生活保護を受けている人でも都道府県外を含め、引っ越しをすることは可能です。ただし、行政から定められた条件を満たさないと許可が下りません。加えて、引っ越しにかかる費用は支給されますが、用途によっては自己負担になるケースもあるので注意が必要です。
生活保護受給者の引っ越しについて、費用を支給する条件や手続きの流れを含めて解説します。
生活保護を受けても許可があれば引っ越しはできる
生活保護を受給している人でも、諸事情があれば引っ越せます。ただし自治体の福祉事務所に所属するケースワーカーに相談したうえで、行政から許可を得ないとできません。
「家賃の値上げ」や「建物の取り壊しによる立ち退き」といった正当な理由の場合、日本国憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活」に逸脱しない住まいなら、引っ越しができます。
生活保護受給者に引っ越し費用を支給する条件
行政から許可をもらえば、引っ越しにかかる費用は「住宅扶助」として全額支給してもらえます。ただし下記18の条件のうち、どれか1つでも条件を満たさないと支給してもらえないので注意が必要です。
カテゴリ | 引っ越し費用の支給条件 |
住居がない |
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引っ越しで生活が改善する |
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立ち退きを求められている |
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主に家賃が自治体の規定を超える金額まで値上がりをしたことや、大家から退去を求められたなどのケースで引っ越し費用を支給されています。
生活保護受給者に支給する引っ越し費用の内訳
行政が生活保護受給者に支給する「引っ越し費用」の内訳は、下記のとおりです。
項目 | 支給の可否 | 支給額 |
引っ越し業者への費用 | 〇 | 全額支給 |
敷金・保証金・火災保険料・前家賃 | 〇 | 他の費用と合算し、住宅扶助上限額×3.9まで負担 |
礼金・仲介手数料・鍵交換費用 | 自治体による | 他の費用と合算し、住宅扶助上限額×3.9まで負担 |
家電・家具の購入費用 | 〇 | 器具によって上限額が決まっており、その範囲内なら負担
※炊事用具は32,300円、暖房器具は24,000円、冷房器具は62,000円 |
生活保護を受給した状態で引っ越す場合、管理費や共益費が安い、もしくは家賃に含まれている物件を選ぶことが必要です。ただし最低限の家具・家電にかかる費用は、「家具什器費」として受給できる場合があります。
1.引っ越し業者への費用
引っ越し業者への費用は、一定の条件を満たすときに全額支給されます。具体的な条件は下のとおりです。
- 複数の引っ越し業者から見積もりをとること
- すべての見積書を福祉事務所に提出すること
見積書を提出した後、福祉事務所が比較して一番安い引っ越し業者に依頼をします。ただし、荷造り・荷ほどきや家電の設置費用といったオプションサービスの料金は、支給されないので注意しましょう。
2.敷金・保証金・火災保険料・前家賃
引っ越し先の敷金や保証金、火災保険、前家賃といった初期費用は、住宅扶助上限額の3.9倍まで支給されます。住宅扶助上限額は、厚生労働省が定めた級地区分(1〜3級地)によって異なり、具体的な金額は下記のとおりです。
級地区分 | 支給上限額(月額) | 主な自治体 |
1級地 | 13,000円 | 東京23区、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市、札幌市、仙台市、広島市 など |
2級地 | 13,000円 | 川越市、海老名市、新潟市、函館市、静岡市、金沢市、奈良市、松山市、長崎市、那覇市 など |
3級地 | 8,000円 | 北見市、弘前市、奥多摩町、木更津市、深谷市、犬山市、福知山市、米子市、今治市、柳川市 など |
ただし、家賃などが支給上限額を超える場合、都道府県や市区町村によって金額が変わります。世帯人数によっても上限金額が異なるため、詳細は各自治体の公式ホームページで確認しましょう。
3.礼金・仲介手数料・鍵交換費用
市区町村によっては礼金や仲介手数料、引っ越し先の鍵交換費用も支給するところがあります。
条件も自治体によって異なるため、引っ越す前に福祉事務所のケースワーカーに確認しておきましょう。
4.家電・家具の購入費用
引っ越し業者への費用や住居の初期費用とは別に、「家具什器費」として家電や家具の購入費用も支給されます。
対象の製品は生活に最低限必要なもので具体的には、下記のとおりです。
項目 | 購入できるもの |
家電 | 冷蔵庫、洗濯機、テレビ、エアコン、炊飯器、電子レンジ、掃除機、照明器具 など |
家具 | ベッド、ソファー、テーブル、椅子、タンス、カーテンなど |
支給される費用は家具や家電によって上限額が決まっており、その範囲内なら支給されます。具体的には炊事用具は32,300円、暖房器具は24,000円、冷房器具は62,000円までです。
ただし、自治体によって購入できる品目が異なるため、事前に確認しましょう。
生活保護受給者が支払う引っ越し費用
引っ越し業者への費用や初期費用は生活保護受給者に支給する一方で、下記の費用は受給者自らが支払わないといけません。
退去費用(原状回復費用)
旧居を退去する際、原状回復にかかる費用は原則として全額自己負担になります。旧居の入居時に敷金を支払っており、退去時に原状回復費用として相殺されるほか、場合によっては敷金が返還されると収入とみなされるからです。
ただし入居時に敷金を支払っていないとき、条件を満たしていれば住宅維持費として支給される場合があります。
新居の管理費や共益費
引っ越し先へ入居した際、家賃は支給される一方で、管理費や共益費は初期費用として認められないことから自分で支払うことが必要です。
