。
アクリル塗料に似ているものとして、「アクリルウレタン」や「アクリルシリコン」という種類の樹脂塗料があります。
ですがどちらも、「アクリル塗料」のうちには含まれません。
- アクリルウレタン=ウレタン塗料
- アクリルシリコン=シリコン塗料
上記のように、略されて認知されているだけです。たとえばシリコン塗料はほとんどの場合「アクリルシリコン樹脂の塗料」を指しています。
アクリル塗料は、単体で外壁・屋根に使用されることは少ないですが、シリコンやウレタンのベースとして使うと、塗料が扱いやすくなるのです。
アクリル塗料のメリット
アクリル塗料を外壁・屋根塗装に使用するとしたら、どんなところがメリットになるのでしょうか。おもに以下のような点が挙げられます。
- 費用が安い
- カラーバリエーションが豊富
- 透湿性、通気性が高い
- 1液型が多く、扱いやすい
それぞれのメリットがどんな場面で活きるのか、詳細を見ていきましょう。
費用が安い
アクリル塗料の最大のメリットは、ほかの樹脂塗料と比べて安価なことでしょう。頻繁に再塗料が必要なケースでは、大いに活躍します。
たとえば「もうあと2~3年だけ住んだら、売却する予定の住居」などで、外壁の補修や塗装を済ませておきたいときには、費用面で大きなメリットになります。
カラーバリエーションが豊富
アクリル塗料は「ツヤがあり発色が鮮やか」いう特徴があるので、製品のカラーバリエーションが豊かです。
外壁・屋根の色にトコトンこだわりたい方は、検討してもいいかもしれません。その場合、5年前後で頻繁に塗り替えられるかどうかは、しっかり考えておきましょう。
住宅ではなく、塗装面積の少ない東屋(あずまや)や小さめの倉庫を塗装したいなら、塗り替えのコストも小さいのでアクリル塗料をオススメできます。
透湿性、通気性が高い
湿気を逃がす透湿性・通気性が高いのも、アクリル塗料のメリットです。
たとえば左官仕上げという上塗り方法だと、職人が塗料を手塗りしていきます。このときアクリル塗料を使うことで透湿性の高さが活かされ、分厚く重なった部分の湿気も逃がしてくれます。
また軒天(軒裏)の塗装にも、アクリル塗料は向いています。軒天は雨などの影響を受けやすいので、湿気に強い「ケイカル板」という建材が使われていることが多いです。そこに通気性のよいアクリル塗料で塗装することで、軒天の役割を十分に発揮することができます。
1液型が多く、扱いやすい
アクリル塗料は1液型の製品が多く、素人でも扱いやすい塗料だとされています。
2液型の場合は、硬化剤を均一に攪拌する(混ぜる)必要があるぶん手間がかかり、すぐに硬化するので日持ちしません。
1液型は硬化剤を混ぜる必要がなく、水かシンナーで希釈するだけで使用できます。また硬化しないので、保存可能なのが特徴です。
そのためとくに室内塗装をDIYするときには、向いている塗料と言えます。内壁をはじめ、木部や金属部に塗装可能です。
もし室内で塗装を行うなら、油性か水性か、という点にも注意しましょう。油性塗料の場合には、シンナーなど毒性のある有機溶剤を使用するため、注意が必要です。
アクリル塗料のデメリット
アクリル塗料を外壁・屋根塗装に使うデメリットを、以下にまとめます。
- 耐用年数が短く、5年に1回の塗り替えが必要
- ひび割れなどの劣化が早い
- 塗り替えに手間がかかる場合がある
- 長期的にみて、コストパフォーマンスが低い
それぞれ詳しく紹介していきます。
耐用年数が短く、5年に1回の塗り替えが必要
アクリル塗料の耐用年数は、一般的に5~7年です。およそ5年前後に1回ほどは、塗り替えが必要になります。
外壁・屋根塗装のシリコン塗料なら10〜15年は持つので、アクリル塗料はこの2~3倍のペースで塗り替える計算に。
頻繁に塗り替えできる場所かどうか、慎重に見極めたうえで塗装しましょう。
ひび割れなどの劣化が早い
アクリル樹脂は、常温で硬くなる性質を持っています。塗料には柔軟性を出すための「可塑剤」が入っていますが、可塑剤が抜けてくると硬くなり、塗膜のひび割れにつながるのです。
アクリル塗料は紫外線にさらされると、ラジカルという物質が発生しやすくなります。これはチョーキング(粉をふく)などの劣化につながり、塗膜の光沢や色があせてしまうのです。
そのため外壁よりも、室内の塗装に適しているのです。
塗り替えに手間がかかる場合がある
外壁や屋根などを塗装する際には、下地補修をしなくてはいけません。既存の外壁の上から塗るだけでは、下地が劣化している影響を受けてしまい、またすぐに劣化するのです。
前述したように、外部にさらされたアクリル塗料は、劣化しやすいという特徴があります。
そのため塗り替えのときには、丁寧な補修作業が必要になるのです。当然ですが、劣化部分が多いほど下地補修には手間がかかります。
長期的にみて、コストパフォーマンスが低い
たとえば30坪2階建ての一般的な住宅に、外壁塗装するケースを考えてみましょう。
