高齢の親が農家を営んでいるが、自分は後継者になる気はまったくない──そんな方は、今から相続について真剣に考えておいたよさそうです。なぜなら、農地の相続というのは、宅地の相続とは異なる独特のルールがあるからです。特に相続人が農家を継がないケースの農地の相続は複雑になります。そんな農地相続特有の仕組みを詳しくみていきましょう。
農地を相続する際の手順
農地を相続する場合、宅地を相続した場合とは異なる手続が必要になります。また農地を法定相続人以外の人が相続する、農地遺贈や死因贈与の場合には農業委員会の許可が必要になります。農地を相続する場合、どのような手順で手続を進めればいいのでしょうか。
まずは「遺言確認」と「書類収集」
相続手続は、遺言の有無を確認するところから始まります。遺言の存在を遺族の誰もが知らない場合でも、念のために自筆証書遺言がどこかに保管されていないかを探します。保管場所として推定されるのは、タンス・机・仏壇・書斎などです。自宅以外でも、銀行の貸金庫などに保管されていることもありますから、あらゆる可能性を探索しましょう。
公正証書により遺言を遺しているケースもあり得るので、こちらは「遺言登録システム」で検索します。これは公証役場で遺された遺言を管理するシステムで、法定相続人であれば全国どこの公証役場でも閲覧申請ができます。
そして遺言が存在しない場合は遺産分割協議を行うことになりますが、その前に必要書類を収集しなくてはいけません。必要書類とは、相続人調査と財産調査に関するものです。
相続人調査に必要な書類とは、被相続人の出生から死亡までの連続する戸籍謄本と相続人の戸籍謄本です。これにより、法定相続人を確認します。
財産調査に必要な書類とは、不動産登記簿謄本(全部事項証明)と固定資産税評価証明書です。預貯金がある場合は、金融機関から、残高証明書を取得します。
遺産分割協議と相続登記をしよう
遺言が存在しない場合は、遺産分割協議によって相続財産を分割します。一般的には法定相続分を基本に協議を進めることになりますが、現金と異なり土地の場合は簡単に分割することができないのでトラブルの原因になりえます。
土地の分割方法は以下の通り4つの方法があるので、まずどの方法で分割するかの協議をします。
- 「現物分割」 土地を相続人それぞれが同面積に分筆する方法です。分割された土地が、それぞれの所有になります。
- 「換価分割」 土地を売却して、売却代金を相続人で分割する方法です。
- 「代償分割」 土地を特定の相続人が取得し、取得した者が他の相続人に相続分に応じた金銭を支払う方法です。
- 「共有」 土地を共有する方法です。たとえば3人で共有すれば、ひとつの土地に対して1/3が1人の持ち分になります。
現物分割の場合は元の土地が均等に分筆されてそれぞれの所有物になっているので、各々が土地を自由に売却できます。一方、共有の場合は相続人全員が同意しない限り売却することはできないため、売却は非常に困難となるでしょう。
遺産分割協議が終了したら、法務局で相続登記を行います。相続登記とは、相続に伴い不動産登記の名義を変更することです。遺産分割協議書や被相続人の出生から死亡までの連続する戸籍謄本などの必要書類をそろえて、法務局で相続登記を行います。
農地相続時は農業委員会への「届出」が必要
農地相続の場合は通常の土地相続と違い、通常の相続登記が完了したら農業委員会に農地を相続したことを知らせる「農地の相続等の届出書」を提出しなければなりません。農業委員会とは核市町村に設置された機関で、農地に関する事務を執行しています。
この届出は、相続により効力が発生したものであることから、登記事項証明書により正規の所有者が確認できれば受理されます。届出だけの簡素な手続ですが、相続を知ったときから10カ月以内に届け出ないと10万円以下の過料が課せられる場合があります。
農地遺贈・死因贈与は農業委員会の「許可」が必要
遺贈とは遺言書によって特定の人物に農地を継がせることを、死因贈与とは生前に契約して、死亡したことを条件に贈与することをいいます。
農地の場合、この遺贈や死因贈与にも制限があります。農地法第3条では「農地の所有権を移転する場合には許可を受けなければならない」と定めており、農地を遺贈したり死因贈与したりする場合は、農業委員会の許可が必要になるのです。
許可に際しては所有する農地のすべてを効率的に利用して耕作できるのかなど、農地耕作を継続して行えるのかについて審査が行われます。審査の結果、不許可になった場合には法務局に土地の所有者の名義変更を申請しても認められません。なお、遺産相続に関しては例外とされており、審査は不要で遺贈・死因贈与後に「届出」を出すことで対応することができます。
納税猶予制度や納税免除も!農地の相続税を解説
農地には、納税猶予制度や納税免除などの優遇策が講じられています。農地はわが国の食を支える貴重な資産であり、農地を継続させるための後継者育成も重要な課題です。農地に対して宅地と同様に相続税を課せば、農地・後継者ともに消滅する恐れがあるので優遇されているのです。では、農地に関する相続税猶予制度や免除の仕組みについて詳しく解説していきましょう。
農地の相続税評価方法は?