物件によって金額は変わりますが、3,000〜12,000円かかるので、注意しましょう。
引っ越し費用を補助額内におさえる3つのポイント
生活保護受給者が引っ越しをする際、行政から支給する補助額内に抑えるために必要なポイントは、下記3つです。
1.引越し業者の繁忙期は避ける
会社の転勤や大学の進学といったイベントが重なる2〜4月は、引っ越し需要が増えて料金は割高になるため、なるべくこの時期は避けて5〜1月の時期に引っ越しましょう。
加えて土日祝日や月末、大安などの縁起の良い日、午前中は割高になるため、できる限り避けることもおすすめします。
2.混載便や赤帽を利用して費用を抑える
引っ越し料金を抑える方法のひとつとして、混載便や赤帽の利用も選択肢のひとつです。
混載便とは、複数の利用者の荷物を相乗りで同じトラックに載せて運ぶサービスで、その分費用は安くなります。
その一方で赤帽は、多くの個人事業主が加盟している共同組合です。引っ越し先までの移動距離が20km以内の場合、ほかの業者よりも安い料金で引っ越せます。
3.不要な荷物は前もって処分する
引っ越し料金は移動距離だけでなく、荷物量によって大きく変動します。新居で使わないものは引っ越し前にあらかじめ処分しましょう。
荷物量が多いほど必要な作業員の人数が増え、運搬用の車両も大型なものが必要になるため料金が高くなります。
生活保護受給者が引っ越しをする流れ
生活保護受給者が引っ越しをする流れは、下記のとおりです。
1.福祉事務所のケースワーカーに相談し、役所の許可を得る
「引っ越し費用を支給する条件」に該当したら、自己都合のケースも含め、福祉事務所のケースワーカーに相談します。
福祉事務所から引越しが可能であると判断されたら、役所の生活福祉課に出向き、役所からの許可を得ましょう。役所の許可が下りれば、引越し費用の一部を負担してもらえます。
2.物件を探す
役所からの許可を得たら、物件を探し始めます。物件を選ぶ際は、家賃を住宅扶助で支給される範囲内に収めることが大切です。
大家や不動産管理会社によっては入居者の信頼を重視しているところがあり、場合によってはトラブルやリスクを避ける理由で断られることがあります。
少しでも不安であれば、生活保護受給者向けの賃貸情報サイトで物件を探しましょう。物件によっては「生活保護可」というマークを記載しているところもあります。
3.審査を受ける
物件が見つかったら、契約する前にケースワーカーに家賃や初期費用にかかる金額を報告しましょう。
家賃が住宅扶助の規定内に収まっているかなど、ケースワーカーによる審査を経て問題がなければ、大家や不動産管理会社による入居審査を受けます。
4.物件の契約を進める
大家や不動産管理会社の審査を通過したら、改めてケースワーカーに報告し、役所から引っ越しの許可を得ましょう。引っ越しの許可を得た後、初期費用を支払う期日についてケースワーカーから共有してもらった後、賃貸借契約を結びます。
賃貸借契約を結ぶ際、住宅契約書と領収書は大切に保管しましょう。ケースワーカーに提出するときに必要で、2つの種類がないと費用が支給できなくなります。
5.引越し業者に依頼する
物件の契約が終わったら、引っ越し業者を探し始めましょう。
生活保護受給者のなかには、人混みが苦手な人やパニック障害で電車に乗れない人などがいます。電車やバスといった公共交通機関での移動が難しいときは、生活保護受給者専用の引っ越し業者に依頼しましょう。
業者によっては、旧居から新居まで一緒に移動してもらえるところもあります。
6.引っ越し先で新たに生活保護を申請する
他の都道府県に引っ越す場合、新居がある市区町村の役所で生活保護の再申請が必要です。
現在住んでいる地域の自治体と、引っ越し先の自治体の間で、移管手続きが行われ市レベルは市、町村は都道府県の管轄(正確には福祉事務所の管轄エリアによる)となります。
移管手続きは2〜3か月かかりますが、完了するまではこれまでの生活保護が継続されるため、一時的に生活保護が支給されなくなる心配はありません。
万が一引越し先の地域では生活保護の申請が認められなかった場合、自らが直接福祉事務所を訪ね、現状の報告をすることにより、申請が認められるケースも少なくありません。一度断られても諦めずに再申請を行いましょう。
生活保護受給者の引っ越しで注意すべき3つのポイント
生活保護受給者が引っ越す際、下記3つのポイントに注意が必要です。
1.経済状況に変化があれば、ケースワーカーに報告する
行政から引っ越し費用を支給するにあたって、費用が足りないときは必ず福祉事務所のケースワーカーに連絡をしましょう。優先して使うべき費用について指導してもらえます。
ケースワーカーに何も伝えず、知人や消費者金融にお金を借りてしまうと収入と見なされ、場合によっては生活保護費の減給や打ち切られてしまう可能性があります。
2.賃貸借契約には保証人や保証会社の利用が必要
生活保護受給者が賃貸借契約を結ぶ際、保証人が必要なケースがあります。保証人がいない場合は、保証会社を利用するようにしましょう。
生活保護受給者であっても、過去に家賃の滞納やクレジットカードの支払いなどの遅延がないとき、保証会社の審査が通る可能性があります。
3.病気の悪化を理由にした引っ越しには医師の診断書が必要
病気や障害を理由に引っ越すとき、引っ越しにかかる費用を行政から支給してもらうには、医師の診断書が必要です。
特に2回目の引っ越しでは、診断書と行政が納得する明確な理由が必要です。症状がどのように変化したのかを詳細に記載した診断書を行政が確認し、引っ越しの必要があると判断できれば、再度引っ越しができます。
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生活保護受給者が家賃の値上がりや住居がない理由で引っ越す場合、家賃が高くない物件を見つけるのと同時に、引っ越し料金がかからない業者を探すことが大切です。
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