相続する財産の中でも土地の評価額は相続税額に大きな影響を及ぼします。また土地を相続した翌年には固定資産税がかかります。
本記事では相続の用途による評価額の種類や相続税評価額の計算方法、金額を抑える方法を解説します。
相続における土地の評価額とは
相続における土地の評価額は「実勢価格」「相続税評価額」「固定資産税評価額」の3つがあります。
実勢価格は、土地の時価に相当するもので、実際に売買が行われる価格です。また相続税評価額は相続税の計算に、固定資産税評価額は固定資産税の計算に用いられます。
同じ土地に対して3種類の評価額が求められるため、場面に応じた評価方法を用いなければなりません。
実勢価格 | 相続税評価額 | 固定資産税評価額 | |
---|---|---|---|
利用目的 | 売買、遺産分割 | 相続税の計算 | 固定資産税の計算 |
調べる方法 | 不動産取引価格情報 | 路線価 | 固定資産税納税通知書 |
時価との比較 | 時価相当額 | 時価の8割程度 | 時価の7割程度 |
遺産分割する場合は「実勢価格」を使う
すべての相続人で遺産分割を行う際には、できるだけ公平になるよう遺産の評価額を求めた上で、それぞれの取り分の金額を計算していきます。この遺産分割を行う際に用いるのが実勢価格です。
実勢価格とは、土地を実際に売買すると仮定した場合の取引価格です。実勢価格を調べるには、実際に売買してみるか不動産鑑定をする必要があります。
ただし過去に売買された価格から、実勢価格を見積もることはできます。国土交通省が運営する「不動産取引価格情報」を使えば、過去の土地の売買価格を検索可能です。
実勢価格によく似たものとして、公示価格があります。公示価格は土地の売買の目安として、国土交通省が公表しているものです。最終的には国土交通省がその価格を決めており、取引の当事者により決定された実勢価格とは違いがあります。
相続税の計算には「相続税評価額」を使う
相続税の土地評価額に用いられるのは相続税評価額です。相続税評価額は、原則として国税庁が定める路線価を使って計算します。
ただし路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額を基礎として相続税評価額を計算しなければなりません。
土地の相続税評価額は時価の8割程度の価格であり、時価より低い金額になります。これは時価を使うと亡くなった時期によって評価額が異なり、その変動を都度織り込めないためです。納税者に損をさせないよう、時価より割安に設定されています。
相続後の固定資産税の計算には「固定資産税評価額」を使う
固定資産税の計算を行う際は、固定資産税評価額を用います。固定資産税評価額は、土地の所有者に送付されてくる納税通知書で確認可能です。
納税通知書をなくしてしまった場合は、市町村役場で固定資産評価証明書を取得すれば確認できます。
また相続税評価額を計算する際に路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額をもとに計算を行います。
なお固定資産評価額は時価の7割程度の価格です。固定資産評価額が時価より低いのは、常に変動する土地の時価に基づいて計算を行うと、税額が急に多くなるためです。納税者に多くの負担を強いる結果となることから、時価より低い金額に抑えられています。
路線価による相続税評価額の計算方法
路線価による土地の相続税評価額は「路線価」「地積」「補正率」の積で計算します。
相続税評価額=路線価×地積×補正率 |
路線価は国税庁が毎年定めており、地積は土地の面積です。また補正率は「間口が狭い」「奥行きが長い」「形がきれいでない」といった理由で、使いづらい土地の評価額を下げる割合として定められています。
路線価の調べ方
路線価は国税庁のホームページの路線価表に掲載されています。相続が発生した年と、相続した土地の所在する都道府県を確認し、該当する都道府県をクリックしてください。
その後「路線価図」をクリックし、該当する市町村名、地名を選択すると道路地図と数字が表示されます。
この数字は、当該道路に面している土地の1㎡あたりの金額を千円単位で表しています。例えばこの数字が200となっている場合、路線価が1㎡あたり200,000円となるのです。
地積の確認方法
地積はその土地の面積です。固定資産税の納税通知書を確認すると、平方メートル表示の面積が記載されています。
補正率の求め方