アクリル塗料を使うとおとそ60万円~の費用相場です。一方で、近年の主流であるシリコン塗料を使うと、85万円~ほどの費用相場になります。
もちろん1回限りの塗装では、アクリル塗料のほうがかなり安いのですが、15年スパンで見てみましょう。
- アクリル塗料:60万円×3回=180万円
- シリコン塗料:85万円×1、2回=85~170万円
15年のあいだに、アクリル塗料の場合は3回の塗装が必要です。シリコン塗料の場合だと1、2回ほどで済むので、トータルで見るとコストパフォーマンスが良いのはシリコン塗料のほうになります。
アクリル塗料の効果的な使い道
ここまでの内容をまとめると、外壁や屋根など外部には、アクリル塗料を使うのはオススメできません。しかし透湿性が高く、ツヤや発色が鮮やかなので、内装や家具の塗装にはオススメです。
内装やDIYを楽しむ
内装ならアクリル塗装の耐久性の低さも、そこまで問題になりません。紫外線が届きにくく、建材の変形も小さいので、アクリル塗料のデメリットを感じにくいのです。
たとえば子どもたちが落書きしてしまったり、落書きしたりした家具などを塗装して、好みの色に塗り替えられます。
1液型のアクリル塗料なら扱いやすいので、DIYに慣れていない人でも十分に塗料が可能です。
DIYにおすすめなアクリルスプレー
アクリルスプレーならば、刷毛(はけ)やローラーを使う必要がなく、とても簡単に塗装することが可能です。
スプレーというとプラモデル用のイメージがありますが、家の壁用の製品も販売されています。
木材や鉄などの幅広い素材に対応できるので、さまざまな部分に噴射して塗布できます。
代表的な塗料メーカーとアクリル塗料
日本では「日本ペイント」「関西ペイント」「エスケー化研」などが塗料メーカーとして代表的です。各メーカーとも、アクリル塗料を扱っています。
日本ペイント
日本ペイントのアクリル塗料は、以下のような製品があります。
- ニッペDANフレッシュ
- ニッペ水性ケンエースグロス
どちらも水性の塗料で、内装・外壁ともに施工可能。また防カビ性や防藻性を備えていますが、いずれにしても耐用年数は5年ほど。
関西ペイント
関西ペイントから販売されているのは、以下のようなアクリル塗料です。
- アスカⅡ
- アレスアクアグロス
どちらも「水性反応硬化樹脂」という樹脂が含まれています。これは水の蒸発によって硬化する性質があり、光沢が長持ちするのが特徴です。
エスケー化研
エスケー化研のアクリル塗料は、以下のような製品があります。
- 水性コンポアクリル
- SK水性ELコート
どちらも1液型で扱いやすく、水性なので環境にも優しい塗料。耐水、耐アルカリ性に優れているのも特徴で、カビやホコリを寄せ付けにくい設計です。
「ピュアアクリル」とは?
「ピュアアクリル」とは、オーストラリアの「アステックペイント」という会社が開発した塗料です。
通常のアクリル塗料に含まれる不純物を、可能なかぎり取り除いています。その結果、アクリル樹脂が本来持っている性能を、最大限まで発揮させることができます。
ピュアアクリルの耐用年数はなんと、フッ素塗料と同レベルの15年ほど。つまりピュアアクリルは、普通のアクリル塗料とは全くの別物です。
ピュアアクリルの特徴・メリット
ピュアアクリルの特徴は以下。
- 耐用年数の長さ
- 弾性・防水性の高さ
前述したように、フッ素塗料に張り合うほどの、15年という耐久性を発揮します。
もうひとつの大きな特徴としては、「弾性の高さ」「防水性の高さ」が挙げられます。
普通の塗料であれば塗膜が硬化することで、大なり小なりひび割れしやすくなるものです。しかしピュアアクリルは、まるでゴムのように長く伸び、ひび割れをおおってくれます。
また一般的なアクリル樹脂に比べて、50~100倍ちかくも紫外線に強いと言われるほど、耐候性にも優れています。
デメリット
ピュアアクリルのデメリットと言える特徴は、以下のような点が挙げられます。
- 汚れやすい
- 価格が高い
ピュアアクリルは弾性の高さから、ひび割れをおおって防水性を保ってくれますが、それが裏目に出ることも。伸びたゴムを想像するとイメージできると思いますが、粘着性があり、汚れが付着しやすいのです。
またコストの高さもデメリット。だいたいフッ素塗料と同じくらいの単価相場で、1㎡あたり4,000円前後はかかります。
ミツモアで外壁塗装の無料見積もりを依頼できます
アクリル塗料について、基礎知識やオススメの使用場所などを紹介しました。
基本的には外壁・屋根には向いていない塗料です。内装や家具に塗布する分には、透湿性や発色の良さなどのメリットを活かすことができるので、そちらの方向で検討してみてはいかがでしょうか。
またどうしてもアクリル系の塗料で外壁・屋根塗装をしたいという方は「ピュアアクリル」も検討してみましょう。耐用年数の短さが解決され、高い防水性を実現しています。
もし外壁塗装の専門業者を探すなら、ぜひミツモアの無料一括見積もりをお試しください。無料で最大5件の見積もりが届き、レビューなどを比較しながら、依頼先を決めることができます。