中古住宅の取引前に行うインスペクションが、近年注目を集めています。しかし、具体的な内容についてはよく分からないという人も多いのではないでしょうか。インスペクションが必要な理由や実施するメリット、ケース別の調査項目を紹介します。
インスペクションとは?
インスペクション(inspection)とは、調査・検査・視察といった意味を持つ英単語です。不動産業界におけるインスペクションの意味や、瑕疵保険検査との違いについて解説します。
建物の現状調査を指す
不動産用語のインスペクションとは、物件の現状調査を意味する言葉です。建物のプロが目視や動作確認などを行い、物件の現在の状態を検査・調査します。
自宅の相場やリフォームすべき場所を知るために、インスペクションを行うのが一般的です。自宅を売りたい人がインスペクションを行うことで、より適正な価格で販売しやすくなります。
欧米では不動産取引の前に、インスペクションを実施するのが基本です。日本でも法改正が行われたことで、インスペクションの普及が期待されています。
法改正により注目度がアップ
不動産業界でインスペクションが注目され始めたのは、2018年に行われた宅地建物取引業法の改正がきっかけです。この法改正により、宅地建物取引業者のインスペクションの告知・斡旋が義務化されました。
日本では中古物件よりも、新築物件に人気が集まる傾向があります。中古物件は建物の状態を判断するのが難しく、購入を検討する人が品質に不安を感じやすいためです。
しかし近年の住宅は建築技術の発達により、長持ちするケースが増えてきています。中古物件市場の活性化を図る取り組みの一環として、国がインスペクションの普及促進を行っています。
瑕疵保険検査との違い
インスペクションと意味を混同しやすい言葉が、瑕疵保険検査です。瑕疵とは取引物件に見られる欠陥を指し、瑕疵保険に加入していれば、売買後に見つかった瑕疵に対して補償を受けられます。
売買する物件について検査するという意味では、インスペクションと瑕疵保険検査は同じです。ただし、インスペクションが網羅的に検査するのに対し、瑕疵保険検査では決められた項目のみが検査対象になります。
瑕疵保険検査の対象範囲以外に問題があるケースも多いため、既存住宅瑕疵保険付きの物件を購入する場合、インスペクションも実施しておくのがおすすめです。
インスペクションを行う売主側のメリット
インスペクションは基本的に、売主と買主のどちらかが行うことになります。まずは売主がインスペクションを行うメリットを見ていきましょう。
査定の精度を上げられる
売主がインスペクションを行い、物件の状態をきちんと検査することで、査定の精度を上げられます。より適切な売却価格をはじき出せることがメリットです。
インスペクションを行った結果、物件に問題があることが分かった場合、売却前に修繕しておけます。マイナス評価になる部分を減らせるため、理想の価格で売れる可能性が高くなるのです。
インスペクションを実施したこと自体が、付加価値になりやすい点もポイントです。インスペクションをしていない物件との差別化ができ、査定額が高くなることを期待できます。
売買契約が成立しやすくなる
インスペクションを行う売主側のメリットとしては、取引が成立しやすくなることも挙げられます。適切な売却価格を付けることで、不当に高いと思われにくくなるでしょう。
物件の状態を可視化できるインスペクションを実施した物件として、買主側が物件の品質に対し安心感を得られるため、購入への誘導もしやすくなります。
インスペクションを実施すると、売主側も気付かなかったトラブルが発見されることもあります。物件のさまざまなリスクが明らかになっていることは、買主にとって購入時の安心材料になるでしょう。
売買後のトラブル防止
売却する物件について十分な調査をしていなかった場合、売却後に問題が発見されることもあります。不具合の程度によっては、買主から高額な修理費用を請求されかねません。
しかしインスペクションを実施しておけば、買主に物件の状態をあらかじめ正しく把握してもらえます。納得した上での購入になるため、後からクレームを受けにくいのがメリットです。
長年住んでいた物件であっても、目に見えない部分の不具合には気付きにくくなります。インスペクションでは売主自身にも分かり得ない問題を把握できることから、売買後のトラブル防止につながります。
インスペクションを行う買主側のメリット
インスペクションを実施すれば、売主だけでなく買主にもメリットがあります。インスペクションを行う買主側のメリットを押さえておきましょう。
物件購入時の安心材料になる
買主にとってのインスペクションの大きなメリットは、物件購入時の安心材料になることです。物件の状態を正確に把握できるため、納得感を持って売買取引を行えます。
