個人事業主の「顔」ともいうべき屋号。しかし事業を展開していく中で、取扱商品やサービス、事業拡大などに伴って「屋号を変更したい!」と考えるケースも少なくありません。
開業時で届け出た屋号を変更する際、どのような手続きが必要なのでしょうか。屋号の変更方法についてみていきましょう。
屋号を変更した際の税務署への手続きは不要
屋号を変更する際、税務署に特別な手続きを取る必要はありません。毎年の確定申告で提出する確定申告書や決算書に記載されている屋号が適用されます。各書類の記載欄に変更後の屋号を記載するだけで変更完了です。
ただし、屋号の変更に伴って事務所や店舗を移転するなど、納税地の変更があった場合は届出の提出が必要となります。
その場合「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」などの書類を、異動・変更前の納税地を所轄する税務署長あてに提出しなければなりません。
屋号は税制上の定義がされていないので変更も抹消も自由
屋号は税制上、特段の定義がなされているわけではありません。そのため変更はもちろん、抹消も自由に行えるのです。
ただし屋号は税務上の役割よりも社会的信用を得るために大きな意義があります。いくら届出なしで自由に屋号が変更できるからといって、何度も屋号を変更すれば商売上の信頼を失うことにもつながりかねません。
屋号の変更は事業に影響がないかどうかを考慮した、慎重な判断のうえで進めましょう。
確定申告書に記載すればOK!
屋号の変更を行う場合は、変更した屋号を確定申告書と確定申告書に添付する決算書の記載欄に記入するだけで十分です。追加の特別な手続きは必要ありません。なお、新たに屋号を付けた場合も同様です。
屋号とあわせて住所も変更した場合は手続きが必要
屋号の変更を行う際に、事務所や店舗を移転するなどして住所および納税地の変更があった場合は、税務署への手続きが必要になります。
まず、事務所移転に伴い納税地が変わる場合は「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」を提出します。
また納税地の変更の有無にかかわらず、事務所や店舗が移転した場合は「個人事業の開業届出書」を提出する必要があります。これは同じテナントビル内で、別の区画に移転した場合も同様です。
いずれの書類も提出先は異動・変更前の納税地を所轄する税務署長です。引越し後の納税地を管轄する税務署長あてではない点に注意しましょう。
税務署以外で屋号の変更手続きが必要なケース
屋号を変更しても、納税地の変更がない限りは税務署関係の手続きは必要ありません。しかし、屋号登録時に税務署以外で申告していた機関があれば、それらの変更手続きが必要になるケースがあります。
金融機関の名義変更
屋号付き口座を開設している場合は、金融機関で名義変更を行いましょう。
名義変更が必ず必要になるわけではありませんが、取引先や顧客からすれば屋号と振込先名義が異なることで不安を覚えるケースも考えられます。
また金融機関から融資を受けている場合は、屋号変更の旨を担当者に伝えておくようにしましょう。
法務局の商号変更登記
屋号を法務局で商号登記している場合、変更にあわせて商号変更登記を行わなければなりません。変更が発生してから2週間以内に法務局で申請を行いましょう。
手続きの際には「商号変更登記申請書」と、登記料として発生する「登録免許税3万円」が必要です。ほかにも変更前の屋号印を届け出ている場合は、変更後の屋号印を登録します。それに伴って印鑑届出書などの提出も必要です。
【商号変更登記の必要書類と費用】
|
商号変更登記申請書は様式が法務局より提供されていないため、自分で作成する必要があります。手続きに自信がない方は、手続き全般を行政書士に依頼するとよいでしょう。
小規模企業共済
小規模企業共済に加入している場合は、中小企業基盤整備機構に「小規模企業共済契約に係る届出事項変更申出書」を提出する必要があります。屋号変更を証する書類を添付する必要はありません。
飲食店等の営業許可
飲食店等の営業許可を市町村から受けている場合、屋号を変更すれば「営業許可申請事項変更届」を10日以内に届け出る必要があります。
建設業の許可
建設業を営む個人事業主が屋号を変更した場合は、許可の更新時に新屋号を記入します。そのうえで、添付書類である「営業の沿革」に変更時期や名称変更などを記載します。
旅館業法の許可
旅館や民宿などの施設の名称を変更する場合は、都道府県庁等に「旅館業変更届」を提出する必要があります。
郵便物の扱い
屋号を変えた場合、新しい屋号宛てでも郵便物が確実に届くようにする必要があります。その対策のひとつとして、所轄の郵便局に転居届を提出する方法があります。しかし最も確実な方法は、建物に新屋号の表札や看板を掲示することです。住所と屋号が一致すれば、郵便物はきちんと配達してくれます。