補正率を乗じることで、敷地面積をすべて有効に使えず利用価値が低下してしまう土地や、利便性が高く需要の高い土地の評価額を調整します。
【評価額が下がる補正】 |
【評価額が上がる補正】 |
詳しい補正率の数字は国税庁のホームページに記載されています。
奥行価格補正率
奥行価格補正率は奥行が長い土地、あるいは奥行が短い土地について補正するために使います。奥行が長すぎても短すぎても敷地のすべてを有効利用できないため、利用価値が下がるのです。
前面道路からの距離によって補正率が決められていますが、土地の所在する地区区分によって、その率は細かく定められています。
間口狭小補正率
道路に面している土地の間口が狭いと利用しにくいだけでなく、建物を建てるのにも大きな制約となります。
土地の間口距離と所在する地区区分に応じて、間口狭小補正率が定められています。普通住宅地区では、間口距離が8メートル未満の場合に適用できます。
奥行長大補正率
間口距離に対して奥行距離が2倍以上長い場合、道路から離れた奥の敷地が使いづらい状態となってしまいます。そこで、奥行長大補正率を乗じて、その土地の相続税評価額を減らす計算ができるのです。
不整形地補正率
土地の形がいびつな場合、敷地の中に何にも利用できない部分が生じてしまいます。実際に利用できる部分が敷地の一部となれば、実際の地積より小さな土地を相続したのと同じなのです。そこで土地の形がいびつになるほど大きく減額されるよう、補正率が定められています。
がけ地補正率
敷地の中に崖や斜面があると、その部分に建物を建てたり駐車場にしたりできません。そのため、同じ地積の平坦な土地より利用価値が下がるのです。かげ地のある方角やかげ地の占める面積に応じて、その割合が定められています。
側方路線影響加算
1方向だけ道路に面している土地より2方向で道路に面している土地の方が、2方向からその土地に入れるため利便性が高いといえます。2本の道路の交差点にある場合は角地、1本の道路の曲がり角にある場合は準角地として、それぞれ異なる割合が定められています。
路線価が高い道路を正面路線、低い道路を側方路線とし、以下の式で計算します。
路線価=正面路線価+側方路線価×側方路線影響加算率 |
側方路線影響加算については補正率ではなく、路線価が増加します。
二方路線影響加算
土地の表と裏の両面が道路に面している場合、どちらからもその土地に入ることができます。それだけ利用価値が上がるため、二方路線影響加算の計算を行います。
路線価が高い道路を正面路線、低い道路を裏面路線として以下の式で路線価を計算します。
路線価=正面路線価+裏面路線価×二方路線影響加算率 |
評価倍率による相続税評価額の計算方法
路線価が定められていない地域にある土地は、評価倍率を用いて倍率方式により相続税評価額の計算を行います。
相続税評価額=固定資産税評価額×評価倍率 |
ここで必要となるのは、固定資産税評価額と評価倍率の2つの数値です。固定資産税評価額は、固定資産税の納税通知書を見れば確認できます。
評価倍率は国税庁ホームページから確認する必要があります。該当の都道府県をクリックすると評価倍率表の表示が出てくるので、土地の区分に応じて先に進み市区町村を選択します。
倍率表には、土地の種類ごとに倍率が記載されているため、種類を間違えないようにしましょう。
相続税評価額が減る要素
土地の相続税評価額は形や場所だけでなく、用途によっても評価額を減額できます。
【相続税評価額を減額できる用途】 |
これらの土地は用途が限定されており、相続しても自由に使えないため、更地に比べ大きく減額されます。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、亡くなった人が住んでいた土地や事業に使用していた土地、貸していた土地を相続した場合、最大で80%の評価額が減額される特例です。すべての相続人が適用を受けられるわけではなく、様々な要件を満たす人だけが適用を受けられます。
自宅の敷地を相続した場合、330㎡までの面積について80%が減額されます。
小規模宅地等の特例の計算例
【条件】
|
【計算例】
減額金額=5,000万円×(330㎡/500㎡)×80%=2,640万円 |
借地権
借地権を有する人は、土地自体を所有しているわけではありませんが、その土地を利用する権利を有しているため相続税の対象になります。
借地権の評価方法は「土地の相続税評価額×借地権割合」となります。借地権割合は国税庁が定めており、30%~90%となっています。
