相続した不動産にかかる相続税に悩まされる方は少なくありません。遺産の内訳として即時に現金化が可能な資産が少なく、不動産など簡単に売却できない資産が多いケースが珍しくないためです。
では、相続税をどうしても支払えない場合はどうすればいいのでしょうか?
方法は状況により色々ありますが、相続税を納税するための手段の一つとして物納があります。
この記事では「相続税の物納」について詳しく解説します。
最後までお読みいただき、ご参考下さい。
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
相続税の物納とは?
物納とは、相続した資産価値のある物を現金の代わりに納付する方法の事を指します。この方法を活用する事で、経済的に支払いが困難な方でも納税することが可能です。
ただし、納税方法として物納を利用するには条件があるため、全ての方が利用できる訳ではありません。ここでは物納制度の条件や概要を解説していきます。
物納制度の概要について
相続税は指定された期限までに納税するように定められています。相続税に限らず全ての税金は、原則として現金でしか納めることができません。
しかし、現金以外の財産を相続した場合、相続者が税額を捻出できず納税できないと言った状況に追い込まれる可能性があるため、相続税のみ例外が認められています。
例えば、自宅や農地といった不動産や株式などの金融商品を相続した場合です。これらを相続した場合、それぞれの評価額を基に算出された相続税の金額を請求されるため、手元にある現金では補えないほど高額な税額になる可能性があります。
納付期限内に納税できなかった場合は、「延滞税」や「相続者の財産を差し押さえ」などのペナルティが用意されているため、相続者が経済的困難な状況に追い込まれかねません。
そのため、現金以外を相続した方でも納税できるように用意されたのが「物納制度」です。現金の代替えとして対象となる財産を物納することで、「評価額に応じた金額」を納税したと認めてもらうことが出来ます。
物納の条件について
物納は税務署から許可を得なければなりません。 物納の許可を得ることができるのは、延納を利用しても金銭で納付できないなどの正当な理由がある場合のみです。
例えば、相続人に資力がある場合、今すぐにまとまったお金を用意できなくなくても分割で支払えると判断されるため、現金以外の納税は拒否されます。
また、物納できる財産は明確に示されています。それ以外の財産を納めることはできません。物納できる財産については下部で詳しく解説いたします。
上記の条件を全て満たしたうえで、相続税の「納付期限」又は「物納申請期限(納付すべき日)」までに管轄の税務署に必要書類を提出することで、物納の申請が受理されます。
物納の許可限度額の計算
納税の原則は、金銭での納付となっているため、納税できる現金がある場合は、その分は現金で納めなくてはなりません。
物納では「許可限度額」と呼ばれる「物納を認める金額」が算出される仕組みとなっています。
物納許可限度額は、「納付すべき税金」から下記の財産を引いた金額です。
・手元にある預貯金やすぐに換金できる財産
・年間収入の中から3ヶ月分の生活費や事業に必要な運転資金額を除いた余剰額
・概ね1年分の臨時的な収入
ちなみに、物納限度額を決定する前に、延納による納付が可能かどうかについて先に検討されます。その結果、延納でも金銭納付が困難であると認められた場合に限り、物納が可能です。
物納できる財産について
物納は「国税庁が定める財産」のみ納付する事が可能です。対象財産の中には、どの財産を優先的に物納に充てるかを示した「順位」が設けられており、第1順目の対象財産から先に納めなくてはなりません。
物納が認められた財産の中には優先順位が低くなるものや、認められていないものもあるため注意が必要です。
物納できる財産の種類と順位について
物納できる財産の種類は、下記の表を確認してください。
順位 | 該当する財産 |
第1位 | 不動産、船舶、国債や地方債、上場株式など |
不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第2位 | 非上場株式など |
非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第3位 | 動産 |