商標登録の申請
個人事業の屋号は、商標登録することができます。商標登録をすることで、権利侵害のリスクが減少します。変更した屋号を商標登録したい場合は、新たに「商標登録の申請」を行なうことになります。
変更した屋号をとても気に入っている場合や、インターネットを使ったビジネスで多くの人の目に触れる場合は、商標登録の申請を行ったほうがいいでしょう。
取引先への報告
変更した屋号をお客様や取引先、関係各所に報告することは、とても重要です。屋号変更は、お客様や取引先への影響が大きいため挨拶状を準備するのが一般的です。あらためて屋号変更の挨拶状を送ることは、お客様や取引先との信頼関係をより深めるよい機会にもなるでしょう。
屋号を変更することは、事業の大切な節目です。屋号変更の挨拶は、お客様や取引先へアピールできる機会ですので有効に活用しましょう。
屋号変更後の銀行口座の名義変更の手順
個人事業主の方は、事業用銀行口座を「屋号付き口座」で開設している場合が多くあります。というのも個人事業主が「屋号付き口座」を開設することで、「事業への信用度の増加」や「事業の資金管理の効率化」を図ることができるからです。
屋号の変更を行った場合、もちろん屋号付き口座の名義変更も行わなければなりません。ここでは、主要3銀行の「屋号付き口座」の名義変更方法を具体的にご紹介します。
【名義変更】三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行で「屋号付き口座」の名義変更を行う場合は、口座開設を行った三菱UFJ銀行の支店の窓口で手続きを行わなければなりません。必要になる書類等は、次のとおりです。
|
|
3 の屋号変更を証明できる書類は、リストの中からいずれか1つになっていますが、銀行窓口によっては、複数の提示を求められるケースがありますので、複数の書類を準備することをおすすめします。
【名義変更】三井住友銀行
三井住友銀行では、「屋号付き口座」のことを「営業性個人口座」と言います。名義変更を行う場合は、三菱UFJ銀行と同様に「口座開設」を行った支店の窓口で手続きが必要になります。
三井住友銀行の「営業性個人口座」の名義変更に必要な具体的な書類は、銀行のホームページ上では案内されていません。さまざまな体験談から、以下の書類等が「営業性個人口座」の名義変更の際、必要になると思われます。
|
【名義変更】みずほ銀行
みずほ銀行の「屋号付き口座」の名義変更についても、「口座開設」を行った支店の窓口で行わなければなりません。みずほ銀行では、支店によって対応や必要書類等が異なります。
基本的には、三井住友銀行と同様に、①本人確認書類、②印鑑、③開業届出書、④屋号の変更が確認できる資料が必要です。これに加えて、銀行が要求する資料の提出が必要になる可能性があります。
屋号変更の証拠を残す2つの方法
屋号の変更に税務署への手続きが不要とはいえ「屋号変更の証明がしたい」「何も届け出ないのは気持ちの上でしっくりこない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなときは「開業届の再提出」や「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書の提出」といった方法を取れば、屋号変更の証拠を残すことが可能です。
方法①「開業届」の再提出
「個人事業の開業届出書」は屋号変更時には提出の必要がありませんが、屋号を変更したのみの届出書を提出しても、税務署から拒絶されるわけではありません。
開業時の届出と同じように、提出の際に届出書の写しを提示すれば、そこに受領印を押してもらえます。これが変更した屋号を税務署に提出した証拠となるのです。
方法②「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」の提出
納税地が移動した際に提出する「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」にも、屋号を記入する欄があります。屋号の変更のみでは提出義務はありませんが、提出をすれば受け付けてもらえます。提出書類の写しを提示すれば、税務署で受領印を押してもらえます。
顧問税理士を探すならミツモアで
個人事業を営む上で忘れてはいけないのが税務申告。どんなに売上・利益があがっても、税金の申告を忘れてしまうと追徴課税に苦しむことになりかねません。
とはいっても「忙しくて税理士探しまで手が回らない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな方におすすめなのが、事業者マッチングサービスのミツモア。利用料無料で、複数の税理士事務所から見積もりを取得できるので、空き時間を利用して簡単に税理士さんと出会えます。