路線価図や倍率表には、土地の所在地ごとに借地権の具体的な数値が記載されているため、確認しておきましょう。
借地権の計算例
【条件】
|
【計算例】
借地権の評価額=4,000万円×50%=2,000万円 |
貸家建付地
所有する土地の上にアパートなどの貸家を建てて貸していると、その貸家に住む人の権利が守られます。そのため自由に土地を利用できなくなり減額されます。
【貸家建付地の評価額の計算式】
貸家建付地の評価額=土地の相続税評価額ー(土地の相続税評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合) |
借家権割合は全国で一律30%です。
また賃貸割合は、貸家の専有部分の床面積の割合です。満室となっていれば100%ですが、空室があるとその分割合は下がります。
貸家建付地の計算例
【条件】
|
【計算例】
貸家建付地の評価額=5,000万円ー(5,000万円×50%×30%×90%)=4,325万円 |
私道
国や地方自治体が設置し管理している公道に対し、個人や民間企業が設置した道路は私道と呼ばれます。個人で所有する私道は、登記上の名義も個人となっているため相続税の対象です。
私道については、まずその利用状況を確認しなければなりません。もし不特定多数の人が誰でも使えるのであれば、その私道の相続税評価額はゼロとなります。
一方で、その私道を抜けた先にある家に住む人など、特定の人だけが利用する私道は、相続税評価額の30%が評価額となります。
広すぎる土地
地積の大きな宅地は、そのままの状態で新たな所有者を探しての売却が難しく、不動産業者などに売却するのが一般的です。その土地を新たに開発する際には、公園や道路などの公共施設を整備しなければならず、すべての土地を有効に利用できるわけではありません。そこで一定規模を超える土地については、その評価額を減額する計算を行います。
三大都市圏にある土地については500㎡以上、それ以外の地域にある土地については1,000㎡以上の面積が対象です。また普通住宅地区か普通商業・併用住宅地区にある土地が対象となります。ただし市街化調整区域や工業専用地域にある場合には適用できません。
地積規模の大きな宅地の評価を行う場合は、規模格差補正率を乗じます。補正率は所在地と大きさによって変わり、以下の式で計算します。
規模格差補正率=(B+C÷地積)×0.8 |
計算式のBやCは以下の表の値を使用します。
三大都市圏に所在する宅地
地積 | B | C |
500㎡以上1,000㎡未満 | 0.95 | 25 |
1,000㎡以上3,000㎡未満 | 0.90 | 75 |
3,000㎡以上5,000㎡未満 | 0.85 | 225 |
5,000㎡以上 | 0.80 | 475 |
三大都市圏以外の地域に所在する宅地
地積 | B | C |
500㎡以上3,000㎡未満 | 0.90 | 100 |
3,000㎡以上5,000㎡未満 | 0.85 | 250 |
5,000㎡以上 | 0.80 | 500 |
税理士に依頼してトラブルのない相続を
土地の評価額は算出方法が複雑です。特に補正率や特例については専門的な知識がないと判断を誤り、後で追徴課税を受けることもあります。
また土地の相続をするには様々な書類を作成する必要があり、多くの手間や時間がかかります。
そこでおすすめなのが税理士への依頼です。最新の税制度に合わせて、必要書類の作成や申告を代行してくれます。またトラブルになりやすい遺産分割協議のアドバイスもしてくれるので、遺産をスムーズに分割可能です。
税理士に相続税の手続きを依頼する際の費用相場
多くの税理士事務所では、相続税申告の際の税理士報酬を相続財産額で決めています。その相場は相続財産の0.5~1.5%程度。相続財産の総額が5000万円であれば、25~50万円程度です。
税理士に依頼するときのポイント
税理士には得意分野があるため、だれでもいいわけではありません。相続税案件の経験が少ない税理士に依頼した場合、特例などを適用せずに申告してしまうこともあるのです。
そのため税理士のホームページなどで、これまでどんな案件をどのくらい扱ってきたのか確認するのが重要です。相続税手続きを多数扱っている税理士事務所であれば、さまざまな条件に合わせて適切な方法を提案してくれます。
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