基本的に第2・3順位の財産は、税務署長が特別な事情があると容認した場合や第1順位に適当な評価額が付かない場合のみ物納が認められています。
例えば、不動産と非上場企業の株式を相続した場合、先に不動産を物納申請に出したが適当な評価額が付かなかった際に株式での物納を申請する流れです。
物納劣後財産とは
物納劣後財産とは他に物納に充てる適当な財産がない場合にのみ、物納可能な財産のことを指します。例えば、建築物を建てにくい形状の土地や事業休止している法人の株式などです。
このような財産は売却しにくいため、優先順位が高くても後回しにされます。税務署としてはなるべく売却しやすい財産を物納して欲しいと考えるためです。
管理処分不適格財産とは
管理処分不適格財産とは、物納に充てることを認められていない財産のことを指します。例えば、担保権などが付いている土地や耐用年数が過ぎて通常の使用ができなくなった古い建物などです。
こういった不動産を物納されても処分するのが困難なため、金銭の代わりにはならないとみなされます。
超過物納とは
相続税額を超える評価額の付いた財産を物納することを「超過物納」と言います。原則、超過物納は認められていませんが、他に納められる財産がないなど事情がある時に限り物納することが可能です。
超過した分の差額は国から現金で返還されるため、損をすることはありません。ただし、不動産や株式を売買した際に発生した利益は譲渡所得税の課税対象となるため、その分の税金を負担する必要があります。
物納の申請と納付方法
物納の申請をするには、複数の書類を準備する必要があります。どの書類もすぐに用意できるものではないうえに、手続きの期限が設けられているため、余裕を持って取り掛かることが重要です。
また、納付方法も財産の種類によって決まりがあるので、事前に把握しておかなければなりません。
ここでは準備する書類や納付方法、許可が下るまでの時間について詳しく解説していきます。
申請に必要な書類
税務署への申請に必要な書類は、以下の通りです。
- 相続税物納申請書
- 物納財産目録
- 金銭納付を困難とする理由書
- 物納関係書類(登記事項証明書、境界確認書、所在図など)
物納関係書類は物納に充てる財産によって必要な書類が異なります。中には書類を取得するために費用が発生し時間を有するものがあるため、時間に余裕を持って行うことが必要です。
物納の納付方法
税務署の許可を得たら、物納財産の種類に応じて納税を行います。例えば、株式や国債のように引き渡しが可能な財産の場合は、税務署へ引き渡しが終わった時点で納税が完了です。一方で、不動産や船舶のように登記が必要な財産の場合は、第三者に対抗できる状況になった際に完了とみなされます。
このように種類に応じて納税方法が定められているため、しっかりと確認を行うようにして下さい。
相続税の期限と延滞税・利子税について
相続税は、故人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に納税するよう法律で定められています。このため、物納の手続きも同様に相続税期限に合わせて進めなければなりません。
万が一、10ヶ月を超えると延滞税が請求されるため、注意が必要です。延滞税が発生すると、納税額に応じて最大で年間14.6%加算されます。
延納が認められた場合は、最大で7.3%の利子税を超えることはありません。
物納が却下された場合の再申請について
物納が却下された場合は、1つの財産に付き1回のみ再申請を行う事が可能です。
ただし、再申請には期限が設けられています。却下された日の翌日から起算して20日以内となっているため、期日を過ぎてしまうと再申請を受付けてもらえません。
相続税の延納について
延納とは、相続税を分割で納税する方法のことです。相続財産の内、不動産や自社株などの割合が高いほど分割期間を長く設定することができ、最長20年までの延長が認められています。
ただし、物納と同様に定められた要件を全て満たさなければ利用することができません。具体的には、下記の4点です。
- 相続税の金額が10万円以上
- 金銭では補えない金額部分のみ延滞可能
- 延滞税及び利子税の額に見合った担保を提供する
- 延納申請期限や相続税の納期限までに、税務署に必要な書類と担保を提出する
上記の中で最も重要なポイントは、納期限や申請期限までに提出書類を提出する点です。それ以外の要件を満たしていても期日に間に合わなければ申請できず、結果的に延納ができなくなります。
延納許可限度額とは?
