ソフトバンクなど大企業が導入を発表して話題となった「勤務間インターバル制度」。「勤務間インターバル制度」は2019年4月1日に施行されたき方改革関連法に基づき、労働時間等設定改善法が改正されて定められた制度です。国が推し進める「働き方改革」の一環であり、社員の生活時間や睡眠時間を十分に確保することを目的に導入されました。
この記事では、「勤務間インターバル制度」の基本的な事項と助成金についてわかりやすく取りまとめています。
なお助成金につきましては、5月12日現在、新型コロナウイルス感染症対策の影響を受け、令和2年度の公募要綱は公開されていません。そのため令和元年度の制度について解説しています。
勤務間インターバル制度とは
「勤務間インターバル制度」は、勤務終了後に一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが事業主の努力義務として規定されています。
勤務間インターバル制度の概要
2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法」に基づき 「労働時間等設定改善法」が改正され、前日の終業時刻から翌日 の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが事業主の努力義務として規定されました(2019年4月1日施行)。
「勤務間インターバル制度」の導入は、生産性の向上や労働者のワークライフバランスの適正化、過労死の減少などを目的としています。
勤務間インターバルの導入する場合には、事業者の実情にあった休息時間の設定と、休息時間が翌日の所定労働時間と重複する場合の対応を就業規則などに規定することがポイントとなります。
休息時間の設定
休息時間とは、前日の業務終了時間から翌日の業務開始時間までの時間をいいます。厚労省は休息時間の目安として、9~11時間を設定することを推奨しています。
休息時間が翌日の所定労働時間と重複する場合
たとえば休息時間が11時間と設定し、始業が午前9時、終業が午後6時の会社で前日に午後11時まで業務を行ったとします。この場合、翌日の勤務開始時刻は前日の終業時刻(午後11時)から11時間が経過した午前10時となります。始業が午前9時ですので、勤務間と休息時間に1時間の重複が発生することになります。
このような場合に11時間の休息時間を確保するためには、始業時刻を繰り下げる又は重複する時間を働いたものとみなすなどの対応が必要となります。
勤務間インターバル制度は努力義務
EUでは1993年、「24時間につき最低連続11時間の休息時間をとらなければならない」という勤務間インターバル制度が導入されました。EUでは、EU指令の内容を国内法に規定する義務を負っているため、全27カ国共通の労働基準となっています。
これに対し、日本の勤務間インターバル制度は「終業から始業までの時間」を設定することが事業主の努力義務とされただけです。休憩時間など長さなど具体的な内容については規定がありません。努力義務ですので、当然導入しない事業主への罰則規定も織り込まれていません。
勤務間インターバル制度を導入するメリット
「勤務間インターバル制度」の導入は、事業主と労働者の両方にメリットがあります。
事業主のメリット
- ワークライフバランスにより、社員の勤労意欲が向上
- 社会的なイメージアップになり採用活動などに有利
- 労働者の健康増進により、生産性・効率性が向上
労働者のメリット
- 疲労が少なくなり健康増進につながる
- ワークライフバランスが実現する
- 過労死など健康被害が防止できる
時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)
厚労省は、勤務間インターバル制度の普及のため、導入に取り組む中小企業を対象に時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)で支援を行っています。より良い労働環境の整備を導入したいと検討されている事業者にとってはおすすめの助成金です。
なお5月12日現在、令和2年度については公募が開始されておりません。本予算には一定の規模で確保されていますが、新型コロナウイルス感染症対策が優先されている状況です。
概要
勤務間インターバルとは、勤務の終了後から翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、労働者の健康保持や過重労働防止を図ります。休息時間は、「9時間~11時間」が奨励されており、「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」では、「9時間以上11時間未満」と「11時間以上」の区分で支給額が定められています。これらの目標を達成した場合に、取り組みにかかった経費の一部(最大100万円)が支給されます。
対象となる事業主
支給対象となる事業主は、次のいずれの要件にも該当する必要があります。
➀ 中小企業主(下表)であること
業種 | 資本または出資額 | 常時使用する労働者 |
---|---|---|
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
②労働者災害補償保険の適用事業主であること
③次のアからウのいずれかに該当する事業場を有する事業主であること
イ 既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
ウ 既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場勤務間インターバルを導入していない事業所
支給対象となる取組
支給を受けるためには、次のうち、1つ以上取り組む必要があります。
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定等の作成・変更(計画的付与制度の導入など)
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
- 労務管理用機器の導入・更新
- デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
- テレワーク用通信機器の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)
成果目標
支給対象となる取組は、次の成果目標の達成を目指して実施することが求められます。
「新規導入」:勤務間インターバルを導入していない事業場
事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とする、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルに関する規定を就業規則等に定めること。
「適用範囲の拡大」:既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
対象労働者の範囲を拡大し、所属労働者の半数を超える労働者を対象とすることを就業規則等に規定すること。
「時間延長」:既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
所属労働者の半数を超える労働者を対象として、休息時間数を2時間以上延⾧して、9時間以上とすることを就業規則等に規定すること。
支給額
取組の実施に要した経費の一部が成果目標の達成状況に応じて支給されます。対象経費の合計額に補助率3/4(※)を乗じた額が支給額となります(下表の上限額を超える場合は上限額)。
(※)常時使用する労働者数が30名以下かつ、支給対象の取組で6から10を実施する場合で、その合計額が30万円を超える場合の補助率は4/5となります。
休息時間数 | 「新規導入」に該当する取組がある場合 | 「新規導入」に該当する取組がなく、「適用範囲の拡大」又は「時間延長」に該当する取組がある場合 |
---|---|---|
9時間以上11時間未満 | 80万円 | 40万円 |
11時間以上 | 100万円 | 50万円 |
勤務間インターバル制度の就業規則への規定例
インターバル時間数については制度設計における重要なテーマですので、労使間でのしっかり議論が必要となります。合意した結果は就業規則等での規定が必要です。ただし時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象となる時間数は、9時間以上となっていますので、助成金の申請を検討している場合には注意しましょう。
厚労省は次のような就業規則例を公表しています。
① 休息時間と翌所定労働時間が重複する部分を労働とみなす場合
(勤務間インターバル)
第○条
1. いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の 開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2. 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。
② 始業時刻を繰り下げる場合
(勤務間インターバル)
第○条
1. いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なく とも、○時間の継続した休息時間を与える。
2. 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時間は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。
③ 災害その他避けることができない場合に対応するため例外を設ける場合
ただし、災害その他避けることができない場合は、その限りではない。
まとめ
働き方改革の一環として導入された勤務時間インターバル制度。実務では導入にとても面倒な作業が発生します。休息時間の設定や重複時間の対応など就業規則の見直しだけでなく、就業時間の把握、残業代など賃金規定見直し、給与計算システムなどの更新など検討すべきことがたくさんあります。単なる制度導入だけでなく、運用がきちんと回る仕組みを作ることが大切です。そのためにも社労士の支援を受けて自社にふさわしい制度導入を図ることをおすすめします。
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