瑕疵保険付きの物件であっても、保険対象外の不具合までは分かりません。インスペクション実施済みの物件なら、建物の不具合を網羅的に把握できて安心です。
物件の購入では大きな金額が動くため、売買後のトラブルは避けたいものです。瑕疵保険検査に加えてインスペクションも実施済みの物件なら、安心して取引できるでしょう。
物件購入後のメンテナンスコストを予測できる
インスペクションを実施することで、物件のコンディションを把握できるようになります。購入後のメンテナンスにどのくらいの費用がかかるのか、予測しやすくなる点もメリットです。
物件購入後のコストを全く予測できない物件と違い、より具体的なイメージを持って購入を検討できるでしょう。
物件のメンテナンスだけでなく、足りない部分や修繕が必要な部分についても把握しやすくなります。これらの部分の費用負担に関しても、売主と具体的な話し合いを行うことが可能です。
インスペクションを行うタイミング
インスペクションを実施するのにおすすめのタイミングを、売主と買主に分けて紹介します。なぜそのタイミングが適しているのかも理解しておきましょう。
おすすめは「売買契約前」
買主がインスペクションを実施するのに最適なタイミングは、売買契約前です。購入前に物件の不具合が分かるため、購入後に重大なトラブルが見つかるリスクを回避できます。
売買契約前にインスペクションを実施する場合、購入の申し込みまでは済ませておくのがおすすめです。申し込み前にインスペクションを行うと、その間に他の購入希望者が申し込んでしまう恐れがあります。
申し込みまで済ませておけば、基本的に他の購入希望者が買ってしまう心配はありません。インスペクションの結果を見て購入しないことを決めた場合も、申し込み金は戻ってきます。
売買契約後は「引き渡し前」
買主のインスペクションは、売買契約から引き渡しまでの間に行うのも有効です。契約前にインスペクションのことを知らなかった場合は、引き渡し前に実施するとよいでしょう。
引き渡し前にインスペクションを実施し、不具合が発見された場合は、引き渡しまでに売主へ修繕を求めることが可能です。重大な不具合が見つかったケースでは、解約と手付金の返金請求も行えます。
引き渡し後でもインスペクションを行えますが、入居後に発見された不具合については、元々存在したものなのかどうか、判断が難しくなることに注意が必要です。
売主の場合は「売り出し前」
売主がインスペクションを行うおすすめのタイミングは、物件を売り出す前です。インスペクション実施済みの物件なら、より多くの情報を掲載して売りに出せます。
情報量が多い物件は問い合わせも増える傾向があるため、売れやすくなるでしょう。適切な査定を受けるためにも、売り出し前にインスペクションを実施しておくのがおすすめです。
ただし売主側が実施したインスペクションは、「売主に有利な内容になっている」と思われて、買主に信用してもらえないこともあります。売主側ではインスペクションを行わず、買主に実施の判断を任せるのも1つの方法です。
売主が行うインスペクションの調査項目
売主側で実施するインスペクションの代表的な調査項目を見ていきましょう。基本的には足場を組まずに歩いて移動できる目視可能な範囲を調査します。依頼先により細かい調査項目は異なりますが、以下に挙げる項目は大半のインスペクションで行われる基本的な調査です。
外回りの状態
インスペクションでは物件の外回りの状態を調査します。代表的な調査項目や内容は次の通りです。
- 基礎:ひび割れ・カビ・変色・シミ・欠損、鉄筋の露出、換気口の状態など
- 屋根:激しい割れ・欠損・ずれ、金属部の錆・腐食、破風・鼻隠しの塗装落ちなど
- 外壁:仕上材の剥離・欠損・割れ・劣化・腐食、ひび割れ、防水シートの破断など
- 軒裏:ひび割れ・欠損・浮き・剥がれ・腐食など
- 外構:ブロック塀・フェンス等・アプローチ・門扉の不良、設置物の劣化・異常など
- バルコニー:床の沈み・欠損・腐食、排水溝のつまり、支持部の欠損・割れ・腐食など
室内の状態
インスペクションでは、室内の状態も調査します。主にチェックする部分は天井・壁・床・階段・扉などです。
- 天井:仕上材の割れ・剥がれ、著しい隙間・キズ・汚れ、漏水跡など
- 壁:仕上材の割れ・剥がれ、下地不良、傾きなど
- 床:欠損・我・浮き・きしみ・へこみ・傾き・隙間など
- 階段:巾木の欠損、段板や踊り場のひび割れ・床鳴り、手すりの取り付け状況など
- 扉:扉の動作、扉と枠の隙間、鍵の施錠、戸当りの位置・取り付け状況など
床下・天井裏の状態
インスペクションで床下や天井裏の状態を調査する際は、土台・基礎・梁桁および小屋裏・排気ダクトなどを内部から確認します。
- 床下:ひび割れ・欠損・金物のゆるみ・シロアリ被害の有無など
- 天井裏:ひび割れ・欠損・金物の錆・雨漏り跡・シロアリの被害の有無など