物納と同様に、延納にも分割できる限度額が設けられています。具体的には、納税額から「相続人が納税できる金額」を差し引いた金額が延納できる限度額です。
相続人が納税できる金額とは「相続人の財産」や相続財産の内「すぐに換金可能な財産」、「生活費や事業などの経費」を差し引いた金額が該当します。これらを除いた金額を現金で納めたうえで、不足分の税額を延納することが可能です。
特定物納制度(延納から物納への変更)について
相続税を延納中の方が残りの税額を分割でも支払えなくなった場合、「特定物納制度」を利用して残額を相続財産で賄うことが可能です。特定物納制度とは、延納から物納へ納税方法を変更できる制度で、この手続きをすることで金銭以外の財産で納付することが出来ます。
土地で物納する方法
土地を物納で納付する場合、下記の3つの方法で算出した評価額を基に納税します。
- 路線価方式
- 倍率方式
- 農地を評価する比準方式
土地の種類によって算出方法が異なります。ここでは、それぞれの方法について解説していきます。土地を物納する際の参考にして下さい。
路線価方式とは
路線価方式とは、道路に面した一般的な宅地の評価額を算出するための評価方法です。住宅用の標準的な家屋は、路線価方式で評価額を算出します。
例えば、1本の路線(道路)に面した土地の場合、基本的に「該当路線額×土地の面積」に、土地の形状に応じた「補正率」をかけたものが評価額となります。
ただし、正確な評価額を計算するには専門的知識が必要です。特に補正率は土地の形状や面する路線の数など細かく決められているため、知識がないと正確な評価額を算出できない可能性があります。
倍率方式とは
倍率方式とは、国税局が一定の地域ごとに定めた倍率を相続した土地の固定資産税評価額にかけて算出する方式です。路線価が設定されていない地域の土地を評価する際に使用します。
農地を評価する比準方式とは
農地は生産力に応じて4つに分けて評価します。具体的には、「純農地」、「中間農地」、「市街地周辺農地」、「市街地農地」の4点です。この4つの区分の内、「市街地周辺農地」と「市街地農地」を評価する方法を比準方式と言います。
比準方式の算出方法は、まず該当農地が宅地だったと仮定した場合の価格を路線価方式などで求めます。次に算出した価格に、農地独自の補正率をかけた評価額から土地の造成費を差し引き土地の面積をかけることで計算することが可能です。
山地の評価方法
山林の場合、所在地の環境によって「純山林」、「市街地山林」、「中間山林」の3種類に区分されており、種類ごとに評価方法が異なります。
例えば、市街地山林の場合は宅地と仮定した場合の評価額から土地の造成費用を差し引いて算出する「宅地批準方式」や固定資産税評価額に評価倍率をかける「倍率方式」のどちらかで算出することが可能です。
一方で、「純山林」と「中間山林」は、倍率方式で評価額を算出します。
物納のメリットとデメリット
ここでは物納におけるメリットとデメリットについて解説していきます。
相続税評価額と土地売買価格の誤差
相続税評価額と土地売買価格に誤差が生じた場合、メリットにもデメリットにもなり得ます。
例えば、一般的な土地の場合、相続税評価額は相場の7〜8割程度の価格になることがほとんどのため、損をしてしまう可能性が高いです。
しかし、一方で不整形地のような価格の付きにくい不動産の場合、任意売却を試みると相続税評価額を超えないケースもあるため、得をする可能性があります。
このため、物納を検討している土地の相場価格を調べて、相続税評価額と比較することが重要です。
土地売却から現金化までの時間
土地売却は、現金化までに時間がかかるケースは珍しくありません。現金化までに土地の査定や売込み、引き渡しなど行う必要があるため、全て完了するまでに早くても3ヶ月以上は必要です。
このため、納付期限までに売却できない可能性も十分に考えられます。
しかし、その点物納だとそのような心配は必要ありません。確実に納付期限までに納税することが可能です。
監修税理士のコメント
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土地などを相続した場合は、多額の相続税を支払うケースがあります。すぐに現金化できる資産や遺産があればいいですが、難しい場合が珍しくありません。
相続税は複雑な法令や知識が必要なため、知識がない状態では正確な相続税を割り出すことすら容易ではありません。
心配がある方は、税理士に相談することをおすすめします。正確な税額を割り出したうえで的確なアドバイスをもらうことが出来るため、相続税対策を講じることが可能です。
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この記事の監修税理士
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