農地の相続税評価は「倍率方式」によって算出します。倍率方式とは「固定資産税評価額」に「倍率」を乗じて算出するものです。
「固定資産税評価額」は、市町村役場にある固定資産税台帳を閲覧することで、確認できます。
また、「倍率」は、国税庁のホームページに掲載されている「評価倍率表」で確認することができます。
農地の相続税に関する納税猶予制度とは
農地の恒久維持の観点から設けられているのが、「農地の特例制度」です。一定の条件に適合すれば、農地にかかる相続税について納税を猶予されるという制度で、さらに20年間農業経営を続けていけるなどの条件を満たせば納税自体が免除になります。
そして、この相続税猶予を受けた農地は「特例農地」と呼ばれています。
相続税猶予制度の適用条件
相続税猶予を受けるには、次のような条件があります。
- 相続する農地は、被相続人が自ら耕作していた農地であること
- 相続人は農地を分割取得して農業経営に従事すること
- 猶予をうける税額に見合う農地を担保に入れること
ただし、農地が三大都市圏(首都圏・近畿圏・中部圏)の特定市の市街化区域にある場合は、生産緑地の指定を受けていなければ納税猶予は適用されません。また生産緑地に指定されたものであっても、農業委員会に「買取申し出」をして、生産緑地の指定を解除しようする動きがあるものについては、納税猶予は認められません。
相続税が免除になる要件とは
納税猶予されている相続税が、次の条件に該当した場合は納税が免除されます。つまりこの先、相続税を払う義務が消滅するということです。
- 相続人が死亡したとき
- 三大都市圏特定市以外の市街化区域内の農地で相続人が20年間農業を継続したとき
- 相続人が後継者に農地を一括贈与したとき
逆に相続人が農地を譲渡したり農業をやめたりした場合、納税猶予が「終了」します。この場合には、ただちに猶予されていた相続税に利子を加えて納付しなければいけません。
非農家なので相続した農地を手放したいけど……
相続税の納税猶予制度は、農業を継続する人のための特例制度です。それでは、現在会社員として働いているなど農業を行っておらず、この先も後継するつもりのない人はどうすれば良いのでしょうか。農地の場合、「売却」や農地からの「転用」をする際も制限があるのです。
農地の売却は農業委員会の許可が必要
農地のままで売却しようとする場合は、農業委員会の許可が必要です。農地を農地として持続させるのが許可の目的ですから、買主は現に農家であるか、これから農業に参入しようとする人に限定されます。この要件に満たない人が買主である場合は、許可は得られません。
農地からの転用にも農業委員会の許可が必要
農地から農地以外のものに転用する際も、農業委員会の許可が必要です。この場合「立地条件」と「一般基準」をクリアする必要があります。
立地条件とは、農地の立地にかかる規制に勘案したものです。このため農業振興地域内の農用地や市街化調整区域内の甲種農地、乙種第1農地、乙種第2種農地は基本的に許可されません。乙種第3種農地については市街化が見込まれる地域であることから、許可を受けられる可能性があります。
一般基準とは、許可を受けられる立地の農地が転用する際の条件です。次のような基準が定められています。
- 目的どおり確実に土地が使用されると認められること
- 周辺農家に影響を与える恐れがないこと。
いったん農地転用を認めてしまえば、その後どのような使われ方をされても農地法による指導ができません。一般基準では、将来も周辺農地に悪影響を及ぼさないという担保性を求めるための取り決めなのです。
都市計画区域の農地だと、転用に制限を受ける可能性も
都市計画区域に指定されている地域は、大きく分けて市街化区域と市街化調整区域に分類できます。市街化区域は市街化を促進している区域ですから、基本的に家を建てることができます。反対に市街化調整区域は市街化を抑制している区域ですから、基本的に更地に家を建てることはできません。
市街化調整区域の農地は転用が認められたとしても、転用できる用途は建築物のない駐車場か資材置き場に限定されます。このため、市街化区域と市街化調整区域では、同じ農地であっても売却価格は大きく異なるのです。
