豊かな自然を受け継ぐ山林の相続。しかし、その相続税評価は複雑で、予想外の負担に繋がることも少なくありません。大切な財産を守るためにも、山林相続の評価方法や負担の軽減方法を正しく理解することが重要です。
ただ、いざ相続するとなると、どのように価値を確かめればいいのか、どうやって手続きを進めればいいのか、わからないことも多いでしょう。
そこで本記事では、山林の具体的な評価方法や、相続する手順、相続時の負担を軽減する方法などを詳しく解説します。いきなり山林の相続が発生して困っている方は、是非ご一読ください。
山林の相続税評価方法
山林の相続税評価方法は、山林の種類によって異なります。本章ではそれぞれの特徴や評価方法について解説します。
- 純山林・中間山林
- 市街地山林
- 保安林
- 特別緑地保全地区にある山林
純山林・中間山林
純山林は、市街化区域から遠く離れた場所に位置し、宅地としての利用価値がほとんど見込めない山林です。周囲の宅地価格の影響を受けにくいため、相続税評価においては一般的に低い評価額が設定されます。
中間山林は、純山林と市街地山林の中間に位置する山林です。都市部に近い、または別荘地などに隣接しているケースが多く、将来的に宅地化される可能性も考慮されます。そのため、純山林よりも評価額が高くなる傾向があります。
純山林と中間山林の相続税評価は「倍率方式」です。まず、各市町村が毎年決定する固定資産税評価額を基に固定資産税評価額を確認し、次に国税庁が公表する「財産評価基準書」に記載されている評価倍率表から該当する地域の倍率を確認します。最後に固定資産税評価額に評価倍率を乗じて、相続税評価額を算出します。
例えば、固定資産税評価額が1000万円の純山林があり、評価倍率が1.2だとすると、相続税評価額は1200万円です。
市街地山林
市街地山林とは、都市計画法上の市街化区域内にある山林、または宅地の中に存在する山林です。その山林が公園や緑地として保全される予定の場合は「倍率方式」で評価されます。具体的な評価方法は前述の純山林や中間山林と同様です。
一方、将来的に住宅地として開発される計画がある場合は「宅地比準方式」で評価されます。宅地比準方式は、その山林を宅地として利用した場合の価値から、宅地造成に必要な費用を差し引いて評価額を算出する方法です。
例えば、評価対象の市街地山林が100平方メートルあり、その地域の地価が1平方メートルあたり50万円だとします。また、この山林を宅地にするために必要な造成費用が1平方メートルあたり10万円かかると仮定します。
この場合、宅地比準方式による評価額は以下のとおりです。
宅地としての評価額:100平方メートル × 50万円/平方メートル = 5,000万円
造成費用:100平方メートル × 10万円/平方メートル = 1,000万円
市街地山林の評価額:5,000万円 − 1,000万円 = 4,000万円
保安林
保安林は、水源を保全したり、土砂災害を防いだり、美しい景観を維持したりなど、様々な役割を担っている森林です。農林水産大臣または都道府県知事によって指定されます。
保安林の評価額は、通常の山林の評価額に伐採制限の度合いによって決められた控除割合を掛け合わせて算出されます。
伐採が厳しく制限されている保安林であれば、控除割合も大きくなり相続税評価額は大きく下がります。逆に制限が緩やかな保安林であれば、控除割合も小さくなり相続税評価額はあまり下がりません。
特別緑地保全地区にある山林
特別緑地保全地区とは、都市計画区域内で良好な自然環境を形成している樹林地、草地、水沼地などを保全するために指定されている地域です。良好な景観や生態系の保全に貢献していることから、相続税評価額は通常の山林評価額から20%減額されます。
算出方法は以下のとおりです。
山林を相続する場合の手続き
山林を相続する場合には、いくつか手続きが必要です。適切な届出を行わないと罰金が発生する場合もあるので、期限や進め方を確認しておきましょう。
- 山林の名義変更登記を行う
- 市町村への届出をする
山林の名義変更登記を行う
山林を相続する際には、速やかに名義変更登記を行う必要があります。これは、山林の所有権が法的に誰にあるのかを明確にして、後々のトラブルを避けるためです。また、山林を売却したり担保にしたりする場合にも、名義変更登記が済んでいる必要があります。