木造住宅でシロアリ被害を調査する場合は、目視で確認できる柱や梁などの土台が対象です。蟻道・蟻土・羽アリ・食痕を確認できたケースでは、シロアリ被害を受けているとみなされ、構造耐力の低下を疑われます。
設置設備の状態
給水・排水・換気・電気設備などの設置設備も、インスペクションで調査される対象です。それぞれどのような不具合についてチェックしているのかを確認しましょう。
- 給水設備:配管の通水・漏水、錆による赤水など
- 排水設備:配管の滞留・漏水など
- 換気設備:換気扇の動作・異音、ダクト脱落など
- 電気設備:照明器具の点灯確認
全ての設備点検では作動不良確認を行います。キッチンコンロやパッケージエアコンが備わっている場合は、それらの調査も実施します。
買主が行うインスペクションの調査項目
買主がインスペクションを行う場合の調査項目を見ていきましょう。基本の調査項目は同じですが、買主ならではのポイントも押さえておくことが重要です。
基本の調査項目は同じ
インスペクションはそもそも、買主・売主に関係ない第三者が、中立的な目線から物件を調査・アドバイスをするものです。したがってインスペクションで行われる基本的な調査項目は、売主・買主共に変わりません。
ただし買主の場合、引き渡し後はその住宅に住むことになります。後々楽になるように、買主はより徹底したインスペクションをしておくのがおすすめです。
インスペクションの基本的な調査範囲は、目視で確認できる範囲や歩いて移動できる範囲です。買主のインスペクションでは、これらの範囲を広げてより詳細な調査を行うのがよいでしょう。
床下・小屋裏など普段は見えないところ
買主がインスペクションを実施する場合、普段は見えないところまで範囲を広げる必要があります。床下や小屋裏の基礎、排気ダクトの状態などをチェックしてもらいましょう。
目視で確認できる範囲は床下や小屋根も調査を行いますが、より詳細な調査を行う場合はオプションサービスになるのが一般的です。どこまで基本料金で調査してもらえるのか、事前に確認しましょう。
普段は見えない場所にある不具合は、補修が必要な際に費用がかさむケースも多くなります。入居後に重大な不具合が見つかった場合、自己負担で対応しなければならないため、インスペクションで把握しておくのがおすすめです。
専門器具が必要な検査
買主のインスペクションでは、専門器具が必要な検査も行っておきましょう。これらの調査はオプションサービスとして、別途費用がかかるのが一般的です。
専門器具が必要な検査は、自身で行うことが難しい検査や、建物の耐久度に関わる場所の検査が該当します。代表的な専門器具は、電磁波レーダーを用いた鉄筋探査機やファイバースコープカメラです。
例えば鉄筋が設計通りに入っていない場合、建物の強度が低下している恐れがあります。基礎内の鉄筋は外から目で確認できないため、鉄筋探査機で正確な配筋を把握するのです。
インスペクションにかかる費用
インスペクションを実施する場合、業者に支払う費用が発生します。インスペクションにかかる費用について、買主と売主に分けて解説します。
買主が用意すべき費用
インスペクションにかかる費用の相場は、一般的には5万~6万円程度が目安です。目視では確認できない詳細検査を行う場合、別途オプション費用が発生するため、費用相場は6万~12万円程度になります。
インスペクションの費用は、物件の種類によっても変わることを覚えておきましょう。上記の相場は一戸建てのケースであり、マンションの場合は相場の目安が少し下がります。
買主がインスペクションを実施する場合、基本的に費用は買主負担です。インスペクション実施済み物件を改めて調査するケースでも、買主が費用を負担する必要があります。
売主が用意すべき費用
売主がインスペクションを実施する場合、用意すべき費用は買主の場合と同じく、一般的には5万~6万円程度です。基本的な調査項目は売主・買主で差がないため、費用も似たような金額になります。
売主のインスペクション費用は、不動産会社によっては無料になるケースもあります。専任・専属媒介契約で物件売却を依頼した場合に、インスペクション費用が不動産会社の負担になるのが一般的です。
専任・専属媒介契約とは、1社にしか仲介を依頼できない契約のことを指します。不動産会社にとってのメリットが大きいことから、インスペクション費用の無料サービスを付けています。
適切なインスペクションでスムーズに売買を
インスペクションとは、建物の現状調査を指す不動産用語です。2018年に行われた宅地建物取引業法の改正をきっかけに、インスペクションが注目を集めています。
査定の精度を高められることや、売買後のトラブルを防止できることが、インスペクションを行う売主側のメリットです。買主にも物件購入時の安心材料になるメリットがあります。
売主・買主それぞれの適切なタイミングを理解し、適切なインスペクションでスムーズな取引を行いましょう。