また、農地と一緒に住宅も売却したいと考えるケースもあると思います。市街化調整区域では、農業従事者が住む農家用住宅と一般の住宅は用途が異なるという扱いになります。このため住宅の買主が非農家である場合は、都市計画法上の用途変更が必要となるのです。こうした用途変更については、各都道府県や自治体によって扱いが異なり、まったく認めていない場合も。農家用住宅を非農家の人に売却しようとする際は、管轄の都市計画課に事前の確認をしておきましょう。
農地の相続を放棄する場合の手続き
農地の売却が困難な場合、相続放棄も視野に入れる必要があるかもしれません。
相続放棄をするには、相続があったことを知った日から3カ月以内に、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することが必要です。
ただし相続放棄は、すべての相続を放棄しますという申し出なので、農地だけを限定的に放棄することはできません。つまり全財産の相続を放棄するか、農地を含めた相続財産を相続するかの二者択一なのです。
どうしても農地だけは相続したくない場合は、遺産分割協議時に農地を他の相続人に相続してもらうというという旨の分割案に同意してもらう必要があります。相続人全員が農地を相続しないという選択では遺産分割協議は成立せず、遺産が宙に浮かぶばかりか10カ月後の相続税納付期日に間に合わないという事態になってしまいます。
相続放棄?農地転用?プロに相談を
相続した農地の扱いに困ったときはどうすればいいのでしょうか。相続税の納付期限は限られていますから、いつまでも保留のままで済まされるものではありません。こんな場合に問題を解決してくれるプロはいないのでしょうか。
農地相続前に対策を
農地の売却は手続きが煩雑なことから、相続が発生してから慌てても立ち往生してしまうばかりです。特に農業を継ぐ予定がないのであれば、納税猶予の制度の適用もできないので、農地の扱いをどうするのか方針を定めておく必要があります。
農地を含めた相続税の相談は、税理士に相談する方法があります。ただし相続税は、法人税や所得税などの他の税金と違い特殊な分野の税金です。相談をするなら、相続税を専門にした税理士が望ましいでしょう。
専門家からのコメント
【退会済】 - undefined
税理士に相談するメリット
被相続人が農家を営んでいる場合、相続財産が田畑山林など多岐にわたる場合があります。これらの財産の相続税額を計算するには、どうしても相続税専門の税理士の知識と経験が必要になります。
相続税は、他の税金と比べて税務調査の対象となる確率が高いとされています。税務調査というのは、相続税申告後に財務内容の漏れや誤りを確認するために、税務署職員が故人の住んでいた家や申告者の自宅を訪ねてくる調査です。自己申告をしていた場合には、税務調査への対応は申告者自らが行う必要があります。
しかも実際の相続額よりも過少に申告していた場合は、10%~15%の過少申告加算税が課せられます。さらに、財産を隠蔽または仮装していたときは、35%~40%の重加算税が課せられるのです。国税庁の平成28年の調査報告によると、相続税の申告漏れによる課税価格は。一人当たり2,720万円、追徴課税は591万円とされています。
税理士に依頼すれば報酬が必要になりますが、本人申告をして追徴課税になるリスクや本来納付の必要がなかった税金まで納付してしまうミスをする事態を考えると、最初から税理士に依頼していた方が、結局安価で済んだということもあり得るのです。このことからも、複雑な農地の相続税においては相続税専門の税理士に依頼するメリットは大きいと言えるでしょう。
まとめ 相続案件が得意な税理士を探すには
農地を相続する場合の相続税の対策についてご紹介をしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
ミツモアでは、あなたにぴったりのプロを見つけるサービスを提供しています。たとえばミツモアには農地にかかる相続税対策に強い税理士が多数登録されています。農地の相続を検討する際には、ぜひミツモアをご利用ください。
ミツモアのウェブサイトから、希望条件などをクリックして入力していくと、自分にピッタリの税理士が探せます。さらに、最大5社からの見積もりが受け取れる上、見積もりは無料ですので、お気軽にご利用ください。
【監修・専門家コメントをくださった税理士プロ】
【退会済】 - undefined