山林を管轄する法務局へ必要書類を提出して名義変更登記の申請を行います。必要書類は被相続人の死亡を証明する戸籍謄本や、相続関係を明確にする遺産分割協議書などです。
市町村への届出をする
次に市町村への届出を行います。平成24年4月の森林法改正により、相続や売買などによって新たに山林の土地を取得した場合、取得した土地の面積に関わらず市町村長への届出が必須となりました。
相続によって山林の土地の所有者となった場合、原則として相続を知った日から90日以内に所定の届出書を市町村に提出する必要があります。届出書には、相続した山林の所在地や面積、相続人の氏名や住所などを記載します。
届出を怠った場合には、10万円以下の罰金が科される可能性があるので注意しましょう。
山林を相続した場合の税負担を軽減する方法
山林を相続する場合、税金や管理費など多くの負担が発生します。もし相続するつもりが無い場合は、なるべく早く手放すことがおすすめです。
山林を手放して税負担を軽減する方法は以下のとおりです。
- 山林を売却する
- 相続土地国庫帰属制度を活用する
- 山林引き取りサービスを活用する
山林を売却する
山林の税負担を軽減したいなら、山林を売却するのが効果的です。山林を所有し続ける限り固定資産税が発生し続けます。一方、山林を売却すれば負担から解放され、さらに売却益を相続税の納税資金に充てることも可能です。
ただし山林の売却は、特に山奥にある場合は難しい場合もあります。買い手を見つけるのが困難だったり、境界線が不明確で手続きが複雑になったりするためです。しかし、工夫次第で売却は可能です。
例えば、山林バンクやネットサービスを利用すれば、広く買い手を募ることができます。また、森林組合や不動産業者に相談し、専門家のアドバイスを受けるのも良いでしょう。
相続土地国庫帰属制度を活用する
山林の税負担を軽減したいなら、相続土地国庫帰属制度の活用もおすすめです。相続土地国庫帰属制度とは、相続等により取得した不要な土地を国に引き取ってもらえる制度です。
管理する意思も売却するあてもない場合、相続税や固定資産税などの負担がのしかかってきます。しかし、相続土地国庫帰属制度を活用すれば、税負担から解放される上に、土地の管理責任からも解放されます。
ただし、相続土地国庫帰属制度を利用するには、一定の要件を満たす必要があります。具体的には、土地の境界が明らかであること、土壌汚染された土地ではないこと、土地内に建物がないことなどです。詳しくは法務省のホームページをご確認ください。
山林引き取りサービスを活用する
山林引き取りサービスとは、不動産会社などと提携して不要な山林を引き取ってくれるサービスです。引き取りサービスを利用することで、相続した山林を手放し、税負担を軽減できます。
相続した山林を専門業者に買い取ってもらうことで、相続財産から山林を除外できるため、相続税の課税対象額が減少します。結果として税負担が軽減されるのです。
例えば、相続税の税率が30%の場合、評価額4,000万円の山林を引き取ってもらうと1,200万円の節税になります。
山林を相続した場合の活用方法
山林はアクセスの悪さや自然環境の厳しさから、活用が難しい場合が多いです。そのため、相続した土地で利益を上げるためには、工夫が必要になります。
例えば、キノコや山菜など、その土地ならではの特産物を栽培して販売することで有効活用が可能です。また、自然豊かな環境を活かして、キャンプ場やグランピング施設などの体験型観光を展開することも考えられます。
山林は一見すると活用が難しいように思えますが、その特性を活かすことで新たなビジネスチャンスや地域活性化につながる可能性を秘めています。相続する場合は大切に活用していきましょう。
山林の相続税評価は税理士に相談
本記事では、山林の相続税評価について紹介しました。
山林の相続税を算出するには、まずは評価額を知る必要があります。しかし、山林の相続税評価は山林の種類によって異なるため注意が必要です。純山林、中間山林、市街地山林、保安林など、どれに属するのか確認して正確な評価額を算出しましょう。
ただ、実際に山林の評価額を自分で行うには手間や時間がかかります。また、相続税の申告や各種届出など他の手続きも必要です。
自分で山林の相続を終えられるか不安な場合は、税理士に相談しましょう。税理士に依頼することで、山林の評価から相続税申告まですべて代行してもらえます。
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